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第58話【SNS】
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週明けから、毎日が慌ただしい。
設立記念パーティーをきっかけに【水沢イノベーションズ】との契約を交わしたいと、事前にアポイントを取っていた各社の社長たちが、入れ替わり立ち替わり会社を訪れていた。
幸は、その社長たちを正面玄関まで迎えに行く。
「おはようございます、小川社長。お待ちしておりました」
「おぉ、西村さん。おはよう」
「社長がお待ちです。どうぞこちらへ」
そう案内しながら、社長と幹部たちを応接室へと通す。
話し合いが終われば見送り、すぐ次の来訪者をまた応接室へ。
その一連の流れを、受付嬢や周囲の社員たちは、驚きの眼差しで見ていた。
訪れてくる社長ほとんどが、幸に対して親しげに話しかけていたからだ。
「西村秘書って……何者なの?」
「あの人どれだけ社長クラスと知り合いなの?」
「ここに来る前、【NexSeed黒田】で社長秘書してたらしいよ」
「えっ、そうなの?」
「だから、あれだけ顔が利くんだね」
「見てて思うけど……あの人、相当仕事できるよね。社長連中を相手に、全然動じてないもの」
幸の仕事ぶりを見て、匠がなぜ彼女を専属秘書に選んだのか――その理由を、誰もが自然と理解していった。
****
そして、金曜日。
慌ただしかった日々が、ようやく少し落ち着きを取り戻し始めていた。
【NexSeed黒田】を立ち上げた頃から付き合いのある南社長を、玄関先までお見送りしていると、
「そういえば……君と黒田社長のことで、妙な噂が流れてるらしいね」
と、どこか言いにくそうに眉を寄せて口を開いた。
「妙な噂……ですか?」
「高瀬テクノロジーのお嬢さんで、黒田社長の婚約者……由紀さんのことは知ってるだろう?」
“由紀”という名前を聞いた瞬間、あの蔑むような視線が脳裏に甦る。
「あ……はい。存じていますけど……」
「彼女が、SNSで君のことをつぶやいていたらしいんだ」
南社長が教えてくれた、設立記念パーティー当日に配信されたSNSの内容とは、
『振られたことを根に持って圭吾さんに意地悪するって、ホント元秘書って性格悪すぎ』
『まだ好きなの、知ってるわよ』
『圭吾さんのことは、あきらめてね』
そんな内容だった。
「あの時、見ていた限りでは、西村秘書が黒田社長を好きなようには見えなかったけど……実際のところ、どうなんだい?」
と、探る感じで南社長が問いかけてきた。
「私、お付き合いしている方がいるので、黒田社長のことは……」
――嫌いです。
本当はそう口にしたかったが、幸はなんとか言葉を飲み込んだ。
幸の言葉を聞いた南社長は、ふっと安堵とも戸惑いともつかない表情を浮かべた。
「なるほど……。じゃあ、あのSNSの内容は、彼女の早とちりか、嫉妬というわけだね」
柔らかく言いながらも、その目にはわずかな警戒が宿っている。
経営者として、“火種になり得るもの”を敏感に察知した目だ。
「ただ……放置すると面倒なことになるかもしれない。あの手の噂は、人より先に企業の耳に届くからね」
水沢イノベーションズの勢いを妨げるものにならないようにとの、南社長からの経営者としてのアドバイスだった。
「水沢社長に報告して、対処するようにします。本当に、ご心配をおかけしてすみません。それから……お気遣いにも感謝します」
幸が丁寧に頭を下げると、南社長は柔らかく微笑んだ。
「西村さんが謝ることじゃないよ。悪いのは相手の方だ。ただ……高瀬テクノロジーは業界でも影響力がある企業だし、由紀さんはそこの社長令嬢。ましてや黒田ホールディングスの御曹司、黒田社長の婚約者ともなれば、周囲が騒ぎたがるからね」
南社長は、そこで一呼吸置いて、
「君も、気をつけたほうがいい。君に非がなくても、噂は勝手に形を変えるからね」
南社長はそう言うと、社用車へと向かっていった。
幸は南社長の背中を見送りながら、圭吾の婚約者・由紀のことを思い出す。
“完璧で優しいお嬢様”を演じているだけで、由紀も圭吾と同じく、権力を笠に着て人を見下すタイプの人間。
この二人のせいで、【水沢イノベーションズ】の品位を下げるわけにはいかない。
自分に協力してくれている匠さんに迷惑がかからないよう、この問題は必ず解決しなければならない。
それに、言われっぱなしなのも、面白くない。
そこで幸は、この一件をどうにかうまく利用できないものかと考えはじめた。
設立記念パーティーをきっかけに【水沢イノベーションズ】との契約を交わしたいと、事前にアポイントを取っていた各社の社長たちが、入れ替わり立ち替わり会社を訪れていた。
幸は、その社長たちを正面玄関まで迎えに行く。
「おはようございます、小川社長。お待ちしておりました」
「おぉ、西村さん。おはよう」
「社長がお待ちです。どうぞこちらへ」
そう案内しながら、社長と幹部たちを応接室へと通す。
話し合いが終われば見送り、すぐ次の来訪者をまた応接室へ。
その一連の流れを、受付嬢や周囲の社員たちは、驚きの眼差しで見ていた。
訪れてくる社長ほとんどが、幸に対して親しげに話しかけていたからだ。
「西村秘書って……何者なの?」
「あの人どれだけ社長クラスと知り合いなの?」
「ここに来る前、【NexSeed黒田】で社長秘書してたらしいよ」
「えっ、そうなの?」
「だから、あれだけ顔が利くんだね」
「見てて思うけど……あの人、相当仕事できるよね。社長連中を相手に、全然動じてないもの」
幸の仕事ぶりを見て、匠がなぜ彼女を専属秘書に選んだのか――その理由を、誰もが自然と理解していった。
****
そして、金曜日。
慌ただしかった日々が、ようやく少し落ち着きを取り戻し始めていた。
【NexSeed黒田】を立ち上げた頃から付き合いのある南社長を、玄関先までお見送りしていると、
「そういえば……君と黒田社長のことで、妙な噂が流れてるらしいね」
と、どこか言いにくそうに眉を寄せて口を開いた。
「妙な噂……ですか?」
「高瀬テクノロジーのお嬢さんで、黒田社長の婚約者……由紀さんのことは知ってるだろう?」
“由紀”という名前を聞いた瞬間、あの蔑むような視線が脳裏に甦る。
「あ……はい。存じていますけど……」
「彼女が、SNSで君のことをつぶやいていたらしいんだ」
南社長が教えてくれた、設立記念パーティー当日に配信されたSNSの内容とは、
『振られたことを根に持って圭吾さんに意地悪するって、ホント元秘書って性格悪すぎ』
『まだ好きなの、知ってるわよ』
『圭吾さんのことは、あきらめてね』
そんな内容だった。
「あの時、見ていた限りでは、西村秘書が黒田社長を好きなようには見えなかったけど……実際のところ、どうなんだい?」
と、探る感じで南社長が問いかけてきた。
「私、お付き合いしている方がいるので、黒田社長のことは……」
――嫌いです。
本当はそう口にしたかったが、幸はなんとか言葉を飲み込んだ。
幸の言葉を聞いた南社長は、ふっと安堵とも戸惑いともつかない表情を浮かべた。
「なるほど……。じゃあ、あのSNSの内容は、彼女の早とちりか、嫉妬というわけだね」
柔らかく言いながらも、その目にはわずかな警戒が宿っている。
経営者として、“火種になり得るもの”を敏感に察知した目だ。
「ただ……放置すると面倒なことになるかもしれない。あの手の噂は、人より先に企業の耳に届くからね」
水沢イノベーションズの勢いを妨げるものにならないようにとの、南社長からの経営者としてのアドバイスだった。
「水沢社長に報告して、対処するようにします。本当に、ご心配をおかけしてすみません。それから……お気遣いにも感謝します」
幸が丁寧に頭を下げると、南社長は柔らかく微笑んだ。
「西村さんが謝ることじゃないよ。悪いのは相手の方だ。ただ……高瀬テクノロジーは業界でも影響力がある企業だし、由紀さんはそこの社長令嬢。ましてや黒田ホールディングスの御曹司、黒田社長の婚約者ともなれば、周囲が騒ぎたがるからね」
南社長は、そこで一呼吸置いて、
「君も、気をつけたほうがいい。君に非がなくても、噂は勝手に形を変えるからね」
南社長はそう言うと、社用車へと向かっていった。
幸は南社長の背中を見送りながら、圭吾の婚約者・由紀のことを思い出す。
“完璧で優しいお嬢様”を演じているだけで、由紀も圭吾と同じく、権力を笠に着て人を見下すタイプの人間。
この二人のせいで、【水沢イノベーションズ】の品位を下げるわけにはいかない。
自分に協力してくれている匠さんに迷惑がかからないよう、この問題は必ず解決しなければならない。
それに、言われっぱなしなのも、面白くない。
そこで幸は、この一件をどうにかうまく利用できないものかと考えはじめた。
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