【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第78話【天空デジタル株式会社】

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 幸は、匠が待つ社長室へ、兄の俊一とその秘書を連れて向かった。

 幸も十分に美しいが、兄の俊一もまた、匠に引けを取らないほど整った容姿をしている。

 身長も匠とほとんど変わらない。

 幸と俊一が並んで歩く姿は、それだけで絵になる。

 一階のフロアですれ違う社員たちは、思わず足を止め、呆然とした表情のまま二人を目で追った。

 幸と俊一、そして俊一の秘書の三人がエレベーターに乗り込むのを見届けてから、社員たちはようやく我に返る。

「……見た? 西村さんと一緒に歩いてた男性」

「うちの社長も素敵だけど、今の人も相当イケメンじゃない?」

「クールな社長とは対照的に、穏やかな雰囲気で……大人の魅力全開って感じだったよね」

 そんな小さな囁きが、フロアのあちこちで広がっていく。

 三人を乗せたエレベーターは、静かに上昇を始め、やがて社長室のある最上階で停止した。

 扉が開き、三人はエレベーターを降りる。

 幸は、兄の俊一とその秘書を、社長室へと案内した。

 扉を開けて中に入ると、俊一の姿を認めた匠が椅子から立ち上がり、口角を上げて近づいてくる。

 俊一もまた、穏やかな笑みを浮かべながら、匠のほうへと歩み寄った。

「俊一さん、お久しぶりです」

「本当に、久しぶりだな」

 二人は固く手を握り合う。

「お忙しい中、帰国していただき、ありがとうございます」

 匠がそう礼を述べると、

「お礼を言うのは、こちらのほうだよ。幸のために、いろいろ手を尽くしてくれて、ありがとう」

 と、俊一は穏やかに言った。

「えっ……?」

 ――私の、ために?

 意味がわからぬまま幸が戸惑っていると、

「先方には、連絡しておいたから。今から向かおうか」

「はい、お願いします」

 挨拶もそこそこに、村田秘書も伴い、五人は連れ立って社長室を後にした。

 *****

 都心から少し離れた場所に、目的の会社ビルは建っていた。

 玄関前には、【天空デジタル株式会社】と、大きく社名が掲げられている。

 ゲームソフト開発会社らしく、どこか夢を感じさせる名前だった。

 受付で俊一が名を告げると、ほどなくして秘書が現れ、一行は応接間へと案内された。

 扉を開けた瞬間、体格のいい男性がソファから立ち上がり、

「俊一! 久しぶりだな!」

 そう言って、満面の笑みで近づいてくる。

「大泉先輩、お久しぶりです。お元気そうで、なによりです」

 二人は、がしっと力強く抱き合い、再会を喜び合った。

 ひとしきり喜びを分かち合ったあと、俊一は一歩下がり、

「大泉先輩、紹介します。こちらが妹の幸です。そして――彼女の婚約者で、私の友人でもある、水沢匠です。
 今日は、彼を紹介したくて伺いました」

 そう言って、幸と匠を紹介した。

 紹介された匠は、一歩前に出て、

「水沢です。よろしくお願いします」

 と丁寧に頭を下げた。

 すると――

「いやいや、こちらこそ、よろしくお願いします。黒田の件で、骨を折っていただけると聞いています」

 大泉社長は、にこやかにそう言った。

 大泉社長の口にした“黒田”とは、圭吾の弟・黒田圭太のことだ。

 幸は、ここへ向かう車中で、匠から【天空デジタル株式会社】を訪ねる目的を聞かされていた。

 圭太は、兄である圭吾から、長年にわたって執拗な嫌がらせを受け続けてきた。

 会社を立ち上げようとすれば妨害され、大手企業への就職でさえ、ことごとく潰されてきたのだ。

 父・明に訴えるという選択肢もあった。

 だが、それは圭吾との正面衝突を意味する。

 さらに、祖父であり黒田ホールディングスの会長でもある黒田太郎は、自ら会社を興し成功した圭吾を
 溺愛していた。

 そんな状況で兄と対立すれば、家族から疎まれるのは目に見えている。

 圭太は、それを痛いほど理解していた。

 行き場を失い、途方に暮れていた圭太を受け入れたのが、西園寺財閥を後ろ盾に持つ
【天空デジタル株式会社】の大泉社長だった。

 かつて権力によって理不尽な目に遭った経験を持つ大泉社長は、圭太の置かれた立場に、強い憤りを覚えていた。

 だが――

【天空デジタル株式会社】で生き生きと働く圭太は、大泉社長の期待に応えるかのように際立った才能を発揮し、
 周囲から厚い信頼を集めていた。

 大泉社長に呼ばれた黒田圭太が、社長室に姿を現す。

 目鼻立ちの整った端正な顔立ちは、兄の圭吾とよく似ており、誰が見ても整った容姿だ。

 だが――圭吾とは、決定的に違っていた。

「初めまして、黒田です」

 爽やかな笑顔に、穏やかで柔らかな口調。

 そこには高圧的な雰囲気は微塵もなく、自然と人を安心させる親しみやすさがあった。

 その温厚な人柄は、表情の端々にまで滲み出ている。

「初めまして、水沢です。私たちがここに来た目的は、大泉社長から聞いていますよね。
 君は――協力してくれますか?」

「……【NexSeed黒田】の社員を守るため、ですよね?」

「そうだ。その為には、君の協力が不可欠なんだ」

「……協力するということは、兄と対立することになりますよね?」

「君の兄から権力を奪う以上、それは避けられない」

 しばしの沈黙が、室内を支配する。

 やがて――

「……僕が協力しなければ、社員とその家族を守れないというのなら……」

 圭太は、顔を上げた。

「……わかりました。協力します」

 黒田圭太は、覚悟を決めたように、匠にそう告げた。

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