【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第80話【音声】

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 幸は兄の俊一と匠に、片桐から得た情報を伝えた。

 すると俊一は、

「なかなか面白いな。 どうせなら、その流れに便乗して、もっと拡散してもらってもいいんじゃないか」

 どこか楽しげに、そう言った。

「洋子ちゃんにもしばらく会ってないし、 幸、今から洋子ちゃんの美容室に遊びに行こうか。……匠、悪いけど、幸を借りるよ」

 そう言って、俊一は幸の腕を掴んだ。

 匠は、その意図をすでに理解しているのか、目を細めて口角を上げ、

「どうぞ。楽しんできてください」

 そう言って、幸と俊一を送り出した。

 *****

 洋子の美容室に着き、店内に足を踏み入れると、

「あっ! 俊一お兄ちゃん!」

 洋子が俊一に気づき、ぱっと表情を明るくして駆け寄ってくる。

「久しぶりだね、洋子ちゃん。元気にしてた?」

「もちろん! いつも元気よ。 俊一お兄ちゃんも、相変わらずお元気そうで」

 ニコニコとした笑顔を向けられ、俊一も自然と笑みを返す。

 その空気を切り替えるように、

「……ちょっと洋子、今、問題発生中なの」

 そう前置きしてから、幸は洋子に、現在の状況を簡単に説明する。

「えっ!? そんなことになってるの!?」

 洋子が思わず声をあげた。

「そうなの。だから、協力してほしいの」

「うん、もちろん協力するよ。それより……ごめん。まさか、こんなことになるなんて、思いもしなかったから……」

 申し訳なさそうに頭を下げる洋子に、俊一は穏やかに首を振る。

「気にしなくていいんだよ。むしろ、これはいい宣伝になる」

 そう言って、俊一はこの件の打開策を手短に説明した。

「それじゃ、洋子ちゃん。忙しいところ悪いけど、お願いしてもいいかな?」

「もちろんです」

 洋子は即答すると、幸と俊一を店の一番奥にあるセット椅子へと案内し、
 二人が並んだときに最も映えるヘアメイクを施した。

 そして、二人一緒に写真を撮り――

 《美男美女の兄妹》

 そんな見出しとともに、美容室のSNSに投稿した。

 もともと、幸に関する最初の発信が、この美容室のSNSだったこともあり、
 今回の投稿をきっかけに、二人が兄妹であるという事実は、瞬く間に拡散されていった。

 その結果――

 《兄・イケメン、妹・美女って、ほとんど神》
 《美しいものは、見ていて飽きない》
 《眼が喜ぶ兄妹》

 など、賛辞の嵐が巻き起こる。

 それとは対照的に、

【水沢イノベーションズ社長の婚約者、二股疑惑】

 という見出しで配信していたアカウントには、一転して、非難と苦情が殺到した。

 《見出しが陰湿すぎる》
 《根も葉もない噂を流すなんて、悪質》
 《これはさすがにアウトでしょ》

 苦情が殺到し、【NexSeed黒田】の広報部は、事態の沈静化を図るため、問題となっていた配信アカウントを即座に閉鎖した。

 もともと、誰が配信したかわからない形にはしていたものの、取引先関係者の目に触れるよう配信されていたため、その写真は瞬く間に会社関係者の間にも広まっていた。

 だが――
 そこには、幸と俊一が兄妹であるという投稿も、同時に拡散されていた。

 それを目にした、会社関係者の社長や幹部の中には、

「あれ……この男性は、西園寺財閥の……」

 そう気づく者も現れる。

 そして――

 幸と俊一が兄妹である、という事実は、

「水沢社長の婚約者は、あの西園寺財閥総師の孫なのか!?」

 その事実は、西園寺財閥と何かしら関わりがある一部の社長たちに大きな衝撃を与えていた。

 一方、匠は社長室で、問題となっているSNSの画面を見つめていた。

【水沢イノベーションズ社長の婚約者、二股疑惑】

 そう見出しのついた写真を眺めながら、匠は小さく眉をひそめた。

 幸と一緒に写っている男の素性すら調べずに配信するとは――あまりにも愚かだ。

 その浅はかさに、匠はもはや感情を動かす価値すら見出せなかった。

 写真から視線を外し、仕事に取りかかろうとしたそのとき、社長室に内線の音が鳴り響いた。

 村田秘書が素早く受話器を取り、短く応対する。

「社長、高瀬テクノロジーの社長からお電話です。お繫ぎしますか?」

 ――やはり、かかってきたか。

 あのパーティーでの騒動のあと、高瀬社長から連絡が入ることは、匠の予想どおりだった。

 匠は一度だけ頷き、静かに受話器を取る。

「……水沢イノベーションズの水沢社長でいらっしゃいますか」

 慎重に確認するような、落ち着いた男の声。

「はい。水沢です」

「突然のお電話、失礼いたします。高瀬テクノロジーの代表を務めております、高瀬と申します」

 匠より年配でありながら、言葉遣いは過不足なく丁寧だった。

 その低姿勢な口調を耳にした瞬間、高瀬社長が何を求めてこの電話をかけてきたのか――匠には、頼まれる前からわかっていた。

 幸が由紀に聞かせた、あの音声。

 この電話の目的は、それ以外には考えられなかった。

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