【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第83話【ボイスレコーダー】

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 八時の待ち合わせに遅れないよう、匠は幸を乗せ、黒田会長宅へと車を走らせた。

 匠がハンドルを握る車内には、静かな時間が流れている。

 そんな中――

「匠さん……今日で、終わりますよね?」

 幸が、わずかな不安を滲ませながら問いかけた。

 すると匠は、

「ああ。今日で終わる」

 迷いのない声で、そう断言した。

「……ふぅ……」

 幸の口から、安堵の息がこぼれる。

「匠さん、いろいろ協力してくれて、ありがとうございます」

 感謝の言葉を口にすると、

「君にとっての脅威は、俺にとっても排除すべき存在だからね。 お礼はいらないよ」

 匠の声には、一切の揺らぎがなかった。

 守られているという、確かな安心感。
 それは、どんな状況にあっても、幸の心を穏やかにしてくれる。

 匠の言葉に、幸の胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 ――すべて、うまくいく。

 そう思えた、その瞬間。

 視界の先に、大きな門構えの邸宅が姿を現した。

 *****

 黒田会長の秘書に案内され、匠と幸は、会長が待つ応接間へと向かった。

 扉が開き、部屋に足を踏み入れると、そこには黒田太郎と明、そして高瀬社長と、
 その娘である由紀の姿があった。

 ――圭吾の姿は、まだない。

「どうぞ、おかけになってお待ちください」

 秘書にそう促され、匠と幸は、黒田太郎の正面に並んで腰を下ろした。

 その頃圭吾は――

 ――否定すればいいだけだ。
 ――証拠さえなければ、どうとでもなる。

 そう思いながら、玄関を抜け、応接間へと歩みを進めていた。

 圭吾は、そのまま扉に手をかけ、扉を開けた。

「……えっ」

 視界に飛び込んできた顔ぶれに、圭吾は言葉を失い、その場に立ち尽くす。

 ――なぜ、幸がいるんだ……?
 ――それに、水沢まで……。

 入口で硬直したままの圭吾に、

「何をしている。早くこちらへ来て、座りなさい」

 明が、低く厳しい声で呼びつけた。

 その声に我に返り、圭吾は父・明の横へと歩み寄り、静かに腰を下ろす。

 向かいの席には、高瀬親子が並んで座っていた。

 ――まずい。

 今の状況が、ただ事ではないことを、圭吾自身もはっきりと理解し始める。

 手のひらが、じっとりと汗ばむ。

 そんな圭吾を、由紀は、感情の読めない冷たい視線で見つめていた。

 そんな中、話し合いが始まった。

 会長の太郎も、今回の騒動については、少し前に明から聞かされていた。

「今回の騒動の原因は、何なんだ?」

 明らかに不機嫌な太郎の声が、応接間に響き渡る。

「今回の一件は、由紀さんが、人前で圭吾にビンタをしたことが発端です。それに激怒した圭吾が言い返し、言い争いに発展した――それが、今回の騒動の原因です」

 明は、息子である圭吾を庇うように、そう説明した。

 その言葉に、高瀬社長の眉が、ぴくりと動く。

 ――やはり、原因を娘に押しつけるつもりか。

 由紀の父である高瀬社長は、そう感じ取った。

「確かに、先に手を出したのは娘です。その点については、親としても責任を感じています。 ですが……それには、はっきりとした理由があります」

「理由があったとしても、あの場で手を出すべきではなかったのではないですか?」

 明が、冷静だが厳しい口調で問い返す。

「おっしゃる通りかもしれません。しかし、圭吾くんの娘に対する扱いが、あまりにも酷く、娘は、それに耐えきれず、感情的になってしまったのです」

 親同士の言葉が、次第に鋭さを帯びていく。

 そのやり取りを、匠と幸は、あくまで第三者として静かに見守っていた。

 口を挟むこともなく、この話し合いが一段落するのを、ただ待っている。

「圭吾が、どんな酷いことをしたというのか?」

 ここで、太郎が口を開いた。

「それを、証明できるのか?」

 低く、圧をかけるような声が、高瀬社長に向けられる。

 力関係で言えば、高瀬テクノロジーよりも、黒田ホールディングスのほうが上だ。

 このまま進めば、婚約破棄の原因は由紀にあるとされ、高瀬側が泣き寝入りする結末も十分にあり得る。

 だが――今回は違う。

 黒田ホールディングスと同等の影響力を持つ、水沢ホールディングス。
 その御曹司が、決定的な証拠を提供すると約束してくれている。

 だからこそ、高瀬社長は、ここで引き下がるつもりはなかった。

 高瀬社長が口を開こうとした、その瞬間――

「……できますよ」

 匠が、先に口を開いた。

 一斉に、視線が匠へと集まる。

 太郎の鋭い視線も向けられたが、匠は意に介する様子もない。

「これを聞けば、すべてが明らかになります」

 匠は――幸の携帯ではなく、ボイスレコーダーを取り出した。

 その小さな機器を目にした瞬間、圭吾の顔色が、さっと変わる。

「やめろ!」

 思わず声を荒らげ、立ち上がりかける。

「本人の了承も得ていない盗聴は、犯罪だぞ!」

 圭吾の叫びが、応接間に響いた。

 その言葉を、匠は静かに受け止め、

「盗聴ではありません。 会話の当事者が、自身の身を守るために記録した音声です。日本の法律では、違法行為には該当しません」

 淡々と、事実だけを告げた。







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