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第一章 赤と黒の螺旋の中で
五十六話 シン墨俣一夜城(1)
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【注意書き(というか言い訳)】
秀吉の有名な逸話である「墨俣一夜城」は、近年では江戸時代に創作されたエピソードと言われ、信憑性が低いと言われている。
何せ「信長公記」にすら記載がない。
だが、本作品は娯楽小説です。
面白い話を盛るのに、遠慮は要らない。
入れます。
永禄九年(1566年)
八月二九日。
織田軍は、全軍出撃で、美濃攻略を完結させようとしていた。
ちょっとだけバカバカしい前振りをすると、信長が担ぎ上げる予定の次期将軍候補の擁立に、斎藤龍興も乗った。
「やあ、信長たん。僕たち、同じ志を持つ、同志だね。愛と平和を共通テーマに、これからは新しい将軍様の下で、レッツ・トゥギャザー」
多分、信長への嫌がらせだと思う。
同志の領地を攻める訳にはいかなくなったので、信長は一計を案じる。
「我々は美濃・近江を通過して上洛するので、同志・斎藤龍興は、通過させてね。同志なのだから」
そう言い渡して一万の軍勢で美濃を通過しようとしたら、斎藤龍興は、
「あ、僕やっぱり、三好と組むから。死ねや、信長!!」
と、あっさり前言撤回して、全軍出撃してきた。
予想した通りなので、織田軍は全然慌てなかった。
あまりに余裕で自信満々なので、稲葉山城を落とすだけではなく、そのまま上洛して幕府再興を決めるつもりだった。
そのつもりでした。
ここで斎藤龍興は、かつて織田軍をフルボッコにした新加納の戦いのように、地形を利用した迎撃戦を模索する。
酒が抜けていると、斎藤龍興にも学習能力が発生する。
信長は警戒して、軍勢を川沿いまで下げた。
美濃内の味方が集結し終えるまでの時間稼ぎも兼ねていたのだが、夜に天候が急激に悪化する。
恐らくは、台風が通過したのだろう。
激しい風雨に晒され、木曽川が洪水を起こした。
木曽川を渡って来た織田軍は震えあがったが、この時点では全く被害者は出ていない。
ちゃんと高台に移動していたし、美濃斎藤軍も川の増水で動けない。
まさに水入りの状態で、両軍は川の水が治るのを待った。
風雨で兵糧も一部損なった信長は、一度撤退して尾張での再編成を画策する。
まだ水嵩が高いので、兵たちも気を付けて木曽川を渡る。
足を滑らせない限りは、流されたりはしない。
しかし、一万人近い兵の移動である。
どうしても運悪く足を滑らせて、川を流される者が、数十人は出てしまう。
下流で岸に上がれる者もいるが、そのまま溺死したり、敵のいる方の岸に流れ着いて討ち取られる者も出る。
信長が急かさなければ、発生しなかった事故である。
可近は苦々しく思いながらも、敵陣営が反比例して喜んでいるので、悪いアイデアが浮かぶ。
「殿。悪い考えが浮かびました」
そう言い寄って来た可近に悪寒を覚えつつも、信長は耳を貸す。
「中古の武器や鎧を、岸に置いていきしましょう。相手が、織田軍の損失を、過大に受け取ってくれます」
「そんな幼稚な手に、引っ掛か…る奴だな、あれは」
信長は相手の低レベルさを慮り、余剰物資の放出を許した。
溺れる者は藁をも掴むというが、負けが嵩んで亡国一歩手前の斎藤龍興軍は、織田軍が退いた後の川岸に放置された武器や鎧を見て狂喜乱舞した。
状況証拠から見て、雑兵たちが武具を捨てて敗走、いや潰走した様に見える。
「これは、歴史的な大勝利、ではなかろうか?」
酒が抜けている斎藤龍興の頭に、勝利の美酒が満ち始める。
「そうですか? 撤退したのは、水が引いた後ですから、不慮の事故が重なっただけで…」
日根野辺りの歴戦の武将は、追い込まれたアホを引っ掛ける為の偽装工作だと察したが、勝利の美酒に酔った斎藤龍興は大勝利の路線で大暴走をする。
「この大戦果を書状に認めて、武田信玄に報せる。そして、尾張に攻め入っていただく」
バカはバカなりに考えるものだと、日根野は聞くだけは聞いてあげる。
数日後。
最強にして最高の戦国大名として知られる武田信玄の甲斐国恵林寺((山梨県甲州市)の住職宛に、斎藤龍興から『自慢の書状』が届けられる。
内容は、
「織田信長って、新しい将軍様候補を推し立てて上洛するとか息巻いていますけど、こんな恥ずかしい敗戦をするので、天下の笑い物になっています」
という、盛りに盛った戦果自慢で、信長をディスる内容だった。
自慢する割に、斎藤龍興自身の署名だけでは信憑性が少ないと思ったのか、日根野や西美濃三人衆が連名している。
武田信玄は間違いなく書状に書かれた情報を耳に入れたが、情報の発信元が斎藤龍興なので、真に受けなかった。
次の年には、娘を信長の嫡男の嫁にしている。
因みに、この書状に連名した者たちは、次の年に斎藤龍興を見限って離脱している。
バカなデマを流して利益を得ようとする者は、昔から最後には見捨てられる。
ここまでが、墨俣一夜城の前振り。
秀吉の有名な逸話である「墨俣一夜城」は、近年では江戸時代に創作されたエピソードと言われ、信憑性が低いと言われている。
何せ「信長公記」にすら記載がない。
だが、本作品は娯楽小説です。
面白い話を盛るのに、遠慮は要らない。
入れます。
永禄九年(1566年)
八月二九日。
織田軍は、全軍出撃で、美濃攻略を完結させようとしていた。
ちょっとだけバカバカしい前振りをすると、信長が担ぎ上げる予定の次期将軍候補の擁立に、斎藤龍興も乗った。
「やあ、信長たん。僕たち、同じ志を持つ、同志だね。愛と平和を共通テーマに、これからは新しい将軍様の下で、レッツ・トゥギャザー」
多分、信長への嫌がらせだと思う。
同志の領地を攻める訳にはいかなくなったので、信長は一計を案じる。
「我々は美濃・近江を通過して上洛するので、同志・斎藤龍興は、通過させてね。同志なのだから」
そう言い渡して一万の軍勢で美濃を通過しようとしたら、斎藤龍興は、
「あ、僕やっぱり、三好と組むから。死ねや、信長!!」
と、あっさり前言撤回して、全軍出撃してきた。
予想した通りなので、織田軍は全然慌てなかった。
あまりに余裕で自信満々なので、稲葉山城を落とすだけではなく、そのまま上洛して幕府再興を決めるつもりだった。
そのつもりでした。
ここで斎藤龍興は、かつて織田軍をフルボッコにした新加納の戦いのように、地形を利用した迎撃戦を模索する。
酒が抜けていると、斎藤龍興にも学習能力が発生する。
信長は警戒して、軍勢を川沿いまで下げた。
美濃内の味方が集結し終えるまでの時間稼ぎも兼ねていたのだが、夜に天候が急激に悪化する。
恐らくは、台風が通過したのだろう。
激しい風雨に晒され、木曽川が洪水を起こした。
木曽川を渡って来た織田軍は震えあがったが、この時点では全く被害者は出ていない。
ちゃんと高台に移動していたし、美濃斎藤軍も川の増水で動けない。
まさに水入りの状態で、両軍は川の水が治るのを待った。
風雨で兵糧も一部損なった信長は、一度撤退して尾張での再編成を画策する。
まだ水嵩が高いので、兵たちも気を付けて木曽川を渡る。
足を滑らせない限りは、流されたりはしない。
しかし、一万人近い兵の移動である。
どうしても運悪く足を滑らせて、川を流される者が、数十人は出てしまう。
下流で岸に上がれる者もいるが、そのまま溺死したり、敵のいる方の岸に流れ着いて討ち取られる者も出る。
信長が急かさなければ、発生しなかった事故である。
可近は苦々しく思いながらも、敵陣営が反比例して喜んでいるので、悪いアイデアが浮かぶ。
「殿。悪い考えが浮かびました」
そう言い寄って来た可近に悪寒を覚えつつも、信長は耳を貸す。
「中古の武器や鎧を、岸に置いていきしましょう。相手が、織田軍の損失を、過大に受け取ってくれます」
「そんな幼稚な手に、引っ掛か…る奴だな、あれは」
信長は相手の低レベルさを慮り、余剰物資の放出を許した。
溺れる者は藁をも掴むというが、負けが嵩んで亡国一歩手前の斎藤龍興軍は、織田軍が退いた後の川岸に放置された武器や鎧を見て狂喜乱舞した。
状況証拠から見て、雑兵たちが武具を捨てて敗走、いや潰走した様に見える。
「これは、歴史的な大勝利、ではなかろうか?」
酒が抜けている斎藤龍興の頭に、勝利の美酒が満ち始める。
「そうですか? 撤退したのは、水が引いた後ですから、不慮の事故が重なっただけで…」
日根野辺りの歴戦の武将は、追い込まれたアホを引っ掛ける為の偽装工作だと察したが、勝利の美酒に酔った斎藤龍興は大勝利の路線で大暴走をする。
「この大戦果を書状に認めて、武田信玄に報せる。そして、尾張に攻め入っていただく」
バカはバカなりに考えるものだと、日根野は聞くだけは聞いてあげる。
数日後。
最強にして最高の戦国大名として知られる武田信玄の甲斐国恵林寺((山梨県甲州市)の住職宛に、斎藤龍興から『自慢の書状』が届けられる。
内容は、
「織田信長って、新しい将軍様候補を推し立てて上洛するとか息巻いていますけど、こんな恥ずかしい敗戦をするので、天下の笑い物になっています」
という、盛りに盛った戦果自慢で、信長をディスる内容だった。
自慢する割に、斎藤龍興自身の署名だけでは信憑性が少ないと思ったのか、日根野や西美濃三人衆が連名している。
武田信玄は間違いなく書状に書かれた情報を耳に入れたが、情報の発信元が斎藤龍興なので、真に受けなかった。
次の年には、娘を信長の嫡男の嫁にしている。
因みに、この書状に連名した者たちは、次の年に斎藤龍興を見限って離脱している。
バカなデマを流して利益を得ようとする者は、昔から最後には見捨てられる。
ここまでが、墨俣一夜城の前振り。
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