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第二章 君を守るために僕は夢を見る
十五話 姉川・野村・三田村(2)
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元亀元年(1570年)六月二十八日。
朝の六時に、「姉川の戦い」は開始された。
姉川を挟んで、
朝倉軍八千
VS
徳川軍五千
の戦いが、先に始まる。
徳川軍の先陣は、主力の酒井忠次の部隊。
朝倉軍の矢弾を竹束で防ぎながら、向こう岸の敵陣に攻めかかろうとする。
朝倉軍が酒井忠次の部隊を水際で削ろうと猛射する間に、徳川の第二陣が、発進する。
指揮官は、榊原康政。
渡河地点を、酒井忠次とは別のルートで、やや遠回りに進んで行く。
朝倉軍は、その動きを見ても、放置していた。
隊旗に「無」の一文字を掲げる部隊の進行先は、川からは登り難い川岸だったからだ。
そのまま進んで川岸で渋滞してくれているうちに、朝倉軍は酒井隊への迎撃に専念出来る。
登れずに結局は、酒井の方に合流を図るだろうと、朝倉軍は看做して放置した。
その動きを見て、慌てたのは酒井忠次の方だった。
「いか~ん! 小平次(榊原康政の通称)に一番槍を取られる! 急げ! 先陣を任されたのに追い抜かれたら、恥だぞ!!」
指揮官に急かされて、軍団が強引に前進する。
何の事だと訝しむ朝倉軍の横に、榊原康政の部隊が、登り難いはずの川岸を間断なく上がって来る。
真一文字に隊列を組んだ榊原康政の部隊は、互いに声を掛け合って岸を登る手伝いをし合い、渋滞せずに渡河を為した。
朝倉軍が、今まで見た事もない程に統制の取れた動きのする部隊が、横から急接近して来るのを見る。
その部隊は、まるで一つの生き物であるかのように、速やかに一丸となって迫り来る。
練度が違う。
兵たちに施された軍隊としての動き方と、その活かし方の、次元が違う。
朝倉軍の対応が、間に合わない。
この部隊と比べたら、自分たちは鈍重ではないのかと朝倉軍が錯覚する程に、用兵の速度が違う。
酒井隊も同時期に渡河を終え、朝倉軍に到達する。
一瞬だけ早く、酒井隊の方が朝倉軍に槍を付ける。
「あ~、間に合った。元部下に追い越されるところだった」
酒井忠次が、この戦の功名第一位の座を奪われずに済み、安堵して武将稼業に専念する。
酒井忠次にとって朝倉軍は、その程度の「踏み台」にしか見えていない。
今の徳川にとって、敵として認識しているのは「戦国最強・武田信玄の軍勢」だけだ。
その為に、何年もかけて軍勢を強化している。
徳川にとって今回の戦いは、「新しい武器の試し斬り」に等しい。
榊原康政の部隊は、朝倉軍の横腹を刀槍で貫通しながら、速度を一切落とさない。
敵陣の中に突入して斬り結んでも、榊原康政の部隊は、乱れない。
まるで一振りの刀のように、朝倉軍を切り裂いていく。
これが榊原康政が教導し、指揮する部隊の、基本的な戦闘力である。
個人の武勇ではなく、集団で行動する強みを、最大限に発揮させる指揮能力。
榊原康政に戦功を積ませ、徳川全軍を教導出来る立場に押し上げる為に、家康は活躍の場を用意した。
徳川家康にとって朝倉・浅井同盟軍は、好都合な研ぎ石だった。
二方向から強撃され、握り潰される空き缶のように、朝倉軍の陣形が崩れる。
繰り返しになるが、朝倉軍は八千、徳川軍は五千である。
その兵力差を瞬時に忘れてしまう程に、徳川軍は初手で朝倉軍を痛撃した。
朝倉軍の半数は、その恐ろしいまでに動きの良い部隊の指揮官の名を知らずに、姉川一帯を血で染めた。
「何だか、軍師殿の予想以上に、徳川軍のワンサイドゲームです」
隣の戦場の楽勝を可近が伝えに戻ると、織田軍本陣は全員で苦虫を潰したような顔で、苦笑する。
「こちらは、予想以上に、苦戦しているのだ」
竹中半兵衛が、予想以上に壊れた織田軍の陣形を立て直す為に、逐次防御陣の補佐修正に励んでいる。
織田軍一万
VS
浅井軍五千
浅井の地元で地の利があるとはいえ、倍の戦力で苦戦を強いられている。
浅井にとっては故郷を守るための最終決戦のテンションだが、織田の諸将にとっては…
「やり難い。めっちゃやり難い」
森可成を始めとして、やる気が出ない。
数年間、一緒に苦楽を共にしてくれた浅井軍である。
信長の妹・市(織田家のアイドル)が嫁いでいるので、徳川よりも親近感を抱いていた相手である。
それが、決死の表情で激戦に及んでいる。
罪悪感が、半端ない。
金ヶ崎で背後を突かれ、先日は美濃に侵攻されても、一緒に上洛して一緒に反対勢力をしばき倒した華麗な日々が消える訳ではない。
やる気が出ないまま、ジリジリと押されていく。
信長の本陣近くにも、矢弾が届き始める。
それでも信長は全く慌てずに、防御を軍師たちに任せて、待つ。
待つだけで、織田にも勝ち筋が到来する。
徳川に敗北した朝倉軍が、潰走を始めた。
徳川軍は休まずに、浅井軍を横から攻撃する。
織田軍を攻撃する為に死力を尽くしていた最中に、徳川軍に側面を攻められ、浅井軍も流石に戦意が切れる。
陣形を保てずに、潰走を始める。
この機を逃さずに、織田軍が反撃に出る。
小谷城へ逃げようとする浅井軍を背後から追撃し、兵数を削りまくろうとする。
と言っても、やはり、やる気は薄い。
効果が薄いと見て、信長は小谷城の五十町(約5キロメートル)手前で追撃をやめた。
織田軍の働きが鈍くても、この激戦地には「血川」「血原」の地名が付いてしまった。
朝の六時に、「姉川の戦い」は開始された。
姉川を挟んで、
朝倉軍八千
VS
徳川軍五千
の戦いが、先に始まる。
徳川軍の先陣は、主力の酒井忠次の部隊。
朝倉軍の矢弾を竹束で防ぎながら、向こう岸の敵陣に攻めかかろうとする。
朝倉軍が酒井忠次の部隊を水際で削ろうと猛射する間に、徳川の第二陣が、発進する。
指揮官は、榊原康政。
渡河地点を、酒井忠次とは別のルートで、やや遠回りに進んで行く。
朝倉軍は、その動きを見ても、放置していた。
隊旗に「無」の一文字を掲げる部隊の進行先は、川からは登り難い川岸だったからだ。
そのまま進んで川岸で渋滞してくれているうちに、朝倉軍は酒井隊への迎撃に専念出来る。
登れずに結局は、酒井の方に合流を図るだろうと、朝倉軍は看做して放置した。
その動きを見て、慌てたのは酒井忠次の方だった。
「いか~ん! 小平次(榊原康政の通称)に一番槍を取られる! 急げ! 先陣を任されたのに追い抜かれたら、恥だぞ!!」
指揮官に急かされて、軍団が強引に前進する。
何の事だと訝しむ朝倉軍の横に、榊原康政の部隊が、登り難いはずの川岸を間断なく上がって来る。
真一文字に隊列を組んだ榊原康政の部隊は、互いに声を掛け合って岸を登る手伝いをし合い、渋滞せずに渡河を為した。
朝倉軍が、今まで見た事もない程に統制の取れた動きのする部隊が、横から急接近して来るのを見る。
その部隊は、まるで一つの生き物であるかのように、速やかに一丸となって迫り来る。
練度が違う。
兵たちに施された軍隊としての動き方と、その活かし方の、次元が違う。
朝倉軍の対応が、間に合わない。
この部隊と比べたら、自分たちは鈍重ではないのかと朝倉軍が錯覚する程に、用兵の速度が違う。
酒井隊も同時期に渡河を終え、朝倉軍に到達する。
一瞬だけ早く、酒井隊の方が朝倉軍に槍を付ける。
「あ~、間に合った。元部下に追い越されるところだった」
酒井忠次が、この戦の功名第一位の座を奪われずに済み、安堵して武将稼業に専念する。
酒井忠次にとって朝倉軍は、その程度の「踏み台」にしか見えていない。
今の徳川にとって、敵として認識しているのは「戦国最強・武田信玄の軍勢」だけだ。
その為に、何年もかけて軍勢を強化している。
徳川にとって今回の戦いは、「新しい武器の試し斬り」に等しい。
榊原康政の部隊は、朝倉軍の横腹を刀槍で貫通しながら、速度を一切落とさない。
敵陣の中に突入して斬り結んでも、榊原康政の部隊は、乱れない。
まるで一振りの刀のように、朝倉軍を切り裂いていく。
これが榊原康政が教導し、指揮する部隊の、基本的な戦闘力である。
個人の武勇ではなく、集団で行動する強みを、最大限に発揮させる指揮能力。
榊原康政に戦功を積ませ、徳川全軍を教導出来る立場に押し上げる為に、家康は活躍の場を用意した。
徳川家康にとって朝倉・浅井同盟軍は、好都合な研ぎ石だった。
二方向から強撃され、握り潰される空き缶のように、朝倉軍の陣形が崩れる。
繰り返しになるが、朝倉軍は八千、徳川軍は五千である。
その兵力差を瞬時に忘れてしまう程に、徳川軍は初手で朝倉軍を痛撃した。
朝倉軍の半数は、その恐ろしいまでに動きの良い部隊の指揮官の名を知らずに、姉川一帯を血で染めた。
「何だか、軍師殿の予想以上に、徳川軍のワンサイドゲームです」
隣の戦場の楽勝を可近が伝えに戻ると、織田軍本陣は全員で苦虫を潰したような顔で、苦笑する。
「こちらは、予想以上に、苦戦しているのだ」
竹中半兵衛が、予想以上に壊れた織田軍の陣形を立て直す為に、逐次防御陣の補佐修正に励んでいる。
織田軍一万
VS
浅井軍五千
浅井の地元で地の利があるとはいえ、倍の戦力で苦戦を強いられている。
浅井にとっては故郷を守るための最終決戦のテンションだが、織田の諸将にとっては…
「やり難い。めっちゃやり難い」
森可成を始めとして、やる気が出ない。
数年間、一緒に苦楽を共にしてくれた浅井軍である。
信長の妹・市(織田家のアイドル)が嫁いでいるので、徳川よりも親近感を抱いていた相手である。
それが、決死の表情で激戦に及んでいる。
罪悪感が、半端ない。
金ヶ崎で背後を突かれ、先日は美濃に侵攻されても、一緒に上洛して一緒に反対勢力をしばき倒した華麗な日々が消える訳ではない。
やる気が出ないまま、ジリジリと押されていく。
信長の本陣近くにも、矢弾が届き始める。
それでも信長は全く慌てずに、防御を軍師たちに任せて、待つ。
待つだけで、織田にも勝ち筋が到来する。
徳川に敗北した朝倉軍が、潰走を始めた。
徳川軍は休まずに、浅井軍を横から攻撃する。
織田軍を攻撃する為に死力を尽くしていた最中に、徳川軍に側面を攻められ、浅井軍も流石に戦意が切れる。
陣形を保てずに、潰走を始める。
この機を逃さずに、織田軍が反撃に出る。
小谷城へ逃げようとする浅井軍を背後から追撃し、兵数を削りまくろうとする。
と言っても、やはり、やる気は薄い。
効果が薄いと見て、信長は小谷城の五十町(約5キロメートル)手前で追撃をやめた。
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