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幕間 キサラギ亜人王国の日常
ファムランドとレオノルの初デート1
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「それでファムランドさん、今日はどこに行く予定なんですか?」
ファムランドとレオノルが腕を組んで歩きだしてから数分後、先に沈黙を破ったのはレオノルだった。
2人とも、恋仲になってからそれなりに経つというのに、未だに2人きりになると無言になってしまうことが多い。
「今日は隣のエルフの村まで行ってみようと思ってな」
「隣のエルフの村、ですか? 歩いて行っていては半日はかかってしまいますが……」
隣の村と言っても、エルフの村々の間には広大な森が広がっているのだ。
単純に歩いて移動すると、レオノルの言うとおり半日はかかってしまうだろう。
もちろん、ファムランドもレオノルも身体強化魔法は使えるし、それを使い続けて森の中を高速で移動することは可能だ。
それをすれば、1~2時間で隣の村までつくだろう。
そんなことをしたらデートの雰囲気は台無しだが……。
「歩いていったりはしねえし、当然身体強化で走って行ったりもしねえよ。今回はこれで行く」
ファムランドが立ち止まったので、レオノルはファムランドの横顔を見つめていた視線を前にやる。
そこには、レオノルが見たこともない白馬に引かれた馬車があった。
よく見ると、白馬の頭部から鉱石でできた角のようなものが生えている。
「なんですかこれは? 馬車のようですが……引いているのは、ユニコーン? でしょうか?」
「はははっ、レオノルもそう思ったか」
予想通りの反応に、ファムランドは豪快に笑う。
ファムランドに笑われて、レオノルは頬を膨らませる。
普段大人びた雰囲気のレオノルが、こんな子供みたいな仕草をしてしまうのも、もしかするとマヤの強化魔法のせいかもしれない。
「もうっ、笑わないで下さいよ! ということは、これはユニコーンではないんですね?」
「そうだ。これはユニコーンなんていうレア生物じゃねえ。これはもともとただの馬だからな」
「ただの馬? これが? それにもともとって……あっ!」
「気がついたか? 流石レオノルだな、頭の回転が速え」
ファムランドに褒められて、レオノルは嬉しそうに答える。
「これは、陛下の魔物ですね?」
マヤの強化魔法を一定以上受けると、通常魔石同様黒くなるはずの魔物が、魔石ごと白くなる、というのはレオノルも身を持って知っている。
この馬も、もともとただの馬だったものを魔物化し、マヤが強化魔法をかけた結果白くなったものなのだろう。
つまりあの頭の角は、白くなった魔石だということだ。
「正解だ。ちょうどよくマヤからこいつの試運転をしてみてほしいって頼まれちまってな」
「なるほど……」
(さては私達の休日が一緒だったところから全部陛下の差金ですね? まあ、ファムランドさんとデートできるからなんでもいいですけど)
「どうかしたかレオノル?」
「えっ? あっ、いえ。ファムランドさんとデートできて嬉しいなあって、思って、ました……」
「お、おう。俺も嬉しい、ぜ?」
突然の発言に、ファムランドは戸惑うが、ファムランドもレオノルとデートできて嬉しいし、自分とのデートを嬉しいと言われて否定するわけにもいかないので、なんとも言えない返事となってしまう。
(ううう~~っ。やっぱり良くないです陛下! 今度あったら絶対これ治してもらうんですからね!)
レオノルの恨み言は、マヤに届くことはないのだった。
***
「いやー、ごちそうさまって感じだねえ。いいねえ、若いっていうのは」
「いやいや、マヤさんの方があの2人より100歳以上若いですからね?」
初々しい2人のやり取りを遠くから見てのマヤの感想に、オリガは呆れ顔でツッコミを入れた。
「それにしても、あれがマヤさんが用意しているっていう馬車ですか」
「そうだよ。バニスターから賠償金と一緒にもらった軍馬をマッシュに魔物化してもらって、私の強化魔法をかけてあるの。馬車が走れる道を作るのも大変だったんだよ?」
実際魔物の馬の用意よりも、馬車が通れる道を作る方が大変だった。
おいおいはレンガなんかを敷いておきたいが、今回はとりあえず魔法で木を切ってどかして、平らにしただけの道が隣の村まで用意されている。
「白い馬、白い角、かっこ、いい」
キラキラした目で自分の馬を見るカーサに、マヤは自慢げに胸を張る。
「でしょう? このかっこよさがわかるとは、流石カーサだね!」
「白いものは、強くて、かっこ、いい!」
そういえば以前マヤが聞いた話だと、オークは白いものを神聖視する文化があるらしい。
だからこそ、オークを救う聖女は白髪で白い毛並みの獣を連れている、ということになっていたのだ。
「そうでしょうそうでしょう! うちの馬たちはみんな白くてかっこいいからね!」
白いものがかっこいいと言って盛り上がる2人に、少し不機嫌そうにしていたのがダークエルフのオリガだった。
「黒だってかっこいいと思いますけどっ」
「あれー、オリガ拗ねてるのー?」
ニヤニヤしながらオリガの顔を覗き込むマヤに、オリガを顔を背ける。
「別に、拗ねてなんてないですけど?」
「オリガさん、拗ねてる」
「なっ! カーサさんまで何言ってるんですか!」
「やっぱりカーサもそう思うよねー」
「うん、思う」
「もうっ! 知りませんっ!」
オリガは2人背を向けるとそれっきり黙ってしまう。
マヤがちょっとやりすぎたかな、とカーサの方を見ると、カーサも同じことを思っていたようで、こちらに目配せしてきた。
2人は黙って頷きあうと、2人でそっとオリガの頭に手を乗せる。
「ごめんごめん、オリガだってかっこいいと思ってるよ」
「うん、オリガさん、だって、強くて、かっこ、いい。黒くても、かっこ、いい」
2人はオリガを褒めながら、その小さな頭を撫でる。
2人に撫でられたオリガは、やや恥ずかしそうにしながら、しばらく沈黙した後、小さな声でつぶやく。
「…………別に私、拗ねてないですし」
「ふふふっ、じゃあこれは日頃の感謝の証ってことで」
「うんうん、オリガさん、いつも、ありがとね」
「わかってくれれば、いいんです」
オリガが機嫌を直してくれたので、マヤとカーサはほっと胸をなでおろす。
それはそれとして、2人はオリガを撫でるのをいっこうにやめようとしなかった。
「あのー、2人とも?」
「何かな、オリガ」
「オリガさん、どうしたの?」
「いやその、そろそろ撫でるのをやめてもらえると……」
「えー、気持ちいいからもうちょっとだけ」
「うん、もう、ちょっと、だけ」
「ええ……」
そんなこんなしているうちに、ファムランドたちが乗り込んだ馬車が出発してしまい、3人は慌ててシロちゃんに乗って追いかける羽目になったのだった。
ファムランドとレオノルが腕を組んで歩きだしてから数分後、先に沈黙を破ったのはレオノルだった。
2人とも、恋仲になってからそれなりに経つというのに、未だに2人きりになると無言になってしまうことが多い。
「今日は隣のエルフの村まで行ってみようと思ってな」
「隣のエルフの村、ですか? 歩いて行っていては半日はかかってしまいますが……」
隣の村と言っても、エルフの村々の間には広大な森が広がっているのだ。
単純に歩いて移動すると、レオノルの言うとおり半日はかかってしまうだろう。
もちろん、ファムランドもレオノルも身体強化魔法は使えるし、それを使い続けて森の中を高速で移動することは可能だ。
それをすれば、1~2時間で隣の村までつくだろう。
そんなことをしたらデートの雰囲気は台無しだが……。
「歩いていったりはしねえし、当然身体強化で走って行ったりもしねえよ。今回はこれで行く」
ファムランドが立ち止まったので、レオノルはファムランドの横顔を見つめていた視線を前にやる。
そこには、レオノルが見たこともない白馬に引かれた馬車があった。
よく見ると、白馬の頭部から鉱石でできた角のようなものが生えている。
「なんですかこれは? 馬車のようですが……引いているのは、ユニコーン? でしょうか?」
「はははっ、レオノルもそう思ったか」
予想通りの反応に、ファムランドは豪快に笑う。
ファムランドに笑われて、レオノルは頬を膨らませる。
普段大人びた雰囲気のレオノルが、こんな子供みたいな仕草をしてしまうのも、もしかするとマヤの強化魔法のせいかもしれない。
「もうっ、笑わないで下さいよ! ということは、これはユニコーンではないんですね?」
「そうだ。これはユニコーンなんていうレア生物じゃねえ。これはもともとただの馬だからな」
「ただの馬? これが? それにもともとって……あっ!」
「気がついたか? 流石レオノルだな、頭の回転が速え」
ファムランドに褒められて、レオノルは嬉しそうに答える。
「これは、陛下の魔物ですね?」
マヤの強化魔法を一定以上受けると、通常魔石同様黒くなるはずの魔物が、魔石ごと白くなる、というのはレオノルも身を持って知っている。
この馬も、もともとただの馬だったものを魔物化し、マヤが強化魔法をかけた結果白くなったものなのだろう。
つまりあの頭の角は、白くなった魔石だということだ。
「正解だ。ちょうどよくマヤからこいつの試運転をしてみてほしいって頼まれちまってな」
「なるほど……」
(さては私達の休日が一緒だったところから全部陛下の差金ですね? まあ、ファムランドさんとデートできるからなんでもいいですけど)
「どうかしたかレオノル?」
「えっ? あっ、いえ。ファムランドさんとデートできて嬉しいなあって、思って、ました……」
「お、おう。俺も嬉しい、ぜ?」
突然の発言に、ファムランドは戸惑うが、ファムランドもレオノルとデートできて嬉しいし、自分とのデートを嬉しいと言われて否定するわけにもいかないので、なんとも言えない返事となってしまう。
(ううう~~っ。やっぱり良くないです陛下! 今度あったら絶対これ治してもらうんですからね!)
レオノルの恨み言は、マヤに届くことはないのだった。
***
「いやー、ごちそうさまって感じだねえ。いいねえ、若いっていうのは」
「いやいや、マヤさんの方があの2人より100歳以上若いですからね?」
初々しい2人のやり取りを遠くから見てのマヤの感想に、オリガは呆れ顔でツッコミを入れた。
「それにしても、あれがマヤさんが用意しているっていう馬車ですか」
「そうだよ。バニスターから賠償金と一緒にもらった軍馬をマッシュに魔物化してもらって、私の強化魔法をかけてあるの。馬車が走れる道を作るのも大変だったんだよ?」
実際魔物の馬の用意よりも、馬車が通れる道を作る方が大変だった。
おいおいはレンガなんかを敷いておきたいが、今回はとりあえず魔法で木を切ってどかして、平らにしただけの道が隣の村まで用意されている。
「白い馬、白い角、かっこ、いい」
キラキラした目で自分の馬を見るカーサに、マヤは自慢げに胸を張る。
「でしょう? このかっこよさがわかるとは、流石カーサだね!」
「白いものは、強くて、かっこ、いい!」
そういえば以前マヤが聞いた話だと、オークは白いものを神聖視する文化があるらしい。
だからこそ、オークを救う聖女は白髪で白い毛並みの獣を連れている、ということになっていたのだ。
「そうでしょうそうでしょう! うちの馬たちはみんな白くてかっこいいからね!」
白いものがかっこいいと言って盛り上がる2人に、少し不機嫌そうにしていたのがダークエルフのオリガだった。
「黒だってかっこいいと思いますけどっ」
「あれー、オリガ拗ねてるのー?」
ニヤニヤしながらオリガの顔を覗き込むマヤに、オリガを顔を背ける。
「別に、拗ねてなんてないですけど?」
「オリガさん、拗ねてる」
「なっ! カーサさんまで何言ってるんですか!」
「やっぱりカーサもそう思うよねー」
「うん、思う」
「もうっ! 知りませんっ!」
オリガは2人背を向けるとそれっきり黙ってしまう。
マヤがちょっとやりすぎたかな、とカーサの方を見ると、カーサも同じことを思っていたようで、こちらに目配せしてきた。
2人は黙って頷きあうと、2人でそっとオリガの頭に手を乗せる。
「ごめんごめん、オリガだってかっこいいと思ってるよ」
「うん、オリガさん、だって、強くて、かっこ、いい。黒くても、かっこ、いい」
2人はオリガを褒めながら、その小さな頭を撫でる。
2人に撫でられたオリガは、やや恥ずかしそうにしながら、しばらく沈黙した後、小さな声でつぶやく。
「…………別に私、拗ねてないですし」
「ふふふっ、じゃあこれは日頃の感謝の証ってことで」
「うんうん、オリガさん、いつも、ありがとね」
「わかってくれれば、いいんです」
オリガが機嫌を直してくれたので、マヤとカーサはほっと胸をなでおろす。
それはそれとして、2人はオリガを撫でるのをいっこうにやめようとしなかった。
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