転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第5章 サミュエルを探して

奴隷売買の聖地

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「やっと開放されました……」

「ああ、もう魔物移動は懲り懲りだ……」

 クロイドン公国の首都クロイスの門へと続く道の脇で、ようやく止まった狼の魔物から降りたハイメとシャルルは、情けなく地面に四つん這いになってぼやく。

 ちなみに、エリーにもっともっと言われるままにどんどんど強化魔法を強くしていったため、最後の方は視認するのが難しいほどの速度で魔物を走らせていた。

 その結果、マヤの見立てでは3日はかかると思われた距離を1日で移動し、クロイドン公国に到達したのだ。
 
「もう、だらしないなあ……ねえエリー?」

「ええ、全くよ。私なんてまだまだ走り足りないくらいだわ」

 手綱を握り目を輝かせるエリーの足に、ハイメは縋りついて懇願する。

「お願い! お願いだからもうやめてよエリー!」

「そんなに怖かったのハイメ」

「そりゃあもう! 死ぬかと思ったんだから!」

「そ、そう……それはごめんなさい……」

 珍しく大きな声を出したハイメに、エリーは魔物をかっ飛ばして高揚していた心を落ち着かせた。

「あはは、確かにハイメ君にはちょっと辛かったかもね。エリーすっごく飛ばしてたし」

 エリーが速度を出しすぎていたことを他人事のように語るマヤに、横から非難の視線が突き刺さる。

「お前もエリーと同じ速度で魔物を走らせていただろう?」

「え? あー、それは……まあ……シャルルさんは一回乗ってるから大丈夫かな? なんて……」

「あのなあ! エリーはあれでもしっかりハイメを防御魔法で守っていたんだぞ!? それに引き換えお前はどうだ! 私に何もしてくれてなかっただろ!?」

「え? マヤ、シャルルさんに防御魔法かけてなかったの?」

 シャルルの言葉にエリーが目を丸くする。

「いやだって、私防御魔法とか使えないし……」

「そういえばそうだったわね……じゃあシャルルさんは本当に命がけで掴まってたの?」

「その通りだ」

「あー……それはマヤ、ちょっとひどいと思うわ」

 エリーが呆れた様子でマヤの方を見る。

「ええっ!? エリーまでそんなこと言うの!?」

「エリーの言う通りだ。私だから掴まっていられただけなのだからな?」

「むう……わかったよ、今度から気をつける……」

「ああ、そうしてくれ。そうじゃないと命がいくつあっても足りない」

「エリーも次からは速度を控えめに……」

「あら、どうして? 私はハイメを防御魔法で守ってるから大丈夫でしょ?」

「エリー……っ!? そんなぁ……」

 ハイメのお願いを受け流したエリーは、そのままクロイスへの門へと歩いていく。

「何だ? 脱走した奴隷か?」

 門兵はエリーを見るなりそんなことを言った。

「失礼な門兵ね。誰が奴隷ですって?」

 エリーは即座に魔法を発動させて、火球を手元に発生させる。

 奴隷のエルフは魔封じの拘束具をつけられているため魔法は使えない。

 つまり、魔法が使えるということは、そのエルフは奴隷ではない、ということなのだ。

 そのことを瞬時に理解した門兵は、勢いよくエリーに頭を下げる。

「すまない! まさか奴隷じゃないエルフだったとは……謝るからそれを消してくれないか?」

「ふんっ! 以後気をつけることね」

 エリーはそう言うと、そのまま門をくぐって街の中に入る。

 マヤは門をくぐるとき、自分の全身を門兵の男たちが舐め回すように見てきたような気がした。

(なんか嫌な視線だなあ……)

 こちらの世界に来てから何度かそういった男性の視線を感じることはあったが、やはりいつまで経っても慣れられるものではなかった。

 マヤがちらっとシャルルの方を確認するとシャルルも不自然にならないよう腕を組んで胸を隠していた。

 門兵の視線に不快感を感じていたマヤとシャルルだったが、街並みを見るなりそちらに気を取られてしまう。

「ねえエリー、ここが本当に奴隷売買の聖地なの? エリー達がいた街のほうがよっぽど奴隷売買が盛んだった気がするけど……」

 マヤとシャルルは奴隷売買の聖地などと言われている割に、思っていた以上に普通の街並みだったことに、何だか肩透かしを食らってしまった。
 
「表面上はそうでしょうね。そもそも、クロイドン公国は、公には奴隷売買を禁じているし」

「え? じゃあどうしてクロイドン公国が奴隷売買の聖地なのさ」

「まあ、すぐにわかるわよ。ほら、さっそくお出ましよ」

 エリーが顎で示した先には、先ほどの門兵達がいた。

 どうやらマヤについてきたようだ。

「門兵のお兄さん達、何か用かな?」

 マヤの質問に答えずマヤを取り囲んだ男たちは、ジリジリと距離を詰めてくる。

 門兵達の意図に気がついている様子のエリーが動かないのを「エリーとマヤは他人同士」だからだと勘違いした門兵達はニヤリと口端を上げる。
 
「お嬢ちゃん、可愛いじゃねーか」

「うん? うん、ありがとう? 何、そんなことを言うために追いかけてきたの?」

 とぼけた返しをするマヤに、門兵たちはドッと笑った。

「はははははっ! まさか、そんなわけねえだろう? この街のルールを教えてやる。「力ずくで屈服させれば誰でも奴隷にできる」それがこの街のルールだ!」

 男のその言葉を合図に、門兵たちが一斉にマヤへと襲いかかってくる。

 その様子に、シャルルは思わず目をそらした。

 マヤの実力をよく理解しているシャルルが目をそらしたのは、嬲られるマヤが見たくないから――などであるはずはなく……。
 
「ぐはっ!」

「ごほっ!」

「ぐえっ!」

「んぐっ!?」

 当然、一方的に蹂躙されるに決まっている門兵たちが気の毒だったからだ。

「はい、じゃあお兄さんたち私の奴隷ね?」

 シャルルの予想通り、一瞬で門兵たちをのしてしまったマヤは、折り重なるようにして倒れる門兵たちの上に座って足を組む。

「マヤ、それくらいにしてやれ」

「はーい。それじゃねお兄さん達。これに懲りたら女の子襲っちゃだめだよ?」

 マヤはぴょんと勢いをつけて門兵の上から立ち上がる。

 マヤが立ち上がる勢いで、門兵達がうめき声を上げた。

「いやシャルルさん止めるの遅くないですか?」

 マヤの下でうめき声を上げる門兵たちを見て、ハイメは口を戦慄かせる。

「ね? わかったかしら?」

「うん、大体は。つまりこの街は、表面上は奴隷を禁止しつつ、実態としては街中で奴隷売買が行われてるってことでしょ?」

「そうよ。しかも、兵士も役人もそれを止めるどころか自分たちも参加してる。私の街は役人や軍人がある程度奴隷売買を管理してるけど、この街は表面上は奴隷売買なんてないことになってるからそれもないわ。だから本当に何でもありなのよ」

「だから奴隷売買の聖地なのか」

「そういうこと。でも、その方が都合がいいんじゃないかしら、私達には、ね?」

 エリーは未だ道の真ん中でうめきながら積み重なっている門兵たちの指差していたずらっぽく笑う。

「確かにそうかも。「力ずくで屈服させれば誰でも奴隷にできる」がルールなんだもんね?」

 エリーの言葉に、マヤは不敵に笑って返す。

 それを見ていたシャルルとハイメは、早くもマヤたちの餌食になる奴隷商人たちが気の毒でならないのだった。
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