4 / 31
4.門前に元婚約者がいるので
しおりを挟む
レイが屋敷の窓から外をのぞき込む。嫌なものをみたと言いたげな顔でこちらを見た。
「彼はなにをしているんだ……あれでも王子だろう」
ここからだと門前に深々と頭を下げ続けている男が見える。遠目で見てもわかるのは、少なくとも王子が着るような服装ではないことぐらいだ。
報告によると、どうやらあの男は、使用人と護衛騎士数名をつけて王城を追い出されたイアンらしい。
「元だよ、元」
兄がトリトニアに住んでいる両親への報告の手紙を書きながら答えた。イアンは私との婚約破棄後、あっという間に王太子候補から、元王子の平民になっていた。腕に巻き付いていた令嬢も行方知れずである。
イアンはそれなりに考えて、私や兄から許しを得れば王城に戻れるのではという結論に至ったようだ。
日中は付き合いきれなくなった護衛騎士に連れて行かれるまで毎日あんな調子である。
そして、その兄の机には、王からの公式文書の証である封蝋のされた封筒が何枚も置かれていた。
「一歩間違えれば国が地図から消えるんだ。あいつはともかく、王は必死だろうね。ほらこれ、すべて謝罪だよ」
「身内のやらかしだとはいえ、かわいそうにな」
レイの手にも同じ封蝋の手紙がある。あの騒ぎのあとトリトニアの外交官として正式に抗議をしたらしい。
ラクシフォリア家は隣の大国トリトニアの王家にルーツを持つ新興貴族、だとイアンは思いこんでいた。しかし、ラクシフォリア家はもともとパラディオ建国から続く子爵家である。トリトニアから来た父が婿入りした後に事業が軌道に乗り伯爵を叙爵したことを曲解して、イアンは新興貴族と勘違いしてそのままここまで走り抜けた。
イアンの最大のミスは、私たちの父がトリトニア現王弟の息子であることを知らなかったことだ。
今のトリトニアの王は私たちの大伯父に当たる。
何度か訂正はしていたが、聞く気がないイアンに何を説明しても無駄だった。
イアンは時折会いに来ていた私の祖父が隣国の王弟だとは思っておらず、やけに豪華にもてなしてるな、くらいにしか思っていなかったようだ。まったく、物を考えられないのもここまでくると恐怖すら覚える。
トリトニアへの窓口としての役割も担っているラクシフォリア家の婚姻は他の伯爵家とはわけが違う。
私の婚約には政治的な策略がかなり絡んでいたように思う。
兄が私とイアンとの婚約に口を出せなかったのは、国同士の友好関係維持のためでもあったのだ。
「母上の母国だ。悪いようにするつもりはないよ」
兄の言葉に、私はついほっと息を吐く。
「心配していたんだね。両国との交流をメインにしていきたいとは前から話していたからね。あのバカ王子を担ぎ上げていた派閥が邪魔をしていたが、これでやりやすくなるさ」
兄はそこまで言うと、慈愛に満ちた目を細め、私を見た。
「かわいいシャル。私はシャルのために出来ることは何でもしたいと思っているよ」
久しぶりに聞いた言葉だ。
兄の顔はいつもよりも清々しいものに見える。その顔を見てレイと私は顔を見合わせた。
兄の後悔が見えなくなった。そう思って私が笑う。レイも安堵の混じった顔で笑っていた。
和やかな雰囲気の中、書類や手紙の処理作業を進めていると、レイが、ん? と小さく呟いて手を止めた。
「デイヴィット、シャーロット」
「なんだい?」
「シャーロットに招待状が来ている」
レイが私たちに見せるように持っている手紙の封蝋をみて私は固まる。
「どうせ、噂好きのマダムが根掘り葉掘り聞きたいがためのお茶会だろう?」
「……それなら聞く前に断りの返事を書いている」
まだ自分の作業を続けながら話をしていた兄がやっと顔をあげて同じように固まった。
「王太后陛下から、お茶会の招待だ」
「彼はなにをしているんだ……あれでも王子だろう」
ここからだと門前に深々と頭を下げ続けている男が見える。遠目で見てもわかるのは、少なくとも王子が着るような服装ではないことぐらいだ。
報告によると、どうやらあの男は、使用人と護衛騎士数名をつけて王城を追い出されたイアンらしい。
「元だよ、元」
兄がトリトニアに住んでいる両親への報告の手紙を書きながら答えた。イアンは私との婚約破棄後、あっという間に王太子候補から、元王子の平民になっていた。腕に巻き付いていた令嬢も行方知れずである。
イアンはそれなりに考えて、私や兄から許しを得れば王城に戻れるのではという結論に至ったようだ。
日中は付き合いきれなくなった護衛騎士に連れて行かれるまで毎日あんな調子である。
そして、その兄の机には、王からの公式文書の証である封蝋のされた封筒が何枚も置かれていた。
「一歩間違えれば国が地図から消えるんだ。あいつはともかく、王は必死だろうね。ほらこれ、すべて謝罪だよ」
「身内のやらかしだとはいえ、かわいそうにな」
レイの手にも同じ封蝋の手紙がある。あの騒ぎのあとトリトニアの外交官として正式に抗議をしたらしい。
ラクシフォリア家は隣の大国トリトニアの王家にルーツを持つ新興貴族、だとイアンは思いこんでいた。しかし、ラクシフォリア家はもともとパラディオ建国から続く子爵家である。トリトニアから来た父が婿入りした後に事業が軌道に乗り伯爵を叙爵したことを曲解して、イアンは新興貴族と勘違いしてそのままここまで走り抜けた。
イアンの最大のミスは、私たちの父がトリトニア現王弟の息子であることを知らなかったことだ。
今のトリトニアの王は私たちの大伯父に当たる。
何度か訂正はしていたが、聞く気がないイアンに何を説明しても無駄だった。
イアンは時折会いに来ていた私の祖父が隣国の王弟だとは思っておらず、やけに豪華にもてなしてるな、くらいにしか思っていなかったようだ。まったく、物を考えられないのもここまでくると恐怖すら覚える。
トリトニアへの窓口としての役割も担っているラクシフォリア家の婚姻は他の伯爵家とはわけが違う。
私の婚約には政治的な策略がかなり絡んでいたように思う。
兄が私とイアンとの婚約に口を出せなかったのは、国同士の友好関係維持のためでもあったのだ。
「母上の母国だ。悪いようにするつもりはないよ」
兄の言葉に、私はついほっと息を吐く。
「心配していたんだね。両国との交流をメインにしていきたいとは前から話していたからね。あのバカ王子を担ぎ上げていた派閥が邪魔をしていたが、これでやりやすくなるさ」
兄はそこまで言うと、慈愛に満ちた目を細め、私を見た。
「かわいいシャル。私はシャルのために出来ることは何でもしたいと思っているよ」
久しぶりに聞いた言葉だ。
兄の顔はいつもよりも清々しいものに見える。その顔を見てレイと私は顔を見合わせた。
兄の後悔が見えなくなった。そう思って私が笑う。レイも安堵の混じった顔で笑っていた。
和やかな雰囲気の中、書類や手紙の処理作業を進めていると、レイが、ん? と小さく呟いて手を止めた。
「デイヴィット、シャーロット」
「なんだい?」
「シャーロットに招待状が来ている」
レイが私たちに見せるように持っている手紙の封蝋をみて私は固まる。
「どうせ、噂好きのマダムが根掘り葉掘り聞きたいがためのお茶会だろう?」
「……それなら聞く前に断りの返事を書いている」
まだ自分の作業を続けながら話をしていた兄がやっと顔をあげて同じように固まった。
「王太后陛下から、お茶会の招待だ」
381
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?
22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる