腕の噛み傷うなじの噛み傷

Kyrie

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第2話 腕の噛み傷

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僕は高校に通っている。
先週から進級して3年生になった。
もうすぐ18歳になるし、受験も控えている。
でもバニスタウンの大学は入るのは簡単だから高校3年生になっても、みんなあっけらかんと明るい。
ただし大学を卒業するには、相当頑張らないと難しい。
今日は久々に塾もバイトもないので、学校帰りに買い物をしようと繁華街へ続く道を僕は歩いていた。



ふとどこからか鼻につく香りがした。
それは強烈だったけど嫌なものではなかった。
以前どこかでかいだような不思議と懐かしく、甘く、そして切なくなる香りだった。
急に心臓がことことと鳴り始めた。
思わず左胸を押さえた。
なんだろう、この感じ。

僕は気になってくんくんと鼻を動かし、その不思議な香りを頼りに歩き回った。
すぐにその香りの元はわかった。
ビルとビルの間の狭い隙間に人が倒れていた。
見覚えのある高校の制服を着た男子だ。
彼から香りがする。

そう自覚した途端、身体に甘い衝撃が走った。
内側から湧き出て突き上げてくる荒々しいものに思わず主導権を明け渡し、本能のままに行動しそうになった。

まずい!
僕はとっさに自分の腕に噛みついた。
それでも僕は衝動に駆られそうになる。
ジャケットやシャツの袖をまくり上げ、腕の肌が露わになったところをもう一度、歯に力を込め、もっと深く噛む。

落ち着けっ。

ぐぐっと顎に力を籠める。
内側の衝動が暴れる。

落ち着け、自分っ!

衝動はそんなことでは落ち着くはずもなく、僕の制止を振りほどき、尾骶骨から内側を通って股間のほうへ獰猛に欲を吐き出させようとする。

僕はオメガとしてどんなことを思って生きてきた?

ぐいっと勃ちあがるのを感じながら、それでも僕は腕を噛み続ける。

こういう恐怖にずっとさらされて生きてきたんだろう?
いくら注意しても奪われていく自由に怯えながら生きてきたんだろう?
アルファを恐れ、自分の思うような生き方をいつ奪われるかとびくびくしながら生きてきたんだろうっ!

ぎりぎりと音がしそうなほど歯に力を籠める。

僕は他の誰も傷つけたくない。
僕には、その恐ろしさと絶望がわかるだろう?

この人を傷つけたくないっ。
わかるだろっ、自分っ!

やがて血の味がし始め、そこでようやく第一陣の衝動がなんとか治まった。




しかし、それもそう長くは持たないと思う。
僕はまず彼のそばに近づいた。
一層強くなる香りにくらくらしながら、彼を抱き起そうとする。
と言っても、向こうのほうが体格がよくてうつ伏せなのを横に転がして、顔を見るくらいだったけど。
そこで僕は「あっ」と声を上げた。

いつだったか、病院ですれ違ったあの美しい力強い人だったからだ。
そしてアルファの僕のこの反応、もしかしたらこの人はオメガで、突然発情期が来てしまい失神したのかもしれない。
発情期が始まったばかりの頃は身体も心も不安定になり、コントロールが効かず気を失うことがある、と習っていた。
そしてこういうときに、そのままアルファに犯されてしまう事件があることも。
だから初めての発情期が近づいた年頃のオメガは、より一層注意深くなるんだ。

僕は慌てて首のプロテクターを外し、その人の首につけた。
それはアルファの僕にはもう必要のないものだった。
しかし、長年身に着けていたせいか外してしまうと心もとなくなってしまうので、いまだにネックプロテクターをつけていた。
この人のほうが首は太いけれど、アジャスターが効いてしっかり留まった。

せめて、望まない番関係だけは防がなくちゃ。
他のアルファに噛まれることだって考えられる。


そして、今でも持ち歩いている発情期抑制剤と避妊薬を飲ませる。
緊急性が高いときに服用することも考えて、水なしで飲めるようになっているけれど、ひどく時間がかかってしまった。
というのも、僕が彼の香りにやられて何度も袖をまくり上げ、両腕のどこかを噛まなければならなかったからだ。
こんなに香りに当てられたのは、初めてだった。
それでも僕がまだ未熟で不安定なアルファだったから、この程度の衝動で済んだのかもしれない。
僕は何度もこみ上げる衝動に駆られ、幾つもの噛み傷を自分の腕に残した。

薬を飲ませたあと、僕は這うようにして彼から少し離れ、ゼン先生にスマホから電話した。
そのあとはゼン先生が手配しれくれた救急車が彼を収容し、ゼン先生の指示で僕も酸素マスクのようなものを装着し、一緒に乗り込んだ。

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