2 / 16
第2話 腕の噛み傷
しおりを挟む
僕は高校に通っている。
先週から進級して3年生になった。
もうすぐ18歳になるし、受験も控えている。
でもバニスタウンの大学は入るのは簡単だから高校3年生になっても、みんなあっけらかんと明るい。
ただし大学を卒業するには、相当頑張らないと難しい。
今日は久々に塾もバイトもないので、学校帰りに買い物をしようと繁華街へ続く道を僕は歩いていた。
ふとどこからか鼻につく香りがした。
それは強烈だったけど嫌なものではなかった。
以前どこかでかいだような不思議と懐かしく、甘く、そして切なくなる香りだった。
急に心臓がことことと鳴り始めた。
思わず左胸を押さえた。
なんだろう、この感じ。
僕は気になってくんくんと鼻を動かし、その不思議な香りを頼りに歩き回った。
すぐにその香りの元はわかった。
ビルとビルの間の狭い隙間に人が倒れていた。
見覚えのある高校の制服を着た男子だ。
彼から香りがする。
そう自覚した途端、身体に甘い衝撃が走った。
内側から湧き出て突き上げてくる荒々しいものに思わず主導権を明け渡し、本能のままに行動しそうになった。
まずい!
僕はとっさに自分の腕に噛みついた。
それでも僕は衝動に駆られそうになる。
ジャケットやシャツの袖をまくり上げ、腕の肌が露わになったところをもう一度、歯に力を込め、もっと深く噛む。
落ち着けっ。
ぐぐっと顎に力を籠める。
内側の衝動が暴れる。
落ち着け、自分っ!
衝動はそんなことでは落ち着くはずもなく、僕の制止を振りほどき、尾骶骨から内側を通って股間のほうへ獰猛に欲を吐き出させようとする。
僕はオメガとしてどんなことを思って生きてきた?
ぐいっと勃ちあがるのを感じながら、それでも僕は腕を噛み続ける。
こういう恐怖にずっとさらされて生きてきたんだろう?
いくら注意しても奪われていく自由に怯えながら生きてきたんだろう?
アルファを恐れ、自分の思うような生き方をいつ奪われるかとびくびくしながら生きてきたんだろうっ!
ぎりぎりと音がしそうなほど歯に力を籠める。
僕は他の誰も傷つけたくない。
僕には、その恐ろしさと絶望がわかるだろう?
この人を傷つけたくないっ。
わかるだろっ、自分っ!
やがて血の味がし始め、そこでようやく第一陣の衝動がなんとか治まった。
しかし、それもそう長くは持たないと思う。
僕はまず彼のそばに近づいた。
一層強くなる香りにくらくらしながら、彼を抱き起そうとする。
と言っても、向こうのほうが体格がよくてうつ伏せなのを横に転がして、顔を見るくらいだったけど。
そこで僕は「あっ」と声を上げた。
いつだったか、病院ですれ違ったあの美しい力強い人だったからだ。
そしてアルファの僕のこの反応、もしかしたらこの人はオメガで、突然発情期が来てしまい失神したのかもしれない。
発情期が始まったばかりの頃は身体も心も不安定になり、コントロールが効かず気を失うことがある、と習っていた。
そしてこういうときに、そのままアルファに犯されてしまう事件があることも。
だから初めての発情期が近づいた年頃のオメガは、より一層注意深くなるんだ。
僕は慌てて首のプロテクターを外し、その人の首につけた。
それはアルファの僕にはもう必要のないものだった。
しかし、長年身に着けていたせいか外してしまうと心もとなくなってしまうので、いまだにネックプロテクターをつけていた。
この人のほうが首は太いけれど、アジャスターが効いてしっかり留まった。
せめて、望まない番関係だけは防がなくちゃ。
他のアルファに噛まれることだって考えられる。
そして、今でも持ち歩いている発情期抑制剤と避妊薬を飲ませる。
緊急性が高いときに服用することも考えて、水なしで飲めるようになっているけれど、ひどく時間がかかってしまった。
というのも、僕が彼の香りにやられて何度も袖をまくり上げ、両腕のどこかを噛まなければならなかったからだ。
こんなに香りに当てられたのは、初めてだった。
それでも僕がまだ未熟で不安定なアルファだったから、この程度の衝動で済んだのかもしれない。
僕は何度もこみ上げる衝動に駆られ、幾つもの噛み傷を自分の腕に残した。
薬を飲ませたあと、僕は這うようにして彼から少し離れ、ゼン先生にスマホから電話した。
そのあとはゼン先生が手配しれくれた救急車が彼を収容し、ゼン先生の指示で僕も酸素マスクのようなものを装着し、一緒に乗り込んだ。
先週から進級して3年生になった。
もうすぐ18歳になるし、受験も控えている。
でもバニスタウンの大学は入るのは簡単だから高校3年生になっても、みんなあっけらかんと明るい。
ただし大学を卒業するには、相当頑張らないと難しい。
今日は久々に塾もバイトもないので、学校帰りに買い物をしようと繁華街へ続く道を僕は歩いていた。
ふとどこからか鼻につく香りがした。
それは強烈だったけど嫌なものではなかった。
以前どこかでかいだような不思議と懐かしく、甘く、そして切なくなる香りだった。
急に心臓がことことと鳴り始めた。
思わず左胸を押さえた。
なんだろう、この感じ。
僕は気になってくんくんと鼻を動かし、その不思議な香りを頼りに歩き回った。
すぐにその香りの元はわかった。
ビルとビルの間の狭い隙間に人が倒れていた。
見覚えのある高校の制服を着た男子だ。
彼から香りがする。
そう自覚した途端、身体に甘い衝撃が走った。
内側から湧き出て突き上げてくる荒々しいものに思わず主導権を明け渡し、本能のままに行動しそうになった。
まずい!
僕はとっさに自分の腕に噛みついた。
それでも僕は衝動に駆られそうになる。
ジャケットやシャツの袖をまくり上げ、腕の肌が露わになったところをもう一度、歯に力を込め、もっと深く噛む。
落ち着けっ。
ぐぐっと顎に力を籠める。
内側の衝動が暴れる。
落ち着け、自分っ!
衝動はそんなことでは落ち着くはずもなく、僕の制止を振りほどき、尾骶骨から内側を通って股間のほうへ獰猛に欲を吐き出させようとする。
僕はオメガとしてどんなことを思って生きてきた?
ぐいっと勃ちあがるのを感じながら、それでも僕は腕を噛み続ける。
こういう恐怖にずっとさらされて生きてきたんだろう?
いくら注意しても奪われていく自由に怯えながら生きてきたんだろう?
アルファを恐れ、自分の思うような生き方をいつ奪われるかとびくびくしながら生きてきたんだろうっ!
ぎりぎりと音がしそうなほど歯に力を籠める。
僕は他の誰も傷つけたくない。
僕には、その恐ろしさと絶望がわかるだろう?
この人を傷つけたくないっ。
わかるだろっ、自分っ!
やがて血の味がし始め、そこでようやく第一陣の衝動がなんとか治まった。
しかし、それもそう長くは持たないと思う。
僕はまず彼のそばに近づいた。
一層強くなる香りにくらくらしながら、彼を抱き起そうとする。
と言っても、向こうのほうが体格がよくてうつ伏せなのを横に転がして、顔を見るくらいだったけど。
そこで僕は「あっ」と声を上げた。
いつだったか、病院ですれ違ったあの美しい力強い人だったからだ。
そしてアルファの僕のこの反応、もしかしたらこの人はオメガで、突然発情期が来てしまい失神したのかもしれない。
発情期が始まったばかりの頃は身体も心も不安定になり、コントロールが効かず気を失うことがある、と習っていた。
そしてこういうときに、そのままアルファに犯されてしまう事件があることも。
だから初めての発情期が近づいた年頃のオメガは、より一層注意深くなるんだ。
僕は慌てて首のプロテクターを外し、その人の首につけた。
それはアルファの僕にはもう必要のないものだった。
しかし、長年身に着けていたせいか外してしまうと心もとなくなってしまうので、いまだにネックプロテクターをつけていた。
この人のほうが首は太いけれど、アジャスターが効いてしっかり留まった。
せめて、望まない番関係だけは防がなくちゃ。
他のアルファに噛まれることだって考えられる。
そして、今でも持ち歩いている発情期抑制剤と避妊薬を飲ませる。
緊急性が高いときに服用することも考えて、水なしで飲めるようになっているけれど、ひどく時間がかかってしまった。
というのも、僕が彼の香りにやられて何度も袖をまくり上げ、両腕のどこかを噛まなければならなかったからだ。
こんなに香りに当てられたのは、初めてだった。
それでも僕がまだ未熟で不安定なアルファだったから、この程度の衝動で済んだのかもしれない。
僕は何度もこみ上げる衝動に駆られ、幾つもの噛み傷を自分の腕に残した。
薬を飲ませたあと、僕は這うようにして彼から少し離れ、ゼン先生にスマホから電話した。
そのあとはゼン先生が手配しれくれた救急車が彼を収容し、ゼン先生の指示で僕も酸素マスクのようなものを装着し、一緒に乗り込んだ。
2
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる