腕の噛み傷うなじの噛み傷

Kyrie

文字の大きさ
15 / 16

第15話 番外編 ジンの巣づくり(1)

しおりを挟む
僕とジンは高校卒業後、大学に入学する前の休み中に婚姻の手続きをし、それをきっかけにそれぞれの家を出て、二人暮らしを始めた。
ジンはアルファ・カップルの夫婦の子どもらしく、家事を全くやったことがなかった。
家ではハウスキーパーの専門の人が雇われている、とジンは言っていた。

僕は平凡な家庭に生まれ、親の手伝いを普通にやっていたので、一通りのことはできた。
なので、二人での生活が始まった頃は、主に僕が家事をやっていた。

ジンは目の前で家事をこなしていく僕を見て、「家事はこんなに大変なのか」と驚き、「ユウヤだけに負担をかけてはいけない」と、家事を覚えると言い出した。

まず、ジンが取り組んだのは料理だった。
僕が作った料理をジンが美味しそうに食べるのを僕がにこにこして見ていたのが始まりだった。
あまりに嬉しそうな顔をしていたのか、

「そんなに嬉しいのか?」

と聞いてきた。

「そうだよ。
ジンと結婚して、大好きなジンが僕が作った料理を美味しいって食べてくれるのは、嬉しいよ」

僕は、素直に答えた。

「そんなに嬉しいものなのか。
なら、俺も作る」


ジンにとっては何もかも初めてだった。
ネットに上がっている動画を見ながら、包丁の使い方を知り、レシピを探した。
僕が大学から帰ってくるのが遅くなったとき、先に帰ったジンが料理に挑戦していた。
が、キッチンには焦げ臭いにおいが充満し、ジンが悔しそうに床にぺたりと座り込んでいた。
かける言葉もない。

よく見ると、タブレットには「初めての料理!包丁いらずのレシピ100」というサイトが開かれていて、料理名は「目玉焼き」だった。

卵の殻が8つ、焦げついフライパン、白身と黄身で汚れた作業台、出番がなかったと思われる塩と胡椒のミル。

「ジン、目玉焼きを作りたかったんだね」

ジンは力なくうなずく。

僕たちはジンの発情期《ヒート》を2回経験していた。
身体を重ねるたびに、ジンはどんどんかわいくなっていく。
気の毒なくらい落ち込んでいるジンに対し、僕は自分のために慣れない料理をしようとするその行為に愛しさがこみ上げてくる。

「僕が手伝うから一緒に作ろう」

僕はパックに残った最後の二つの卵を取り出して言った。




最初はそんな感じだったけど、「レシピ通りにやってもいいことと、臨機応変にしなければならないことがある」、とわかり、「強火で10分」と書いてあっても適度な焼き目がついたら火を切ることを覚えた。

負けず嫌いのジンの初めての料理は「目玉焼き」だった。
何度も練習してようやく納得のいくものができるようになったらしい。
目玉焼きを食べるのに、こんなにプレッシャーをかけられたことはなかったけど、挽きたての岩塩と胡椒がかかった卵をつつき、とろりと流れ出す黄身を白身ですくって食べ、「おいしい」と言うと、ジンは泣きださんばかりに表情を崩した。

「ほ」

「ほ?」

僕はジンがなにを言い出すのかと思い、緊張する。

「本当に、美味しそうに食べてもらえるのって嬉しいな」

と、すっごくかわいいことを言ったので、僕は立ち上がりジンを抱きしめ顔中にキスをした。



しばらくすると、計量カップやスプーンとにらめっこしながら、ジンは少しずつレパートリーを増やしていった。
そして、料理の最大のライバルは僕なんだって。
理由は、「ユウヤのように計量カップやスプーンを使わずに料理が作れるようになること」。
僕は目分量で料理をするので、それがすっごくカッコよく見えるらしい。
そうかな。

ジンは形から入る人で、料理のときには必ず黒いエプロンをする。
それが彼の黒い短い髪に映え、ぐっと男っぽくなる。
骨っぽい大きな手で、不慣れな感じで包丁や鍋を操るのは、ときどきひどくセクシーだ。
それに深い色の瞳は真剣で、見ているこちらがどきどきする。

なのに、「昆布は水から、かつお節は湯から。昆布は水から、かつお節は湯から」と出汁の取り方をぶつぶつと口の中で何回も繰り返しながら失敗のないようにしている姿は、すっごくかわいくて仕方ない。

あんまりにも僕がにやにやしているせいか、料理中のジンを近くで見ることを禁止されてしまった。

「照れるから、あっち行ってろ」

ぷいと背けたジンの顔が真っ赤になっているのも、かわいくてたまらない。
でもそこは言わずに、僕は素直にそれに従う。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

処理中です...