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第15話 番外編 ジンの巣づくり(1)
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僕とジンは高校卒業後、大学に入学する前の休み中に婚姻の手続きをし、それをきっかけにそれぞれの家を出て、二人暮らしを始めた。
ジンはアルファ・カップルの夫婦の子どもらしく、家事を全くやったことがなかった。
家ではハウスキーパーの専門の人が雇われている、とジンは言っていた。
僕は平凡な家庭に生まれ、親の手伝いを普通にやっていたので、一通りのことはできた。
なので、二人での生活が始まった頃は、主に僕が家事をやっていた。
ジンは目の前で家事をこなしていく僕を見て、「家事はこんなに大変なのか」と驚き、「ユウヤだけに負担をかけてはいけない」と、家事を覚えると言い出した。
まず、ジンが取り組んだのは料理だった。
僕が作った料理をジンが美味しそうに食べるのを僕がにこにこして見ていたのが始まりだった。
あまりに嬉しそうな顔をしていたのか、
「そんなに嬉しいのか?」
と聞いてきた。
「そうだよ。
ジンと結婚して、大好きなジンが僕が作った料理を美味しいって食べてくれるのは、嬉しいよ」
僕は、素直に答えた。
「そんなに嬉しいものなのか。
なら、俺も作る」
ジンにとっては何もかも初めてだった。
ネットに上がっている動画を見ながら、包丁の使い方を知り、レシピを探した。
僕が大学から帰ってくるのが遅くなったとき、先に帰ったジンが料理に挑戦していた。
が、キッチンには焦げ臭いにおいが充満し、ジンが悔しそうに床にぺたりと座り込んでいた。
かける言葉もない。
よく見ると、タブレットには「初めての料理!包丁いらずのレシピ100」というサイトが開かれていて、料理名は「目玉焼き」だった。
卵の殻が8つ、焦げついフライパン、白身と黄身で汚れた作業台、出番がなかったと思われる塩と胡椒のミル。
「ジン、目玉焼きを作りたかったんだね」
ジンは力なくうなずく。
僕たちはジンの発情期《ヒート》を2回経験していた。
身体を重ねるたびに、ジンはどんどんかわいくなっていく。
気の毒なくらい落ち込んでいるジンに対し、僕は自分のために慣れない料理をしようとするその行為に愛しさがこみ上げてくる。
「僕が手伝うから一緒に作ろう」
僕はパックに残った最後の二つの卵を取り出して言った。
最初はそんな感じだったけど、「レシピ通りにやってもいいことと、臨機応変にしなければならないことがある」、とわかり、「強火で10分」と書いてあっても適度な焼き目がついたら火を切ることを覚えた。
負けず嫌いのジンの初めての料理は「目玉焼き」だった。
何度も練習してようやく納得のいくものができるようになったらしい。
目玉焼きを食べるのに、こんなにプレッシャーをかけられたことはなかったけど、挽きたての岩塩と胡椒がかかった卵をつつき、とろりと流れ出す黄身を白身ですくって食べ、「おいしい」と言うと、ジンは泣きださんばかりに表情を崩した。
「ほ」
「ほ?」
僕はジンがなにを言い出すのかと思い、緊張する。
「本当に、美味しそうに食べてもらえるのって嬉しいな」
と、すっごくかわいいことを言ったので、僕は立ち上がりジンを抱きしめ顔中にキスをした。
しばらくすると、計量カップやスプーンとにらめっこしながら、ジンは少しずつレパートリーを増やしていった。
そして、料理の最大のライバルは僕なんだって。
理由は、「ユウヤのように計量カップやスプーンを使わずに料理が作れるようになること」。
僕は目分量で料理をするので、それがすっごくカッコよく見えるらしい。
そうかな。
ジンは形から入る人で、料理のときには必ず黒いエプロンをする。
それが彼の黒い短い髪に映え、ぐっと男っぽくなる。
骨っぽい大きな手で、不慣れな感じで包丁や鍋を操るのは、ときどきひどくセクシーだ。
それに深い色の瞳は真剣で、見ているこちらがどきどきする。
なのに、「昆布は水から、かつお節は湯から。昆布は水から、かつお節は湯から」と出汁の取り方をぶつぶつと口の中で何回も繰り返しながら失敗のないようにしている姿は、すっごくかわいくて仕方ない。
あんまりにも僕がにやにやしているせいか、料理中のジンを近くで見ることを禁止されてしまった。
「照れるから、あっち行ってろ」
ぷいと背けたジンの顔が真っ赤になっているのも、かわいくてたまらない。
でもそこは言わずに、僕は素直にそれに従う。
ジンはアルファ・カップルの夫婦の子どもらしく、家事を全くやったことがなかった。
家ではハウスキーパーの専門の人が雇われている、とジンは言っていた。
僕は平凡な家庭に生まれ、親の手伝いを普通にやっていたので、一通りのことはできた。
なので、二人での生活が始まった頃は、主に僕が家事をやっていた。
ジンは目の前で家事をこなしていく僕を見て、「家事はこんなに大変なのか」と驚き、「ユウヤだけに負担をかけてはいけない」と、家事を覚えると言い出した。
まず、ジンが取り組んだのは料理だった。
僕が作った料理をジンが美味しそうに食べるのを僕がにこにこして見ていたのが始まりだった。
あまりに嬉しそうな顔をしていたのか、
「そんなに嬉しいのか?」
と聞いてきた。
「そうだよ。
ジンと結婚して、大好きなジンが僕が作った料理を美味しいって食べてくれるのは、嬉しいよ」
僕は、素直に答えた。
「そんなに嬉しいものなのか。
なら、俺も作る」
ジンにとっては何もかも初めてだった。
ネットに上がっている動画を見ながら、包丁の使い方を知り、レシピを探した。
僕が大学から帰ってくるのが遅くなったとき、先に帰ったジンが料理に挑戦していた。
が、キッチンには焦げ臭いにおいが充満し、ジンが悔しそうに床にぺたりと座り込んでいた。
かける言葉もない。
よく見ると、タブレットには「初めての料理!包丁いらずのレシピ100」というサイトが開かれていて、料理名は「目玉焼き」だった。
卵の殻が8つ、焦げついフライパン、白身と黄身で汚れた作業台、出番がなかったと思われる塩と胡椒のミル。
「ジン、目玉焼きを作りたかったんだね」
ジンは力なくうなずく。
僕たちはジンの発情期《ヒート》を2回経験していた。
身体を重ねるたびに、ジンはどんどんかわいくなっていく。
気の毒なくらい落ち込んでいるジンに対し、僕は自分のために慣れない料理をしようとするその行為に愛しさがこみ上げてくる。
「僕が手伝うから一緒に作ろう」
僕はパックに残った最後の二つの卵を取り出して言った。
最初はそんな感じだったけど、「レシピ通りにやってもいいことと、臨機応変にしなければならないことがある」、とわかり、「強火で10分」と書いてあっても適度な焼き目がついたら火を切ることを覚えた。
負けず嫌いのジンの初めての料理は「目玉焼き」だった。
何度も練習してようやく納得のいくものができるようになったらしい。
目玉焼きを食べるのに、こんなにプレッシャーをかけられたことはなかったけど、挽きたての岩塩と胡椒がかかった卵をつつき、とろりと流れ出す黄身を白身ですくって食べ、「おいしい」と言うと、ジンは泣きださんばかりに表情を崩した。
「ほ」
「ほ?」
僕はジンがなにを言い出すのかと思い、緊張する。
「本当に、美味しそうに食べてもらえるのって嬉しいな」
と、すっごくかわいいことを言ったので、僕は立ち上がりジンを抱きしめ顔中にキスをした。
しばらくすると、計量カップやスプーンとにらめっこしながら、ジンは少しずつレパートリーを増やしていった。
そして、料理の最大のライバルは僕なんだって。
理由は、「ユウヤのように計量カップやスプーンを使わずに料理が作れるようになること」。
僕は目分量で料理をするので、それがすっごくカッコよく見えるらしい。
そうかな。
ジンは形から入る人で、料理のときには必ず黒いエプロンをする。
それが彼の黒い短い髪に映え、ぐっと男っぽくなる。
骨っぽい大きな手で、不慣れな感じで包丁や鍋を操るのは、ときどきひどくセクシーだ。
それに深い色の瞳は真剣で、見ているこちらがどきどきする。
なのに、「昆布は水から、かつお節は湯から。昆布は水から、かつお節は湯から」と出汁の取り方をぶつぶつと口の中で何回も繰り返しながら失敗のないようにしている姿は、すっごくかわいくて仕方ない。
あんまりにも僕がにやにやしているせいか、料理中のジンを近くで見ることを禁止されてしまった。
「照れるから、あっち行ってろ」
ぷいと背けたジンの顔が真っ赤になっているのも、かわいくてたまらない。
でもそこは言わずに、僕は素直にそれに従う。
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