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本編
04. ここに置いてください - リノ
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甘い、カモミールの香りで目が覚めた。
ん?
俺、まだ飯の支度してな…
「うわあああああああああああっ!!」
がばっと起き上がり、寝室から出る。
「おはようございます、旦那様」
そこには「スラークの赤熊」と呼ばれた騎士のジュリアス様がパンの載った皿を持って立っていた。
「朝食の用意ができたら、起こしにいくつもりでした。
顔を洗ってきてください」
「……はい」
頭がついていかない。
俺は外の水がめから水をすくい、顔を洗ってまた小屋の中に入った。
そうか、俺、ジュリアス様と結婚したんだった。
テーブルにはカモミールティーとパン、それからチーズの欠片が準備されていた。
「ありがとうございます」
ジュリアス様にうながされ、俺は椅子に座ると食べ始めた。
はぁ…、騎士様にご飯作らせちゃったよ。
早起きするつもりだったのに。
それも昨日まで忙しくてろくな食べ物がなかった。
「お口に合いませんか?」
一緒に朝食を食べているジュリアス様が口を開いた。
「あ、いや。そんな」
お口に合うも合わないも、パンとチーズは皿にのっけただけだし。
料理の腕がどうこういうもんじゃないだろ。
「あとで、食べるものを買ってきますね。
ジュリアス様も一緒にいかがで…」
そこまで言って、俺は止めてしまった。
外に出るということは、ジュリアス様はまた足枷をはめ、おもりを引きずって歩かなくちゃならない。
「…やっぱり俺ひとりで行ってきます」
「よろしくお願いします」
ジュリアス様は静かに言った。
食べ終わるともう一杯、カモミールティーを淹れてもらった。
それを飲みながら、ジュリアス様に話しかけてみる。
「昨日はよく耐えてくださいました。
ありがとうございます」
ジュリアス様は俺を注意深く見ている。
そりゃそうだ。
俺のこと、何も知らないもんね。
疑われても仕方ない。
「あのっ、俺、今すぐは難しいですが、いつか必ずジュリアス様をお国に帰して差し上げますから」
ジュリアス様は唇に人差し指を当て、「しっ」と言った。
「滅多なことをおっしゃらないでください。
王の兵が私を監視しているはずですよ」
「…すみません」
「足枷のことは心配なさらないでください。
足を切断されたり健を切られるより、ましです」
俺ははっと息を飲む。
逃げたり反乱分子にならないように、身体を傷つけられた捕虜を何人も見たことがあった。
「それに、もし私が逃げたらどうなるのか、なにかお聞きになっているんでしょう?」
足枷の鍵を渡されたとき、王様の使者からきつく言われていた。
もし、俺がジュリアス様を逃がそうとしたり、あるいはジュリアス様が無理に逃げだしたら、俺の生命はもちろんザクア伯爵様をはじめとするここにいる人たちの生命の保証はない、と。
「でも…」
俺はそれでも諦めきれなくて、何か言いたかった。
ジュリアス様は厳しい目をしておっしゃった。
「私の国は滅びました。
それにもし私の国があったとしても、一度捕虜になってしまっては受け入れてもらえるところはありません」
そうだ。
北の大国スラークは誇り高い民だ。
辱めを受けるくらいなら、自害をするくらいに。
これまで牢で自害したスラークの兵の噂を何度も聞いたことがある。
「旦那様はどうして私にそんなによくしてくださるのですか?」
「え?」
「まだお若いのに、私のようないかつい、それも年が随分上で男と結婚させられて、よろしいのですか?」
いや、それは俺の想定外でしたけど…
かわいい女の子や素敵なおねいさんを嫁にする想像もしたことがあるけど…
それでも。
「俺、騎士様に生命を助けられました。
本当に有り難くて、お礼のしようもありません。
俺にとって、騎士様は絶対なんです」
「中にはそう立派でない騎士もいますよ。
私のことをそんなに信用していいんですか?」
ジュリアス様はちょっと意地悪くおっしゃったけど。
なーんだ、そんなこと。
「はい、大丈夫です。
もしジュリアス様が本気になったら、いくら足枷があっても昨日のうちに俺は殺されて逃げ出していると思います。
でも、ジュリアス様はそうされませんでした。
それに、ジュリアス様がそうしたいならそれでもいいかな。
こんなふうに繋がれている騎士様を見るのはつらいです」
足におもりをつけられ、女の服を着せられ、下手くそな化粧をさせられ、おまけに俺の妻として生きるジュリアス様をできれば見たくない。
俺の生命でなんとかなるなら、差し出してもいい。
自分を助けてくれた騎士様に返せなかったお礼の代わりをここで返せるのなら、それでもいい。
「旦那様」
ジュリアス様が穏やかに口を開いた。
「私は行くところがありません。
せっかく娶ってもらったのですから、このままここに置いてください」
え?
俺は呆けたようにジュリアス様を見た。
ジュリアス様は静かにうなづいた。
ええええええっ???
「は、はい!
もちろんですとも。
いいんですか、本当に?
こんなむさくるしいところで申し訳ないのですが、ジュリアス様がよければいつまでもっ!」
「それではよろしくお願いします」
「はい!
こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします」
俺はジュリアス様に深々と頭を下げた。
街に食べ物を買いにいくことにした。
俺が支度を終え、小屋を出ようとすると、ジュリアス様は足枷をはめるように言った。
「ジュリアス様が外に出なかったら問題ありませんよ」
「いつ、王の兵がやってくるかわかりません。
そのときにはめていなくて脱走を疑われては、困りますから。
どうぞ、気にせずはめてください」
ジュリアス様は真顔で言った。
さっきの口調だとジュリアス様がいなくなったら俺たちがどうなるか、多分、わかっていらっしゃるんだ。
だって騎士様だもん。
捕虜になにをするのか、俺よりもよく知っているはずだ。
俺は仕方なく、包帯を厚めに巻いて、直接肌に金属が触れないようにして足枷をはめた。
「本当にすみません…」
悲しくなってしまって、謝った。
ジュリアス様は首を振った。
「お時間を取らせました。
お気をつけていってらっしゃい」
こうして、俺は街へ買い物をしに出かけた。
ん?
俺、まだ飯の支度してな…
「うわあああああああああああっ!!」
がばっと起き上がり、寝室から出る。
「おはようございます、旦那様」
そこには「スラークの赤熊」と呼ばれた騎士のジュリアス様がパンの載った皿を持って立っていた。
「朝食の用意ができたら、起こしにいくつもりでした。
顔を洗ってきてください」
「……はい」
頭がついていかない。
俺は外の水がめから水をすくい、顔を洗ってまた小屋の中に入った。
そうか、俺、ジュリアス様と結婚したんだった。
テーブルにはカモミールティーとパン、それからチーズの欠片が準備されていた。
「ありがとうございます」
ジュリアス様にうながされ、俺は椅子に座ると食べ始めた。
はぁ…、騎士様にご飯作らせちゃったよ。
早起きするつもりだったのに。
それも昨日まで忙しくてろくな食べ物がなかった。
「お口に合いませんか?」
一緒に朝食を食べているジュリアス様が口を開いた。
「あ、いや。そんな」
お口に合うも合わないも、パンとチーズは皿にのっけただけだし。
料理の腕がどうこういうもんじゃないだろ。
「あとで、食べるものを買ってきますね。
ジュリアス様も一緒にいかがで…」
そこまで言って、俺は止めてしまった。
外に出るということは、ジュリアス様はまた足枷をはめ、おもりを引きずって歩かなくちゃならない。
「…やっぱり俺ひとりで行ってきます」
「よろしくお願いします」
ジュリアス様は静かに言った。
食べ終わるともう一杯、カモミールティーを淹れてもらった。
それを飲みながら、ジュリアス様に話しかけてみる。
「昨日はよく耐えてくださいました。
ありがとうございます」
ジュリアス様は俺を注意深く見ている。
そりゃそうだ。
俺のこと、何も知らないもんね。
疑われても仕方ない。
「あのっ、俺、今すぐは難しいですが、いつか必ずジュリアス様をお国に帰して差し上げますから」
ジュリアス様は唇に人差し指を当て、「しっ」と言った。
「滅多なことをおっしゃらないでください。
王の兵が私を監視しているはずですよ」
「…すみません」
「足枷のことは心配なさらないでください。
足を切断されたり健を切られるより、ましです」
俺ははっと息を飲む。
逃げたり反乱分子にならないように、身体を傷つけられた捕虜を何人も見たことがあった。
「それに、もし私が逃げたらどうなるのか、なにかお聞きになっているんでしょう?」
足枷の鍵を渡されたとき、王様の使者からきつく言われていた。
もし、俺がジュリアス様を逃がそうとしたり、あるいはジュリアス様が無理に逃げだしたら、俺の生命はもちろんザクア伯爵様をはじめとするここにいる人たちの生命の保証はない、と。
「でも…」
俺はそれでも諦めきれなくて、何か言いたかった。
ジュリアス様は厳しい目をしておっしゃった。
「私の国は滅びました。
それにもし私の国があったとしても、一度捕虜になってしまっては受け入れてもらえるところはありません」
そうだ。
北の大国スラークは誇り高い民だ。
辱めを受けるくらいなら、自害をするくらいに。
これまで牢で自害したスラークの兵の噂を何度も聞いたことがある。
「旦那様はどうして私にそんなによくしてくださるのですか?」
「え?」
「まだお若いのに、私のようないかつい、それも年が随分上で男と結婚させられて、よろしいのですか?」
いや、それは俺の想定外でしたけど…
かわいい女の子や素敵なおねいさんを嫁にする想像もしたことがあるけど…
それでも。
「俺、騎士様に生命を助けられました。
本当に有り難くて、お礼のしようもありません。
俺にとって、騎士様は絶対なんです」
「中にはそう立派でない騎士もいますよ。
私のことをそんなに信用していいんですか?」
ジュリアス様はちょっと意地悪くおっしゃったけど。
なーんだ、そんなこと。
「はい、大丈夫です。
もしジュリアス様が本気になったら、いくら足枷があっても昨日のうちに俺は殺されて逃げ出していると思います。
でも、ジュリアス様はそうされませんでした。
それに、ジュリアス様がそうしたいならそれでもいいかな。
こんなふうに繋がれている騎士様を見るのはつらいです」
足におもりをつけられ、女の服を着せられ、下手くそな化粧をさせられ、おまけに俺の妻として生きるジュリアス様をできれば見たくない。
俺の生命でなんとかなるなら、差し出してもいい。
自分を助けてくれた騎士様に返せなかったお礼の代わりをここで返せるのなら、それでもいい。
「旦那様」
ジュリアス様が穏やかに口を開いた。
「私は行くところがありません。
せっかく娶ってもらったのですから、このままここに置いてください」
え?
俺は呆けたようにジュリアス様を見た。
ジュリアス様は静かにうなづいた。
ええええええっ???
「は、はい!
もちろんですとも。
いいんですか、本当に?
こんなむさくるしいところで申し訳ないのですが、ジュリアス様がよければいつまでもっ!」
「それではよろしくお願いします」
「はい!
こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします」
俺はジュリアス様に深々と頭を下げた。
街に食べ物を買いにいくことにした。
俺が支度を終え、小屋を出ようとすると、ジュリアス様は足枷をはめるように言った。
「ジュリアス様が外に出なかったら問題ありませんよ」
「いつ、王の兵がやってくるかわかりません。
そのときにはめていなくて脱走を疑われては、困りますから。
どうぞ、気にせずはめてください」
ジュリアス様は真顔で言った。
さっきの口調だとジュリアス様がいなくなったら俺たちがどうなるか、多分、わかっていらっしゃるんだ。
だって騎士様だもん。
捕虜になにをするのか、俺よりもよく知っているはずだ。
俺は仕方なく、包帯を厚めに巻いて、直接肌に金属が触れないようにして足枷をはめた。
「本当にすみません…」
悲しくなってしまって、謝った。
ジュリアス様は首を振った。
「お時間を取らせました。
お気をつけていってらっしゃい」
こうして、俺は街へ買い物をしに出かけた。
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