騎士が花嫁

Kyrie

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本編

27. 仮面の薔薇

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窓の全てはラバグルトに閉めさせたはずなのに、ひんやりした夜風を感じてインティアは目が覚めた。
どこが開いているのか確かめるために、インティアはベッドから下りた。
バルコニーに続く大きな窓が開けられ、カーテンが風に揺れていた。
注意深くインティアはそこに近づき、そして気づいた。

薄い月光の中でも豊かに輝く金の髪。

「クラディ…っ?」

名前をすべて呼びきらないうちにたくましい腕に引き寄せられ、乱暴に唇を塞がれた。
熱い舌がねじ込まれ、口内を犯される。
インティアは身体をひねり、懸命に抗う。
相手は面白くなさそうにインティアの手首をつかんだまま、仕方なく唇を離した。

「僕を抱くの、クラディウス?
僕は高いよ」

「高級男娼だからか?
その高級男娼に誰がした?」

「黒百合と名高いクラディウス様だったかな?」

「俺の後見と保護でおまえは高級男娼になった。
仕事は楽になっただろう?
客は選べるし、無体を強いる輩はいなくなった」

「はん?客が選べる?
あなたがほしい情報を閨で手に入れるために、どんな男にも僕を差し出すくせに」

「おまえも楽しめただろ?
甘い声で啼いてやれば、可愛がってもらって小遣いももらえるし」

「仕事だからね。
でも、仕事じゃなかったら僕は抱かれはしない。
離せよ、クラディウス」

「俺も生憎、おまえの客のひとりになりにきたんじゃない。
これまで客としておまえを抱いたことはないだろ。
それとも俺の恋人として抱かれたいのか?」

「まさか」

「俺を鎮めろ、インティア。
おまえのその身体で俺を慰めろ」

「なにばかなこと言ってんの。
明日、ジュリアスを伴って外に出るんでしょ。
僕を慰みものにしないで」

「うるさいな。もう黙れ」

クラディウスはインティアの唇を塞ぎ、そのままその細い身体を抱え込み、ベッドへ押し倒した。
薄い絹の寝衣がまくり上げられ、よく手入れされているインティアの身体をクラディウスの繊細な指がはい回った。



客でもない。
恋人でもない。
ではパトロン?
それとも、昂る感情と身体の熱を吐き出すだけの人形?

僕はどういう仮面をつけて、あなたに抱かれればいい?

仮面のない「ただのインティア」を抱けるのはこの世でただ一人、僕が愛した人だけだよ。

僕はあなたを愛してないし、あなたも僕を愛してないでしょう、クラディウス。

こんな抱かれかたはいやだ、クラディウス…



クラディウスは慣れたようにインティアの身体を拓いていく。
甘い薔薇の香りが広がる。

僕のこと、愛するつもりもないんでしょう、クラディウス…

なにも見たくなくなって、インティアは涙の溜まった目を閉じた。
頬を伝う涙に触れることなく、クラディウスはどうやっても鎮まることのない心身をインティアにぶつける。
疲れ切って何も考えられなくなるまで、穿つ。

色を失った薔薇の声。
嫌味にしかならない甘い香り。
ズタズタの心。
役に立たない仮面。

闇の中に響く、聞こえない悲鳴。






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