26 / 61
本編
26. あなたの帰る場所 - リノ
しおりを挟む
甲冑を脱いだジュリさんが部屋に戻り、インティアとロバート様が帰っていった。
ジュリさんと俺は、なんだか口数が少なかった。
何を言っていいのか、俺はわからなかった。
2人ともいつものように食事をし、今日あったことを少し話した。
いつもは弾む会話も大人しかった。
そして少し早いけれど、寝ることにした。
明日、ジュリさんは朝早くにここを発つから。
「ジュリさん、少しだけ、俺、ジュリさんのベッドに行ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
ジュリさんは前もしてくれたように自分の右を空けてくれたので、俺はそこに潜り込んだ。
俺がベッドに上がりきったことを確認すると、ジュリさんが静かにランプの明かりを落とした。
「ジュリさん、ジュリさん」
俺はごそごそと上のほうに上がっていった。
「旦那様?」
「ちょっと下に下がって」
ぐっ、重っ!
俺はジュリさんの首の下に自分の腕を通し、自分の胸にジュリさんの頭を抱え込んだ。
「な?」
「俺が腕枕をします!」
俺はジュリさんがいつも俺にしてくれるように、そっと髪に指を埋め梳いた。
「随分伸びましたね」
「そうですね。メリニャに来て1度も切っていません。
似合いませんか?」
「いいえ!似合っていますよ、ジュリさん。
最近、どんどんカッコよくなっています!」
今は暗闇で見えないはずなのに、ジュリさんの精悍な顔が見えた気がした。
その顔を俺は今、抱きしめてる。
そう思うと照れてしまう。
伸びた髪に指を絡める。
「腕枕、してもらうのは気持ちいいですね」
「そうですか?よかった!
ジュリさんが行く前に1度したかったんです。
いつもしてもらってばかりだし。
ジュリさんが帰ってくるところはここですよ」
「え」
「覚えておいてください。
ジュリさんは俺の妻です。
帰ってくるのは、ここです」
俺はジュリさんの髪に口づけた。
「夫らしいことは何もできませんでした。
王様のハチャメチャな命令で結婚してしまいましたけど、俺、ジュリさんと一緒にいられて幸せでした。
まだまだ一緒にいたいです。
だからここに帰ってきてください。
また俺と過ごしてください。
あの、もしジュリさんが嫌じゃなかったら…」
き、緊張する。
これは俺にとってプロポーズ。
ロバート様のプロポーズの話を聞いてとても羨ましかった。
きっかけは王様のひどい命令だったけど、俺はどんどんジュリさんを好きになっていった。
ジュリさんを自由にしてあげたい。
これは最初からずっと願っていた。
今回、クラディウス様のお陰もあってジュリさんは自由になる。
王様の命令もなにも聞かなくてよくなって、俺はジュリさんが望むなら、離縁して、本当にジュリさんを自由にしてあげようと思っていた。
けれど、いつからだろう。
俺はジュリさんを離したくない、と思うようになっていた。
ジュリさんともっと一緒にいたい。
王様に命令をされたからじゃない。
俺は、自分の意志でジュリさんと結婚したくなった。
それをジュリさんにも知ってほしくなった。
できればジュリさんも同じように思ってほしくなった。
俺、随分我儘になったんだなぁ。
ロバート様はプロポーズのとき、綺麗な花と甘いお菓子を用意したって。
今、俺はなに一つない。
あるのは俺、だけ。
俺、また稼げるようになったら緑の髪紐と北の火酒を用意するから、それまで待ってて。
…あれ、ジュリさん…???
ジュリさんは何も言わない。
あれ?
ダメだった?
「ちょ、ジュリさん?
そんな黙らないでください。
俺、ヘンなこと言っちゃったかな。
気分を害されました?
すみません、俺、考えなしだったかなぁ。
もう自分のベッドに戻りますね…
あうっ…??!!」
俺はすっかり痺れてしまった腕をジュリさんの首の下から引き抜いて、ジュリさんのベッドから出ようとした。
が、ぐっと腰を抱き寄せられ、ジュリさんが俺の胸に顔を埋めた。
俺はジュリさんの頭を覆うようにそっと抱きしめて、髪にキスをした。
「リノ…」
ジュリさんが掠れた声で俺の名前を呼んだ。
「はい、なんですか、ジュリさん」
「俺は1度帰るところを失くしました。
スラークはもうない。
スラークの騎士は捕虜になった時点で国に戻ることを恥とする。
そんな俺にリノは、俺が望めばいつまでもリノの家にいてもいいと言ってくれました」
そういえば、そんなこと言ったなぁ。
「行くところがないからこのまま置いてほしい」って言われて。
あのときはただ、この結婚は仮初で、ジュリさんの安全がこんなばかげたことで守れるのなら、俺はジュリさんの夫でいようと決めたんだ。
「そしてまた、リノは俺に帰る場所を与えてくれた。
家ではなく、あなたのところに。
それも未来に続く時間まで」
あ、改めて聞くと…ちょっと恥ずかしいです、ジュリさん。
「まるでプロポーズですね」
「まるで、じゃありません。
プロポーズです!
俺と結婚してください。
俺とずっと一緒にいてください。
今は何もないけど、ちゃんとプレゼントも用意しますから!」
俺、真剣ですよ!
さっさと怪我を完治させて、しっかり働いてプレゼント買って、もう1回プロポーズするから!
…あれ?
「ねぇ、ジュリさん。
返事は?
俺じゃだめ?
頼りない?
俺、まだまだこれからだと思うんですよ!
17歳だから伸びしろはたっぷりあると思うし!
ねぇ、何か言って」
ん?
「ジュリさん、もしかして泣いてる?」
「…泣いてません」
うそつき。
俺はあやすように、ジュリさんの髪をなでる。
「帰ってきますよ、リノ」
うん。
「今日見せた鎧の内側の、丁度俺の心臓の辺りにリノの名前を刻んでもらいました。
いつもあなたの傍にいます。
そして、帰ってきます、あなたのところに。
それからずっと一緒にいましょう」
「じゃあ、俺のプロポーズ、受けてくれますか?」
「はい」
「やったあああああああ!
ジュリアス!ジュリアス!
キスしていい?
キスさせて!」
俺たちは心を込めて誓いのようなキスをした。
俺、待ってるから!
ジュリさんの居場所を守って待っているから!
ジュリさんと俺は、なんだか口数が少なかった。
何を言っていいのか、俺はわからなかった。
2人ともいつものように食事をし、今日あったことを少し話した。
いつもは弾む会話も大人しかった。
そして少し早いけれど、寝ることにした。
明日、ジュリさんは朝早くにここを発つから。
「ジュリさん、少しだけ、俺、ジュリさんのベッドに行ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
ジュリさんは前もしてくれたように自分の右を空けてくれたので、俺はそこに潜り込んだ。
俺がベッドに上がりきったことを確認すると、ジュリさんが静かにランプの明かりを落とした。
「ジュリさん、ジュリさん」
俺はごそごそと上のほうに上がっていった。
「旦那様?」
「ちょっと下に下がって」
ぐっ、重っ!
俺はジュリさんの首の下に自分の腕を通し、自分の胸にジュリさんの頭を抱え込んだ。
「な?」
「俺が腕枕をします!」
俺はジュリさんがいつも俺にしてくれるように、そっと髪に指を埋め梳いた。
「随分伸びましたね」
「そうですね。メリニャに来て1度も切っていません。
似合いませんか?」
「いいえ!似合っていますよ、ジュリさん。
最近、どんどんカッコよくなっています!」
今は暗闇で見えないはずなのに、ジュリさんの精悍な顔が見えた気がした。
その顔を俺は今、抱きしめてる。
そう思うと照れてしまう。
伸びた髪に指を絡める。
「腕枕、してもらうのは気持ちいいですね」
「そうですか?よかった!
ジュリさんが行く前に1度したかったんです。
いつもしてもらってばかりだし。
ジュリさんが帰ってくるところはここですよ」
「え」
「覚えておいてください。
ジュリさんは俺の妻です。
帰ってくるのは、ここです」
俺はジュリさんの髪に口づけた。
「夫らしいことは何もできませんでした。
王様のハチャメチャな命令で結婚してしまいましたけど、俺、ジュリさんと一緒にいられて幸せでした。
まだまだ一緒にいたいです。
だからここに帰ってきてください。
また俺と過ごしてください。
あの、もしジュリさんが嫌じゃなかったら…」
き、緊張する。
これは俺にとってプロポーズ。
ロバート様のプロポーズの話を聞いてとても羨ましかった。
きっかけは王様のひどい命令だったけど、俺はどんどんジュリさんを好きになっていった。
ジュリさんを自由にしてあげたい。
これは最初からずっと願っていた。
今回、クラディウス様のお陰もあってジュリさんは自由になる。
王様の命令もなにも聞かなくてよくなって、俺はジュリさんが望むなら、離縁して、本当にジュリさんを自由にしてあげようと思っていた。
けれど、いつからだろう。
俺はジュリさんを離したくない、と思うようになっていた。
ジュリさんともっと一緒にいたい。
王様に命令をされたからじゃない。
俺は、自分の意志でジュリさんと結婚したくなった。
それをジュリさんにも知ってほしくなった。
できればジュリさんも同じように思ってほしくなった。
俺、随分我儘になったんだなぁ。
ロバート様はプロポーズのとき、綺麗な花と甘いお菓子を用意したって。
今、俺はなに一つない。
あるのは俺、だけ。
俺、また稼げるようになったら緑の髪紐と北の火酒を用意するから、それまで待ってて。
…あれ、ジュリさん…???
ジュリさんは何も言わない。
あれ?
ダメだった?
「ちょ、ジュリさん?
そんな黙らないでください。
俺、ヘンなこと言っちゃったかな。
気分を害されました?
すみません、俺、考えなしだったかなぁ。
もう自分のベッドに戻りますね…
あうっ…??!!」
俺はすっかり痺れてしまった腕をジュリさんの首の下から引き抜いて、ジュリさんのベッドから出ようとした。
が、ぐっと腰を抱き寄せられ、ジュリさんが俺の胸に顔を埋めた。
俺はジュリさんの頭を覆うようにそっと抱きしめて、髪にキスをした。
「リノ…」
ジュリさんが掠れた声で俺の名前を呼んだ。
「はい、なんですか、ジュリさん」
「俺は1度帰るところを失くしました。
スラークはもうない。
スラークの騎士は捕虜になった時点で国に戻ることを恥とする。
そんな俺にリノは、俺が望めばいつまでもリノの家にいてもいいと言ってくれました」
そういえば、そんなこと言ったなぁ。
「行くところがないからこのまま置いてほしい」って言われて。
あのときはただ、この結婚は仮初で、ジュリさんの安全がこんなばかげたことで守れるのなら、俺はジュリさんの夫でいようと決めたんだ。
「そしてまた、リノは俺に帰る場所を与えてくれた。
家ではなく、あなたのところに。
それも未来に続く時間まで」
あ、改めて聞くと…ちょっと恥ずかしいです、ジュリさん。
「まるでプロポーズですね」
「まるで、じゃありません。
プロポーズです!
俺と結婚してください。
俺とずっと一緒にいてください。
今は何もないけど、ちゃんとプレゼントも用意しますから!」
俺、真剣ですよ!
さっさと怪我を完治させて、しっかり働いてプレゼント買って、もう1回プロポーズするから!
…あれ?
「ねぇ、ジュリさん。
返事は?
俺じゃだめ?
頼りない?
俺、まだまだこれからだと思うんですよ!
17歳だから伸びしろはたっぷりあると思うし!
ねぇ、何か言って」
ん?
「ジュリさん、もしかして泣いてる?」
「…泣いてません」
うそつき。
俺はあやすように、ジュリさんの髪をなでる。
「帰ってきますよ、リノ」
うん。
「今日見せた鎧の内側の、丁度俺の心臓の辺りにリノの名前を刻んでもらいました。
いつもあなたの傍にいます。
そして、帰ってきます、あなたのところに。
それからずっと一緒にいましょう」
「じゃあ、俺のプロポーズ、受けてくれますか?」
「はい」
「やったあああああああ!
ジュリアス!ジュリアス!
キスしていい?
キスさせて!」
俺たちは心を込めて誓いのようなキスをした。
俺、待ってるから!
ジュリさんの居場所を守って待っているから!
25
あなたにおすすめの小説
厄介な相手に好かれてしまった。
みゆきんぐぅ
BL
西暦2xxx年。
性の多様化の観点から同性でも子供を授かることができる様になり、結婚の自由が当然になった世界。
主人公の湯島健(ゆしまたける)21歳(大学3年)の元恋人も友達の延長で男性がだった。
そんな健のバイト先のカフェの常連客に大財閥の御曹司である、梁山修司(はりやましゅうじ)32歳がいた。
健が働く日は1日2回は必ず来店する。
自分には笑顔で接してくれる梁山に慕われているのはわかっていた。
健は恋人がいる事を仄めかしていたのだが、梁山はとんでもない行動にでた。
父と息子、婿と花嫁
ななな
BL
花嫁になって欲しい、父親になって欲しい 。すれ違う二人の思い ーー ヤンデレおじさん × 大学生
大学生の俺は、両親が残した借金苦から風俗店で働いていた。そんな俺に熱を上げる、一人の中年男。
どう足掻いてもおじさんに囚われちゃう、可愛い男の子の話。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
黒に染まる
曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。
その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。
事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。
不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。
※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる