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番外編 騎士が花嫁こぼれ話
42. 薔薇に滴 (2)
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白い薔薇を抱き上げた騎士が屋敷の廊下を無言で歩く。
響く靴音。
それは余裕なく速くなる。
薔薇は落ちないように必死に騎士にしがみつきながら、この腕の中に戻ってこれたことへの嬉しさと安心感に浸っていた。
自分の部屋にたどり着いた途端、クラディウスはインティアを閉めたばかりのドアに押しつけて乱暴にキスをした。
息ができないほどの熱さに翻弄されながらも、インティアは夢中で百合の紋章の入った騎士の制服にしがみつき、舌を絡めていった。
唇を離すと、二人とも荒い息をしながら見つめた。
「…よく…帰ってきた」
掠れた声で囁かれると、インティアは思わず涙を流した。
「ごめ…んなさ…」
クラディウスが力を込めて折れそうなほどにほっそりとしたインティアの身体を抱きしめた。
「ここに戻ってきたということは、インティアの意思だと考えていいか?」
「うん…自分で決めて戻ってきた」
「もう黙ってどこかに行くな」
インティアはクラディウスの肩口で泣きながら何度もうなづくだけだった。
クラディウスも目を閉じ、腕の中にいるのが本当に失踪した薔薇なのか確かめていた。
「心配かけてごめんなさい…
僕、どうしたらいいのかわからなくなって、ここにいられないと思って、どうにかなりそうで、出てしまった…」
インティアが少し話し始めると、クラディウスは彼を抱き上げ、そのままベッドまで行き腰を下ろした。
抱きしめられたまま、クラディウスの膝に上に座ることになってしまい恥ずかしかったが、ここから離れたくなかったのでインティアはそのままおとなしくしていた。
クラディウスはインティアの顔を覗き込みながら尋ねた。
「居づらかったか?」
「クラディウスが出かけてしまうと、僕は何もすることがない。
一日ずっとここにいて、あなたの帰りを待つだけだ。
それがつらかった」
「おまえには傍にいてほしい。
笑っていてほしい。
と望んでいたが、そうか…三日もすれば退屈だな」
クラディウスは初めて気づいたように溜息をついた。
「自由そうで、実は籠の中だったわけか」
言葉を切って、クラディウスはインティアの髪をなでた。
インティアは切なくなってクラディウスの胸に顔を埋めた。
もっと怖いことがあるよ。
あなたに惹かれて止まらなくなること。
僕が僕でいられなくなること。
「不自由のない生活をさせていると思っていたのに、違ったか。
すまなかったな」
「ううん、僕もごめんなさい。
あの、心配かけて…」
間近で見たクラディウスの顔は、凛々しさは変わっていないがインティアと同じくらい目の下に隈を作り、目元は腫れ、豊かな金の髪は艶を失い乱れていて、やつれていた。
こんなに余裕のないクラディウスをインティアは初めて見たかもしれない。
「インティア、ここから出たいか?」
クラディウスが苦しく重い声で言った。
インティアはクラディウスを見た。
切なそうな青い瞳がインティアを見ていた。
ここから出る?
大好きなクラディウスを置いて?
そんなの考えられない…!
ここに、いたい。
「いやだ、出ていかない」
「俺がおまえを縛りつけ、それで苦しいのなら俺はそれがつらいと思う」
「なにそれ。
クラディウスらしくない」
いつも自分の思うように人を動かし、欲しいものは全部手に入れてきた男の言葉ではなかった。
「それくらい切羽詰まっているんだ、インティア。
今朝、おまえがいなくなったと知って、俺がどんなふうになったのか。
もうなりふりなんて構っていられないと思い知らされた」
実際にクラディウスは館中を探させながら最低限の身支度をし、思い当たる場所を当たってみようと出かけたが、今日は仕事があることを思い出し、王宮に上がる支度をし直しに館に戻った。
それでも遅刻ぎりぎりまで行ける範囲のところには出向き、インティアを探した。
こんなに自分の思うところを話すクラディウスも初めてだった。
いつもはお互いに素直に話さず、何も解決しないまま、もやもやしたものを抱えその場から離れていたのに。
「クラディウス…」
「こんな情けない男だが、まだここにいてくれるか?
俺のそばにいてくれるか?」
あのプライドが高く、いつでも人を食っているように傲慢で若く美しい騎士がこんなに余裕をなくし、自分を求めているのにインティアは驚いた。
そしてインティアはクラディウスの首に腕を回して抱きしめ、耳元で言った。
「僕はいかない。
ここにいる。
クラディウスの傍にいる…」
「ああ…」と声にならない声を上げ、クラディウスがインティアの身体を抱いた。
「おまえ、痩せたな」
「あなたこそ」
「もっと食べろ。
そして笑え。
俺の傍にいろ」
「ん、離れない。
ここにいる。
そのために僕は帰ってきた」
自分の言葉で言い切ったことで、インティアの迷いが薄れた。
自分の意思でここに戻り、自分の意思でクラディウスの傍にいる。
こみ上げてくるどうしようもない思いを抱え、二人は切ないほど甘い口づけをした。
「ならば印をつける」
インティアが首を傾げていると、クラディウスは器用にインティアを腕に抱いたまま、傍のチェストの引き出しからビロード張りの小箱を取り出した。
箱を受け取ったインティアはクラディウスを見た。
クラディウスがうなずいたので、蓋をそっと開いてみた。
中には青い小さな薔薇とその花に落ちる小さな滴が入っていた。
よく見ると、薔薇と滴の二組のピアスだった。
金とクラディウスの瞳と同じ色のサファイアで出来ており、繊細で華奢な細工がされていた。
「きれい…
これは?」
「いつまでも薔薇が枯れないように、私をおまえの滴でいさせてほしい」
インティアは両手を口で覆った。
それは以前、ジュリアスがリノにしたのと同じ誓いの言葉のように聞こえたからだ。
あまりのことに言葉を失い、黙っているインティアに焦れてクラディウスが言った。
「ダクと言え、インティア」
インティアは涙ぐみながら笑った。
「やっぱり強引だ」
「笑っていろ」
「ふふふ」
涙も笑いも止まらないインティアの頭を両手で包み、クラディウスは額同士をくっつけた。
「答えは?」
「ダク」
インティアがはにかみながら答えると、クラディウスも笑った。
そしてお互いに震える指でピアスをつけあった。
インティアの両耳に青い薔薇が咲き、クラディウスの両耳に青い滴がこぼれた。
また顔を見合わせた。
インティアは幸せそうに頬を染め微笑んだ。
それを見てクラディウスは満足そうに笑った。
「ありがとう、クラディウス」
クラディウスの腕の中でインティアは小さく礼を言った。
「受けてくれてありがとう、インティア。
よく似合っている」
まさかのクラディウスの言葉にインティアは驚いてばかりだ。
そして、温かい体温を感じながらようやくクラディウスの元に戻ってきたことを実感した。
よかった、僕は戻ってこれた。
インティアはクラディウスの太腿をまたいでベッドの上で膝立ちになり、クラディウスの首に抱きついていた。
「好き…」
それは、ぽろりと出た言葉だった。
言おうと思っていなかった。
いつか言えそうな時に言うつもりだった。
しかし、自然にこぼれ出た言葉だった。
インティアの言葉にクラディウスの腕に力がこもった。
拒否されていないことがわかるとインティアは嬉しくなった。
「好き…大好き…」
「初めて、言ったな」
「好き…好き…」
一度言ってしまうと、あとは止めようがなかった。
インティアはうなされたように言い続けた。
それをクラディウスの唇が塞いでいく。
甘やかなキスに頭がぽうっとなりながらも、インティアはちょっとでも唇が離れると「好き」を繰り返し言った。
「俺も好きだ、インティア…」
「ぁぁ…」
小さく熱い吐息がインティアの口からこぼれた。
リノ、ほんとだね。
言ってあげたらクラディウスは喜んでいる。
僕も、受け留めてもらって嬉しい。
君の言ったとおり、幸せ…
耳に揃いの印をつけ、もうクラディウスから離れないと思った。
そうすると、インティアも貪欲になってきた。
もっと欲しい…
「ね、クラディウス、抱いて…」
それまで髪をなでながら甘い口づけをしていたクラディウスの動きが止まった。
もっと傍にいきたい。
もっとあなたを感じたい。
もっとあなたが欲しい。
もっとあなたを取り込んで、離したくない…
「抱いて…」
消えそうな声でインティアはねだった。
がっとインティアの薄い肩をクラディウスが掴んだ。
そして、青い射るような目でインティアを見た。
「いいのか?
俺がおまえを抱くぞ。
客でもない。
後見人でもない。
このクラディウスがただのインティアを抱くぞ。
いいか?」
これこそ、インティアが長年求めていたことだった。
客でもなく。
パトロンでもなく。
男娼を抱くのでもなく。
インティアが愛したただの男に、肩書もなにもないただのインティアが抱かれること。
インティアの涙は後から後から溢れ、止まることがなかった。
「それが…いい…
だから、抱いて、クラディウス…
ただのインティアを抱いて…
僕がどんなに泣いても止めないで…」
インティアが懇願するように言うと、クラディウスはインティアをベッドに柔らかに押し倒し、自分もベッドの上に上がってきた。
そして涙でぐちゃぐちゃのインティアの顔にキスの雨を降らせ、それから唇にキスをした。
「クラディウス…」
「ディーと呼べ」
「ディー?」
「幼い頃、そう呼ばれていた記憶がある。
今では誰もそう呼ばない。
インティアにはそう呼んでほしい。
いいか?」
インティアは遠慮がちに呼んでみた。
「ディー」
クラディウスが嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「久しぶりに愛称で呼ばれるのもいいものだな」
そして少しの間、クラディウスは何かを考えていたが、やがて口を開いた。
「おまえは、ティア、かな?
どうだ?」
「ティア?」
「そう、ティア。
最近涙ばかり流しているからいいんじゃないか?」
「だって誰かさんが泣かすんだもん」
「ティア」
初めて愛称で呼ばれ、慣れずにくすぐったかったが、クラディウスが近くなった気がしてインティアも嬉しそうに微笑みながらクラディウスを見た。
「どうだ、気に入ったか?」
「ん、ディー」
「ティア…」
クラディウスが熱い息と共に愛称を呼び、そして丁寧に全身にキスをしながら、インティアの服を脱がしていった。
インティアも久しぶりのことに緊張でもたつきながらも、クラディウスの服のボタンを震える細い指で外していく。
前のボタンが全部外れると、クラディウスが自ら腕を抜きシャツを落とした。
綺麗に引き締まった身体が現れた。
実に8か月ぶりである。
それまでも数回しか抱かれたことがなかったのと、そのときも大概は一方的に乱暴に扱われていたので、インティアにとってはほぼ初めてゆっくりとクラディウスの身体に触れた。
「熱い…」
意外にもクラディウスの身体には無数の刀傷があった。
中にはざっくりとひどい切られ方をして、皮膚が引きつっているところがある。
インティアの細い指がクラディウスの皮膚の上を滑る。
無傷なところも傷があるところも引きつっているところも。
「怖くはないか?」
「どうして?
全てディーなのに。
ただディーがこんなに傷だらけだったなんて知らなかった」
「ゆっくりと俺を見る暇がないくらいひどい抱き方をしていたからな」
「ディー…」
「今夜は優しくする」
その言葉の通り、どれだけ激しく求められるのかと思っていたが、クラディウスはあくまでも礼儀正しく柔らかにインティアに触れた。
「…ぁ……んんぅ…」
インティアから喘ぎ声がこぼれ出した。
クラディウスの熱い手はインティアの官能を引き出す。
白い肌はあっという間に薄いピンクに色づき、今舐められている乳首は熟れたベリーのように唾液に濡れて光っていた。
それに加えて、
「かわいいよ、ティア」
「もっと見せて」
「その顔、とってもいやらしいね」
と、これまで一度も言われたことのない言葉を次々とクラディウスが囁くので、インティアは恥ずかしさでいっぱいだった。
クラディウスは自分のことば一つ一つにも可愛らしく反応する紅薔薇を腕に抱き、傷つけないように注意しながら身体を拓いていった。
クラディウスが微かに百合の香りのする潤滑油を指に纏わせ、インティアの蕾をノックしたとき、インティアは激しく身をひねった。
それまでは一日数人の男を受け入れてきたが、8か月も誰にも触れさせていなかった。
もちろん自分でも触れてはいない。
クラディウスが留守の間、儚い夢を見ていた。
それはクラディウスが王都警備から戻ってきたあと、もう一度抱かれたい、というものだった。
この館を出るときに、慈悲でも慰みでもいいので、最後にまた求めてほしかった。
あんなに乱暴に抱かれたにも関わらず、操を立て待っている自分に驚き、嘲笑した。
それでもインティアは蕾を硬く閉じ、その機会を待っていた。
だから余計に恐れたのだ。
男娼として客が取れなくなりそうな自分に。
「すんなり入れそうにないな。
自分でいじらなかったのか?」
クラディウスは蕾の周りをくるくるとなぞりながら言った。
「だ…って…」
「おまえが待っていてくれて嬉しいよ、ティア。
しかし、少しずつ俺を受け入れろ、インティア」
クラディウスは少し頭をもたげたインティアの茎をしごきながら、そっと薬指を蕾の中に沈めた。
「あああああっ」
まるで初めて拓かれるかのような反応を見せるインティアに驚きながら、クラディウスは茎に伸ばしていた手で身体をなで、乳首を吸ってやった。
「怖がるようなことはしない。
俺に任せて、ティア。
これは嫌か?
止めてほしいか?」
インティアは声を漏らしながら首を横に振った。
クラディウスは「そうか」と短く言い、再び先走りで濡れつつあるインティアの茎をいじりながら蕾の中の指で細かい振動を作り刺激した。
「あっ…あっ…あっ…」
インティアは快楽の波に飲み込まれていた。
こんなに自我を捨てて、セックスを味わうのは初めてだった。
「もう何も考えるな。
俺だけを感じていろ。
ティアを離しはしない。
安心して俺に溺れていろ」
素直にクラディウスの言葉に従い、最初は恐る恐る感じていたが、今は自分に触れるクラディウスと声だけしか拾えなくなっていた。
これまでは仕事だと思い、どこか冷めたところがった。
それが保てるので男娼としてやっていけるのだとも思っていた。
今は熱いところも冷めたところもない。
全てクラディウスに溶かされている。
とろとろと甘く疼く身体を弓なりにしならせ、いかに自分が感じているかを見せつけるようにクラディウスに痴態を晒す。
クラディウスはそれを愛おしそうに愛撫する。
ほどけた蕾はやっと二本の指を飲み込んでいた。
クラディウスは蕾と自分の指に百合の香りの潤滑油を足し、そして今度は三本に増やした指を沈めた。
「ああああんっ、いやっいやっ」
蕾の内側にある一点をこするとインティアは声を一層高く上げた。
「いやか?」
「や、おかしくなる…っ」
「おかしくなんてならないよ、ティア。
ほら、俺の名前を呼んで」
「…っ……ディー……」
「そうだ、ティア。
イきたければイくといい。
腰も揺れている。
気持ちいいか?」
「う…うん…気持ちいいよぅ……」
「嬉しいものだな」
クラディウスは青い薔薇ごとインティアの耳たぶを口に含み舐め上げながら、中の指も動かした。
次第に強い刺激を受けるところには触れなくなった。
おかしくなりそうな快楽の波からは逃れることができ、インティアはほっとしたが、今度は違う意味で切なくなった。
クラディウスの柔らかな刺激だと物足りなくなってきた。
あっあっ、もうちょっと、違う、そこじゃない…っっ
そのころにはクラディウスがわざとインティアのいいところを外して指を動かしていることがわかった。
「やああああっ、ディー、意地悪しないでっ」
「ん、なに?」
「もう、欲し…
ディーが欲しい…」
「十分ほぐれたかな」
「大丈夫だ…からあ」
甘くねだる紅薔薇の声に、さすがのクラディウスもまともに刺激を喰らった。
「ちっ」と小さく舌打ちをし、乱暴に蕾から指を引き抜く。
「んああああっんっ」
引き抜かれる刺激にインティアがベッドに倒れ込む。
ふわふわとした柔らかな髪がベッドに広がった。
クラディウスはズボンを下着ごと脱ぎ去ると、猛々しい雄に潤滑油を塗り込めた。
そしてインティアの蕾にもまた潤滑油を足し入れた。
足を開かせ、その間に入るとクラディウスはインティアの身体をぎゅっと抱きしめた。
「いいか、入れるぞ」
「…ん」
「ずっと待っていた、この時を。
ティアが俺を受け入れてくれるのを」
そして、激しく口づけた。
その間にもクラディウスの雄はインティアの蕾にこすりつけられた。
もうすぐその時が来る。
クラディウスもインティアも興奮を抑えきれなかった。
唇を離し、お互いに見つめた。
「愛している、インティア」
そうクラディウスが告げると、ぐっとインティアの中に押し入れた。
「うっあああああっ」
インティアは叫んだ。
そして夢中になってクラディウスに抱きついた。
まるで初めて身体を拓かれたような衝撃だった。
クラディウスがまた少し腰を進めた。
「ん、はあぁぁ」
「ティア、ティア…」
「ディー…あっあっ」
雄が中に入ってくるたびにインティアは声を上げた。
それは決して辛そうではなく、痛みは伴うものの幸福感に包まれていた。
「ディーが入って…く…る…
おっきぃ…あん」
「苦しいか」
「あっ、そんなに大きくしたら、あ、やだ…」
「おまえが欲しくて仕方ないんだ」
「来て、ディー。
んっ…くぅ……さ…いごまで入れて」
「優しくしたい」
「もう待てない。
全部来てぇ……」
喘ぎながらインティアが煽るので、クラディウスの我慢はそこまでだった。
「優しくしたい、と言ったの、にっ」
「ああああああ」
クラディウスはぐいぐいと容赦なく腰を進めた。
インティアがまた泣き出すとそれをあやしながらも根元までずっぷりと雄を入れた。
この時を何度、夢見ていたことか…
熱い吐息がクラディウスの口からこぼれ、そして襲ってくる幸福感と快楽に酔った。
「ティア、ティア、ティア」
赤く染まってしまった肩を抱きしめ、インティアの柔らかな髪に口づけをした。
「やっとおまえを手に入れた」
「ディー…」
「動くぞ」
クラディウスに揺さぶられ、穿たれるたびにインティアは嬌声を上げた。
しかしそれは次第に甘くなり、いつしか
「好き…好き…、ディー、好きぃぃ」
としか言えなくなった。
クラディウスもそれに応えるように「好きだ」と繰り返す。
二人ともこんなにも誰かを「好き」と言ったことがなかった。
欲と多幸感とに包まれた。
激しかったクラディウスがまた、どこまでも優しく腰を動かし始めた。
イきそうでイけない。
「いや、いや、いや」
インティアは苦しくて泣き出してしまった。
「やだ、ディー、イかせて。
もっと激しくして」
クラディウスは口の端でにやりと笑うと、身体を入れ替えた。
「え…っ?
あああああっ、ふかっ」
「ほら、これならおまえの好きなように動けるだろう」
ベッドの寝転ぶクラディウスに腰を掴まれ、インティアは下から雄に貫かれている。
自分の体重でぐぐっと雄が奥へと突き刺さっていった。
インティアは涙目で上からクラディウスを睨むが、べっとりと濡れた茎を刺激されるとたまらなくなって自分から腰を動かし始めた。
「あっあっあっ……んんんっ」
「ここがいいのか?」
「うん、いい…」
「気持ちいい?」
「う…ん、気持ちいい…
おかしくなりそう」
「下からも突いてやる」
「はああああっ、それっ、あっ、うっ、やあああっ」
刺激がどんどん強くなる。
射精感が腰の奥の疼きからこみ上げてくる。
「やあっ、もう、イきそうっ」
「いいよ、ティア。
もっと腰を動かしてイって」
「はううぅぅぅぅっ。
や、も、イくっイくぅ…あああああああっ!」
達したインティアは精液をクラディウスの腹に吐き出した。
ぜいぜいと肩で息をし、身体には力が入らなくなった。
クラディウスがそれを支え、また身体を入れ替えると、
「すまない。
もう我慢できない」
と、下になったインティアの両足を自分の肩にかけ、がつがつと深く抽送を始めた。
イったばかりで力が入らず、敏感になっているのに激しく求められ、インティアはまるで嵐に遭っているようだった。
クラディウスはインティアの指に絡めるように手を握り、ベッドの押しつけると快楽に従って腰を動かす。
「ティア、ティア、俺のティア…
やっとおまえを……」
「あっあっあっ」
「おまえの中は熱くて気持ちいいな。
ずっとつながっていたいよ。
やっと一緒になれた…」
朦朧とした意識の中でインティアはクラディウスの声を聞いた。
そして程なくして、クラディウスが吠え、インティアの中で達した。
ぼんやりと辺りが見えるくらいの明るさの中、インティアはひどい喉の渇きに目が覚めた。
水を飲むために身体を起こそうとしたが、力が入らずに驚いた。
そして昨夜の甘く乱れた時間を思い出し、赤面した。
最後、自分が出すものは透明で量も少なかった。
なのに内側はとらえたクラディウスを離すまいとうねりながら纏わり吸いついていた。
まだ自分の中にクラディウスがいるような感覚を持つ。
最後は気を失ったのかもしれない。
記憶がおぼろである。
身体に気持ち悪さを覚えないし、肌に触れるシーツもさらさらしている。
おそらくクラディウスが綺麗にしてくれたのだろう。
インティアはない力を振り絞ってどうにかベッドの上に座った。
蕾に鈍痛が走った。
仕事を始めたばかりの頃を思い出した。
昨日、我を忘れてたんだ…
自分の痴態も思い出しますます顔が火照る。
が、それより水が飲みたい。
動こうとするが、そうはいかなかった。
「水か?」
クラディウスの声がした。
インティアがうなずくと、クラディウスは起き上がり、銀の器にいれた水をインティアの口元まで差し出してくれた。
インティアは夢中になって飲んだ。
冷たく澄んだ水が身体に沁みた。
心ゆくまで水を飲むと、一心地ついた気がした。
「ディー」
インティアが小さく呼ぶと、クラディウスが身体を支えてくれた。
ふと見ると、クラディウスの目は赤く腫れていた。
「どうしたの?
寝てないの?」
「眠れなかったんだ。
目が覚めたら消えそうな気がして。
一晩中おまえを見ていた。
ティア、おまえは綺麗だな」
「なに、突然。
この見た目はすぐにどこかに行っちゃうよ」
インティアは苦く笑った。
年齢より幼く見えるインティアだったが、もうすぐ二十歳を迎える。
「美しい少年」ではいられなくなることは感じていた。
それをどう迎え入れればいいのか、男娼としてどう振舞えばいいのか、悩んでいた。
「外見のことを言っているんじゃない。
おまえは内側が綺麗なんだ」
クラディウスは寝不足の目をしながらも、満足そうにインティアを見つめて言った。
インティアはくすぐったそうに笑った。
「あれ…?」
なにかに気がついたのか、インティアは見える範囲で自分の裸の身体を確認し始めた。
「どうした?」
「痕、つけなかったの?」
リノとジュリアスが初めて結ばれた後、本人は隠しているつもりのようだが、リノの身体一面につけられた無数の赤い痕をインティアは羨ましく思っていた。
ジュリアスが残した強い証。
他の男の気配を残さないように、男娼のインティアは痕をつけることをひどく嫌がった。
もうそんなことを気にしなくてもよくなったので、自分もクラディウスにつけてほしかった。
「こんなに真っさらで綺麗なのに、痕をつけるなんて忍びない」
クラディウスは恭しくインティアの身体をなでたが、インティアはがっかりした声で「そう…」とつぶやくだけだった。
「つけてほしかったのか」
「…うん」
「せっかく真っ白で美しいのに。
心苦しいが、俺の印をつけることにしようか。
ティアは薔薇だけでは物足りなさそうだ」
「いいの?」
「ああ、おまえが望むのなら。
でも一つだけ」
クラディウスは微笑むとインティアの二の腕の内側の柔らかいところに唇を当て、きつく吸い、甘く噛み、ちりりとした痛みとともに赤い痕を残した。
「さあ、もう少し眠るといい。
夜明けまでまだ時間がある」
クラディウスは壊れ物を扱うようにインティアをベッドに横たわらせ、自分もその隣に寝ると小さくキスをして抱き合って眠った。
***
クラディウスとインティアが結ばれるのを待っていたかのように、メリニャ国の創世の伝説が残る「始まりの森」にいる神官から、インティアへ神と民に歌を捧げる歌巫士にならないか、と第三騎士団専属医師のユエを通じて打診があった。
クラディウスが念入りに森や神殿を調べさせ、二人で神官に会いに行き、そしてインティアは歌巫士になることを決めた。
月に数回、森の小さな神殿に歌を納めに行くには徒歩では遠すぎ、馬車を使うには目立ちすぎた。
インティアはクラディウスの勧めもあり、乗馬を覚えることにした。
クラディウスは小柄だが美しくて賢い駿馬をインティアに与えた。
インティアは馬の世話も始めた。
あっという間に美しかった手は荒れ、肌は日に焼けた。
それでもインティアは丁寧に馬の世話をし、乗馬の練習をしながら、歌のレッスンも欠かさなかった。
インティアは美しさを失うとクラディウスが離れてしまうのではないか、と心配をしたが、クラディウスはどんなにインティアの手が荒れ、馬の世話で汚れようとも「綺麗だ」と言い続けた。
インティアは嬉しそうに微笑み、そしてクラディウスの耳の滴を見るのだった。
クラディウスが水を与えてくれるから、僕は枯れはしない。
そっと指を伸ばし、自分の耳の青い薔薇を確認する。
青い薔薇はいつでも滴を受けて艶やかに輝いていた。
響く靴音。
それは余裕なく速くなる。
薔薇は落ちないように必死に騎士にしがみつきながら、この腕の中に戻ってこれたことへの嬉しさと安心感に浸っていた。
自分の部屋にたどり着いた途端、クラディウスはインティアを閉めたばかりのドアに押しつけて乱暴にキスをした。
息ができないほどの熱さに翻弄されながらも、インティアは夢中で百合の紋章の入った騎士の制服にしがみつき、舌を絡めていった。
唇を離すと、二人とも荒い息をしながら見つめた。
「…よく…帰ってきた」
掠れた声で囁かれると、インティアは思わず涙を流した。
「ごめ…んなさ…」
クラディウスが力を込めて折れそうなほどにほっそりとしたインティアの身体を抱きしめた。
「ここに戻ってきたということは、インティアの意思だと考えていいか?」
「うん…自分で決めて戻ってきた」
「もう黙ってどこかに行くな」
インティアはクラディウスの肩口で泣きながら何度もうなづくだけだった。
クラディウスも目を閉じ、腕の中にいるのが本当に失踪した薔薇なのか確かめていた。
「心配かけてごめんなさい…
僕、どうしたらいいのかわからなくなって、ここにいられないと思って、どうにかなりそうで、出てしまった…」
インティアが少し話し始めると、クラディウスは彼を抱き上げ、そのままベッドまで行き腰を下ろした。
抱きしめられたまま、クラディウスの膝に上に座ることになってしまい恥ずかしかったが、ここから離れたくなかったのでインティアはそのままおとなしくしていた。
クラディウスはインティアの顔を覗き込みながら尋ねた。
「居づらかったか?」
「クラディウスが出かけてしまうと、僕は何もすることがない。
一日ずっとここにいて、あなたの帰りを待つだけだ。
それがつらかった」
「おまえには傍にいてほしい。
笑っていてほしい。
と望んでいたが、そうか…三日もすれば退屈だな」
クラディウスは初めて気づいたように溜息をついた。
「自由そうで、実は籠の中だったわけか」
言葉を切って、クラディウスはインティアの髪をなでた。
インティアは切なくなってクラディウスの胸に顔を埋めた。
もっと怖いことがあるよ。
あなたに惹かれて止まらなくなること。
僕が僕でいられなくなること。
「不自由のない生活をさせていると思っていたのに、違ったか。
すまなかったな」
「ううん、僕もごめんなさい。
あの、心配かけて…」
間近で見たクラディウスの顔は、凛々しさは変わっていないがインティアと同じくらい目の下に隈を作り、目元は腫れ、豊かな金の髪は艶を失い乱れていて、やつれていた。
こんなに余裕のないクラディウスをインティアは初めて見たかもしれない。
「インティア、ここから出たいか?」
クラディウスが苦しく重い声で言った。
インティアはクラディウスを見た。
切なそうな青い瞳がインティアを見ていた。
ここから出る?
大好きなクラディウスを置いて?
そんなの考えられない…!
ここに、いたい。
「いやだ、出ていかない」
「俺がおまえを縛りつけ、それで苦しいのなら俺はそれがつらいと思う」
「なにそれ。
クラディウスらしくない」
いつも自分の思うように人を動かし、欲しいものは全部手に入れてきた男の言葉ではなかった。
「それくらい切羽詰まっているんだ、インティア。
今朝、おまえがいなくなったと知って、俺がどんなふうになったのか。
もうなりふりなんて構っていられないと思い知らされた」
実際にクラディウスは館中を探させながら最低限の身支度をし、思い当たる場所を当たってみようと出かけたが、今日は仕事があることを思い出し、王宮に上がる支度をし直しに館に戻った。
それでも遅刻ぎりぎりまで行ける範囲のところには出向き、インティアを探した。
こんなに自分の思うところを話すクラディウスも初めてだった。
いつもはお互いに素直に話さず、何も解決しないまま、もやもやしたものを抱えその場から離れていたのに。
「クラディウス…」
「こんな情けない男だが、まだここにいてくれるか?
俺のそばにいてくれるか?」
あのプライドが高く、いつでも人を食っているように傲慢で若く美しい騎士がこんなに余裕をなくし、自分を求めているのにインティアは驚いた。
そしてインティアはクラディウスの首に腕を回して抱きしめ、耳元で言った。
「僕はいかない。
ここにいる。
クラディウスの傍にいる…」
「ああ…」と声にならない声を上げ、クラディウスがインティアの身体を抱いた。
「おまえ、痩せたな」
「あなたこそ」
「もっと食べろ。
そして笑え。
俺の傍にいろ」
「ん、離れない。
ここにいる。
そのために僕は帰ってきた」
自分の言葉で言い切ったことで、インティアの迷いが薄れた。
自分の意思でここに戻り、自分の意思でクラディウスの傍にいる。
こみ上げてくるどうしようもない思いを抱え、二人は切ないほど甘い口づけをした。
「ならば印をつける」
インティアが首を傾げていると、クラディウスは器用にインティアを腕に抱いたまま、傍のチェストの引き出しからビロード張りの小箱を取り出した。
箱を受け取ったインティアはクラディウスを見た。
クラディウスがうなずいたので、蓋をそっと開いてみた。
中には青い小さな薔薇とその花に落ちる小さな滴が入っていた。
よく見ると、薔薇と滴の二組のピアスだった。
金とクラディウスの瞳と同じ色のサファイアで出来ており、繊細で華奢な細工がされていた。
「きれい…
これは?」
「いつまでも薔薇が枯れないように、私をおまえの滴でいさせてほしい」
インティアは両手を口で覆った。
それは以前、ジュリアスがリノにしたのと同じ誓いの言葉のように聞こえたからだ。
あまりのことに言葉を失い、黙っているインティアに焦れてクラディウスが言った。
「ダクと言え、インティア」
インティアは涙ぐみながら笑った。
「やっぱり強引だ」
「笑っていろ」
「ふふふ」
涙も笑いも止まらないインティアの頭を両手で包み、クラディウスは額同士をくっつけた。
「答えは?」
「ダク」
インティアがはにかみながら答えると、クラディウスも笑った。
そしてお互いに震える指でピアスをつけあった。
インティアの両耳に青い薔薇が咲き、クラディウスの両耳に青い滴がこぼれた。
また顔を見合わせた。
インティアは幸せそうに頬を染め微笑んだ。
それを見てクラディウスは満足そうに笑った。
「ありがとう、クラディウス」
クラディウスの腕の中でインティアは小さく礼を言った。
「受けてくれてありがとう、インティア。
よく似合っている」
まさかのクラディウスの言葉にインティアは驚いてばかりだ。
そして、温かい体温を感じながらようやくクラディウスの元に戻ってきたことを実感した。
よかった、僕は戻ってこれた。
インティアはクラディウスの太腿をまたいでベッドの上で膝立ちになり、クラディウスの首に抱きついていた。
「好き…」
それは、ぽろりと出た言葉だった。
言おうと思っていなかった。
いつか言えそうな時に言うつもりだった。
しかし、自然にこぼれ出た言葉だった。
インティアの言葉にクラディウスの腕に力がこもった。
拒否されていないことがわかるとインティアは嬉しくなった。
「好き…大好き…」
「初めて、言ったな」
「好き…好き…」
一度言ってしまうと、あとは止めようがなかった。
インティアはうなされたように言い続けた。
それをクラディウスの唇が塞いでいく。
甘やかなキスに頭がぽうっとなりながらも、インティアはちょっとでも唇が離れると「好き」を繰り返し言った。
「俺も好きだ、インティア…」
「ぁぁ…」
小さく熱い吐息がインティアの口からこぼれた。
リノ、ほんとだね。
言ってあげたらクラディウスは喜んでいる。
僕も、受け留めてもらって嬉しい。
君の言ったとおり、幸せ…
耳に揃いの印をつけ、もうクラディウスから離れないと思った。
そうすると、インティアも貪欲になってきた。
もっと欲しい…
「ね、クラディウス、抱いて…」
それまで髪をなでながら甘い口づけをしていたクラディウスの動きが止まった。
もっと傍にいきたい。
もっとあなたを感じたい。
もっとあなたが欲しい。
もっとあなたを取り込んで、離したくない…
「抱いて…」
消えそうな声でインティアはねだった。
がっとインティアの薄い肩をクラディウスが掴んだ。
そして、青い射るような目でインティアを見た。
「いいのか?
俺がおまえを抱くぞ。
客でもない。
後見人でもない。
このクラディウスがただのインティアを抱くぞ。
いいか?」
これこそ、インティアが長年求めていたことだった。
客でもなく。
パトロンでもなく。
男娼を抱くのでもなく。
インティアが愛したただの男に、肩書もなにもないただのインティアが抱かれること。
インティアの涙は後から後から溢れ、止まることがなかった。
「それが…いい…
だから、抱いて、クラディウス…
ただのインティアを抱いて…
僕がどんなに泣いても止めないで…」
インティアが懇願するように言うと、クラディウスはインティアをベッドに柔らかに押し倒し、自分もベッドの上に上がってきた。
そして涙でぐちゃぐちゃのインティアの顔にキスの雨を降らせ、それから唇にキスをした。
「クラディウス…」
「ディーと呼べ」
「ディー?」
「幼い頃、そう呼ばれていた記憶がある。
今では誰もそう呼ばない。
インティアにはそう呼んでほしい。
いいか?」
インティアは遠慮がちに呼んでみた。
「ディー」
クラディウスが嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「久しぶりに愛称で呼ばれるのもいいものだな」
そして少しの間、クラディウスは何かを考えていたが、やがて口を開いた。
「おまえは、ティア、かな?
どうだ?」
「ティア?」
「そう、ティア。
最近涙ばかり流しているからいいんじゃないか?」
「だって誰かさんが泣かすんだもん」
「ティア」
初めて愛称で呼ばれ、慣れずにくすぐったかったが、クラディウスが近くなった気がしてインティアも嬉しそうに微笑みながらクラディウスを見た。
「どうだ、気に入ったか?」
「ん、ディー」
「ティア…」
クラディウスが熱い息と共に愛称を呼び、そして丁寧に全身にキスをしながら、インティアの服を脱がしていった。
インティアも久しぶりのことに緊張でもたつきながらも、クラディウスの服のボタンを震える細い指で外していく。
前のボタンが全部外れると、クラディウスが自ら腕を抜きシャツを落とした。
綺麗に引き締まった身体が現れた。
実に8か月ぶりである。
それまでも数回しか抱かれたことがなかったのと、そのときも大概は一方的に乱暴に扱われていたので、インティアにとってはほぼ初めてゆっくりとクラディウスの身体に触れた。
「熱い…」
意外にもクラディウスの身体には無数の刀傷があった。
中にはざっくりとひどい切られ方をして、皮膚が引きつっているところがある。
インティアの細い指がクラディウスの皮膚の上を滑る。
無傷なところも傷があるところも引きつっているところも。
「怖くはないか?」
「どうして?
全てディーなのに。
ただディーがこんなに傷だらけだったなんて知らなかった」
「ゆっくりと俺を見る暇がないくらいひどい抱き方をしていたからな」
「ディー…」
「今夜は優しくする」
その言葉の通り、どれだけ激しく求められるのかと思っていたが、クラディウスはあくまでも礼儀正しく柔らかにインティアに触れた。
「…ぁ……んんぅ…」
インティアから喘ぎ声がこぼれ出した。
クラディウスの熱い手はインティアの官能を引き出す。
白い肌はあっという間に薄いピンクに色づき、今舐められている乳首は熟れたベリーのように唾液に濡れて光っていた。
それに加えて、
「かわいいよ、ティア」
「もっと見せて」
「その顔、とってもいやらしいね」
と、これまで一度も言われたことのない言葉を次々とクラディウスが囁くので、インティアは恥ずかしさでいっぱいだった。
クラディウスは自分のことば一つ一つにも可愛らしく反応する紅薔薇を腕に抱き、傷つけないように注意しながら身体を拓いていった。
クラディウスが微かに百合の香りのする潤滑油を指に纏わせ、インティアの蕾をノックしたとき、インティアは激しく身をひねった。
それまでは一日数人の男を受け入れてきたが、8か月も誰にも触れさせていなかった。
もちろん自分でも触れてはいない。
クラディウスが留守の間、儚い夢を見ていた。
それはクラディウスが王都警備から戻ってきたあと、もう一度抱かれたい、というものだった。
この館を出るときに、慈悲でも慰みでもいいので、最後にまた求めてほしかった。
あんなに乱暴に抱かれたにも関わらず、操を立て待っている自分に驚き、嘲笑した。
それでもインティアは蕾を硬く閉じ、その機会を待っていた。
だから余計に恐れたのだ。
男娼として客が取れなくなりそうな自分に。
「すんなり入れそうにないな。
自分でいじらなかったのか?」
クラディウスは蕾の周りをくるくるとなぞりながら言った。
「だ…って…」
「おまえが待っていてくれて嬉しいよ、ティア。
しかし、少しずつ俺を受け入れろ、インティア」
クラディウスは少し頭をもたげたインティアの茎をしごきながら、そっと薬指を蕾の中に沈めた。
「あああああっ」
まるで初めて拓かれるかのような反応を見せるインティアに驚きながら、クラディウスは茎に伸ばしていた手で身体をなで、乳首を吸ってやった。
「怖がるようなことはしない。
俺に任せて、ティア。
これは嫌か?
止めてほしいか?」
インティアは声を漏らしながら首を横に振った。
クラディウスは「そうか」と短く言い、再び先走りで濡れつつあるインティアの茎をいじりながら蕾の中の指で細かい振動を作り刺激した。
「あっ…あっ…あっ…」
インティアは快楽の波に飲み込まれていた。
こんなに自我を捨てて、セックスを味わうのは初めてだった。
「もう何も考えるな。
俺だけを感じていろ。
ティアを離しはしない。
安心して俺に溺れていろ」
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とろとろと甘く疼く身体を弓なりにしならせ、いかに自分が感じているかを見せつけるようにクラディウスに痴態を晒す。
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「ああああんっ、いやっいやっ」
蕾の内側にある一点をこするとインティアは声を一層高く上げた。
「いやか?」
「や、おかしくなる…っ」
「おかしくなんてならないよ、ティア。
ほら、俺の名前を呼んで」
「…っ……ディー……」
「そうだ、ティア。
イきたければイくといい。
腰も揺れている。
気持ちいいか?」
「う…うん…気持ちいいよぅ……」
「嬉しいものだな」
クラディウスは青い薔薇ごとインティアの耳たぶを口に含み舐め上げながら、中の指も動かした。
次第に強い刺激を受けるところには触れなくなった。
おかしくなりそうな快楽の波からは逃れることができ、インティアはほっとしたが、今度は違う意味で切なくなった。
クラディウスの柔らかな刺激だと物足りなくなってきた。
あっあっ、もうちょっと、違う、そこじゃない…っっ
そのころにはクラディウスがわざとインティアのいいところを外して指を動かしていることがわかった。
「やああああっ、ディー、意地悪しないでっ」
「ん、なに?」
「もう、欲し…
ディーが欲しい…」
「十分ほぐれたかな」
「大丈夫だ…からあ」
甘くねだる紅薔薇の声に、さすがのクラディウスもまともに刺激を喰らった。
「ちっ」と小さく舌打ちをし、乱暴に蕾から指を引き抜く。
「んああああっんっ」
引き抜かれる刺激にインティアがベッドに倒れ込む。
ふわふわとした柔らかな髪がベッドに広がった。
クラディウスはズボンを下着ごと脱ぎ去ると、猛々しい雄に潤滑油を塗り込めた。
そしてインティアの蕾にもまた潤滑油を足し入れた。
足を開かせ、その間に入るとクラディウスはインティアの身体をぎゅっと抱きしめた。
「いいか、入れるぞ」
「…ん」
「ずっと待っていた、この時を。
ティアが俺を受け入れてくれるのを」
そして、激しく口づけた。
その間にもクラディウスの雄はインティアの蕾にこすりつけられた。
もうすぐその時が来る。
クラディウスもインティアも興奮を抑えきれなかった。
唇を離し、お互いに見つめた。
「愛している、インティア」
そうクラディウスが告げると、ぐっとインティアの中に押し入れた。
「うっあああああっ」
インティアは叫んだ。
そして夢中になってクラディウスに抱きついた。
まるで初めて身体を拓かれたような衝撃だった。
クラディウスがまた少し腰を進めた。
「ん、はあぁぁ」
「ティア、ティア…」
「ディー…あっあっ」
雄が中に入ってくるたびにインティアは声を上げた。
それは決して辛そうではなく、痛みは伴うものの幸福感に包まれていた。
「ディーが入って…く…る…
おっきぃ…あん」
「苦しいか」
「あっ、そんなに大きくしたら、あ、やだ…」
「おまえが欲しくて仕方ないんだ」
「来て、ディー。
んっ…くぅ……さ…いごまで入れて」
「優しくしたい」
「もう待てない。
全部来てぇ……」
喘ぎながらインティアが煽るので、クラディウスの我慢はそこまでだった。
「優しくしたい、と言ったの、にっ」
「ああああああ」
クラディウスはぐいぐいと容赦なく腰を進めた。
インティアがまた泣き出すとそれをあやしながらも根元までずっぷりと雄を入れた。
この時を何度、夢見ていたことか…
熱い吐息がクラディウスの口からこぼれ、そして襲ってくる幸福感と快楽に酔った。
「ティア、ティア、ティア」
赤く染まってしまった肩を抱きしめ、インティアの柔らかな髪に口づけをした。
「やっとおまえを手に入れた」
「ディー…」
「動くぞ」
クラディウスに揺さぶられ、穿たれるたびにインティアは嬌声を上げた。
しかしそれは次第に甘くなり、いつしか
「好き…好き…、ディー、好きぃぃ」
としか言えなくなった。
クラディウスもそれに応えるように「好きだ」と繰り返す。
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「いや、いや、いや」
インティアは苦しくて泣き出してしまった。
「やだ、ディー、イかせて。
もっと激しくして」
クラディウスは口の端でにやりと笑うと、身体を入れ替えた。
「え…っ?
あああああっ、ふかっ」
「ほら、これならおまえの好きなように動けるだろう」
ベッドの寝転ぶクラディウスに腰を掴まれ、インティアは下から雄に貫かれている。
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インティアは涙目で上からクラディウスを睨むが、べっとりと濡れた茎を刺激されるとたまらなくなって自分から腰を動かし始めた。
「あっあっあっ……んんんっ」
「ここがいいのか?」
「うん、いい…」
「気持ちいい?」
「う…ん、気持ちいい…
おかしくなりそう」
「下からも突いてやる」
「はああああっ、それっ、あっ、うっ、やあああっ」
刺激がどんどん強くなる。
射精感が腰の奥の疼きからこみ上げてくる。
「やあっ、もう、イきそうっ」
「いいよ、ティア。
もっと腰を動かしてイって」
「はううぅぅぅぅっ。
や、も、イくっイくぅ…あああああああっ!」
達したインティアは精液をクラディウスの腹に吐き出した。
ぜいぜいと肩で息をし、身体には力が入らなくなった。
クラディウスがそれを支え、また身体を入れ替えると、
「すまない。
もう我慢できない」
と、下になったインティアの両足を自分の肩にかけ、がつがつと深く抽送を始めた。
イったばかりで力が入らず、敏感になっているのに激しく求められ、インティアはまるで嵐に遭っているようだった。
クラディウスはインティアの指に絡めるように手を握り、ベッドの押しつけると快楽に従って腰を動かす。
「ティア、ティア、俺のティア…
やっとおまえを……」
「あっあっあっ」
「おまえの中は熱くて気持ちいいな。
ずっとつながっていたいよ。
やっと一緒になれた…」
朦朧とした意識の中でインティアはクラディウスの声を聞いた。
そして程なくして、クラディウスが吠え、インティアの中で達した。
ぼんやりと辺りが見えるくらいの明るさの中、インティアはひどい喉の渇きに目が覚めた。
水を飲むために身体を起こそうとしたが、力が入らずに驚いた。
そして昨夜の甘く乱れた時間を思い出し、赤面した。
最後、自分が出すものは透明で量も少なかった。
なのに内側はとらえたクラディウスを離すまいとうねりながら纏わり吸いついていた。
まだ自分の中にクラディウスがいるような感覚を持つ。
最後は気を失ったのかもしれない。
記憶がおぼろである。
身体に気持ち悪さを覚えないし、肌に触れるシーツもさらさらしている。
おそらくクラディウスが綺麗にしてくれたのだろう。
インティアはない力を振り絞ってどうにかベッドの上に座った。
蕾に鈍痛が走った。
仕事を始めたばかりの頃を思い出した。
昨日、我を忘れてたんだ…
自分の痴態も思い出しますます顔が火照る。
が、それより水が飲みたい。
動こうとするが、そうはいかなかった。
「水か?」
クラディウスの声がした。
インティアがうなずくと、クラディウスは起き上がり、銀の器にいれた水をインティアの口元まで差し出してくれた。
インティアは夢中になって飲んだ。
冷たく澄んだ水が身体に沁みた。
心ゆくまで水を飲むと、一心地ついた気がした。
「ディー」
インティアが小さく呼ぶと、クラディウスが身体を支えてくれた。
ふと見ると、クラディウスの目は赤く腫れていた。
「どうしたの?
寝てないの?」
「眠れなかったんだ。
目が覚めたら消えそうな気がして。
一晩中おまえを見ていた。
ティア、おまえは綺麗だな」
「なに、突然。
この見た目はすぐにどこかに行っちゃうよ」
インティアは苦く笑った。
年齢より幼く見えるインティアだったが、もうすぐ二十歳を迎える。
「美しい少年」ではいられなくなることは感じていた。
それをどう迎え入れればいいのか、男娼としてどう振舞えばいいのか、悩んでいた。
「外見のことを言っているんじゃない。
おまえは内側が綺麗なんだ」
クラディウスは寝不足の目をしながらも、満足そうにインティアを見つめて言った。
インティアはくすぐったそうに笑った。
「あれ…?」
なにかに気がついたのか、インティアは見える範囲で自分の裸の身体を確認し始めた。
「どうした?」
「痕、つけなかったの?」
リノとジュリアスが初めて結ばれた後、本人は隠しているつもりのようだが、リノの身体一面につけられた無数の赤い痕をインティアは羨ましく思っていた。
ジュリアスが残した強い証。
他の男の気配を残さないように、男娼のインティアは痕をつけることをひどく嫌がった。
もうそんなことを気にしなくてもよくなったので、自分もクラディウスにつけてほしかった。
「こんなに真っさらで綺麗なのに、痕をつけるなんて忍びない」
クラディウスは恭しくインティアの身体をなでたが、インティアはがっかりした声で「そう…」とつぶやくだけだった。
「つけてほしかったのか」
「…うん」
「せっかく真っ白で美しいのに。
心苦しいが、俺の印をつけることにしようか。
ティアは薔薇だけでは物足りなさそうだ」
「いいの?」
「ああ、おまえが望むのなら。
でも一つだけ」
クラディウスは微笑むとインティアの二の腕の内側の柔らかいところに唇を当て、きつく吸い、甘く噛み、ちりりとした痛みとともに赤い痕を残した。
「さあ、もう少し眠るといい。
夜明けまでまだ時間がある」
クラディウスは壊れ物を扱うようにインティアをベッドに横たわらせ、自分もその隣に寝ると小さくキスをして抱き合って眠った。
***
クラディウスとインティアが結ばれるのを待っていたかのように、メリニャ国の創世の伝説が残る「始まりの森」にいる神官から、インティアへ神と民に歌を捧げる歌巫士にならないか、と第三騎士団専属医師のユエを通じて打診があった。
クラディウスが念入りに森や神殿を調べさせ、二人で神官に会いに行き、そしてインティアは歌巫士になることを決めた。
月に数回、森の小さな神殿に歌を納めに行くには徒歩では遠すぎ、馬車を使うには目立ちすぎた。
インティアはクラディウスの勧めもあり、乗馬を覚えることにした。
クラディウスは小柄だが美しくて賢い駿馬をインティアに与えた。
インティアは馬の世話も始めた。
あっという間に美しかった手は荒れ、肌は日に焼けた。
それでもインティアは丁寧に馬の世話をし、乗馬の練習をしながら、歌のレッスンも欠かさなかった。
インティアは美しさを失うとクラディウスが離れてしまうのではないか、と心配をしたが、クラディウスはどんなにインティアの手が荒れ、馬の世話で汚れようとも「綺麗だ」と言い続けた。
インティアは嬉しそうに微笑み、そしてクラディウスの耳の滴を見るのだった。
クラディウスが水を与えてくれるから、僕は枯れはしない。
そっと指を伸ばし、自分の耳の青い薔薇を確認する。
青い薔薇はいつでも滴を受けて艶やかに輝いていた。
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