高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん

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青ざめる彼方

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 リビングの机に色とりどりの料理が並べられ、俺たちはその料理を囲むように椅子に座った。
「いただきます」
 復活した隆弘さんが合掌し、俺たちもそれに倣って合掌した。
「うんまい……! ほんとに母さんの作る料理は美味いなぁ……!」
 合掌終了後、隆弘さんの箸が数々の料理の中にある酢豚に伸び、それを摘まんで口へと放り投げてそう感想を述べた。めっちゃ嬉しそう。
「あらあら。お父さん。そんなに褒めても私からはもう私からは何も出ませんよ?」
「ほんとですね。美味しいですよ……うぅ」
「泣くなよ。何お前の体質、美味しいもの食べたら泣いちゃう病気なの?」
 隣でぽろぽろと涙を流しながら食べる彼方に言葉を紡ぐ。つーかこれが体質なんだとしたら本当に迷惑な体質だ。
「いいえ、違うんですよ……美味しいからという理由もあるんですけどそれよりも……」
 ぱくり、と小さな口でご飯を食べてから、彼方はこう囁いた。
「――懐かしいんです」
「……懐かしい、か」
 懐かしい、つまり彼方は昔昇華さんの料理を食べたことがあるのだろう。しかしそれは真実とは限らない。嘘という可能性もあり得る。
 だけど、こんなことに嘘を吐いてどうするというのだ。
 俺は二週間経った今でも、彼方の言葉を信じ切れずにいた。だって当たり前だろう。未来からきた子供だぞ、信じられるはずがない。
 でも、先ほど述べた通り彼方が嘘を吐いてまでこんなことをするメリットがない。一体彼方の行動目的が何なのか、俺はわからずにいた。
「いやぁ~母さん聞いてくれ」
「何ですか貴方。今日はいつもに増してハイテンションですね」
「当たり前だろう。何と言っても今日は柚季と瞬華の娘が会いにきたんだからなぁ、ハイテンションで当然だ」
「「ぶっ!?」」
 隆弘さんのその一言に同時に噴き出す俺と遠江。俺よりも早く遠江が隆弘さんに突っかかる。
「ちょっと、何言ってんのよお父さん!? 何で私がこのヘタレとの子供を作らなきゃいけないのよ!?」
「ぐすっ」
「あーあー。瞬華やっちゃったー。娘ちゃん泣かせちゃったー」
 どういうキャラになってるの? 隆弘さん?
「あらあら。それでも母親としてやっていけるの瞬華?」
「うるさいわね! 確かにちょっと彼方に対しては悪い発言だったけど私はこんな奴と結婚しないわよ!? というか柚季からこんなに可愛い子が生まれるわけがないでしょう!?」
「ぐすっ」
「あーあー。瞬華やっちゃったー。夫泣かせちゃったー」
「どうでもいいわ」
「酷いっ!?」
 明らかに態度が一変する遠江に思わず悲痛の叫びを上げる。それを遠江は完全に無視。情がない女だ。
「ごほん。まぁそれは嘘なんですよ。彼方が勝手に言ってるギャグみたいなものです。ですから本気にしないでください。遠江も嫌がっていますから」
「……嘘じゃありませんのに」
 小さく彼方がそう言葉を零した。俺は聞こえない振りをするしかなかった。
「で、アンタ今日ちゃんと寝間着持ってきたんでしょうね」
「寝間着? 何で持ってくる必要があるんだよ。今日は飯食って帰るだけだろ?」
「は? 何言ってんのよ。ここまできたんだから普通泊まって行くのが普通でしょ?」
 どこが普通なのか説明してほしい。
「いやいやいや待て。俺は飯だけならまだしも泊まるのは勘弁だ」
「どうして?」
「……それは」
「わかってるわよ。そんなの。アンタが私たち家族と距離を取ろうとしていることなんてね」
 心中で思っていたことを口にされ、思わず視線を伏せる。
「でも、今日は絶対に泊まらせる。そして明日私と一緒にあの子の墓参りに行くの。去年のあの子の通夜にも葬式にも出なかったアンタには行く義務があるはずよ」
「……瞬華。それは少し違うんじゃないか?」
 その時、隆弘さんが突然話に加わった。
「違うって、何がよお父さん。柚季は少なくとも私たちとは無関係じゃない。自分じゃ赤の他人だなんて歌ってるけど、私たちの関係は家族に近いものなのよ?」
「ああ、確かにそうだ。俺も母さんも今も昔もずっと、柚季のことは家族だと思っている」
 だが、と隆弘さんは一言置いてから、言葉を付け加えた。
「こいつの心の傷は、間違いなく俺よりも深い。もちろん、お前よりもな。その理由、きちんとわかってるな? 瞬華」
「それは……」
「柚季、この件はそこの彼方ちゃんに聞いてもらってもいい話か?」
 一瞬迷ったが、彼方ももう関係者に近い。俺は頷いて肯定の意を示した。
「……柚季は、捨て子だ。つまりは過去両親に捨てられたことを意味している。そして去年、柚季が愛していた光までもが事故で亡くなった。……そう、柚季は二度愛したものから、信じている人間が離れて行っているんだ。そこまでの絶望は、俺たちはまだ知り得ていない」
「……確かにそうだけど――」
「俺たちは柚季を墓参りに行かせるのは得策だと思ってる。だが、無理強いはしない。なぜなら本人の意思が重要だからだ。無理に行かせても、意味なんて一切ない。柚季の傷をさらに深くしてしまうだけだ」
「……そう、お父さんたちの意見はよくわかったわ」
 それ以降遠江は押し黙ってしまった。その沈黙が嫌だったのか、隆弘さんは先ほどの真面目な顔から打って変わった表情をして、叫んだ。
「さぁてと! 辛気臭い空気もお終いだ! 今日はせっかく母さんが腕を振るって作ってくれた料理があるんだ! 冷めないうちに食うぞーっ」
「そうですね、食べましょう。さぁさぁ、遠慮しないで食べてね、柚季君」
 昇華さんにそう言われため俺は黙々と食べ続け、遠江は終始俺のことを睨みつけ、そして。
 ――彼方は、料理を食べながらも顔を青ざめていた。
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