高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん

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一彼方

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 夜兎の事務所を出た時にはすでに辺りは真っ暗で、時刻を確認してみたところ七時だということがわかった。まぁクリスマスなんだから今の時間真っ暗で当然か。
「さむ……」
 そういえば、クリスマスだっていうのに食材買うの忘れてたな。おそらく遠江を怒らせてしまったから遠江家から食材をもらうのは無理と言ってもいいだろう。
 どうするか、まぁどれだけ考えようとも答えは一つしかない。余り物を全部詰め込んだ野菜炒めだ。流石にクリスマスということなので彼方にはいいものを食わせてやりたかった気持ちはあったが、生憎と今財布は持っていないし、買う金もない。
「しゃーないか」
 あいつならまぁ事情をわかってくれるだろう。お人よしのあいつならきっと、文句は言わないはず、多分。
 こつんこつんとアパートの階段を上がる。何だか不安になってきた、もしかしたらあいつめっちゃ豪華な料理期待してるんじゃないのか? 野菜炒めしか作れないと言ったらあいつは一体どれほど悲しそうな顔をする。
 不安過ぎる……。
「って、何であいつのことばっか考えなくちゃいけないんだ。今日は野菜炒め、決定事項だ。一応昨日作ったケーキがあるからいいはず。ま、まぁ……シュガークラフトは譲ってやることにするか」
 そんな独り言をぶつぶつと呟いて、俺は意を決す。自分の部屋のドアを開く。
 てっきり電気がついているのかと思ったが、電気はついておらず部屋の中は真っ暗だった。どうやら彼方は出かけているらしい。
 少しほっとした俺は靴を脱いで近くに設置されてあるスイッチを押して電気をつけた。
「お帰りなさいです、パパ」
「うおっ!?」
 いきなり声がしたので思わず上擦った声を出して驚く。
「い、いるんだったら電気つけてろよ、びっくりするだろうが」
 目を凝らせば椅子にちょこんと座っている彼方を見つけた。つーか何でこいつ電気消してんの? クリスマスなのに何も買ってきてない俺への復讐なの?
「って、んだよお前それ」
 その時、俺はテーブルに並べられてある料理たちを発見した。基本的に中華がメインで炒飯や餃子や麻婆豆腐などだ。他にも色々とあるので、食べ切れない。間違いなく。
「おいおい、惣菜買うんだったら先に言ってくれよな」
「私が作りました」
「は?」
「私が作ったんです!」
「んなわけないだろ、冷蔵庫の中には余りもんしかなかったはずだろ? そんなので中華なんて代物が作れるはずがねえよ」
「食材はちゃんと買ってきました」
「俺の財布から?」
「私の財布からです!」
 彼方の財布から? おかしいな、俺は小遣いなんてあげてないし、初対面の時こいつは金がないと言っていた。つまり財布なんて所持しているはずがない。ということは俺の財布から出したということになる。
「嘘だろ、それ」
「嘘じゃないですってば! ほら、これが証拠です!」
 ムキになったのか立ち上がってポケットから色んなデコレーションがされている財布を取り出した。可愛らしい財布だがそういう財布は多分小学生しか使わない。
「で、それを買った金も俺の財布から取ったと」
「ん~~~~~っっ」
 よほど癇に障ったのか、彼方はぎろりと俺をねめつけてから叫んだ。
「私が働いて稼いだお金です!」
「お前が働いただって? そんな時間あるはずが――」
 いや、あった。考えてもみろ、冬休み中こいつは昼いないことが度々あったはずだ。
「じゃあお前が昼いなかったのって」
「そうですよ、お金を稼いでいたからですよ。全てはこの日のためにですね」
 まだ怒っているのか、頬を膨らませながらそう言った。それは少し悪いことをした。俺はぽりぽりと頭を掻きながら、
「あー、何だ。その、済まん」
 と、謝罪した。
 すると彼方はにぱっと表情を明るくしてから、こう言った。
「いいですよ。特別に許してあげます。……それじゃあ手を洗ってきてください、料理は先ほど出来たばかりですので温かいはずですよ」
「へいへい、わかったよ」
 ……さて、と。胃薬あったかな。
 俺は手を洗った後、薬などがたくさん積み入れてある棚の中を物色し始めた。
 なぜか? その理由は至ってシンプルだ。こいつは自分を遠江瞬華の娘だと言っている。それが本当かどうかは知らないが、遠江瞬華は料理を毒薬にしてしまうスキルの持ち主だ。もしも、もしもである。遠江瞬華の娘が本当にこいつだったとしたら――そのスキルを受け継いでいる可能性はないとは言えない。
 何とか胃薬を見つけた俺は素早く俺をポケットに仕舞い込んで、彼方の対面に座った。
「遅かったですね、どうして手を洗うだけで一分近くかかるんですか?」
「気にするな、ちょっとした準備だ」
 遠江もそうだが、料理の見た目がいいのが特徴なのだ。だから昔何も知らなかった俺はその料理を口にし、病院へ緊急搬送されたという苦い思い出がある。
 つまり目の前で並べられてあるこの料理たちは美味しそうには見えるが、必ずしも美味しいというわけではない。不味い可能性だってある。
「? 食べないんですか?」
「お前こそ食べないのかよ……ほら、食っちまえよ」
 中々勇気が出なかった俺は箸を空中で静止させていた。
「いえ、パパの感想を聞いた後に食べようかなと」
「お前味見したか?」
「味見しないのが私のポリシーですので、何事にも直球勝負、失敗することを恐れないのです」
 ヤバい、フラグが立った気がする。
「さぁ、どうぞ」
 急かす彼方。
 半ばやけくそになった俺は箸を掲げて、
「ええい、ままよ!」
 ぱくりと一番近くにあった餃子を口に含んだ。
 食べた直後、俺は驚愕した。持っていた箸を思わず落とし、呆然としてしまう。
「ちょ、どうかしましたかパパ!?」
 その様子があまりにもおかしかったからか、彼方が詰め寄ってくる。
 俺は未だ呆然とした表情のまま、彼方の顔を見据え、尋ねた。
「お前……これ、誰から教えてもらった」
「ママからです。私のママから教えてもらいました、それがどうかしましたか?」
 ママ、つまりは遠江瞬華から教えてもらった、彼方はそう言っている。
 しかし、これは。この中華の味は――間違いなくあいつの味だ。
「は、はは……」
 その時、自然と俺の目の淵から一筋の涙が零れ落ちた。手で拭うが、流れ出る涙の量は相当なもので、一度拭うだけでは何も意味を成さなかった。
「ちくしょう……何だよ……」
 どうやら未来の遠江瞬華は光の料理を完全に再現できるようになったらしい。彼方の料理を食べたらすぐにわかった。似過ぎ、というよりも完全に一致している。一年前、あいつが自信を持って俺に作った餃子に。
 もう二度と食べることはないだろうと思っていた味。予想外の出来事に俺はただひたすら茫然と涙を流し続けることしか出来なかった。
「…………」
 続いてレンゲを取って炒飯を食べてみるが、これも一緒。光の味だ。
「何なんだよ……これは、何がどうなっているんだ、よ……」
 嗚咽が混じり出した。一度吐き出してしまったらもう止まらない。次々と口から嗚咽が溢れ出てくる。
「くそ……」
 小さく呻いた、その瞬間の出来事だった。
「え……」
 彼方の胸の中に抱かれていた。顔を押しつけているからか、とくんとくんと彼女の心音が聞こえる。
「すみません、どうやらパパの少しトラウマな部分を刺激しちゃったみたいですね」
 ごめんなさい、と彼方は謝った。
 別にお前が悪いわけじゃない、そう言いたかったが今の状態ではろくに声を出すことが出来ないので、口を閉ざすことにした。
「落ち着きますか? パパ」
 胸の中で小さく首肯する。
「ですよね。私も昔泣いている時にママにこうやって胸で抱かれていると落ち着いたんです。こう、どういえばいいのか、ポカポカするって感じですかね。妙に冷たかった心が温かくなり出して落ち着くんです。まぁ……まさか私がこれをする立場になるとは思いもしませんでしたけどね」
 くすっと彼方は苦笑した。彼方は気を使っているのか、俺から涙の理由を聞こうとはしなかった。ありがたかった、多分今事情を話してしまったら、あの日のことを思い出してしまってもっと泣いてしまうだろうから。
「気の済むまで泣いてください。泣かない人間なんていません。ですから自分の気が済むまで泣いてください、私はいつまでもここにいますから」
 嗚呼――。
 この時俺はようやく理解した。
 こいつは、こいつの言っていることは全て真実なのだと。ようやく理解し、その言葉を信じることが出来た。
 根拠はある。この料理、これは光が自分なりに考えて考えて作り上げたオリジナルの餃子だ。他では到底思いつくことの出来ない、個性溢れた餃子なのだ。ゆえに他者が作り上げることはまずないといっても過言ではない。
 そしてその餃子が姉である瞬華へと渡り、そしてその娘に渡るのも何ら不思議ではない。
 つまり。
 つまりである。
 この餃子を作り上げられるのは、俺たちの血統以外にまずありえはせず、
 この餃子を作り上げられたこいつは、俺たちの血統ということになる。
 そう、つまりは。
 一彼方。
 彼女は――本当に。
 
 未来からきた、俺の娘だったのだ。
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