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待ってる奴
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家には帰りたくなかった。可能性は限りなく薄いが、遠江がいるかもしれない、そう思ったからだ。
しかし周りとのコミュニケーションが皆無な俺なので、時間を潰す場所はゲーセンなどしかなかった。だから夕方くらいまでゲーセンで怠惰な時を過ごし、その後ある場所に向かった。
ある場所、それは。
「んあ~、ほんっとここはのんびりと出来るなぁ」
「いやだから何度も言うように図々し過ぎるから」
雨水夜兎の事務所である。
「で、何なの? 僕は別に暇潰しが出来るから構わないけど」
「お前のとこに行くのに、理由なんて必要ないんだよ」
「何その恋仲みたいな発言マジで寒気がしたからやめてくれる?」
「違うのか?」
「違うよ!」
真面目な顔で怒鳴られた。こいつあれだな、案外こんな顔して純情な奴だな。感がそう言ってる。
「ま、大方予想は出来るけどね、君の表情から予測して」
「当ててみろよ」
「瞬華ちゃんと喧嘩でもしたんだろ?」
……こいつエスパーか? 何で顔見ただけでそんなことがわかるんだよ。
「ストーカーでもしてたのか? そうだったらマジでやめてくれ、俺の肉体美を撮った写真を一枚あげるから許してくれ」
「いらないよ!」
「まさか下半身がいいのか? やめてくれ、俺はホモじゃない」
「僕だって違うよ!」
夜兎は感情を剥き出しにしながらそう怒鳴った後、自分の椅子から立ち上がり俺の横へと座った。
「身の危険をめっちゃ感じるんだが」
「そのギャグはもうよそう」
冷静に対処されてしまった。もう少し続けてもよかったんだが、これ以上してもただ虚しくなるだけだろうと直感で感じ取った俺は、
「わーったよ」
と、適当な返事をした。
「それで、何があったの?」
「あー、まぁ簡単に説明するとだな」
包み隠さず、俺は先ほど起きた出来事を吐き出した。言う度に夜兎はうんうんと頷いている。馬鹿なこいつが理解しているかどうか不明だが。
前にも言ったと思うが俺は夜兎を信頼している。矛盾が生じていると思う人もいるかもしれないが、そうではない。こいつと俺は結局親友止まりにしかならない。親友には愛なんてものはなく、あるのは『友情』だけだ。
屁理屈なのかもしれない。だけど、俺は唯一こいつを信じている。
全てを聞いた夜兎は深いため息を吐いた後、
「馬鹿なの?」
と俺を罵った。
「馬鹿だよ」
否定しない。だって俺は本当に馬鹿だから、否定出来るはずがなかった。
「ほんと、君は筋金入りの馬鹿だよ。それはチャンスだった、自分が前進するための、チャンスだったんだ。多分行っていたら遠江家とも仲はよくなっていただろうし、君は少なくとも今よりは前へ進めていたはずなんだ。どうしてだ? どうして君はその誘いを断ったんだ?」
「……それは」
少し、言い淀んだ。
「そうか、少し言い辛いか。なら別に言わなくてもいい。……なぁ柚季」
改まって名前を呼ばれる。
「何だ、夜兎」
「僕は思うんだ」
先ほど暇潰しに読んでいたであろう漫画雑誌を近くの机に放り投げてから、夜兎は告げた。
「――僕は別に、前に進むことだけが正しいことだとは思わない。後退したって現状維持をしていたって、その行為が正しくないだなんて言えるはずがない。誰にもね。結局のところ僕は本人の意思だと思うな。自分の意思で、後退か、現状維持か、前進かを決めて、それで満足したところが正しいと思う。だからね、別に前進しなくってもいい、後退してもいい。君が一番いいと思うところに停滞すればいいんだよ。だってそれはきっと、君のためになるんだからさ」
俺は一瞬呆けてしまった。だってあの馬鹿であるはずの夜兎が真面目過ぎることを言ったのだから呆けて当然だろう。
「何だよ、何か僕の顔についているのか?」
「いいや」
苦笑して、俺は言った。
「何でもねえよ」
そうして俺は立ち上がった。随分と気が楽になっていた。
「帰るの?」
「ああ」
肯定し、俺は帰り際に夜兎に言った。
「待ってる奴がいるんでな」
しかし周りとのコミュニケーションが皆無な俺なので、時間を潰す場所はゲーセンなどしかなかった。だから夕方くらいまでゲーセンで怠惰な時を過ごし、その後ある場所に向かった。
ある場所、それは。
「んあ~、ほんっとここはのんびりと出来るなぁ」
「いやだから何度も言うように図々し過ぎるから」
雨水夜兎の事務所である。
「で、何なの? 僕は別に暇潰しが出来るから構わないけど」
「お前のとこに行くのに、理由なんて必要ないんだよ」
「何その恋仲みたいな発言マジで寒気がしたからやめてくれる?」
「違うのか?」
「違うよ!」
真面目な顔で怒鳴られた。こいつあれだな、案外こんな顔して純情な奴だな。感がそう言ってる。
「ま、大方予想は出来るけどね、君の表情から予測して」
「当ててみろよ」
「瞬華ちゃんと喧嘩でもしたんだろ?」
……こいつエスパーか? 何で顔見ただけでそんなことがわかるんだよ。
「ストーカーでもしてたのか? そうだったらマジでやめてくれ、俺の肉体美を撮った写真を一枚あげるから許してくれ」
「いらないよ!」
「まさか下半身がいいのか? やめてくれ、俺はホモじゃない」
「僕だって違うよ!」
夜兎は感情を剥き出しにしながらそう怒鳴った後、自分の椅子から立ち上がり俺の横へと座った。
「身の危険をめっちゃ感じるんだが」
「そのギャグはもうよそう」
冷静に対処されてしまった。もう少し続けてもよかったんだが、これ以上してもただ虚しくなるだけだろうと直感で感じ取った俺は、
「わーったよ」
と、適当な返事をした。
「それで、何があったの?」
「あー、まぁ簡単に説明するとだな」
包み隠さず、俺は先ほど起きた出来事を吐き出した。言う度に夜兎はうんうんと頷いている。馬鹿なこいつが理解しているかどうか不明だが。
前にも言ったと思うが俺は夜兎を信頼している。矛盾が生じていると思う人もいるかもしれないが、そうではない。こいつと俺は結局親友止まりにしかならない。親友には愛なんてものはなく、あるのは『友情』だけだ。
屁理屈なのかもしれない。だけど、俺は唯一こいつを信じている。
全てを聞いた夜兎は深いため息を吐いた後、
「馬鹿なの?」
と俺を罵った。
「馬鹿だよ」
否定しない。だって俺は本当に馬鹿だから、否定出来るはずがなかった。
「ほんと、君は筋金入りの馬鹿だよ。それはチャンスだった、自分が前進するための、チャンスだったんだ。多分行っていたら遠江家とも仲はよくなっていただろうし、君は少なくとも今よりは前へ進めていたはずなんだ。どうしてだ? どうして君はその誘いを断ったんだ?」
「……それは」
少し、言い淀んだ。
「そうか、少し言い辛いか。なら別に言わなくてもいい。……なぁ柚季」
改まって名前を呼ばれる。
「何だ、夜兎」
「僕は思うんだ」
先ほど暇潰しに読んでいたであろう漫画雑誌を近くの机に放り投げてから、夜兎は告げた。
「――僕は別に、前に進むことだけが正しいことだとは思わない。後退したって現状維持をしていたって、その行為が正しくないだなんて言えるはずがない。誰にもね。結局のところ僕は本人の意思だと思うな。自分の意思で、後退か、現状維持か、前進かを決めて、それで満足したところが正しいと思う。だからね、別に前進しなくってもいい、後退してもいい。君が一番いいと思うところに停滞すればいいんだよ。だってそれはきっと、君のためになるんだからさ」
俺は一瞬呆けてしまった。だってあの馬鹿であるはずの夜兎が真面目過ぎることを言ったのだから呆けて当然だろう。
「何だよ、何か僕の顔についているのか?」
「いいや」
苦笑して、俺は言った。
「何でもねえよ」
そうして俺は立ち上がった。随分と気が楽になっていた。
「帰るの?」
「ああ」
肯定し、俺は帰り際に夜兎に言った。
「待ってる奴がいるんでな」
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