レベル0の最強剣士~レベルが上がらないスキルを持つ俺、裏ダンジョンに捨てられたが、裏技を発見し気が付いたら世界最強になっていた。

つくも/九十九弐式

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第40話 フレースヴェルグへ向かう

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「っと……」

 転移魔法(テレポーテーション)で外に出たソルは久しぶりに地上の土を踏むことになる。

 時間感覚というものが麻痺していた為、どれくらいの月日をダンジョン『ゲヘナ』で過ごしていたのかわからなかった。

 数か月のようにも、数年のようにも感じる。これはもうソルには認識できない事だ。だが、バハムートならわかるかもしれない。

「なぁ、バハムート」

「ん? なんだ? 主人(マスター)よ」

「俺はどのくらい、あのダンジョン『ゲヘナ』に閉じ込められてたんだ?」

「そもそもの話として、我々のいたダンジョン『ゲヘナ』と今ここにいる世界は同じ世界ではない。別の世界だと思った方がいい。その為、流れる時間も違う」

「という事は――」

 元の世界に戻った時に何百年も時間が流れている可能性もあるという事か。人間の寿命なら100年も経てば皆死んでいる。知り合いが皆亡くなっている可能性すらありえた。

「安心するが良い。そんなに極端な時間の流れはしていない。大体、主人(マスター)が『ゲヘナ』にいた期間は一カ月」

「一カ月!?」

 そんなものだったのか。ソルは驚いていた。もう何年もあのダンジョンに閉じ込められていた気がする。そんな僅かな期間だった事に拍子抜けしてしまう。

「驚くのも無理はない。だが、生死をかけた一戦をしている時、時間が止まっているように感じた事があるであろう? 時間とは絶対的なものではない。相対的なものだ。一時の時間を何年にも感じる程、主人(マスター)は濃密な時間を過ごしたのだ」

 確かにありうる事ではあった。命をかけた真剣勝負をしている時、時間が止まったように感じる。人は死ぬ時に走馬灯のように自分の人生を振り返るとも言われている。逆に楽しい時間、遊んでいる時間など一日があっという間に過ぎてしまう事もありえた。

「そして、この世界。今、我々のいる世界は大体、6倍の時間が経過している。だから、主人(マスター)がダンジョン『ゲヘナ』に侵入してから半年という計算になる」

「半年か……」

 知り合い皆死んでいて自分一人がぽつんと取り残される、そんな状況になっていない事には安心した。だが、それでも半年もの時間が経過しているのだ。それなりに世の中、変わっていても不思議ではない。

 それにしても、これから何をすればいいんだ? ソルは疑問を抱いた。実家からも捨てられた自分がこれからどうやって生きていけばいいのか。人生の目的に疑念を抱く。生きていれば誰もがぶつかる疑念であろう。
今までのソルの目的は『生き延びる事』にあった。その上で『元の世界に戻る事』。生物として根本的な生存欲求を満たす為にソルは今までやってきたのだ。だが、それは満たされた。

 この外の世界も危険には満ち溢れているが、それでも『ゲヘナ』程ではない。生存欲求が満たされた今、ソルがどういう風に生きていくのかを考えるようになるのは自然な事と言えた。

「ん? どうかしたか? 主人(マスター)? 神妙な顔をして」

「いや……これからどうやって生きていけばいいか疑問に思ってさ」

「考えている暇などない。『ゲヘナ』による危機が過ぎ去ったとはいえ、それでこの世界全体が平和になったわけではない。この世界には間違いなく危機が訪れる。力の綻びは至るところに見えている」

 バハムートは語る。やはり竜王であるバハムートはソルの知らない様々な事を知っていた。その強さだけではなく、叡智も頼りになった。人間であるソルにはない独特の感覚も持ち合わせている事であろう。

「けど、本当に危機なんて訪れるのか? 確かに大昔に世界が滅ぶかもしれない危機が訪れたって言うけど」

 かつてこの世界には神々を交えた一大戦争が起きたらしい。『ラグナロク(最後の一戦)』と呼ばれる大戦だ。そして、ソルの先祖たる勇者ロイ——ユグドラシル家の始祖だ、つまりは――神々と協力してその一戦を納めたらしい。

 そしてそれ以降ユグドラシル家はこの世界を滅びの危機より守る事を宿命としたそうだ。そしてその宿命は現代まで引き継がれる事となる。

 ソルが『レベル0』という固有スキルを継承された時、必要以上に父に折檻されたのもその宿命が原因であった。責務を果たせない無能と判断されたのである。

「今この世界には主に七つの種族が存在している。まず人間種、次にエルフ種、ドワーフ種、獣人種、魔族、天使族、竜(ドラゴン)種。同じ人間同士でも小競り合いなどしょっちゅうだ。多くの種族が存在していればそれだけ混乱も起きやすくなる。災いが起きる土壌は既にできている」

「ま、まぁ……確かにそうだ」

 人間同士でも戦争をする事はよくある。ましてや他の種族と人間が仲良くなれるかというと、価値観も何もかも違う。例えばドワーフ種は主に薄暗い洞窟の中で生活をしているが、人間に同じような生活をする事ができるかというと、恐らくは無理だろう。このように文化や根本的体質が大きく異なる以上、どの種族同士も根本的には相容れぬ存在なのである。

「それに主人(マスター)がダンジョン『ゲヘナ』に迷い込んできたのも、きっと何か運命めいたものを感じるのだ」

『迷い込んできた』ではなく『親に捨てられた』のだが大した違いではないので指摘はしなかった。
「運命めいたもの?」

「うむ……世界の綻びを正す為の救世主なのではないか、そう我は思っている。主人(マスター)が『ゲヘナ』に迷い込んできたのは偶然などではない。運命に導かれた、宿命的な出来事だったのだ。世界が主人(マスター)が力に目覚める事を望んでいたのかもしれぬ」

「運命……か」

「確証はない。我の戯言だ。聞き流すがよい」

 バハムートは歩き出す。

「我についてくるが良い。我には世界の綻びが見える。こっちから良くない気配を感じる」

「こっちって……」

 ソルは地理を思い浮かべる。バハムートの歩く方角はフレースヴェルグという国があった。その国の王女クレアとソルは幼馴染であった。ソルは彼女の事がまず頭に思い浮かんだ。

「そっちにあるのはフレースヴェルグっていう国だ。けど、山を越えて100キロくらいの距離があるんだぞ」

 流石に『ゲヘナ』で鍛えられたソルでも山々を超えて100キロ歩くのはそれなりにしんどかった。

「ふっ。何の為に我が使い魔になったと思っているのだ」

 バハムートは笑った。バハムートは光を発する。そして瞬く間に巨大な黒竜となった。

『乗るがよい……人目につくのが面倒な為、人里近くなったら元に戻るが』

「あ、ああ……だよな。便利だな、助かる」

 使い魔にする時、そういえば乗り物になるみたいな事も言っていた事をソルは思い出していた。

 ソルはバハムートに乗り込む。

『ゆくぞ。振り落とされるなよ』

 バハムートは羽ばたく。そして、一瞬にしてその速度は音の速さを抜き去った。物凄い風圧を感じる。

 100キロ以上ある距離もバハムートにかかれば一瞬であった。

 ソルは一瞬の事ではあったが、大空から景色を楽しんでいた。

 そして程なくして、二人はフレースヴェルグに到着するのである。
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