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第47話(クレア視点)剣神武闘会を前に
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「はぁ……」
クレアは王城のテラスで深いため息を吐いていた。未来を憂いている。それなりの準備をしてきたが、それでも不安だった。
月夜を眺めてはいるが、それでも決して気持ちは晴れなかった。明日はついに剣神武闘会が開催される。
国王、王妃——そして王女であるクレア自身も当然のように剣神武闘会の観戦が求められていた。野蛮な催しにも見えるが、国にとって大きなイベントなのだ。国を運営していく上での収益にもなっている。そして国民にとってはお祭りのようなものだ。
だが、クレアの都合からするに剣神武闘会に観戦者として参加するわけにはいかなかったのである。
「憂鬱でございますか? 姫様」
その時の事であった。メイドが姿を現す。クレアの側近メイドであるレティシアであった。同い年くらいの整った顔をした少女で、クレアにとっては良き相談相手であり、友人のようなものであった。
「レティシア……」
「ついに明日ですものね……」
二人は剣神武闘会に向けて準備を進めていた。クレアはエドに優勝して貰うわけにはいかなかったのである。クレアはエドを剣神武闘会に優勝させるわけにはいかなかった。だから、誰かが邪魔をしなければならなかった。
そしてその『誰か』にクレアは自分がなろうとしたのである。だが、先ほど説明したように王族は剣神武闘会に観戦者としての参加を義務付けられている。
本来であるならばどうやってもクレアは剣神武闘会に闘技者として出場する事は敵わないのである。だが、そこは工夫次第で何とでもなるとクレアは考えていた。
その工夫こそが側近であるメイドのレティシア——彼女なのである。
彼女は表向きには偽っているが、固有スキルとして『変化』のスキルを授かっていた。このスキルは様々なものに変化する事ができる。クレアはこのスキルを彼女に使わせ、影武者とする事を考えたのである。
――そして自分は。
仮面を取り出した。この仮面は魔道具(アーティファクト)だ。他人の認知機能を反らす力を持っている。いくら仮面をつけたところで、身長や体格は丸回りなのだ。恐らく、すぐにクレアだとバレてしまう。バレてしまえばおしまいなのだ。だからバレないように慎重を期した。その為にただの仮面ではなく、魔道具(アーティファクト)を利用する事にしたのだ。
この策により、二つの問題はクリアできた。だが、最大の問題は一つだ。自分にエドを倒せるかどうか。エドは間違いなく決勝まで残ってくる事だろう。その決勝まで自分が残り……あるいは決勝に残るより前にエドと直接闘う機会があるかもしれない、その可能性はあった。
無様な醜態を見せつけた上で、クレアは父にエドとの婚約を破棄を要求するつもりだった。
エドの醜態を見た上であったのならば父の考えも変わるだろう、と考えていたのである。
これがクレアが考えた計画(プラン)であった。だが勿論、計画は計画だ。実際の物事は計画通りに行くはずがない。
「上手くいくでしょうか……上手くバレずに、その上でエドワード様の優勝を邪魔できればいいのですけど……」
「上手くいくといいわね……祈るばかりよ。けど、何となく私は上手くいく気がしているの」
「ほお……それはなんででしょう? 勘という奴ですか?」
「勘もあるけど、もし、私がダメだったとしてもソルがいるもの。多分、きっと、ソルが何とかしてくれるはず」
「ソル様ですか……ですがあの方は確か、スキル継承の儀で『レベル0』とかいう、外れスキルを授かり、実家であるユグドラシル家を追い出されたそうではありませんか」
ソルの噂は有名であった。ユグドラシル家は王族ではないが、貴族のような立場にある。ただの裕福な富豪の家というだけではない。成り上がった家系ではなく、代々受け継がれてきた、歴史のある家系なのだ。
それ故にその後継者たるソルが外れスキル『レベル0』を授かり、実家を終われた事は隣国であるこのフレースヴェルグでも有名な噂話になっているのだ。
ソルのその後は色々と言われているが、多かったのは失踪の後、野たれ死んだ、とか、あるいは人生に絶望して自殺しただ、とか。
散々な言われようではあったが、こうして無事に姿を見せた事により、その予想が大外れであった事が証明されてしまった。
「『レベル0』たるスキル……どのようなスキルかは詳しく知りませんが、レベルが一切向上しないスキルだと伺っております。なぜそんなメリットが何もないスキルを神は彼に授けたのかはわかりませんが。いくら努力しても彼は強くなれない事」
冷静なレティシアは冷徹に告げる。無意味な期待が失望を買うだけだと、彼女は知っているからだ。
「そんな方が剣神武闘会に出たところで初戦敗退するに決まっているではありませんか? なぜエドワード様との関係があるにも関わらず、ソル様と……もう一人変な少女を国王様や王女様に何の断わりもなく宿泊させたのですか? そうまでするだけのものが彼にあるとは私は思えませんが」
「レティシアの見解は一般的に言えば正しいと思う。だけど私の勘と、幼馴染としての長い付き合いが何となく告げているの……それと剣を持つもの、武人としての感性が感じてるの」
クレアは『剣姫』と呼ばれる程の剣の使い手である。その上に、固有スキル『煉獄の加護』を持ち合わせていた。このスキルはMP消費を一切する事なく、クレアに炎の加護を与えてくれる。
クレアの攻撃には炎属性が付与(エンチャント)され、その上に炎系のダメージを大幅に軽減、微弱な炎の場合完全に無効化。さらにこのスキルを進化していった場合、炎を吸収する可能性すら秘めていた。
ソルの『レベル0』のような外れスキルではない。クレアはエドと同じく、一般的に言えば当たりスキルを授かっていた。
そのクレアを以ってしてまでこう言わしめるのだから、もしかしたら自分には知らない何かがあるのだろうとレティシアは考えていた。
「そうですか……でしたら姫様の勘を信じましょう。彼の活躍を私も祈っています」
「ええ……そうしましょう」
「今日のところは寝ましょう。姫様。悩んでばかりいても事態は解決しませんもの。睡眠不足はお肌の大敵です。それに体調不良にも繋がります。ベストを尽くせなければ武闘会でも良い結果は出せません」
「そうね……そうしましょう」
クレアは部屋に戻っていく。
ざわつく心を静め、レティシアは眠りについた。
そしていよいよ、その翌日、件の『剣神武闘会』が開催される事になる。
クレアは王城のテラスで深いため息を吐いていた。未来を憂いている。それなりの準備をしてきたが、それでも不安だった。
月夜を眺めてはいるが、それでも決して気持ちは晴れなかった。明日はついに剣神武闘会が開催される。
国王、王妃——そして王女であるクレア自身も当然のように剣神武闘会の観戦が求められていた。野蛮な催しにも見えるが、国にとって大きなイベントなのだ。国を運営していく上での収益にもなっている。そして国民にとってはお祭りのようなものだ。
だが、クレアの都合からするに剣神武闘会に観戦者として参加するわけにはいかなかったのである。
「憂鬱でございますか? 姫様」
その時の事であった。メイドが姿を現す。クレアの側近メイドであるレティシアであった。同い年くらいの整った顔をした少女で、クレアにとっては良き相談相手であり、友人のようなものであった。
「レティシア……」
「ついに明日ですものね……」
二人は剣神武闘会に向けて準備を進めていた。クレアはエドに優勝して貰うわけにはいかなかったのである。クレアはエドを剣神武闘会に優勝させるわけにはいかなかった。だから、誰かが邪魔をしなければならなかった。
そしてその『誰か』にクレアは自分がなろうとしたのである。だが、先ほど説明したように王族は剣神武闘会に観戦者としての参加を義務付けられている。
本来であるならばどうやってもクレアは剣神武闘会に闘技者として出場する事は敵わないのである。だが、そこは工夫次第で何とでもなるとクレアは考えていた。
その工夫こそが側近であるメイドのレティシア——彼女なのである。
彼女は表向きには偽っているが、固有スキルとして『変化』のスキルを授かっていた。このスキルは様々なものに変化する事ができる。クレアはこのスキルを彼女に使わせ、影武者とする事を考えたのである。
――そして自分は。
仮面を取り出した。この仮面は魔道具(アーティファクト)だ。他人の認知機能を反らす力を持っている。いくら仮面をつけたところで、身長や体格は丸回りなのだ。恐らく、すぐにクレアだとバレてしまう。バレてしまえばおしまいなのだ。だからバレないように慎重を期した。その為にただの仮面ではなく、魔道具(アーティファクト)を利用する事にしたのだ。
この策により、二つの問題はクリアできた。だが、最大の問題は一つだ。自分にエドを倒せるかどうか。エドは間違いなく決勝まで残ってくる事だろう。その決勝まで自分が残り……あるいは決勝に残るより前にエドと直接闘う機会があるかもしれない、その可能性はあった。
無様な醜態を見せつけた上で、クレアは父にエドとの婚約を破棄を要求するつもりだった。
エドの醜態を見た上であったのならば父の考えも変わるだろう、と考えていたのである。
これがクレアが考えた計画(プラン)であった。だが勿論、計画は計画だ。実際の物事は計画通りに行くはずがない。
「上手くいくでしょうか……上手くバレずに、その上でエドワード様の優勝を邪魔できればいいのですけど……」
「上手くいくといいわね……祈るばかりよ。けど、何となく私は上手くいく気がしているの」
「ほお……それはなんででしょう? 勘という奴ですか?」
「勘もあるけど、もし、私がダメだったとしてもソルがいるもの。多分、きっと、ソルが何とかしてくれるはず」
「ソル様ですか……ですがあの方は確か、スキル継承の儀で『レベル0』とかいう、外れスキルを授かり、実家であるユグドラシル家を追い出されたそうではありませんか」
ソルの噂は有名であった。ユグドラシル家は王族ではないが、貴族のような立場にある。ただの裕福な富豪の家というだけではない。成り上がった家系ではなく、代々受け継がれてきた、歴史のある家系なのだ。
それ故にその後継者たるソルが外れスキル『レベル0』を授かり、実家を終われた事は隣国であるこのフレースヴェルグでも有名な噂話になっているのだ。
ソルのその後は色々と言われているが、多かったのは失踪の後、野たれ死んだ、とか、あるいは人生に絶望して自殺しただ、とか。
散々な言われようではあったが、こうして無事に姿を見せた事により、その予想が大外れであった事が証明されてしまった。
「『レベル0』たるスキル……どのようなスキルかは詳しく知りませんが、レベルが一切向上しないスキルだと伺っております。なぜそんなメリットが何もないスキルを神は彼に授けたのかはわかりませんが。いくら努力しても彼は強くなれない事」
冷静なレティシアは冷徹に告げる。無意味な期待が失望を買うだけだと、彼女は知っているからだ。
「そんな方が剣神武闘会に出たところで初戦敗退するに決まっているではありませんか? なぜエドワード様との関係があるにも関わらず、ソル様と……もう一人変な少女を国王様や王女様に何の断わりもなく宿泊させたのですか? そうまでするだけのものが彼にあるとは私は思えませんが」
「レティシアの見解は一般的に言えば正しいと思う。だけど私の勘と、幼馴染としての長い付き合いが何となく告げているの……それと剣を持つもの、武人としての感性が感じてるの」
クレアは『剣姫』と呼ばれる程の剣の使い手である。その上に、固有スキル『煉獄の加護』を持ち合わせていた。このスキルはMP消費を一切する事なく、クレアに炎の加護を与えてくれる。
クレアの攻撃には炎属性が付与(エンチャント)され、その上に炎系のダメージを大幅に軽減、微弱な炎の場合完全に無効化。さらにこのスキルを進化していった場合、炎を吸収する可能性すら秘めていた。
ソルの『レベル0』のような外れスキルではない。クレアはエドと同じく、一般的に言えば当たりスキルを授かっていた。
そのクレアを以ってしてまでこう言わしめるのだから、もしかしたら自分には知らない何かがあるのだろうとレティシアは考えていた。
「そうですか……でしたら姫様の勘を信じましょう。彼の活躍を私も祈っています」
「ええ……そうしましょう」
「今日のところは寝ましょう。姫様。悩んでばかりいても事態は解決しませんもの。睡眠不足はお肌の大敵です。それに体調不良にも繋がります。ベストを尽くせなければ武闘会でも良い結果は出せません」
「そうね……そうしましょう」
クレアは部屋に戻っていく。
ざわつく心を静め、レティシアは眠りについた。
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