お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど

文字の大きさ
50 / 98
第二章

レーヴェン殿下のギフト

しおりを挟む
 もしかして、私からかわれている?

 そんな考えが脳裏を過ぎる中、ルーシーさんはポンッと私の肩を叩いた。

「これからもその調子で頼むよ、フラグクラッシャー」

「は、はい……頑張ります?」

 一先ず了承の意を示す私に、ルーシーさんは目を剥いた。
かと思えば、勢いよく肩を揺さぶってくる。

「いや、そこはツッコミを入れなさいよ!何普通に受け入れてんの!?」

「いえ、その……こういうことに慣れてなくて」

「えっ!?人たらしのくせに、コミュ障なの!?」

 『普段、めっちゃ人当たりいいじゃん!?』と叫び、ルーシーさんはまじまじとこちらを見つめる。
まるで、珍生物でも見るかのような目つきで。

「わ、私ってそんなに変ですか?」

「……まあ、希少種ではあるんじゃない?」

 オブラートに包んで答えるルーシーさんは、パッと手を離して立ち上がる。
『そんな……』と項垂れる私を前に、彼女は軽くストレッチすると結界を軽く叩いた。

「そろそろ、お開きにしよう。あんまり遅くなると、ニクス達に文句を言われそうだし。それに」

 そこで一度言葉を切ると、ルーシーさんは真剣な顔つきに変わる。

「四天王の討伐に向けて、色々準備もあるから。明日から、本格的に忙しくなるよ」

 ────という宣言忠告を受けた翌日。
私達は生徒会室に再度集まり、顔を突き合わせた。
誰もが緊張した面持ちで立ち竦み、ゴクリと喉を鳴らす。
責任重大な任務だということを理解しているため、それなりに不安や恐怖を感じているらしい。

「それで、ターゲットに変わった点はありませんでしたか?」

 出来るだけ冷静に話を切り出すルーシーさんは、桜色の瞳に期待を滲ませた。
が、レーヴェン殿下は小さく首を横に振る。

「なかったよ。一時間ごとに千里眼・・・で居場所を確認していたけど、至って普通だったかな」

 ────千里眼。
それはギフトの一種で、どんなに遠くに居る物や者も視認出来る能力。
ただし、自分の魔力でマーキングしたものしか視れないため対象に直接魔力を込めるか、もしくは自分の魔力が籠った何かを渡さないといけない。

 なので、今回私達はターゲット対象の小物……もっと正確に言うと、メガネを拝借した。
レーヴェン殿下の魔力を込めるために。
正直あまり気は進まなかったが、『後で返すんだから』と自分を納得させて実行した。
誰かを監視する上で、レーヴェン殿下のギフト以上に適したものはないため。

 だって、マーキング下準備さえ上手くこなせば相手に気取られる心配は、ほぼないもの。
普通に尾行するより、ずっとリスクを抑えられるわ。

「そうですか……やっぱり、研究室・・・に行くのは生贄・・を捕まえてからになりそうですね」

 悔しそうに顔を歪めるルーシーさんは、『はぁ……』と深い溜め息を零す。

「────四天王アガレスを保護・強化している場所さえ分かれば、こんな回りくどい手を使わずに済むんですが……」

 『参ったな……』と零し、ルーシーさんはかぶりを振った。
他の三人も微妙な表情を浮かべている。
というのも、四天王の居場所を早めに割り出すため私を────生贄もとい囮にすることが決定しているため。
昨日の会議であった『一悶着』というのが、まさにソレだ。

 だって、さすがにルーシーさんには任せられないし……お兄様達はまず、生贄の候補から外れているものと思われる。
理由は言わずもがな、強すぎるから。
私も一応それなりに戦えるけど、矢面に立つことがあまりないため実力を軽く見られている可能性が高かった。

「くそっ……!特待生、本当に四天王の居場所は分からないのか!?」

 苛立たしげに前髪を掻き上げ、兄はルーシーさんに詰め寄る。
『リディアに何かあったら……!』と心配する彼に、ルーシーさんは眉尻を下げた。

「すみません……本当に分からないんです。ただ────生贄となる生徒を研究室に連れていくのは、確実です。現在、アガレスは強化の最終段階に入っており、魔力の豊富な子供を欲していますから。そのため、ターゲットは必死になってアガレスの満足する生贄を探している筈です」

「確かにその条件なら、リディア嬢が最適だね。隙さえ見せれば、あっさり釣れそうだ」

 小さく肩を竦めるレーヴェン殿下に、リエート卿はコクリと頷く。

「多少のリスクは承知の上で、仕掛けてくるだろうなぁ……あーあ、本当嫌になる」

「……強くなったことをこれほど後悔したことはない」

 『せめて、実力を隠していれば……』とタラレバを話し、兄は小さく肩を落とした。
やり切れないといった表情を浮かべ、壁にそっと寄り掛かる。
と同時に、天井を見上げた。

「確か……本来の未来では、全く別の女子生徒を喰らって覚醒し、さんざん暴れ回ってから逃亡するんだったな?」

「はい。皆さんのガードが固すぎて、リディアを捕えられなかったようです」

 愛想笑いにも似た表情で、ルーシーさんは嘘を並べた。
だって、本来の未来では……いや、シナリオでは強すぎるリディアを恐れて、手が出せなかっただけだから。
でも、それを言うと色々ややこしくなるため誤魔化している。

「そうか……なら、途中までその未来通りに出来ないか?レーヴェン殿下のギフトを使って、ターゲットとその女子生徒を監視すれば……」

「────お兄様」

 咎めるような声色で呼び掛け、私は月の瞳をじっと見つめた。
グッと言葉に詰まる兄の前で、私は何とも言えない表情を浮かべる。
心配ゆえにこのような提案をしているのは、分かっているから。
でも、ここは妹としてきちんと諌めるべきだろう。

「それは賛同しかねます。危険だと分かっていながら、傍観するのはもう御免ですから。何より、本来の未来に沿って行動するとなると時間を要してしまいます。その間に魔王討伐の件を知られてしまったら、全て水の泡です」

 『人の口に戸は立てられない』という諺があるように、どこから話が漏れるか分からない。
あの会議に参加してくれた方々を信用していない訳じゃないけど、やはり早期解決が望ましい。

 『魔王に何か手を打たれる前に』と逸る気持ちを押さえ、私は小さく笑う。

「大丈夫です。必ず無事に帰ってきますから。私の魔法の威力は、お兄様もご存知でしょう?」

「それに、俺が教え込んだ体術もあるし!不意討ちさえなければ、大丈夫だ!」

 『戦闘経験は浅いが、ゴリ押しでいける!』と太鼓判を押し、リエート卿はグッと親指を立てた。
敢えて楽観的な態度を見せる彼に、兄は呆れたような表情を浮かべる。
『この筋肉バカが』と毒づきながらリエート卿の足を蹴飛ばし、一歩前へ出た。

「悪い。ちょっと冷静さを失っていた。さっきの発言は忘れてくれ」

 そう言って頭を下げる兄は、もうすっかり吹っ切れた様子だった。
『僕の妹を囮に使うんだ、絶対成功させるぞ』と意気込み、前を向いている。
月の瞳に強い意志を宿す彼の前で、ルーシーさんはホッとしたように表情を和らげた。

「では、当初の予定通りレーヴェン殿下は引き続きターゲットの監視を。一応、リディアにもマーキングしておいて、いざという時居場所を突き止められるようにしておいてください」

「分かった」

 すんなり首を縦に振るレーヴェン殿下は、こちらに向き直りそっと手を差し出す。
『ちょっといいかな?』とお伺いを立ててくる彼に、私はコクリと頷いた。
と同時に、手を重ねじっと待つ。

「じゃあ、少しだけ我慢しててね」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...