お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど

文字の大きさ
65 / 98
第二章

進捗報告

しおりを挟む
「じゃあ、僕達も席に着こう」

 という兄の発言により、私達も近くの椅子に腰を下ろす。
これで全員着席した訳だが……一体、何が始まるのだろうか。
『やっぱり、アレ関係かな?』と首を傾げる中、父とアレン小公爵が互いに頷き合った。
かと思えば、おもむろに席を立つ。

「これは後ほどレーヴェン殿下にもお伝えするが」

 そう前置きしてから、父はこちらを……いや、ルーシーさんを見た。

「聖女候補殿より承った、アイテムの収集及び四天王の討伐────全て完了した」

「急かす訳じゃないが、あとはお前達の分だけってことになる」

「「!!」」

 想定より遥かに早い進捗具合に、私とルーシーさんは衝撃を受けた。
兄やリエート卿はもう既に知らされていたのか、あまり驚いた様子はない。
ただ、やはり表情は硬かった。
魔王との戦いがより現実味を帯びてきて、不安と緊張に苛まれているのかもしれない。

「出来ることなら手助けしてやりたいが、聖女候補殿の話を聞く限り静観するのが一番だと思われる」

「だから基本ノータッチを貫くが、何か力になれることがあれば言ってくれ」

「もちろん、遠慮はナシよ?私達は気を使われるより、頼られる方が嬉しいんだから」

 朗らかに微笑む母は、『いつでも連絡してきなさい』と言い聞かせる。
ちゃんと頼れる存在が居るんだよ、と示すように。
人一倍責任感の強いメンバーが揃ってしまったため、子供達だけで抱え込まないか心配なのだろう。
気遣わしげな視線をこちらに向ける母の横で、アレン小公爵は再度席に着く。

「まあ、これで報告っつーか話は終わり。結界、もう解いてもいいぞ」

 『ありがとな』と言って笑うアレン小公爵に、私は一つ頷いた。
パンッと手を叩いて結界を解除し、少しだけ肩の力を抜く。
────と、ここでルーシーさんが席を立った。

「お話、ありがとうございました。そろそろ時間ですので、お先に失礼します」

 イベント開始時刻のことを気にしているのか、ルーシーさんは早々に踵を返す。
父達の進捗具合を聞いて焦ったのか、それとも単に気合いが入っているのか、彼女は足早に生徒会室を出ていった。
一応、まだ時間に余裕はあるというのに。

「なあ、今回の任務はルーシーに一任するんだったよな?」

 パタンと閉まった扉を見つめ、リエート卿は頬杖をつく。
どこか心配そうな雰囲気を漂わせる彼に、私はそっと眉尻を下げた。

「はい。未来予知によると、ルーシーさん一人で任務をこなしていたようなので。下手に介入するのは、危険と判断しました。幸い、危害を加えられるような場面はないそうですし」

「じゃあ、俺達は本当に何も出来ないなぁ」

「そうですね……こうなったら、普通に学園祭を楽しむしかないと思います」

 『ルーシーさんもそれを望んでいますし』と言うと、リエート卿は小さく頷いた。
歯痒い気持ちを押し殺すように軽く伸びをして、立ち上がる。
と同時に、目を剥いた。

「あっ……リディアの個人発表のやつ、もうすぐかも」

「「「!!」」」

 ガバッと勢いよく掛け時計に視線を向け、私の家族は慌てて扉へ向かう。
それはもう鬼気迫る勢いで。
普段おっとりしている母さえも目を光らせ、素早く廊下に出た。
かと思えば、直ぐにどこかへ行ってしまう。

「あー……確か、個人発表のオークションは一年生の作品から順番に競売に掛けられるんだっけ?」

 あっという間に居なくなってしまったグレンジャー公爵家の面々を前に、アレン小公爵は苦笑する。
その隣で、リエート卿も微妙な表情を浮かべた。

「夫人や公爵はまだ分かるけど、何でニクスまで焦ってんだよ。あいつ、既に同じものを持っているじゃん」

 先日大量にプレゼントしたブレスレットを思い浮かべ、リエート卿はやれやれとかぶりを振った。
かと思えば、愉快げに目を細める。

「今回のオークションの最高値は、これで決まりだな」

「なんなら、俺達も便乗するか?」

 まさかの悪ノリに転じたアレン小公爵に、私は思わず肩を震わせた。
だって、グレンジャー公爵家とクライン公爵家が競い合ったら、間違いなくとんでもない値段になるから。
『0が一つ多いどころの騒ぎじゃない……』と青ざめ、私は首を横に振る。

「本当にただのブレスレットなので、勘弁してください」

「ははっ。安心してくれ。冗談だ。俺の狙いはリエートの作品だけだからな」

 『そのために温存しておかないと』と言い、アレン小公爵はキラリと目を光らせた。
獲物を狙う狩人のように真剣な彼に、リエート卿は小さく肩を竦める。
多分個人的にやめてほしいんだろうが、もう何を言っても無駄だと悟っているようだ。
『勝手にしてくれ』とでも言うように一つ息を吐き、リエート卿は頭の後ろに手を回す。

「んじゃ、俺達は適当にそこら辺ブラブラしようぜ」

「ただここで公爵達の帰りを待っているのも、退屈だもんな」

 リエート卿の提案に理解を示し、アレン小公爵は『さあ、行こう』と促してくる。
その視線の先には、どう考えても私しかおらず……。

「えっ?あの、私もご一緒してよろしいんですか?せっかくの兄弟水入らずですのに」

 『お邪魔では?』と心配する私に、リエート卿とアレン小公爵は顔を見合わせた。
かと思えば、プッと吹き出す。

「あんだけ家族ぐるみの付き合いをしておいて、今更そんなの気にすんなよ」

「それに弟とは、また明日にでも二人で回ればいいんだし」

 『てか、四日間ずっと二人きりにされても困る』と冗談めかしに言い、アレン小公爵は目を細めた。
『気にしなくていい』と言葉や態度で表す彼を前に、リエート卿は長テーブルに寄り掛かる。

「大体、ここでリディアを放置したら間違いなくニクス達に怒られるって」

「ついでにウチの両親からも」

「リディアのこと、めちゃくちゃ気に入っているからなぁ」

 しみじみとした様子で呟き、リエート卿はどこか遠い目をする。
『もはや、あれ自分の娘扱いだよ』と語りつつ、身を起こした。
と同時に、こちらへ手を差し伸べる。

「てことで、一緒に行こうぜ」

 いつものように明るく笑って、リエート卿はエスコートを申し出た。
『楽しい思い出を作ろう』と述べる彼に促され、私は手を重ねる。
ここまで言ってもらって、断るのはさすがに失礼かと思い。
何より、私も彼らと過ごしたかった。

 お兄様達が戻ってくるまでの間だけ、兄弟水入らずにお邪魔させてもらおう。

 などと考えながら、私はリエート卿やアレン小公爵と共に生徒会室を後にした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...