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第二章
もう知っている《レーヴェン side》
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◇◆◇◆
おっと、危ない危ない。
倒れたリディア嬢を咄嗟に抱き止め、私は一つ息を吐く。
傍に立つ三人も同様に、安堵を見せていた。
「レーヴェン殿下、運搬は僕が……」
「いや、俺が……」
「悪いけど、今のニクスとリエートには任せられない。君達は一度、頭を冷やした方がいい。何故、この子が倒れたかは言われなくても分かるだろう?」
ニクスとリエートの申し出をハッキリ拒絶し、私はリディア嬢をお姫様抱っこする。
『渡さないよ』とでも言うように。
「受け入れる覚悟をしてから、おいで。じゃないと、皆傷つく羽目になる」
「「……はい」」
誰も幸せにならない結果になるのは薄々気づいているのか、二人は案外素直に頷いた。
普段なら、強硬手段へ出てでもリディア嬢の傍を離れないのに。
「リディアをお願いします」
「俺らも出来るだけ早く、気持ちに整理付けるんで」
「ああ」
首を縦に振って了承し、私はルーシー嬢に向き直った。
「ルーシー嬢、悪いけど付き添ってくれるかい?さすがに女性と二人きりでは、変な誤解を生みかねないから」
「分かりました」
心配そうにリディア嬢を見つめながら、ルーシー嬢は二つ返事で了承する。
『一応、治療しておいた方がいいかな?』と迷う彼女を他所に、私はニクスとリエートに再度挨拶した。
そして保健室に行くと、リディア嬢をベッドに寝かせる。
「リディア……」
彼女の額に手を当て、ルーシー嬢は切なく呟いた。
かと思えば、こちらに厳しい目を向ける。
「レーヴェン様、先程の対応は凄く感謝しています。私では、あんな風に場を収められなかったと思うので……でも────何故、そんなに落ち着いていられるんですか?」
案の定とでも言うべきか、ルーシー嬢は警戒心を剥き出しにした。
『元々あまり動じない性格とはいえ、さすがに冷静すぎる』と。
まあ、普通は違和感を抱くよね。
私も同じ立場なら、探りを入れた筈だ。
『ここまで直球ではないけど』と肩を竦め、傍にあった丸椅子へ腰掛けた。
ルーシー嬢もこの場に残るつもりなのか、壁際から椅子を引っ張ってくる。
「それで、どうなんですか?」
ベッドを挟んだ向かい側に腰を下ろし、ルーシー嬢は語気を強めた。
『絶対に全部聞き出してやる』と意気込む彼女の前で、私は苦笑する。
「そんなに問い質さなくても、ちゃんと説明するよ。リディア嬢が目を覚ましてからね」
「────あの、私がどうかしましたか?」
控えめに声を上げ、私とルーシー嬢を交互に見るのは────間違いなく、リディア嬢だった。
どうやら、今しがた目を覚ましたらしい。
困惑気味に視線をさまよわせる彼女に、私とルーシー嬢は経緯を説明した。
すると、リディア嬢の顔色はどんどん悪くなっていく。
恐らく、倒れる前の記憶を思い出したのだろう。
「あぁ……そうでしたね、私……」
額に手を当て、悲しげに笑うリディア嬢は少しばかり涙ぐむ。
でも、決して泣かなかった。
きっと、自分に泣く権利なんてないと思っているのだろう。
どうして、君はいつもいつも自分に厳しいのかな。
別に泣いたって、いいのに。
私もルーシー嬢も君を責めることはないよ?
『もっと甘えてほしいのにな』と思案する中、リディア嬢はそっと身を起こした。
かと思えば、私達に向かって頭を下げる。
「お二人とも、色々とありがとうございました。もう大丈夫ですので、私のことは放って……」
「そんなこと出来る訳ないでしょ、お馬鹿!」
自分の微妙な立場を理解しているからこその発言に、ルーシー嬢は目を吊り上げた。
勢いよく立ち上がりリディア嬢の肩を掴むと、力任せにブンブン揺さぶる。
「今、一人にしたら絶対悪い方向に考えるじゃん!貴方、自分のことに対してはシビアというか容赦ないんだから!他人にはゲロ甘のくせに!」
「えっ?いや、そんなことは……」
「ある!異論は認めない!」
『反論したら、このほっぺ引きちぎるよ!』と言い、ルーシー嬢はリディア嬢の頬を引っ張った。
病人が相手でもお構いなしの彼女は、『バカ!あんぽんたん!マヌケ!』と子供のような悪口を吐く。
「いい!?私は何があろうと、貴方の友人!辛い時こそ傍に居るし、支えるから!」
「ルーシーさん……」
感激したように目を潤ませ、リディア嬢は口元に手を当てた。
感謝と尊敬の籠った眼差しを向ける彼女の前で、ルーシー嬢は少し頬を赤くする。
今更ながら照れ臭くなってきたのか、リディア嬢の頬から手を離し、椅子に座り直した。
かと思えば、わざとらしく咳払いして背筋を伸ばす。
「ま、まあ……とりあえず、私は貴方の傍から離れないってことで。それより、レーヴェンから話を聞きましょ。こいつ、絶対何か隠して……」
「る、ルーシーさん!口調が……!」
慌てた様子で話を遮り、リディア嬢はこちらを振り返る。
と同時に、ルーシー嬢が『あっ……』と声を漏らした。
サァーッと青ざめていく彼女を前に、私はゆるりと口角を上げる。
だって、あまりにもおっちょこちょい過ぎて。
「ふふふっ。大丈夫だよ、気にしてないから。というより────君が私を……いや、私達を呼び捨てにしていたのはもう知っている」
「「!?」」
『話の導入にちょうどいいだろう』と暴露すると、二人は石のように固まった。
視線だけ動かして互いを見遣り、『どういうこと!?』と無言で問い掛け合っている。
実に分かりやすい反応を示す二人の前で、私はまたもや笑みを零した。
本当に見ていて飽きないな、この二人は。
『表情がコロコロ変わって面白い』と思いつつ、私はおもむろに足を組む。
「詳しく話すと長くなるから、先に結論だけ言うね────私は校舎裏でのやり取りを盗み聞き……いや、この場合は盗み見かな?していたんだ」
『口唇を読めばある程度、言葉は分かるからね』と付け足し、ニッコリと微笑んだ。
すると、リディア嬢が間髪容れずに声を上げる。
「それは本当ですか?殿下のお言葉を疑う訳ではありませんが、ここ最近はしっかり対策を立てて密会を隠していたので……いまいちピンと来ないと言いますか」
『簡単には信じられない』と主張するリディア嬢に、私はスッと目を細めた。
「対策というのは、結界と幻術のことかな?」
「!!」
「悪いけど、それらは私に通用しないよ。だって────『千里眼』を通して、観察していたからね」
『その程度の対策じゃ、防げない』と説明する私に、リディア嬢はようやく理解を示す。
対策の内容まで言い当てられたため、信じるしかないのだろう。
でも、彼女より警戒心の強いルーシー嬢は納得いかない様子だった。
「確か、『千里眼』って対象をマーキングする必要があるんですよね?」
「ああ、そうだね」
間髪容れずに肯定すると、ルーシー嬢は僅かに身を乗り出してきた。
「なら、おかしくないですか?だって、私達は何もされていませんよ?体に触れるのはもちろん、私物にだって」
おっと、危ない危ない。
倒れたリディア嬢を咄嗟に抱き止め、私は一つ息を吐く。
傍に立つ三人も同様に、安堵を見せていた。
「レーヴェン殿下、運搬は僕が……」
「いや、俺が……」
「悪いけど、今のニクスとリエートには任せられない。君達は一度、頭を冷やした方がいい。何故、この子が倒れたかは言われなくても分かるだろう?」
ニクスとリエートの申し出をハッキリ拒絶し、私はリディア嬢をお姫様抱っこする。
『渡さないよ』とでも言うように。
「受け入れる覚悟をしてから、おいで。じゃないと、皆傷つく羽目になる」
「「……はい」」
誰も幸せにならない結果になるのは薄々気づいているのか、二人は案外素直に頷いた。
普段なら、強硬手段へ出てでもリディア嬢の傍を離れないのに。
「リディアをお願いします」
「俺らも出来るだけ早く、気持ちに整理付けるんで」
「ああ」
首を縦に振って了承し、私はルーシー嬢に向き直った。
「ルーシー嬢、悪いけど付き添ってくれるかい?さすがに女性と二人きりでは、変な誤解を生みかねないから」
「分かりました」
心配そうにリディア嬢を見つめながら、ルーシー嬢は二つ返事で了承する。
『一応、治療しておいた方がいいかな?』と迷う彼女を他所に、私はニクスとリエートに再度挨拶した。
そして保健室に行くと、リディア嬢をベッドに寝かせる。
「リディア……」
彼女の額に手を当て、ルーシー嬢は切なく呟いた。
かと思えば、こちらに厳しい目を向ける。
「レーヴェン様、先程の対応は凄く感謝しています。私では、あんな風に場を収められなかったと思うので……でも────何故、そんなに落ち着いていられるんですか?」
案の定とでも言うべきか、ルーシー嬢は警戒心を剥き出しにした。
『元々あまり動じない性格とはいえ、さすがに冷静すぎる』と。
まあ、普通は違和感を抱くよね。
私も同じ立場なら、探りを入れた筈だ。
『ここまで直球ではないけど』と肩を竦め、傍にあった丸椅子へ腰掛けた。
ルーシー嬢もこの場に残るつもりなのか、壁際から椅子を引っ張ってくる。
「それで、どうなんですか?」
ベッドを挟んだ向かい側に腰を下ろし、ルーシー嬢は語気を強めた。
『絶対に全部聞き出してやる』と意気込む彼女の前で、私は苦笑する。
「そんなに問い質さなくても、ちゃんと説明するよ。リディア嬢が目を覚ましてからね」
「────あの、私がどうかしましたか?」
控えめに声を上げ、私とルーシー嬢を交互に見るのは────間違いなく、リディア嬢だった。
どうやら、今しがた目を覚ましたらしい。
困惑気味に視線をさまよわせる彼女に、私とルーシー嬢は経緯を説明した。
すると、リディア嬢の顔色はどんどん悪くなっていく。
恐らく、倒れる前の記憶を思い出したのだろう。
「あぁ……そうでしたね、私……」
額に手を当て、悲しげに笑うリディア嬢は少しばかり涙ぐむ。
でも、決して泣かなかった。
きっと、自分に泣く権利なんてないと思っているのだろう。
どうして、君はいつもいつも自分に厳しいのかな。
別に泣いたって、いいのに。
私もルーシー嬢も君を責めることはないよ?
『もっと甘えてほしいのにな』と思案する中、リディア嬢はそっと身を起こした。
かと思えば、私達に向かって頭を下げる。
「お二人とも、色々とありがとうございました。もう大丈夫ですので、私のことは放って……」
「そんなこと出来る訳ないでしょ、お馬鹿!」
自分の微妙な立場を理解しているからこその発言に、ルーシー嬢は目を吊り上げた。
勢いよく立ち上がりリディア嬢の肩を掴むと、力任せにブンブン揺さぶる。
「今、一人にしたら絶対悪い方向に考えるじゃん!貴方、自分のことに対してはシビアというか容赦ないんだから!他人にはゲロ甘のくせに!」
「えっ?いや、そんなことは……」
「ある!異論は認めない!」
『反論したら、このほっぺ引きちぎるよ!』と言い、ルーシー嬢はリディア嬢の頬を引っ張った。
病人が相手でもお構いなしの彼女は、『バカ!あんぽんたん!マヌケ!』と子供のような悪口を吐く。
「いい!?私は何があろうと、貴方の友人!辛い時こそ傍に居るし、支えるから!」
「ルーシーさん……」
感激したように目を潤ませ、リディア嬢は口元に手を当てた。
感謝と尊敬の籠った眼差しを向ける彼女の前で、ルーシー嬢は少し頬を赤くする。
今更ながら照れ臭くなってきたのか、リディア嬢の頬から手を離し、椅子に座り直した。
かと思えば、わざとらしく咳払いして背筋を伸ばす。
「ま、まあ……とりあえず、私は貴方の傍から離れないってことで。それより、レーヴェンから話を聞きましょ。こいつ、絶対何か隠して……」
「る、ルーシーさん!口調が……!」
慌てた様子で話を遮り、リディア嬢はこちらを振り返る。
と同時に、ルーシー嬢が『あっ……』と声を漏らした。
サァーッと青ざめていく彼女を前に、私はゆるりと口角を上げる。
だって、あまりにもおっちょこちょい過ぎて。
「ふふふっ。大丈夫だよ、気にしてないから。というより────君が私を……いや、私達を呼び捨てにしていたのはもう知っている」
「「!?」」
『話の導入にちょうどいいだろう』と暴露すると、二人は石のように固まった。
視線だけ動かして互いを見遣り、『どういうこと!?』と無言で問い掛け合っている。
実に分かりやすい反応を示す二人の前で、私はまたもや笑みを零した。
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『口唇を読めばある程度、言葉は分かるからね』と付け足し、ニッコリと微笑んだ。
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「悪いけど、それらは私に通用しないよ。だって────『千里眼』を通して、観察していたからね」
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でも、彼女より警戒心の強いルーシー嬢は納得いかない様子だった。
「確か、『千里眼』って対象をマーキングする必要があるんですよね?」
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