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6 冷蔵庫ときのこと強いヤツ
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ダンジョン5階に下り、ここらでひとつ。
ピネスは道ゆくゴブリンを斬っている内に忘れ流していた、校長が例のビルドをし、こしらえたという2人の服装のチェックを勝手ながら始めた。
宙を舞っていた赤いノートを手に取り開き、書き込まれた情報を読み込んでいく。
⬜︎タコイカ学習帳
緒方結美:
おしゃれなダイゾーの料理頭巾★★
気合+1
お得+3
ふつうの亀のショートソード★★★★★★
威力 小減
シールド値 中
水属性+1
水耐性+3
ゴブリンなクールな緑のシャツ★★★★★★★
ダメージを受けた際 小回復
ダメージを受けた際 スピード小
風耐性+2
不黒のブレザー★
闇+1
不黒のスカート★
月のもこもこなコボルトベルト★★★★★★★
ダメージを与えた際 敵のシールド硬度小減
魔力量 小
魔力量 小減
魔力量 小
ゴブリンな堅牢なアスパラソックス★★★★★
シールド硬度 小
シールド値 小
クリティカル威力 中減
榎田椎名:
綿毛の豪快なミノたアックス★★★★★★★★★
敵を倒した際 シールド値小回復
威力 中
威力 小
クリティカル威力 大減
魔法威力 中減
重さ 中減
お気に入りのしいたけベレー帽★★★
きのこを食すほどに 極微成長
焼しいたけ色の修道服★★★
きのこを食すほどに 極微成長
風の加護のローファー★★★★★★
武器に風属性を宿すことができる(魔力を消費)
風+3
水-5
※本人の願い、成績表やメンタルチェックの結果に基づき、ダンジョンでの戦い方振る舞い方を想定し、不黒文校長先生がひとりひとり装備品を熟考ビルドしたものである。
例:
浦木幸 ゴブリンやコボルトを躊躇なく屠るほど血の気が多く、Luck値の高いラッキーボーイなのでクリティカルバランスビルド
不黒文 異能ネクロマンシーと浦木幸より高い魔力量を得意とするため魔法使役ビルド
⬜︎
(きのこで成長するってどんな服だ気になるな……そんなのドロップしたっけ? まぁ、それより────俺ってなんか血の気多いことにされてね? 俺ってぇ……そうなの? じゃなくて、そんなことより)
「どぅ、発現した?」
「いやっまだ……ごめんね浦木く」
「まぁ気楽にいこーぜ。俺も自分の異能ってのが【幸運】だって、校長に言われて初めて分かったし、もしかしたらもう発現してるかもしれないぞ」
「そ、そうなの? 浦木くんの異能が幸運?」
「そそ、だからさ。俺もなんか見てて分かったら教えてやるよ。緒方結美の【異能】!」
「あっ、ありがとう……(なんでフルネーム?)」
緒方に異能が発現したかどうかを、ピネスは軽く投げかけ問うたが、依然何も発現した様子はないと緒方本人は言う。だが、既に何かしらの異能が知らず発現している可能性はなきにしもあらず。ピネスは微笑み、緒方は戸惑いながらも素直に礼を言った。
「(のこっ)!? きのこさん発見ありました!」
「えーまたあったのかよ。さすがきのこの人、あっ、それって異能だったりするか?」
「えぇ。異能【きのこレーダー】です。きのこさんのいらっしゃる場所だけが、ビビッとアタマが痺れて分かる気がします。ひじょーに……のこっと!」
駆けていったきのこシスターは、ダンジョン小部屋の隅に生えていたそこそこ大きなきのこをもぎ取った。そしてにっこりと上機嫌に微笑み、それをピネスたちへと片手に無邪気に見せつけた。
「へぇーきのこレーダー、随分限定的なレーダーだな……それ(きのこだけは逆に高性能レーダーじゃね)」
「すごい異能……! あっ、それって山のまつたけもすぐ見つけられるのかも!(テレビでやってた、むずかしいの)」
「言われてみりゃすごいっちゃすごいか。きのこ狩りツアーにはもってこいだな、それ。まったけ取り放題はひじょーに夢がひろがるが──恨まれもしそうだな、あんまり取りすぎると」
自分の異能はきのこレーダーだと自己申告する、のこっち先輩女子。もう既に十分きのこくさいリュックに、新顔のきのこを押し込まれたピネスは緋色の短剣を構える。
3人の雑談最中に小部屋に迷い込んできた一列に並び迫るゴブリンらのツアー集団に、香るリュックを背負ったまま、剣を構えた男子は、いの一番に飛び込んでいった。
▼
▽
ゴブリンが部屋中に展開する前に、通路で一体一体を相手どり迎え討つことに成功。汗を一粒かくまでもなく片付けたピネスと、持参した大斧で協力したきのこシスターこと榎田椎名。もはや手慣れたように最後の一体を仕留めたピネスの横顔に、榎田椎名は斧の石突で石道を小突き気を引いた。そして平坦な声で話しかけた。
「ご提案です」
「あーなんだ?」
「ゴブリンさんを一体のこし、頭巾さんにそれを倒させるのはいかがですか? その異能、ゴブリンさんを栄養にのこっと地から自生するかと」
「あーーなるほ……いや、わざわざさぁーー、そんなタイマンなんてしないでよくないか。ほらっ、あぶないし? ────いこーぜ?」
その提案が直感的にどうも良いものとは思えなかった。ピネスはショートソードを手に持ったまま振り返り、佇み待っていた頭巾の女子の方を見た。
「うっ、うん!」
親指で背方の通路奥を指して、ピネスは緒方を促す。緒方は頷き、手汗のしめる剣を丁寧に鞘へと仕舞い、その男子の背を追って歩き出した。
提案者の榎田椎名は、何故かもうピネスが先ほどノールックで指さしていた通路中途まで進んで待っていた。ピネスが待っていた榎田の横を通りすぎようとした時、榎田は壁際に大斧をもたれかけさせ、親指を立ててピネスに向けてサムズアップをした。
「きのこジョークでした」
「あぁ? ────さっきのジョークかよ? なんでわざわざ」
「武力、女子力、きのこ力」
「すまん、あぁー……どゆこと?」
「やっぱりマイナスです♪」
「あぁ? なんで……なんでぇマイナス……」
榎田椎名のその瞳には一体何が見えていたのか。意図不明の良さげ親指のジェスチャー送られたはずが、何かのポイントをマイナスされてしまった一人の男子。
雑談後は切り替え早く、また頭に感覚を張り巡らせ、きのこを探し先をゆくシスターの姿がある。そのタイトに浮かぶ尻のラインに何の気なしに目を凝らし、ピネスは後を追っていった。
▼▼▼
▽▽▽
⬜︎タコイカ学習帳
GBシャーマンナイトはゴブリンを召喚した。
召喚使役されたゴブリンA~Jは4人に襲いかかる。
ピネスはゴブリンABCを迎撃、温まってきた体とどこかデジャブするシチュエーションに、あのクリティカルな感覚を思い出す。そしてショートソードの一撃で3体を仕留めた。降ってきたラッキーに喜ぶピネスは、背後を振り返らずボスの首を目指す。
きのこシスターは大斧をビュンと横薙ぎゴブリンDEFを弾き飛ばす、ピネスと並び前衛でせっせと手堅く働く。
ゴブリンGHはピネスときのこシスター暴れる2人をすり抜け、後ろに控える頭巾の女を狙おうとその爪牙を光らせ画策、走る。
しかし尖った爪は、彼女を守ろうと割り込んできた白い装甲に通用せず折れ、牙は開かれた白扉に嘲笑うように砕かれ吹き飛ばされた。
ゴブリンIJは危険な存在となったピネスの勢いを止められず、緋色のサビとなり散る────
勇ましく立ちはだかる危険に飛び込み、緋色に爆した光景が鮮やかに広がる。
巨躯は跪き、倒れた緑肌の化物は水を浴びせられた雪のようにダンジョンにどろっと溶けてゆく。
浦木幸、榎田椎名、緒方結美、冷蔵庫(仮)は戦闘に勝利した。
《不黒ダンジョン20FGBシャーマンナイトの大部屋》
⬜︎
ピネスが今回の目標だと思い込んでいるダンジョンの20Fを踏破する事に成功した。そして仲間の助力もあってか、以前よりスムーズに、前回の冒険での大敵であったGBシャーマンナイトの討伐にも成功。
「ふぅー、なんとかごぶごぶを引いてラッキークリティカル……ってか。(ゴブリンだけに)たしか、とりあえず20Fまで引率して切り上げろって校長が言ってたな」
これでGBシャーマンナイトを二度葬ったことになる。さらに今回もクリティカルなイチゲキで、爽快なクリティカルを本番のボス戦で見事に叩き出した。そんな手応えにピネスは、少々満足気な表情を浮かべ、仲間の方を振り返る。
すると、後ろに控えていた頭巾さんがポニーテールを揺らし駆け寄ってきた。ふと、前回抱きつかれていた、バグった校長の距離感をピネスは思い出す。意味のないことを悶々と浮かべてしまったがすぐに忘れ、適切な距離を保ち立ち止まった緒方のことを普通に見つめた。
「おっおつかれ浦木くん。あのぉ……。なんか先に下りていったけど……のこっちさん……」
「おぅーおつか……っておい、まじか」
「まじみたい……だね……」
きょろきょろとボス部屋の辺りを探る────が、しいたけファッションのあの娘はそこにはいない。どこに行ったのかは目撃した緒方に今聞いた。ピネスの睨む視界のそこにある、次への地下階段。
せっかく区切りのボスであるGBシャーマンナイトを倒し、あとは帰るだけというのに何故そんなことになったのか。ピネスは少し眉間に皺を寄せたが、異能きのこレーダーを頼り、またふらふらと彼女は鼻唄まじりに階段を降りていったのだろうと、そんな光景がすぐに想像がついた。
「まぁ、GB相手にも難なく勝てたし次は流れでいうと30だよな? なんとかなるか? とにかくきのこの人、のこっちさんを追おうぜ。って俺が引率するんじゃなかったっけこれ?(終始だれかの屈む尻を見ていた気がするが)」
「え、えぇ……うんわたしも追った方がいいとおもう。……うん、浦木くんがわたしたちをいんそ」
「って冷蔵庫まで先に行ってるぅー!? 俺は冷蔵庫すら引率できないのかこりゃダメだ、急ごうぜ! って緒方、アレ止められない?」
「う、うん! なんか勝手に動くからごめんね……どう止めればいいか分からなくて」
「はは。あー、もしかすると詰められ過ぎたきのこに支配されてるのかもなー。それか、きのこの人を親と勘違いしてやがるのか? とにかくせっかく発現した異能【冷蔵庫】に逃げられたら大変だ! きっとお疲れだろうがもう少し付き合ってくれ! ダンジョン!」
「う、うん。ダンジョン! ふふっ」
部屋に散らばるドロップアイテムはもったいないが捨て置き、ふらふらと先を進んだと思われる榎田椎名と、ガタガタとさわがしく段差をひとりでに降りる奇妙な白い冷蔵庫を追う。
緒方結美、彼女の発現した異能は、なんと【冷蔵庫】
大変な状況だというのに、緒方の顔は少し明るげに灯った。その背には追いついてはいないが、以前より気持ちを前に追いかける。緒方結美は誘う男子生徒、ちょっぴり頼れる浦木幸と共に────地下21Fへとつづく石色の地下へのステップを踏んでいった。
明るい足取りで21階へと進入したピネスと緒方と(冷蔵庫)。
ピネスや校長も患ったことのあるあのダンジョンハイニナル現象で、勝手に先へと進んでいったのこっち先輩こと榎田椎名。そんなきのこ好きのどうしようもない彼女のことを見つけるべく、未知のダンジョンマップを見落としがないように隈なく、ピネスと緒方二人で一緒に捜索していくことに────────。
「「あっ!」」
「いたなきのこ! って囲まれてやがる」
二人の学生と一台の冷蔵庫が通路から進入した中部屋には、見たことのあるしいたけセットを装備した人物がいた。
その方は、ゴブリンがおめかしし武装した新種【ゴブリンナイト】の集団に、部屋角っこに自生した大事なきのこを背にしながら、絶賛キレイに取り囲まれていた。
それでも彼女は大斧を振り回し牽制を繰り返し、メーカー不明の鉄剣や鉄盾やらちょっといい武装をしたゴブリンナイトらを、簡単には間合いに近づかせない。
すると、たった今入り込んできた見慣れた3つのシルエットと彼女は目が合った。己の目にしいたけの切れ目のような光を宿したシスターは、斧をブンブンと元気に扇ぎながら宣った。
「男子さん、頭巾さん、きのこセラーさん、まさにちょうど良かったです。のこのこいいかんじの挟み撃ちのお恵みプランを、ご提案します♪」
「言われてみればこの状況は敵を引きつけて挟み撃ちといえるな? あぁいいぜ! そこでのこのこ良い感じに頑張ってのこってろ!」
「(きのこセラー……)うんっ! わ、わかった!」
提案されたそのお得プランに了承したピネスの背が、今、緋色のショートソードを抜くように、緒方も今日何度が見た彼の後ろ姿を真似した。
迷わず抜刀したピネスを先頭に冷蔵庫と緒方がつづき展開する。
振り回した当たらない大振りをつづける斧を避ける──その鉄鎧の餓鬼の背を強襲。ピネスは背中にブッ刺し、レア度違いのショートソードで安い鎧を威勢よく貫いた。緋色のショートソードを喰らったゴブリンナイトは絶命し、ピネスは性格が豹変したように一気に圧をかける。
つづき、高速でホバーしながら迫った冷蔵庫も、その白い長方体を慌てるゴブリンナイトにぶちかました。緒方も丁寧に剣を振り回し、当たらずともモンスターらの追い込みに微力ながら加担し援護する。
▼
▽
バレバレの挟み撃ちは、それでも迷わないスピードをもってして決行すれば有効策。効果的に功を奏し、敵の隊列を乱し、中部屋にいたゴブリンナイトたちを全て滅した。
そして21Fの攻略途中で無事、合流を果たした三人と一台はそのまま、ここで小休憩を取ることに全員で納得し決めた。
異能が途中で発現してからはその冷蔵庫の中にしまった、緒方結美のささやかな手荷物であった風呂敷包み。
それを賢く自動でひらいた冷蔵庫の中から取り出し、地面に風呂敷ごと広げていく。
そのアルミ三角には見覚えがある。涎が自然と滴りかけたピネスは、美味そうな銀色に包まれた三角を、図らずしも無断で手に取らずにはいられず。
「あっ! それじゃなくて、浦木くんはこっちのバジP」
浦木幸が今絶賛手に取っている三角、そのてっぺんに付いた茶色の丸シールをみた緒方は、それは彼に食べてほしいものと違うおにぎりだと即座に気付いた。そして別のちいさな緑丸シールの付いた物を彼に手渡した。
「ん? あーバジP! いやーイチバン好きなやつだ、えこれ俺が食っていいの?」
「うん、そっそのためだし……たぶん前のと同じ味になってると……ぉもう」
「おぉ……ありがてぇ」
「私はきのこさん尽くしですか、お布施お恵み感謝っ!」
茶色のシール印の具は全てきのこ。主にのこっちシスター向けに学校の調理室で緒方が握り作ったものであった。飽きないようにシスターが緒方に日々融通してくれている色々なきのこをミックスして具にしている。
「これは? なんか、赤いな?」
赤いシールの貼られたそのアルミ三角を剥いていくと、赤く色づく米粒がそこにあった。バジPを一気に食べ終えたピネスが手をつけた2個目のおにぎり、これは何かと、正座を組み座る緒方に向けて質問する。
「あっそれは……今回のぼっぼうけん枠で……【エビ抜きエビチリのトマチリ……」
「おぉはむっ────あこれイチバン、【エリマキトカゲのエリチリ】? 全おにぎりで」
「ええ!? ばっばじぃバジPは……??? いっ、イチバンそっそれ……エリマキトカゲじゃなくて……(エリチリってなに……)」
緒方が彼の今放ったご感想に驚き顔を長々と浮かべる間にも──彼の胃袋の中で行われている全おにぎりランキングのイチバンは更新されてしまう、あっさりと。
ピネスのかじりついた赤い三角のおにぎりは、おかゆばかりの閉鎖環境生活では珍しい、また刺激的で濃厚な変わったお味だった。現れたのは赤い新星の創作意欲作おにぎり。三日天下の王座についていたバジPを超え、イチバンに躍り出てしまった。
⬜︎タコイカ学習帳
【エビ抜きエビチリのトマチリ(仮)】:
材料
ガイアの恵み
ケチャップ
もうだいぶすっぱいキムチの汁(サンチュ)
ドライミニトマト(屋上)
13Pチーズ(茶室)
味の素(SP校長室)
オイスターソースきのこ&バジル(刻むエビのかわり)
※珍しい材料はブク高の生徒たちがそれぞれのテリトリーに大事に隠し持っているものを、善意や裏の取引や約束で融通してもらっている。
⬜︎
▼
▽
ダンジョンの中部屋で昼食をとり腹を満たしたブク高の一行は、再度この不黒ダンジョンの仕様を綿密に確認し合う。ダンジョン攻略の先輩であるピネスの語りに耳を傾けたシスターは、何度か頷き今それを理解した。
「────そうだったのですか。ルールがわからずのこのこわたしめが階段をくだってしまい、ご迷惑をおかけしました。お赦しを」
シスターはしいたけベレー帽が落ちるほどに、お二人方に向けて頭を下げた。
「いやまぁ電車で一駅乗り過ごしたみたいなもんだから、次の30階で無事石像前にいてくれりゃそれでいいみたいだぜ? あぁーー、過ぎたもんは、もうなんとなく進むしかない」
その男は親指をゆっくりと立たせる。気の利いたことはあまり計算できず、なんとなくでしか物事を言えないが、過ぎた一つの失敗ぐらい気に病むことでもないと、シスターの下げた面を上げるように促した。
「なんとまぁそーですね♪」
面をバッと素速く上げたシスターは、平謝りの態度から、ころっと表情を和らげた。
『もう少しだけ、しおらしくなっていてもいいのでは? きのこだけに』心でそんなことを少しだけ思ったが、ピネスは立てた親指を垂直にキープした。怒る権限も怒るつもりも微塵もないものなので、シスターに釣られて同じく表情を和らげた。
「とにかく30階の石像をみんなで目指せばだいじょーぶ。だっだよね浦木くん?」
緒方は再度この場の引率リーダーに確認する。
「あぁ、やることはたぶん変わんねー。それに昼飯も、バジPも、エリチリ(公式公認商品名)も、おかげさまでぞんぶん食えたしなっ、ダンジョン特権ダンジョン特権」
「エリチリ(エビチリもどきだからまぁなんかいいかなって)ふふっ、ダンジョン特権ふふふっ」
ずっと立てていた暇なその親指を握りを変えて、右のピースサインにし見せつけた。緒方はピネスの披露した半笑いのピースサインに笑い、やんわりと似たピースサインを握りつくった。
向き合う二人に対して余った榎田椎名シスターは、落ちていたしいたけベレー帽を一人おもむろに被り直した。
1Fより20F、20Fより21F、学校よりダンジョン。おにぎりをやんわり握りつづけ形になっていくように、良くなってきたパーティーのムードがある。今、形作る自分も含めたいい距離感のトライアングルの位置関係に────再度、自然と3-C榎田椎名シスターは微笑む。
そろそろと手に取った大斧の石突は、地をリズム良く打ち鳴らし、準備万端の明るい合図を二人にした。
⬜︎タコイカ学習帳
腹をこしらえ結束を新たに────
ゴブリンナイトなどの強さのグレードが20F以前より上がったモンスターを、3人(+1台)で滅していき、その異能チカラを合わせて順調にダンジョンを駆け降りていく。
そしてたどりついた……
《不黒ダンジョン30F》
ピネス:
シールド値 66%
魔力量 74%
榎田椎名:
シールド値 61%
魔力量 37%
緒方結美:
シールド値 82%
魔力量 42%
冷蔵庫(仮):
シールド値 55%
魔力量 42%
⬜︎
「あーなんかこれってさ、魔力量リンクして減ってね。さっきから緒方と冷蔵庫が同じ数値な気がするが」
「えっ? あっ、そっそうかも?」
がらんとした小部屋でタコイカ学習帳を手に取ったピネスは、なんとなく情報数値を見比べた時に気付いたことを緒方に教えて即座に共有した。
「これって冷蔵庫動かすのにも魔力が必要ってことか?」
「たぶんそうかもっ? そういえば……学校の電気とかも魔力でまかなわれてたり? なんか廊下歩いてたら勝手についたり消えたりするよね……浦木くん?」
「あー気にしたことなかったが、確かにするな? はは、そうじゃね? 今度こうちょ」
▽
▽
「う先生に……あっ? あぁ??? えなんだ? どした?」
突然景色のチャンネルが切り替わったように、そこにいたはずが今自分はそこにいない。緒方と話していたはずの自分が今は、なぜか壁と話している。
一瞬のとてつもない変化に訳が分からず。きょろきょろと辺りを探しだしたピネス、彼の振り返った顔に──白い景色がはばたき飛び込んできた。
何事かと顔面から接近しすぎて読めない白を引き剥がする。そして、その開かれたページを読む。
⬜︎タコイカ学習帳
ピネスと緒方結美はリラックスしながら、モンスターのいない小部屋で雑談に励む。
榎田椎名は異能【きのこレーダー】で、見つけた同小部屋隅に自生するきのこを採集中。
榎田椎名が、その灰色の笠に触れた瞬間────
それはランダムジャンプを引き起こす【ランジャン茸】だった。
《30F赤石の通路》
⬜︎
「なんじゃそれええらんじゃんたけええええ!??」
「いやっ、なんだよそれ、えぇ!? そんなの今までダンジョンの角っこのきのこシステムになかったろぉって、んな場合じゃっ! つまりランジャン、ランダムジャンプ……それってぇ、どういうこった!!!」
壁やノートと話していても埒が開かない。ピネスはとりあえず今いる赤石の通路を走った。
が、走る暗がりから現れる行手を塞ぐゴブリンナイトたち。ダンジョンのモンスターは冒険者たちの陥った状況など露知らず。
「そういうのはいいんだってぇ!!」
ピネスは立ち塞がる障害、鉄兵の行進に対して、大きく跳躍し右の壁をスニーカーで蹴った。そして、元の通路のレールへと素速くふらつきながらも着地し戻る。
やったことのない忍びのような身のこなしで交戦をせず敵から上手く逃走。赤く羽ばたくノートとともに、どことも知らない先を急いだ。
▼
▽
⬜︎タコイカ学習帳
細い通路の突き当たりで、走るピネスときのこシスターがばったりと鉢合わせ、合流した。
「あっ男子さん、ランニングとは奇遇ですね♪」
「おわっ!? きのこの!? 奇遇ってより遭遇してラッキーだな! あっそうそう、今はそんなゆるい感じじゃなくって、場所分かるか?」
「はいっ?」
「たくさん詰め込んでたろーー!!」
「なるほどっ♪いいご提案ですっ」
ピネスの提案を呑んだきのこシスター榎田椎名を隊列の先頭にし、2人は通路の先を急ぎ走る────────
⬜︎
▼
▽
唯一の進入口と思われるドアは、内側からは通行禁止のマジナイがかけられており、びくとも開かず。数度試したノックは敵の気を引くだけだ、──意味を成さない。
緒方結美とセットで【ランジャン茸】のトラップ効果で飛ばされた、その異能冷蔵庫は、ダンジョンの予想できない恐ろしさの沼にハマり──
異能冷蔵庫は、迫るモンスターに対して奮闘するも、ダンジョンでの命の数値にも等しいと思われるシールド値が着実に傷つき減少していく。
そしてそんな危機に陥ってしまった緒方結美にも流れる、冷えた玉のような汗。
緒方はショートソードを握りしめたまま、このままやってもきっと自分たちだけでは勝ち目がない事を悟っている。
見える目の先、奥にはまだ、ぐーすか眠る巨大な猪がおり、その巨獣の上には豪華な神輿のようなものが装備されてある。その神輿の上や中では、ゴブリンたちがノリノリに奇声をあげ騒いでいた。まるでその眠れる猪を起こそうとでもするように。
そんな理解も及ばない光景にさらに付随する、猪の子ウリボーが、巨大猪の周りに召喚出現。しかしそのウリボーは可愛いペットなどはない。一部のゴブリンナイトが神輿から下のウリボーに飛び乗り、【ゴブリンナイトライダー】人猪一体の進化を遂げた。
そしてまた、ゴブリンナイトライダーたちは突っ込んできた。4騎のゴブリンナイトライダーたちは剣を意気揚々と掲げて、準備のできたものから次々とウリボーを走らせてかかる。
緒方と冷蔵庫、ささやかな気合いを込めてダンジョンに挑んだ料理頭巾には滲む汗が染みゆき汚れていく。前衛の冷蔵庫は、その白い装甲を幾度引っかかれ穴が開けど、主人を守るために────
その時──不意にウリボーの横腹に突き刺さった翠の刃、それが昂る雷鳴轟かせた。ウリボーに騎乗していたゴブリンナイトは、前方に大きく弾き出され、ダンジョンの壁に緑の鼻から衝突。
同時に緒方の視界に滑り込んできたのは、力を食いしばる横顔。鋭く煌めく緋色のショートソードが、女子を狙った浅はかな突撃に対して、勢い激しい突撃をプレゼントした。
鋭利な突きは、餓鬼と猪ごとを吹き飛ばし、やがて緋色に燃ゆる光景が弾き飛ばした遠くへと咲いた。
「ふぅー焦ったぜぇ、まじダンジョン!」
「えっえ……!?」
後ろに倒れそうになっていたところを支える冷蔵庫。冷蔵庫にもたれ驚く緒方に、緋色の剣を携えた黒ブレザーの黒髪が、肩で息をしながら振り返った。
「おぉ緒方さん、ここにいたかーーー! はぁはぁっ……ところでいきなりで悪いけど……ランジャン茸の食い方って知ってるか! きのこの人が道中そればっかうるさくって!」
「ら、らんじゃん??」
「ふふ、触れた瞬間に瞬間移動するきのこさんがこの世にあるなら、いったいどうすればそのきのこさんを美味しく救済できるのでしょうか、ふふ頭巾さん?」
すっかり目眩しダウンするゴブリンナイトを大斧で滅しながら、榎田椎名は料理班でもある緒方に微笑み話しかける。
「やっ焼いてみたら……どうかな」
「へぇーなるほどその手があったか! 今度遠くから魔法で焼いてみるか」
「やはりおやきですかぁー、試す価値ありです♡ご提案感謝しまっす♪」
「うっうん……! ってそうじゃなくて浦木くん、のこっちさん!」
「あぁ緒方さん分かってるって。さて──きのこ狩りツアーのさいごは、盛大な猪狩りかよ」
「宿命、宿敵ですねっ♪ 害獣は遠慮なく滅するプランをご提案します♪」
「たしかにこんなにたくさんのおおきいイノシシ、困るかもっ……あっでも、牡丹鍋になるなら……うれしいかも……それはそれで」
突撃したゴブリンナイトライダー4騎のうち2騎は、先行した仲間が突然の雷撃と爆撃のダブルの天災でやられてしまい、汗汗とあわてて後退を始めた。
眠る巨大猪の神輿は騒がしい部屋の空気についに目覚めた。のそりと、その逞しき太き四脚で起き上がり、背のゴブリンナイトたちの搭乗する神輿を天へとゆっくりと持ち上げていく。
「ぼたん鍋? なんか聞いたことあるなそれ。モンスターは肉おとさねぇと思うが────んしょっ。異能幸運でなんとかなるかもなぁー、いっちょブッ刺して試してみますかーっ!!」
横たわるウリボーの腹から翠のショートソードを引き抜気回収した。ピネスは緋色の剣を鞘に休ませ、バチバチと帯電した刃の唸る翠を構えた。
ランジャン茸のトラップにかかるも、ついに合流を果たした3人と1台。榎田椎名の異能きのこレーダーが冷蔵庫のきのこさんたちの場所を探り当てるのに役立ってか、緒方も冷蔵庫も、奮闘し抗った結果幸いにも無事を得た。
危機するシチュエーションを各々の異能を繋ぎ潜り抜けて。しかしまだ終わらない──士気を益々上げたブク高の生徒たちと、30Fに鎮座していた巨敵、【ビッグウリボーミコシ】のラストバトルが、今勇ましく駆け出し始まった。
榎田シスターは豪快かつ丁寧に大斧を振り回し、ゴブリンナイト衆を寄せ付けないでいるが、傍目からでも、彼女が肩を下げだし息を乱しているのが見て取れるような疲れをみせる。
「はぁ……ふぅ……女子力っ、これは疲れますっ……」
そんな着実に弱りゆく様を見て、ニヤニヤと笑うゴブリンナイトの歩兵たちは、互いのゴブリン鼻を鳴らし頷いた。そして一斉に、動きに精彩を欠いてきたシスターの元へと飛びかかった。
弱った獲物へと、ダンジョンのゴブリンたちは悪知恵と残虐な本能を働かせて容赦をしない。まとめてかかるミドリ鉄の脅威に────
魔力をはらむ風の刃は四方八方に乱れ飛び、宙に吠えるゴブリンナイト衆を切り裂いた。
それはまさにきのこ力。魔力量を支払い、胞子を飛ばすように周囲の空気を風のマナに染め上げ変換。散布するそれは下地、風の刃の道をつくり、雑なコントロールの荒技を編み出すための。
誘う女子力、荒ぶる武力、センスはのこのこ成長きのこ力。
「のこのこお得なご提案、ありがとうございます、ふふっ!」
細切れのモンスターはどろっと地に溶け失せる。
魔力は使い所が肝心、まとめて葬るとよりお得で爽快だ。榎田シスターはクールに微笑み、激しい風に抱かれふわふわと舞い落ちてきた、しいたけベレー帽を掴み被り直した。
歩兵は逞しいきのこの先輩にまかせ、騎兵には騎兵を。真っ直ぐとホバー移動する冷蔵庫の上に乗ったピネスと緒方は、
「そっちが猪に乗るなら俺たちは白馬にのるぞ! あぁー、なんてなっ! 緒方さん!」
「うんっ!」
緒方の合図で異能冷蔵庫はその上の大扉を開いた。内臓されていた武器をバラバラと前方へと放出する。
剣や槍や斧や盾や三節棍や、まさかのレアドロップ品の大解放が、走り迫っていたウリボーたちにごちゃごちゃと突き刺さっていく。
「はっはっは、でりゃぁ!」
走る冷蔵庫から地へと飛び込んだピネスが、次々とあわてる騎士たちをその翠の短剣を唸らせ討ち取っていく。決して無謀ではない計算された2人と1台の奇策で、ゴブリンナイトライダーたちを効果的に屠っていく。
そして、幾多の敵を討ちながらバチバチと帯電する期待感をその翠の刃に稼ぎ、ピネスは長く息を吐きだした。
「ふぅぃーーー、GBの時みたいに一体倒せど倒せどかー」
「焦らずじっくり攻めることをご提案します♪」
「そーだなぁ別に焦っちゃいないけど、こっちはこっちでそろそろふざけたアレが寝ぼけてる間にラッキーなご提案、したいぜ?」
「では?」
「あぁ、さいしょの予定どおり3、2、1の……12、13、14でっ! ゴブリンには【ゴブリンサンダー】!!!」
ピネスは帯電した剣を明後日の方向へと勢いよく投げ捨てた。そして、遥か天に突き刺さったその剣から雷鳴がとどろく。
待機ストックした充電済みのクリティカルな企みは、今、解放。
天の翠は青く灯り、青く灯った一点からバチバチと唸りを上げて発生した青雷が、ターゲットする鉄鎧剣の類を目掛け────つながった。
天から降り注ぐ全体魔法【ゴブリンサンダー】は、この部屋に召喚されていた全てのモンスターを青く轟き滅した。
「ふむふむピネスくん……こう使うんだろ校長っ!! よーっし上々っ」
「のこのここのこのおっちんじゃいました、羨ましいほどのご提案、すっきりです♪」
「せっ攻めどきっ!!!」
「あぁ、ブク校やっちまえ!!!」
敵の召喚行動にあると見受けられるクールタイムの間に、依然寝ぼけるビッグウリボーミコシへとブク高の3人と1台はここしかないタイミングで、一気呵成に攻め立てた。
ピネスは、もう一つのプラン、緋色のショートソードを鞘からすべり抜く。緒方も呼応し、ふつうの亀のショートソードを高まる士気に強く握る。榎田椎名は、大斧を頭上をぐるりと一回転、勇ましく風ときのこ、そして敵を斬る準備運動を──。冷蔵庫は開いていた扉をしっかりと閉めて、今ブク校パーティーは一斉に前へと走り出した。
▼
▽
神輿に乗るゴブリンたちが番えた矢が、弓から放たれる。さらに投げ槍や、獣の厚い毛皮に突き刺さったレアな剣を、ゴブリンたちはあれよあれよと投げ捨ててドンチャン騒ぎをつづける。
「矢がとんでくる神輿かよ。ってアレさぁ、俺たちのさっき売った武器じゃね……やっぱりゴブリンに気をつけろってかソエジマ」
「そっそうだね……ごめんうらきく」
「ってあぶねっ──お前が突進すんのかよ!!!」
空気をも大きく揺らす間一髪──
足を溜め動き出した猪の要塞は、急にその太い四足で地をうならせ走り出した。ピネスはその突然にも動き出した重戦車に轢かれる前に、隣にいた緒方を俵担ぎにし連れ去った。突風を起こす巨体の突進のレールからなんとか免れた。
「猪突猛進、怒らせてしまいましたか?」
「あぁ……また突っ込んでくるなありゃ、おっと? あーわりぃ緒方さん、じゃぁ……お前にまかせる! うんっ!」
「!? ……あっありがと浦木くん……」
何やら近づき、野菜室の中段でピネスのお尻を小突いてきた冷蔵庫に、今担いでいた緒方のことを任せることにした。
繰り返される巨大神輿獣の突進行動。怒りに狂い、それまで多用していた召喚のコマンドを忘れでもしたのか。しかし、単純なその突進のコマンドを続けられるのは、ものすごく危険で厄介だ。
操者のゴブリンたちすら、構わず振り落とすほどの荒い暴走運転に、
冷蔵庫は緒方をその頭に乗せて避け、ピネスと榎田シスターも床に落ちてきたゴブリンにトドメをくれてやりながら冷静に避けていく。
「てかさぁ……なんかコイツだんだん速くなってね、体感」
「なってるとおもう……わたしも……!」
「早めにどうにかするプランを……ふふ、ご提案?」
「だよなぁ……こういうとき校長なら『スピードバフがどうたらとかクリティカルとか何かの理由をつけてぇ俺をっ』────3、2、1の覚悟で───
─結局最後はこいつでやるしかないのかよ」
「あらっ?? ナラッ」
「えっ浦木くん!??」
その時、彼の取った突然の行動に、緒方は思わず大口をあけ驚き、同じく驚いたシスターはそれを理解したのか迷わず持っていた大斧を投げつけた。
血迷ったか、悪化しそうな状況に急かされてしまったからか、駆け出した一人の黒いブレザーの背が目指したのは、猪突猛進で向かい来る──鼻息荒い巨大猪の鼻。
真っ直ぐ対真っ直ぐ、巨大神輿獣に真っ向勝負を挑む小さなその背は迷っているようには見えない。
彼が前へと向かい無謀にも走り出したその間に、今榎田椎名が投げ放ったありったけの風の魔力を込めた大斧が、身を乗り出し弓矢を地へと番えていた神輿の上のゴブリンアーチャーに命中。榎田シスターは、無茶をするピネスに合わせて、ささやかな援護プランをお届けした。
「神輿は下から担ぐものおおおおなんとかなれええええ」
その駆ける彼の背は一瞬でもっと小さくなり、鋭利に敵を威嚇する巨大な2本の獣の牙の間を抜ける、
鼻水散らす猪鼻をもくぐり抜ける、
昂るテンションにピネスの纏う装備品々のop効果は、知らず振り分けられ、改変ブレンドされた。
【スライディングスピード120%】
【クリティカル破壊力125%】
【スライディング時に限り0.5秒間クリティカル破壊力321%】
未知のシチュエーションに引き出すのはひとりの人間の本領。本領以上のダンジョンのルールに則った、悪魔も女神もあざむくダンジョン俺ルール。
駆ける背、擦れる背、賭けた背。
茶色毛の股下を滑り込む最高のスピード、最高の魔力、最高潮の陽気は今────滑り抜けた。
突撃する鼻から入り、ピンと逆立ち天を示す獣の尾をくぐり出て、一瞬にて冒険者は立ち上がる。そして熱帯びひりつくその背は確信する。
スリル満点に滑り込んだ巨大獣の腹下のアトラクション、そのど真ん中、その愛らしいデベソを、ひと突きにした緋色のショートソードは、極限赤熱する。
炸裂、クリティカル陽術【バーンファイア】
緋色の太陽光は膨らみ、亀裂はしる厚い毛皮の切れ目から漏れ出で、部屋中に赤赤と射し込む。
やがて全ての期待感は爆ぜ、衝撃的な緋色に燃えゆく光景がそこに広がった。
「すっすごっ……!! すごぉぉ……」
「さすが男子さん、のこのここのこのぉー、ふふふっ!!」
「はぁはぁっ────アレっ?? もう一往復ぐらいは覚悟……してたんだけど? ……やっちまったのか」
この日ピネスが放った過去最大威力の【バーンファイア】は、巨敵ビッグウリボーミコシその巨体を跡形もなく爆ぜさせるほどの破壊力。
振り返ったボロく擦れ焼けた彼の背、握る剣の柄もその手にはもうなく、あれほど緊迫した戦闘の熱が冷めてゆく。
またひとつ強敵のボスをその幸運な剣で討った冒険者の男は、ご機嫌よく手を振るシスターと、急ぎ駆け寄るポニーテールの女の子を呆然と見つめた。
ピネスは道ゆくゴブリンを斬っている内に忘れ流していた、校長が例のビルドをし、こしらえたという2人の服装のチェックを勝手ながら始めた。
宙を舞っていた赤いノートを手に取り開き、書き込まれた情報を読み込んでいく。
⬜︎タコイカ学習帳
緒方結美:
おしゃれなダイゾーの料理頭巾★★
気合+1
お得+3
ふつうの亀のショートソード★★★★★★
威力 小減
シールド値 中
水属性+1
水耐性+3
ゴブリンなクールな緑のシャツ★★★★★★★
ダメージを受けた際 小回復
ダメージを受けた際 スピード小
風耐性+2
不黒のブレザー★
闇+1
不黒のスカート★
月のもこもこなコボルトベルト★★★★★★★
ダメージを与えた際 敵のシールド硬度小減
魔力量 小
魔力量 小減
魔力量 小
ゴブリンな堅牢なアスパラソックス★★★★★
シールド硬度 小
シールド値 小
クリティカル威力 中減
榎田椎名:
綿毛の豪快なミノたアックス★★★★★★★★★
敵を倒した際 シールド値小回復
威力 中
威力 小
クリティカル威力 大減
魔法威力 中減
重さ 中減
お気に入りのしいたけベレー帽★★★
きのこを食すほどに 極微成長
焼しいたけ色の修道服★★★
きのこを食すほどに 極微成長
風の加護のローファー★★★★★★
武器に風属性を宿すことができる(魔力を消費)
風+3
水-5
※本人の願い、成績表やメンタルチェックの結果に基づき、ダンジョンでの戦い方振る舞い方を想定し、不黒文校長先生がひとりひとり装備品を熟考ビルドしたものである。
例:
浦木幸 ゴブリンやコボルトを躊躇なく屠るほど血の気が多く、Luck値の高いラッキーボーイなのでクリティカルバランスビルド
不黒文 異能ネクロマンシーと浦木幸より高い魔力量を得意とするため魔法使役ビルド
⬜︎
(きのこで成長するってどんな服だ気になるな……そんなのドロップしたっけ? まぁ、それより────俺ってなんか血の気多いことにされてね? 俺ってぇ……そうなの? じゃなくて、そんなことより)
「どぅ、発現した?」
「いやっまだ……ごめんね浦木く」
「まぁ気楽にいこーぜ。俺も自分の異能ってのが【幸運】だって、校長に言われて初めて分かったし、もしかしたらもう発現してるかもしれないぞ」
「そ、そうなの? 浦木くんの異能が幸運?」
「そそ、だからさ。俺もなんか見てて分かったら教えてやるよ。緒方結美の【異能】!」
「あっ、ありがとう……(なんでフルネーム?)」
緒方に異能が発現したかどうかを、ピネスは軽く投げかけ問うたが、依然何も発現した様子はないと緒方本人は言う。だが、既に何かしらの異能が知らず発現している可能性はなきにしもあらず。ピネスは微笑み、緒方は戸惑いながらも素直に礼を言った。
「(のこっ)!? きのこさん発見ありました!」
「えーまたあったのかよ。さすがきのこの人、あっ、それって異能だったりするか?」
「えぇ。異能【きのこレーダー】です。きのこさんのいらっしゃる場所だけが、ビビッとアタマが痺れて分かる気がします。ひじょーに……のこっと!」
駆けていったきのこシスターは、ダンジョン小部屋の隅に生えていたそこそこ大きなきのこをもぎ取った。そしてにっこりと上機嫌に微笑み、それをピネスたちへと片手に無邪気に見せつけた。
「へぇーきのこレーダー、随分限定的なレーダーだな……それ(きのこだけは逆に高性能レーダーじゃね)」
「すごい異能……! あっ、それって山のまつたけもすぐ見つけられるのかも!(テレビでやってた、むずかしいの)」
「言われてみりゃすごいっちゃすごいか。きのこ狩りツアーにはもってこいだな、それ。まったけ取り放題はひじょーに夢がひろがるが──恨まれもしそうだな、あんまり取りすぎると」
自分の異能はきのこレーダーだと自己申告する、のこっち先輩女子。もう既に十分きのこくさいリュックに、新顔のきのこを押し込まれたピネスは緋色の短剣を構える。
3人の雑談最中に小部屋に迷い込んできた一列に並び迫るゴブリンらのツアー集団に、香るリュックを背負ったまま、剣を構えた男子は、いの一番に飛び込んでいった。
▼
▽
ゴブリンが部屋中に展開する前に、通路で一体一体を相手どり迎え討つことに成功。汗を一粒かくまでもなく片付けたピネスと、持参した大斧で協力したきのこシスターこと榎田椎名。もはや手慣れたように最後の一体を仕留めたピネスの横顔に、榎田椎名は斧の石突で石道を小突き気を引いた。そして平坦な声で話しかけた。
「ご提案です」
「あーなんだ?」
「ゴブリンさんを一体のこし、頭巾さんにそれを倒させるのはいかがですか? その異能、ゴブリンさんを栄養にのこっと地から自生するかと」
「あーーなるほ……いや、わざわざさぁーー、そんなタイマンなんてしないでよくないか。ほらっ、あぶないし? ────いこーぜ?」
その提案が直感的にどうも良いものとは思えなかった。ピネスはショートソードを手に持ったまま振り返り、佇み待っていた頭巾の女子の方を見た。
「うっ、うん!」
親指で背方の通路奥を指して、ピネスは緒方を促す。緒方は頷き、手汗のしめる剣を丁寧に鞘へと仕舞い、その男子の背を追って歩き出した。
提案者の榎田椎名は、何故かもうピネスが先ほどノールックで指さしていた通路中途まで進んで待っていた。ピネスが待っていた榎田の横を通りすぎようとした時、榎田は壁際に大斧をもたれかけさせ、親指を立ててピネスに向けてサムズアップをした。
「きのこジョークでした」
「あぁ? ────さっきのジョークかよ? なんでわざわざ」
「武力、女子力、きのこ力」
「すまん、あぁー……どゆこと?」
「やっぱりマイナスです♪」
「あぁ? なんで……なんでぇマイナス……」
榎田椎名のその瞳には一体何が見えていたのか。意図不明の良さげ親指のジェスチャー送られたはずが、何かのポイントをマイナスされてしまった一人の男子。
雑談後は切り替え早く、また頭に感覚を張り巡らせ、きのこを探し先をゆくシスターの姿がある。そのタイトに浮かぶ尻のラインに何の気なしに目を凝らし、ピネスは後を追っていった。
▼▼▼
▽▽▽
⬜︎タコイカ学習帳
GBシャーマンナイトはゴブリンを召喚した。
召喚使役されたゴブリンA~Jは4人に襲いかかる。
ピネスはゴブリンABCを迎撃、温まってきた体とどこかデジャブするシチュエーションに、あのクリティカルな感覚を思い出す。そしてショートソードの一撃で3体を仕留めた。降ってきたラッキーに喜ぶピネスは、背後を振り返らずボスの首を目指す。
きのこシスターは大斧をビュンと横薙ぎゴブリンDEFを弾き飛ばす、ピネスと並び前衛でせっせと手堅く働く。
ゴブリンGHはピネスときのこシスター暴れる2人をすり抜け、後ろに控える頭巾の女を狙おうとその爪牙を光らせ画策、走る。
しかし尖った爪は、彼女を守ろうと割り込んできた白い装甲に通用せず折れ、牙は開かれた白扉に嘲笑うように砕かれ吹き飛ばされた。
ゴブリンIJは危険な存在となったピネスの勢いを止められず、緋色のサビとなり散る────
勇ましく立ちはだかる危険に飛び込み、緋色に爆した光景が鮮やかに広がる。
巨躯は跪き、倒れた緑肌の化物は水を浴びせられた雪のようにダンジョンにどろっと溶けてゆく。
浦木幸、榎田椎名、緒方結美、冷蔵庫(仮)は戦闘に勝利した。
《不黒ダンジョン20FGBシャーマンナイトの大部屋》
⬜︎
ピネスが今回の目標だと思い込んでいるダンジョンの20Fを踏破する事に成功した。そして仲間の助力もあってか、以前よりスムーズに、前回の冒険での大敵であったGBシャーマンナイトの討伐にも成功。
「ふぅー、なんとかごぶごぶを引いてラッキークリティカル……ってか。(ゴブリンだけに)たしか、とりあえず20Fまで引率して切り上げろって校長が言ってたな」
これでGBシャーマンナイトを二度葬ったことになる。さらに今回もクリティカルなイチゲキで、爽快なクリティカルを本番のボス戦で見事に叩き出した。そんな手応えにピネスは、少々満足気な表情を浮かべ、仲間の方を振り返る。
すると、後ろに控えていた頭巾さんがポニーテールを揺らし駆け寄ってきた。ふと、前回抱きつかれていた、バグった校長の距離感をピネスは思い出す。意味のないことを悶々と浮かべてしまったがすぐに忘れ、適切な距離を保ち立ち止まった緒方のことを普通に見つめた。
「おっおつかれ浦木くん。あのぉ……。なんか先に下りていったけど……のこっちさん……」
「おぅーおつか……っておい、まじか」
「まじみたい……だね……」
きょろきょろとボス部屋の辺りを探る────が、しいたけファッションのあの娘はそこにはいない。どこに行ったのかは目撃した緒方に今聞いた。ピネスの睨む視界のそこにある、次への地下階段。
せっかく区切りのボスであるGBシャーマンナイトを倒し、あとは帰るだけというのに何故そんなことになったのか。ピネスは少し眉間に皺を寄せたが、異能きのこレーダーを頼り、またふらふらと彼女は鼻唄まじりに階段を降りていったのだろうと、そんな光景がすぐに想像がついた。
「まぁ、GB相手にも難なく勝てたし次は流れでいうと30だよな? なんとかなるか? とにかくきのこの人、のこっちさんを追おうぜ。って俺が引率するんじゃなかったっけこれ?(終始だれかの屈む尻を見ていた気がするが)」
「え、えぇ……うんわたしも追った方がいいとおもう。……うん、浦木くんがわたしたちをいんそ」
「って冷蔵庫まで先に行ってるぅー!? 俺は冷蔵庫すら引率できないのかこりゃダメだ、急ごうぜ! って緒方、アレ止められない?」
「う、うん! なんか勝手に動くからごめんね……どう止めればいいか分からなくて」
「はは。あー、もしかすると詰められ過ぎたきのこに支配されてるのかもなー。それか、きのこの人を親と勘違いしてやがるのか? とにかくせっかく発現した異能【冷蔵庫】に逃げられたら大変だ! きっとお疲れだろうがもう少し付き合ってくれ! ダンジョン!」
「う、うん。ダンジョン! ふふっ」
部屋に散らばるドロップアイテムはもったいないが捨て置き、ふらふらと先を進んだと思われる榎田椎名と、ガタガタとさわがしく段差をひとりでに降りる奇妙な白い冷蔵庫を追う。
緒方結美、彼女の発現した異能は、なんと【冷蔵庫】
大変な状況だというのに、緒方の顔は少し明るげに灯った。その背には追いついてはいないが、以前より気持ちを前に追いかける。緒方結美は誘う男子生徒、ちょっぴり頼れる浦木幸と共に────地下21Fへとつづく石色の地下へのステップを踏んでいった。
明るい足取りで21階へと進入したピネスと緒方と(冷蔵庫)。
ピネスや校長も患ったことのあるあのダンジョンハイニナル現象で、勝手に先へと進んでいったのこっち先輩こと榎田椎名。そんなきのこ好きのどうしようもない彼女のことを見つけるべく、未知のダンジョンマップを見落としがないように隈なく、ピネスと緒方二人で一緒に捜索していくことに────────。
「「あっ!」」
「いたなきのこ! って囲まれてやがる」
二人の学生と一台の冷蔵庫が通路から進入した中部屋には、見たことのあるしいたけセットを装備した人物がいた。
その方は、ゴブリンがおめかしし武装した新種【ゴブリンナイト】の集団に、部屋角っこに自生した大事なきのこを背にしながら、絶賛キレイに取り囲まれていた。
それでも彼女は大斧を振り回し牽制を繰り返し、メーカー不明の鉄剣や鉄盾やらちょっといい武装をしたゴブリンナイトらを、簡単には間合いに近づかせない。
すると、たった今入り込んできた見慣れた3つのシルエットと彼女は目が合った。己の目にしいたけの切れ目のような光を宿したシスターは、斧をブンブンと元気に扇ぎながら宣った。
「男子さん、頭巾さん、きのこセラーさん、まさにちょうど良かったです。のこのこいいかんじの挟み撃ちのお恵みプランを、ご提案します♪」
「言われてみればこの状況は敵を引きつけて挟み撃ちといえるな? あぁいいぜ! そこでのこのこ良い感じに頑張ってのこってろ!」
「(きのこセラー……)うんっ! わ、わかった!」
提案されたそのお得プランに了承したピネスの背が、今、緋色のショートソードを抜くように、緒方も今日何度が見た彼の後ろ姿を真似した。
迷わず抜刀したピネスを先頭に冷蔵庫と緒方がつづき展開する。
振り回した当たらない大振りをつづける斧を避ける──その鉄鎧の餓鬼の背を強襲。ピネスは背中にブッ刺し、レア度違いのショートソードで安い鎧を威勢よく貫いた。緋色のショートソードを喰らったゴブリンナイトは絶命し、ピネスは性格が豹変したように一気に圧をかける。
つづき、高速でホバーしながら迫った冷蔵庫も、その白い長方体を慌てるゴブリンナイトにぶちかました。緒方も丁寧に剣を振り回し、当たらずともモンスターらの追い込みに微力ながら加担し援護する。
▼
▽
バレバレの挟み撃ちは、それでも迷わないスピードをもってして決行すれば有効策。効果的に功を奏し、敵の隊列を乱し、中部屋にいたゴブリンナイトたちを全て滅した。
そして21Fの攻略途中で無事、合流を果たした三人と一台はそのまま、ここで小休憩を取ることに全員で納得し決めた。
異能が途中で発現してからはその冷蔵庫の中にしまった、緒方結美のささやかな手荷物であった風呂敷包み。
それを賢く自動でひらいた冷蔵庫の中から取り出し、地面に風呂敷ごと広げていく。
そのアルミ三角には見覚えがある。涎が自然と滴りかけたピネスは、美味そうな銀色に包まれた三角を、図らずしも無断で手に取らずにはいられず。
「あっ! それじゃなくて、浦木くんはこっちのバジP」
浦木幸が今絶賛手に取っている三角、そのてっぺんに付いた茶色の丸シールをみた緒方は、それは彼に食べてほしいものと違うおにぎりだと即座に気付いた。そして別のちいさな緑丸シールの付いた物を彼に手渡した。
「ん? あーバジP! いやーイチバン好きなやつだ、えこれ俺が食っていいの?」
「うん、そっそのためだし……たぶん前のと同じ味になってると……ぉもう」
「おぉ……ありがてぇ」
「私はきのこさん尽くしですか、お布施お恵み感謝っ!」
茶色のシール印の具は全てきのこ。主にのこっちシスター向けに学校の調理室で緒方が握り作ったものであった。飽きないようにシスターが緒方に日々融通してくれている色々なきのこをミックスして具にしている。
「これは? なんか、赤いな?」
赤いシールの貼られたそのアルミ三角を剥いていくと、赤く色づく米粒がそこにあった。バジPを一気に食べ終えたピネスが手をつけた2個目のおにぎり、これは何かと、正座を組み座る緒方に向けて質問する。
「あっそれは……今回のぼっぼうけん枠で……【エビ抜きエビチリのトマチリ……」
「おぉはむっ────あこれイチバン、【エリマキトカゲのエリチリ】? 全おにぎりで」
「ええ!? ばっばじぃバジPは……??? いっ、イチバンそっそれ……エリマキトカゲじゃなくて……(エリチリってなに……)」
緒方が彼の今放ったご感想に驚き顔を長々と浮かべる間にも──彼の胃袋の中で行われている全おにぎりランキングのイチバンは更新されてしまう、あっさりと。
ピネスのかじりついた赤い三角のおにぎりは、おかゆばかりの閉鎖環境生活では珍しい、また刺激的で濃厚な変わったお味だった。現れたのは赤い新星の創作意欲作おにぎり。三日天下の王座についていたバジPを超え、イチバンに躍り出てしまった。
⬜︎タコイカ学習帳
【エビ抜きエビチリのトマチリ(仮)】:
材料
ガイアの恵み
ケチャップ
もうだいぶすっぱいキムチの汁(サンチュ)
ドライミニトマト(屋上)
13Pチーズ(茶室)
味の素(SP校長室)
オイスターソースきのこ&バジル(刻むエビのかわり)
※珍しい材料はブク高の生徒たちがそれぞれのテリトリーに大事に隠し持っているものを、善意や裏の取引や約束で融通してもらっている。
⬜︎
▼
▽
ダンジョンの中部屋で昼食をとり腹を満たしたブク高の一行は、再度この不黒ダンジョンの仕様を綿密に確認し合う。ダンジョン攻略の先輩であるピネスの語りに耳を傾けたシスターは、何度か頷き今それを理解した。
「────そうだったのですか。ルールがわからずのこのこわたしめが階段をくだってしまい、ご迷惑をおかけしました。お赦しを」
シスターはしいたけベレー帽が落ちるほどに、お二人方に向けて頭を下げた。
「いやまぁ電車で一駅乗り過ごしたみたいなもんだから、次の30階で無事石像前にいてくれりゃそれでいいみたいだぜ? あぁーー、過ぎたもんは、もうなんとなく進むしかない」
その男は親指をゆっくりと立たせる。気の利いたことはあまり計算できず、なんとなくでしか物事を言えないが、過ぎた一つの失敗ぐらい気に病むことでもないと、シスターの下げた面を上げるように促した。
「なんとまぁそーですね♪」
面をバッと素速く上げたシスターは、平謝りの態度から、ころっと表情を和らげた。
『もう少しだけ、しおらしくなっていてもいいのでは? きのこだけに』心でそんなことを少しだけ思ったが、ピネスは立てた親指を垂直にキープした。怒る権限も怒るつもりも微塵もないものなので、シスターに釣られて同じく表情を和らげた。
「とにかく30階の石像をみんなで目指せばだいじょーぶ。だっだよね浦木くん?」
緒方は再度この場の引率リーダーに確認する。
「あぁ、やることはたぶん変わんねー。それに昼飯も、バジPも、エリチリ(公式公認商品名)も、おかげさまでぞんぶん食えたしなっ、ダンジョン特権ダンジョン特権」
「エリチリ(エビチリもどきだからまぁなんかいいかなって)ふふっ、ダンジョン特権ふふふっ」
ずっと立てていた暇なその親指を握りを変えて、右のピースサインにし見せつけた。緒方はピネスの披露した半笑いのピースサインに笑い、やんわりと似たピースサインを握りつくった。
向き合う二人に対して余った榎田椎名シスターは、落ちていたしいたけベレー帽を一人おもむろに被り直した。
1Fより20F、20Fより21F、学校よりダンジョン。おにぎりをやんわり握りつづけ形になっていくように、良くなってきたパーティーのムードがある。今、形作る自分も含めたいい距離感のトライアングルの位置関係に────再度、自然と3-C榎田椎名シスターは微笑む。
そろそろと手に取った大斧の石突は、地をリズム良く打ち鳴らし、準備万端の明るい合図を二人にした。
⬜︎タコイカ学習帳
腹をこしらえ結束を新たに────
ゴブリンナイトなどの強さのグレードが20F以前より上がったモンスターを、3人(+1台)で滅していき、その異能チカラを合わせて順調にダンジョンを駆け降りていく。
そしてたどりついた……
《不黒ダンジョン30F》
ピネス:
シールド値 66%
魔力量 74%
榎田椎名:
シールド値 61%
魔力量 37%
緒方結美:
シールド値 82%
魔力量 42%
冷蔵庫(仮):
シールド値 55%
魔力量 42%
⬜︎
「あーなんかこれってさ、魔力量リンクして減ってね。さっきから緒方と冷蔵庫が同じ数値な気がするが」
「えっ? あっ、そっそうかも?」
がらんとした小部屋でタコイカ学習帳を手に取ったピネスは、なんとなく情報数値を見比べた時に気付いたことを緒方に教えて即座に共有した。
「これって冷蔵庫動かすのにも魔力が必要ってことか?」
「たぶんそうかもっ? そういえば……学校の電気とかも魔力でまかなわれてたり? なんか廊下歩いてたら勝手についたり消えたりするよね……浦木くん?」
「あー気にしたことなかったが、確かにするな? はは、そうじゃね? 今度こうちょ」
▽
▽
「う先生に……あっ? あぁ??? えなんだ? どした?」
突然景色のチャンネルが切り替わったように、そこにいたはずが今自分はそこにいない。緒方と話していたはずの自分が今は、なぜか壁と話している。
一瞬のとてつもない変化に訳が分からず。きょろきょろと辺りを探しだしたピネス、彼の振り返った顔に──白い景色がはばたき飛び込んできた。
何事かと顔面から接近しすぎて読めない白を引き剥がする。そして、その開かれたページを読む。
⬜︎タコイカ学習帳
ピネスと緒方結美はリラックスしながら、モンスターのいない小部屋で雑談に励む。
榎田椎名は異能【きのこレーダー】で、見つけた同小部屋隅に自生するきのこを採集中。
榎田椎名が、その灰色の笠に触れた瞬間────
それはランダムジャンプを引き起こす【ランジャン茸】だった。
《30F赤石の通路》
⬜︎
「なんじゃそれええらんじゃんたけええええ!??」
「いやっ、なんだよそれ、えぇ!? そんなの今までダンジョンの角っこのきのこシステムになかったろぉって、んな場合じゃっ! つまりランジャン、ランダムジャンプ……それってぇ、どういうこった!!!」
壁やノートと話していても埒が開かない。ピネスはとりあえず今いる赤石の通路を走った。
が、走る暗がりから現れる行手を塞ぐゴブリンナイトたち。ダンジョンのモンスターは冒険者たちの陥った状況など露知らず。
「そういうのはいいんだってぇ!!」
ピネスは立ち塞がる障害、鉄兵の行進に対して、大きく跳躍し右の壁をスニーカーで蹴った。そして、元の通路のレールへと素速くふらつきながらも着地し戻る。
やったことのない忍びのような身のこなしで交戦をせず敵から上手く逃走。赤く羽ばたくノートとともに、どことも知らない先を急いだ。
▼
▽
⬜︎タコイカ学習帳
細い通路の突き当たりで、走るピネスときのこシスターがばったりと鉢合わせ、合流した。
「あっ男子さん、ランニングとは奇遇ですね♪」
「おわっ!? きのこの!? 奇遇ってより遭遇してラッキーだな! あっそうそう、今はそんなゆるい感じじゃなくって、場所分かるか?」
「はいっ?」
「たくさん詰め込んでたろーー!!」
「なるほどっ♪いいご提案ですっ」
ピネスの提案を呑んだきのこシスター榎田椎名を隊列の先頭にし、2人は通路の先を急ぎ走る────────
⬜︎
▼
▽
唯一の進入口と思われるドアは、内側からは通行禁止のマジナイがかけられており、びくとも開かず。数度試したノックは敵の気を引くだけだ、──意味を成さない。
緒方結美とセットで【ランジャン茸】のトラップ効果で飛ばされた、その異能冷蔵庫は、ダンジョンの予想できない恐ろしさの沼にハマり──
異能冷蔵庫は、迫るモンスターに対して奮闘するも、ダンジョンでの命の数値にも等しいと思われるシールド値が着実に傷つき減少していく。
そしてそんな危機に陥ってしまった緒方結美にも流れる、冷えた玉のような汗。
緒方はショートソードを握りしめたまま、このままやってもきっと自分たちだけでは勝ち目がない事を悟っている。
見える目の先、奥にはまだ、ぐーすか眠る巨大な猪がおり、その巨獣の上には豪華な神輿のようなものが装備されてある。その神輿の上や中では、ゴブリンたちがノリノリに奇声をあげ騒いでいた。まるでその眠れる猪を起こそうとでもするように。
そんな理解も及ばない光景にさらに付随する、猪の子ウリボーが、巨大猪の周りに召喚出現。しかしそのウリボーは可愛いペットなどはない。一部のゴブリンナイトが神輿から下のウリボーに飛び乗り、【ゴブリンナイトライダー】人猪一体の進化を遂げた。
そしてまた、ゴブリンナイトライダーたちは突っ込んできた。4騎のゴブリンナイトライダーたちは剣を意気揚々と掲げて、準備のできたものから次々とウリボーを走らせてかかる。
緒方と冷蔵庫、ささやかな気合いを込めてダンジョンに挑んだ料理頭巾には滲む汗が染みゆき汚れていく。前衛の冷蔵庫は、その白い装甲を幾度引っかかれ穴が開けど、主人を守るために────
その時──不意にウリボーの横腹に突き刺さった翠の刃、それが昂る雷鳴轟かせた。ウリボーに騎乗していたゴブリンナイトは、前方に大きく弾き出され、ダンジョンの壁に緑の鼻から衝突。
同時に緒方の視界に滑り込んできたのは、力を食いしばる横顔。鋭く煌めく緋色のショートソードが、女子を狙った浅はかな突撃に対して、勢い激しい突撃をプレゼントした。
鋭利な突きは、餓鬼と猪ごとを吹き飛ばし、やがて緋色に燃ゆる光景が弾き飛ばした遠くへと咲いた。
「ふぅー焦ったぜぇ、まじダンジョン!」
「えっえ……!?」
後ろに倒れそうになっていたところを支える冷蔵庫。冷蔵庫にもたれ驚く緒方に、緋色の剣を携えた黒ブレザーの黒髪が、肩で息をしながら振り返った。
「おぉ緒方さん、ここにいたかーーー! はぁはぁっ……ところでいきなりで悪いけど……ランジャン茸の食い方って知ってるか! きのこの人が道中そればっかうるさくって!」
「ら、らんじゃん??」
「ふふ、触れた瞬間に瞬間移動するきのこさんがこの世にあるなら、いったいどうすればそのきのこさんを美味しく救済できるのでしょうか、ふふ頭巾さん?」
すっかり目眩しダウンするゴブリンナイトを大斧で滅しながら、榎田椎名は料理班でもある緒方に微笑み話しかける。
「やっ焼いてみたら……どうかな」
「へぇーなるほどその手があったか! 今度遠くから魔法で焼いてみるか」
「やはりおやきですかぁー、試す価値ありです♡ご提案感謝しまっす♪」
「うっうん……! ってそうじゃなくて浦木くん、のこっちさん!」
「あぁ緒方さん分かってるって。さて──きのこ狩りツアーのさいごは、盛大な猪狩りかよ」
「宿命、宿敵ですねっ♪ 害獣は遠慮なく滅するプランをご提案します♪」
「たしかにこんなにたくさんのおおきいイノシシ、困るかもっ……あっでも、牡丹鍋になるなら……うれしいかも……それはそれで」
突撃したゴブリンナイトライダー4騎のうち2騎は、先行した仲間が突然の雷撃と爆撃のダブルの天災でやられてしまい、汗汗とあわてて後退を始めた。
眠る巨大猪の神輿は騒がしい部屋の空気についに目覚めた。のそりと、その逞しき太き四脚で起き上がり、背のゴブリンナイトたちの搭乗する神輿を天へとゆっくりと持ち上げていく。
「ぼたん鍋? なんか聞いたことあるなそれ。モンスターは肉おとさねぇと思うが────んしょっ。異能幸運でなんとかなるかもなぁー、いっちょブッ刺して試してみますかーっ!!」
横たわるウリボーの腹から翠のショートソードを引き抜気回収した。ピネスは緋色の剣を鞘に休ませ、バチバチと帯電した刃の唸る翠を構えた。
ランジャン茸のトラップにかかるも、ついに合流を果たした3人と1台。榎田椎名の異能きのこレーダーが冷蔵庫のきのこさんたちの場所を探り当てるのに役立ってか、緒方も冷蔵庫も、奮闘し抗った結果幸いにも無事を得た。
危機するシチュエーションを各々の異能を繋ぎ潜り抜けて。しかしまだ終わらない──士気を益々上げたブク高の生徒たちと、30Fに鎮座していた巨敵、【ビッグウリボーミコシ】のラストバトルが、今勇ましく駆け出し始まった。
榎田シスターは豪快かつ丁寧に大斧を振り回し、ゴブリンナイト衆を寄せ付けないでいるが、傍目からでも、彼女が肩を下げだし息を乱しているのが見て取れるような疲れをみせる。
「はぁ……ふぅ……女子力っ、これは疲れますっ……」
そんな着実に弱りゆく様を見て、ニヤニヤと笑うゴブリンナイトの歩兵たちは、互いのゴブリン鼻を鳴らし頷いた。そして一斉に、動きに精彩を欠いてきたシスターの元へと飛びかかった。
弱った獲物へと、ダンジョンのゴブリンたちは悪知恵と残虐な本能を働かせて容赦をしない。まとめてかかるミドリ鉄の脅威に────
魔力をはらむ風の刃は四方八方に乱れ飛び、宙に吠えるゴブリンナイト衆を切り裂いた。
それはまさにきのこ力。魔力量を支払い、胞子を飛ばすように周囲の空気を風のマナに染め上げ変換。散布するそれは下地、風の刃の道をつくり、雑なコントロールの荒技を編み出すための。
誘う女子力、荒ぶる武力、センスはのこのこ成長きのこ力。
「のこのこお得なご提案、ありがとうございます、ふふっ!」
細切れのモンスターはどろっと地に溶け失せる。
魔力は使い所が肝心、まとめて葬るとよりお得で爽快だ。榎田シスターはクールに微笑み、激しい風に抱かれふわふわと舞い落ちてきた、しいたけベレー帽を掴み被り直した。
歩兵は逞しいきのこの先輩にまかせ、騎兵には騎兵を。真っ直ぐとホバー移動する冷蔵庫の上に乗ったピネスと緒方は、
「そっちが猪に乗るなら俺たちは白馬にのるぞ! あぁー、なんてなっ! 緒方さん!」
「うんっ!」
緒方の合図で異能冷蔵庫はその上の大扉を開いた。内臓されていた武器をバラバラと前方へと放出する。
剣や槍や斧や盾や三節棍や、まさかのレアドロップ品の大解放が、走り迫っていたウリボーたちにごちゃごちゃと突き刺さっていく。
「はっはっは、でりゃぁ!」
走る冷蔵庫から地へと飛び込んだピネスが、次々とあわてる騎士たちをその翠の短剣を唸らせ討ち取っていく。決して無謀ではない計算された2人と1台の奇策で、ゴブリンナイトライダーたちを効果的に屠っていく。
そして、幾多の敵を討ちながらバチバチと帯電する期待感をその翠の刃に稼ぎ、ピネスは長く息を吐きだした。
「ふぅぃーーー、GBの時みたいに一体倒せど倒せどかー」
「焦らずじっくり攻めることをご提案します♪」
「そーだなぁ別に焦っちゃいないけど、こっちはこっちでそろそろふざけたアレが寝ぼけてる間にラッキーなご提案、したいぜ?」
「では?」
「あぁ、さいしょの予定どおり3、2、1の……12、13、14でっ! ゴブリンには【ゴブリンサンダー】!!!」
ピネスは帯電した剣を明後日の方向へと勢いよく投げ捨てた。そして、遥か天に突き刺さったその剣から雷鳴がとどろく。
待機ストックした充電済みのクリティカルな企みは、今、解放。
天の翠は青く灯り、青く灯った一点からバチバチと唸りを上げて発生した青雷が、ターゲットする鉄鎧剣の類を目掛け────つながった。
天から降り注ぐ全体魔法【ゴブリンサンダー】は、この部屋に召喚されていた全てのモンスターを青く轟き滅した。
「ふむふむピネスくん……こう使うんだろ校長っ!! よーっし上々っ」
「のこのここのこのおっちんじゃいました、羨ましいほどのご提案、すっきりです♪」
「せっ攻めどきっ!!!」
「あぁ、ブク校やっちまえ!!!」
敵の召喚行動にあると見受けられるクールタイムの間に、依然寝ぼけるビッグウリボーミコシへとブク高の3人と1台はここしかないタイミングで、一気呵成に攻め立てた。
ピネスは、もう一つのプラン、緋色のショートソードを鞘からすべり抜く。緒方も呼応し、ふつうの亀のショートソードを高まる士気に強く握る。榎田椎名は、大斧を頭上をぐるりと一回転、勇ましく風ときのこ、そして敵を斬る準備運動を──。冷蔵庫は開いていた扉をしっかりと閉めて、今ブク校パーティーは一斉に前へと走り出した。
▼
▽
神輿に乗るゴブリンたちが番えた矢が、弓から放たれる。さらに投げ槍や、獣の厚い毛皮に突き刺さったレアな剣を、ゴブリンたちはあれよあれよと投げ捨ててドンチャン騒ぎをつづける。
「矢がとんでくる神輿かよ。ってアレさぁ、俺たちのさっき売った武器じゃね……やっぱりゴブリンに気をつけろってかソエジマ」
「そっそうだね……ごめんうらきく」
「ってあぶねっ──お前が突進すんのかよ!!!」
空気をも大きく揺らす間一髪──
足を溜め動き出した猪の要塞は、急にその太い四足で地をうならせ走り出した。ピネスはその突然にも動き出した重戦車に轢かれる前に、隣にいた緒方を俵担ぎにし連れ去った。突風を起こす巨体の突進のレールからなんとか免れた。
「猪突猛進、怒らせてしまいましたか?」
「あぁ……また突っ込んでくるなありゃ、おっと? あーわりぃ緒方さん、じゃぁ……お前にまかせる! うんっ!」
「!? ……あっありがと浦木くん……」
何やら近づき、野菜室の中段でピネスのお尻を小突いてきた冷蔵庫に、今担いでいた緒方のことを任せることにした。
繰り返される巨大神輿獣の突進行動。怒りに狂い、それまで多用していた召喚のコマンドを忘れでもしたのか。しかし、単純なその突進のコマンドを続けられるのは、ものすごく危険で厄介だ。
操者のゴブリンたちすら、構わず振り落とすほどの荒い暴走運転に、
冷蔵庫は緒方をその頭に乗せて避け、ピネスと榎田シスターも床に落ちてきたゴブリンにトドメをくれてやりながら冷静に避けていく。
「てかさぁ……なんかコイツだんだん速くなってね、体感」
「なってるとおもう……わたしも……!」
「早めにどうにかするプランを……ふふ、ご提案?」
「だよなぁ……こういうとき校長なら『スピードバフがどうたらとかクリティカルとか何かの理由をつけてぇ俺をっ』────3、2、1の覚悟で───
─結局最後はこいつでやるしかないのかよ」
「あらっ?? ナラッ」
「えっ浦木くん!??」
その時、彼の取った突然の行動に、緒方は思わず大口をあけ驚き、同じく驚いたシスターはそれを理解したのか迷わず持っていた大斧を投げつけた。
血迷ったか、悪化しそうな状況に急かされてしまったからか、駆け出した一人の黒いブレザーの背が目指したのは、猪突猛進で向かい来る──鼻息荒い巨大猪の鼻。
真っ直ぐ対真っ直ぐ、巨大神輿獣に真っ向勝負を挑む小さなその背は迷っているようには見えない。
彼が前へと向かい無謀にも走り出したその間に、今榎田椎名が投げ放ったありったけの風の魔力を込めた大斧が、身を乗り出し弓矢を地へと番えていた神輿の上のゴブリンアーチャーに命中。榎田シスターは、無茶をするピネスに合わせて、ささやかな援護プランをお届けした。
「神輿は下から担ぐものおおおおなんとかなれええええ」
その駆ける彼の背は一瞬でもっと小さくなり、鋭利に敵を威嚇する巨大な2本の獣の牙の間を抜ける、
鼻水散らす猪鼻をもくぐり抜ける、
昂るテンションにピネスの纏う装備品々のop効果は、知らず振り分けられ、改変ブレンドされた。
【スライディングスピード120%】
【クリティカル破壊力125%】
【スライディング時に限り0.5秒間クリティカル破壊力321%】
未知のシチュエーションに引き出すのはひとりの人間の本領。本領以上のダンジョンのルールに則った、悪魔も女神もあざむくダンジョン俺ルール。
駆ける背、擦れる背、賭けた背。
茶色毛の股下を滑り込む最高のスピード、最高の魔力、最高潮の陽気は今────滑り抜けた。
突撃する鼻から入り、ピンと逆立ち天を示す獣の尾をくぐり出て、一瞬にて冒険者は立ち上がる。そして熱帯びひりつくその背は確信する。
スリル満点に滑り込んだ巨大獣の腹下のアトラクション、そのど真ん中、その愛らしいデベソを、ひと突きにした緋色のショートソードは、極限赤熱する。
炸裂、クリティカル陽術【バーンファイア】
緋色の太陽光は膨らみ、亀裂はしる厚い毛皮の切れ目から漏れ出で、部屋中に赤赤と射し込む。
やがて全ての期待感は爆ぜ、衝撃的な緋色に燃えゆく光景がそこに広がった。
「すっすごっ……!! すごぉぉ……」
「さすが男子さん、のこのここのこのぉー、ふふふっ!!」
「はぁはぁっ────アレっ?? もう一往復ぐらいは覚悟……してたんだけど? ……やっちまったのか」
この日ピネスが放った過去最大威力の【バーンファイア】は、巨敵ビッグウリボーミコシその巨体を跡形もなく爆ぜさせるほどの破壊力。
振り返ったボロく擦れ焼けた彼の背、握る剣の柄もその手にはもうなく、あれほど緊迫した戦闘の熱が冷めてゆく。
またひとつ強敵のボスをその幸運な剣で討った冒険者の男は、ご機嫌よく手を振るシスターと、急ぎ駆け寄るポニーテールの女の子を呆然と見つめた。
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