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待ってはいない、あくまでオレンジが向こうからやってきた。しかしここで会ったが百年目、風化せず残っていた積年の恨みを晴らす。
走り抜けると、自分の濃いファンがダンジョンの途中でご丁寧にカメラをあちこちに回し、待ち受けていた。黒いゴシック衣装に身を包む小悪魔のことなど知らない。
遭遇した理由はどうであれ奇しくも今同じ舞台で、viewtuberの2人が声を張り上げ、ひとつのコンテンツを生み出すため──ぶつかり合う。
「あははは〝他人様の動画見てる動画〟を上げるだけの笑うハイエナのアンタも、無許可で勝手にコラボされる身になってみなさい! 名付けて【ハイナミTVをこれからボコボコにするボコラボ生配信】よ! アンタだけは許さないハイナミTV!!!」
「は? 身に覚えがありすぎてないんだけど! ここまでガイドラインを逸脱して収拾つけられるの、北風が?」
「アンタみたいな腐った蜜柑が今更ガイドラインなんて笑わせるなッ、ゴミの収拾はこうやってツけるのよッッ!!! 【ひとがはいる】!!! 【変換】【Enter】!!!」
腹の底から声を出し拡声器へ、拡声器から増幅し宙へ、文字として浮かび上がった【ひとがはいる】は、
魔力をさらに支払い──【人が入る】と変換される。役に立たない【が】と【る】の魔力文字は、払いの脚に蹴り飛ばされた。
したためられた【人】【入】の魔力漢字は、ひとりでに動き始めた。
サッカーボールのように飛んできた【が】と【る】を避けて、木浪は前を見据える。
整列されていたパイプ椅子を暴れ蹴散らしながら、魔力漢字が走って来た。これまで文字が飛んでくることはあっても、意志をもったように走ってくることはなかった。
しかし動きが緒方結美の異能冷蔵庫よりどこか硬く甘い。つけ入る隙はある、そう直感した木浪はパイプ椅子の海をかきわけ猪突猛進して来たその2文字を、単純に避けた。
「【口を追え】【口っく追ん】!!!」
【人】【入】に突撃させ、直後GEMが拡声器から放つ飛び道具を交えた攻撃。
まるで即席パーティーのような動きで木浪に仕掛けたが、これも狙いが甘い。
魔力を消費することなく避けれるものは避ける選択をし、大味な連携攻撃を抜けた木浪は、好機とばかりに前へと走り出した。
学校の体育館のようなステージ。ひしゃげたパイプ椅子の地を駆け抜けて、再び舞台上に待つゴシック衣装の小悪魔の元へと木浪は握りしめた杖を片手に詰め寄っていく。
しかし、前を走っていた木浪は気づけば宙を漂っていた。
前へと向かっていた背と尻を不意に蹴られ、吹き飛ばされた木浪は、再び──スポットライトの照らす木目のステージに伏す。
「あーはっはっはーーーー!! いい撮れ高だわーー。これ傑作じゃん────ネェ?」
ちょこまかと遊んでいた客席から引きずりだし、今、同じ壇上。されど対照的。その無様になった姿を見下ろしニヤけるGEMに、頭を垂れるオレンジ髪がいる。
何が起こったのか。木浪は確かに後ろから蹴られ、再びこの舞台にダメージを受けて戻っている。
蹴られたのはきっと──。木浪は今階段を器用に上がり戻って来た【人】【入】と、その2文字の後ろに控えて自分を見下す黒い小悪魔を、垂れ下がり湿ったオレンジの暖簾の隙間から目に入れた。
「あははアンタ引き寄せることしかできないのねっっ、逃げてばかりなのにチグハグな異能で皮肉ねぇ! 対してアタシはビュアーたちが望むコンテンツの発信者! その差がここにも現れているのよ、はははははーー! 受け身よ受け身ー! そのくだらない壁もゼーンブ!!! ヤケになってちゃちな石ころ投げ入れても効くわけないじゃない、この復活したviewtuberのHIGH小悪魔GEM様に!!! 地力と才能がちがうのよ」
高らかに笑い、勝ち誇る。GEMはその才能の差を現実に示し、目の前の敗者に残酷な言葉を浴びせつづける。
「────そうね? だからアンタ、そのびゅーびゅー馬鹿にした口をもう一度ひんまげて、かるく許しを乞いなさい。viewtuberごっこのヤツに、最初から勝ち目なんてないのよハイナミTV! そんな下らないちゃんねるで知恵も魔力もアイデアもッ無駄遣いするぐらいなら、アタシのアシスタントとして、死ぬまでこき使って許してあげる」
地に苦しく項垂れるオレンジの様を見て、勝利を確信する。
HIGH小悪魔GEMはカメラに収め2人で激しく作り上げたこのコンテンツの終わりを、これ以上ない配信タイトル通りのとても気持ちいい結末で締めようと、地にみっともなく伏す人間に対して悪魔の契約を持ちかけた。
今までの腐ったプライドを売り、新たに才あるviewtuberのアシスタントをするだけで許す。この場で煮て殺すよりも、とてもやさしくリーズナブルな提案だ。鬼叉ちゃんねるなどのぽっと出の出涸らし女の元ではない、HIGH小悪魔GEM様の元でその微力を貸すだけでいいのだ。
GEMは取り巻きの後ろで控え、なおも隙を与えない。
もはや完勝の構図は崩れない。止まない小悪魔の高笑いに────そっとオレンジは微笑った。
「────……そんなつまんないことしない……」
「あははは──は?」
「ハーーイ本日の北風ちゃーん、ちょっとびゅーびゅーラッキーゾーンまで吹いただけじゃぁん? ツーアウト満塁っ、大波小波ハイナミはここからでしょ! こんな風に──ねっ!!!」
よろよろと杖つく老人のように立ち上がり、勢いあるviewtuberのように無法に名乗り吠える。
木浪智火瑠の目は死んでいない。むしろ生き生きと輝くオレンジに潜んでいた瑠璃色の瞳は、堂々と前を向き燃えている。
一発二発、尻を蹴られただけではviewtuberは折れない。ハイナミTVは勇ましく逆転の杖を構えた。
走り抜けると、自分の濃いファンがダンジョンの途中でご丁寧にカメラをあちこちに回し、待ち受けていた。黒いゴシック衣装に身を包む小悪魔のことなど知らない。
遭遇した理由はどうであれ奇しくも今同じ舞台で、viewtuberの2人が声を張り上げ、ひとつのコンテンツを生み出すため──ぶつかり合う。
「あははは〝他人様の動画見てる動画〟を上げるだけの笑うハイエナのアンタも、無許可で勝手にコラボされる身になってみなさい! 名付けて【ハイナミTVをこれからボコボコにするボコラボ生配信】よ! アンタだけは許さないハイナミTV!!!」
「は? 身に覚えがありすぎてないんだけど! ここまでガイドラインを逸脱して収拾つけられるの、北風が?」
「アンタみたいな腐った蜜柑が今更ガイドラインなんて笑わせるなッ、ゴミの収拾はこうやってツけるのよッッ!!! 【ひとがはいる】!!! 【変換】【Enter】!!!」
腹の底から声を出し拡声器へ、拡声器から増幅し宙へ、文字として浮かび上がった【ひとがはいる】は、
魔力をさらに支払い──【人が入る】と変換される。役に立たない【が】と【る】の魔力文字は、払いの脚に蹴り飛ばされた。
したためられた【人】【入】の魔力漢字は、ひとりでに動き始めた。
サッカーボールのように飛んできた【が】と【る】を避けて、木浪は前を見据える。
整列されていたパイプ椅子を暴れ蹴散らしながら、魔力漢字が走って来た。これまで文字が飛んでくることはあっても、意志をもったように走ってくることはなかった。
しかし動きが緒方結美の異能冷蔵庫よりどこか硬く甘い。つけ入る隙はある、そう直感した木浪はパイプ椅子の海をかきわけ猪突猛進して来たその2文字を、単純に避けた。
「【口を追え】【口っく追ん】!!!」
【人】【入】に突撃させ、直後GEMが拡声器から放つ飛び道具を交えた攻撃。
まるで即席パーティーのような動きで木浪に仕掛けたが、これも狙いが甘い。
魔力を消費することなく避けれるものは避ける選択をし、大味な連携攻撃を抜けた木浪は、好機とばかりに前へと走り出した。
学校の体育館のようなステージ。ひしゃげたパイプ椅子の地を駆け抜けて、再び舞台上に待つゴシック衣装の小悪魔の元へと木浪は握りしめた杖を片手に詰め寄っていく。
しかし、前を走っていた木浪は気づけば宙を漂っていた。
前へと向かっていた背と尻を不意に蹴られ、吹き飛ばされた木浪は、再び──スポットライトの照らす木目のステージに伏す。
「あーはっはっはーーーー!! いい撮れ高だわーー。これ傑作じゃん────ネェ?」
ちょこまかと遊んでいた客席から引きずりだし、今、同じ壇上。されど対照的。その無様になった姿を見下ろしニヤけるGEMに、頭を垂れるオレンジ髪がいる。
何が起こったのか。木浪は確かに後ろから蹴られ、再びこの舞台にダメージを受けて戻っている。
蹴られたのはきっと──。木浪は今階段を器用に上がり戻って来た【人】【入】と、その2文字の後ろに控えて自分を見下す黒い小悪魔を、垂れ下がり湿ったオレンジの暖簾の隙間から目に入れた。
「あははアンタ引き寄せることしかできないのねっっ、逃げてばかりなのにチグハグな異能で皮肉ねぇ! 対してアタシはビュアーたちが望むコンテンツの発信者! その差がここにも現れているのよ、はははははーー! 受け身よ受け身ー! そのくだらない壁もゼーンブ!!! ヤケになってちゃちな石ころ投げ入れても効くわけないじゃない、この復活したviewtuberのHIGH小悪魔GEM様に!!! 地力と才能がちがうのよ」
高らかに笑い、勝ち誇る。GEMはその才能の差を現実に示し、目の前の敗者に残酷な言葉を浴びせつづける。
「────そうね? だからアンタ、そのびゅーびゅー馬鹿にした口をもう一度ひんまげて、かるく許しを乞いなさい。viewtuberごっこのヤツに、最初から勝ち目なんてないのよハイナミTV! そんな下らないちゃんねるで知恵も魔力もアイデアもッ無駄遣いするぐらいなら、アタシのアシスタントとして、死ぬまでこき使って許してあげる」
地に苦しく項垂れるオレンジの様を見て、勝利を確信する。
HIGH小悪魔GEMはカメラに収め2人で激しく作り上げたこのコンテンツの終わりを、これ以上ない配信タイトル通りのとても気持ちいい結末で締めようと、地にみっともなく伏す人間に対して悪魔の契約を持ちかけた。
今までの腐ったプライドを売り、新たに才あるviewtuberのアシスタントをするだけで許す。この場で煮て殺すよりも、とてもやさしくリーズナブルな提案だ。鬼叉ちゃんねるなどのぽっと出の出涸らし女の元ではない、HIGH小悪魔GEM様の元でその微力を貸すだけでいいのだ。
GEMは取り巻きの後ろで控え、なおも隙を与えない。
もはや完勝の構図は崩れない。止まない小悪魔の高笑いに────そっとオレンジは微笑った。
「────……そんなつまんないことしない……」
「あははは──は?」
「ハーーイ本日の北風ちゃーん、ちょっとびゅーびゅーラッキーゾーンまで吹いただけじゃぁん? ツーアウト満塁っ、大波小波ハイナミはここからでしょ! こんな風に──ねっ!!!」
よろよろと杖つく老人のように立ち上がり、勢いあるviewtuberのように無法に名乗り吠える。
木浪智火瑠の目は死んでいない。むしろ生き生きと輝くオレンジに潜んでいた瑠璃色の瞳は、堂々と前を向き燃えている。
一発二発、尻を蹴られただけではviewtuberは折れない。ハイナミTVは勇ましく逆転の杖を構えた。
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