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鬼と化し愛を操り昂る怒りの末……エメラルドの幸運な輝きは失せ、元の水色の衣装へと、魔法がとけていく。
「なぁんで、負けるかねぇ、はは」
地に大の字になっていたのは一人の用務員。折れていたのはシンプルに立ち並んでいたステージの柱と【E:エクスプロージョン】の出力に耐え切れなかった愛武器の刺又。
その武器の中に詰め込まれていた特注のビー玉は砕けて、熱されたステージ内にできた窪みへと転がっていく。
そして、眩く熱いエメラルドの閃光を浴び────最後まで立っていたのは、スーツを着たナイト。
よろけた様子もなくガードした姿勢を解き、地につけた彼女の耳に足音がゆっくりと近づいてくる。
見上げる天と聞こえる地の響きが意味するものは、もはや明らか。この先の運命は、相手次第。今持てる全ての完全なるチカラを出し切った池原叉鬼に不思議と悔いはない。全力全霊を叩き込み完膚なきまでの敗北を喫する、それはいっそ清々しくも思えた。
やがて耳を打つ重たい足音が止まる。
「これは────不完全な技だ」
完全なるチカラではない不完全な技だと、ナイトは一言つぶやいた。そして聞こえる足音の一足、一瞬に、しみじみと思いを巡らせていたその地に寝転ぶ彼女ことを否定した。
「ん? ふかん……ぜん?」
チカラを魔力を出し切り、脱力する大の字の敗者は勝者が放ったその言葉を問い直した。
するとナイトはおもむろに透明な空き瓶をひとつ取り出しながら、語りだす。
「火の吹く赤い村に駆けつけたとき────俺が見たアレはバケモノだった。行軍中に気晴らしに仲間たちと立ち寄った街の占い屋で俺は、近く多大な悔いを残して必ず死ぬと言われていた。それがこの事だとまさに自覚し、俺は己の手にしたその剣に己の汗粒の一滴も残らないよう全霊を込めたが…………握りしめた占いの結果は、そのバケモノの首を落とし、俺は焼けるような熱さの血の雨をその体に浴びていた」
「俺は不死身になった。きっとあの時占われた死する運命すら、己の天武で逆らい切り裂きバケモノの血を全身に浴びたからだ。これは天命に違いないと、それからの俺は赴く至るところで今まで以上の武功を上げ続けた」
「しかし気づけば俺はどうでもいいところに収まった。天命どころではない、とある城のとある一衛兵。戦場で生きて帰ってきては死神と忌避された俺の行きついた先は、金持ち貴族の道楽であつめた珍しい駒の一つ」
「今思えばその時点から俺という生き物は緩やかに死んでいたのかもしれない。あの街の占いの結果の通りに、浴び授かったはずの力に傲り、悲しみ、ただただ立ち止まっていた。そして────」
「俺の誰にも望まれないこの身体は、どうやら運よく死に行きついた今世では、俺がまた望んでいたようだ」
「お前はそれで────完全か? ……また改めて問う日があれば、もっと痺れる答えをこの身体に浴びているのかもな」
空き瓶に、飛び散ったメタルツールを構成していた粘液が集っていく。銀色の沈んだ瓶にコルクの栓をし、男はおもむろに破れた兜を脱いだ────。
足音は遠ざかる。その去っていく背、首筋……肩口に、青に光る一筋の傷跡を見せて────────。
「えっ、はは、こりゃ……。予想外のおしゃべりイケメン……はいぼくの……放置ぷれい……たはぁーー……」
用務員池原叉鬼は鉄兜の男に、波瀾万丈の池原叉鬼史にのこる……完全なる敗北を喫した。
池原は暗がりに溶けゆくその男の背を最後まで見つめる。そして深く長いため息と共に、水色の大の字をまた地に描いて……熱されすぎたおでこに手を当て、天を仰いだ──。
「なぁんで、負けるかねぇ、はは」
地に大の字になっていたのは一人の用務員。折れていたのはシンプルに立ち並んでいたステージの柱と【E:エクスプロージョン】の出力に耐え切れなかった愛武器の刺又。
その武器の中に詰め込まれていた特注のビー玉は砕けて、熱されたステージ内にできた窪みへと転がっていく。
そして、眩く熱いエメラルドの閃光を浴び────最後まで立っていたのは、スーツを着たナイト。
よろけた様子もなくガードした姿勢を解き、地につけた彼女の耳に足音がゆっくりと近づいてくる。
見上げる天と聞こえる地の響きが意味するものは、もはや明らか。この先の運命は、相手次第。今持てる全ての完全なるチカラを出し切った池原叉鬼に不思議と悔いはない。全力全霊を叩き込み完膚なきまでの敗北を喫する、それはいっそ清々しくも思えた。
やがて耳を打つ重たい足音が止まる。
「これは────不完全な技だ」
完全なるチカラではない不完全な技だと、ナイトは一言つぶやいた。そして聞こえる足音の一足、一瞬に、しみじみと思いを巡らせていたその地に寝転ぶ彼女ことを否定した。
「ん? ふかん……ぜん?」
チカラを魔力を出し切り、脱力する大の字の敗者は勝者が放ったその言葉を問い直した。
するとナイトはおもむろに透明な空き瓶をひとつ取り出しながら、語りだす。
「火の吹く赤い村に駆けつけたとき────俺が見たアレはバケモノだった。行軍中に気晴らしに仲間たちと立ち寄った街の占い屋で俺は、近く多大な悔いを残して必ず死ぬと言われていた。それがこの事だとまさに自覚し、俺は己の手にしたその剣に己の汗粒の一滴も残らないよう全霊を込めたが…………握りしめた占いの結果は、そのバケモノの首を落とし、俺は焼けるような熱さの血の雨をその体に浴びていた」
「俺は不死身になった。きっとあの時占われた死する運命すら、己の天武で逆らい切り裂きバケモノの血を全身に浴びたからだ。これは天命に違いないと、それからの俺は赴く至るところで今まで以上の武功を上げ続けた」
「しかし気づけば俺はどうでもいいところに収まった。天命どころではない、とある城のとある一衛兵。戦場で生きて帰ってきては死神と忌避された俺の行きついた先は、金持ち貴族の道楽であつめた珍しい駒の一つ」
「今思えばその時点から俺という生き物は緩やかに死んでいたのかもしれない。あの街の占いの結果の通りに、浴び授かったはずの力に傲り、悲しみ、ただただ立ち止まっていた。そして────」
「俺の誰にも望まれないこの身体は、どうやら運よく死に行きついた今世では、俺がまた望んでいたようだ」
「お前はそれで────完全か? ……また改めて問う日があれば、もっと痺れる答えをこの身体に浴びているのかもな」
空き瓶に、飛び散ったメタルツールを構成していた粘液が集っていく。銀色の沈んだ瓶にコルクの栓をし、男はおもむろに破れた兜を脱いだ────。
足音は遠ざかる。その去っていく背、首筋……肩口に、青に光る一筋の傷跡を見せて────────。
「えっ、はは、こりゃ……。予想外のおしゃべりイケメン……はいぼくの……放置ぷれい……たはぁーー……」
用務員池原叉鬼は鉄兜の男に、波瀾万丈の池原叉鬼史にのこる……完全なる敗北を喫した。
池原は暗がりに溶けゆくその男の背を最後まで見つめる。そして深く長いため息と共に、水色の大の字をまた地に描いて……熱されすぎたおでこに手を当て、天を仰いだ──。
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