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番外編 アレクサンデルの嫉妬
しおりを挟む「なぜ駄目なのですか母上!クリスティーナの許可はきちんと貰いました。勿論ご両親にも許可を頂けるように話しをするつもりです。」
「あれだけ大騒ぎしておいて、よくもそんな事が言えますねアレクサンデル。私の息子でなければ城から叩き出していますわ。本当にクリスティーナは優しい子。私があの時、どれ程絶望したか分かりますか?あと少しであの可愛いクリスティーナを娘に迎える事が出来たというのに…。」
「それは…母上の仰る通りです。私が愚かだった事は認めます。だからこそ、二度とクリスティーナを手放したくはないのです。あのような悲しい思いは、もうさせたくありません。」
「………アレクサンデルよ。」
ずっと静観していた国王がここで初めて口を開いた。
「何を焦っておるのだ?クリスティーナ嬢が承諾したのはもう二月も前の話しだ。その為に必要な根回しを頑張っていたのではなかったのか。」
「それは勿論分かっています。今後も根回しは続けていきます。ですが、せめて婚約だけでも先にと考えたのです。」
アレクサンデルの言葉に国王は何か思いあたる事があったのか、意地の悪い笑みを浮かべる。
「そういえば、我国の友好国であるファーメルの王子が海を越えた場所にあるカラクリで有名なサラバード王国の留学期間を終えると報告が届いたのだったな。」
ファーメル王国というのは珍しく女王の即位を認めている国だ。女性の意見を取り入れることで男社会だった国の方針が変わり、随分と女性が社会で活躍しているという。
グッと何かが詰まったような表情を浮かべるアレクサンデルに王妃は呆れたような視線を向ける。
「アレクサンデル、エルン王子はまだ7つになったばかりではありませんか。」
「まぁ、そう言ってやるな。アレクサンデルも必至なのだ。」
笑いを必至に押さえようとしている国王だが、本気で隠す気がないのかぷるぷると肩を震わせている。
「ファーメルの女王に即位したばかりのジュリア殿下も弟君であるエルン殿下もクリスティーナが大好きだからなぁ。」
そんなやり取りをした一月後、何とかクリスティーナとの婚約に漕ぎ着けたアレクサンデルは届いた書簡に顔を盛大に引きつらせた。
なんでも、エルン王子が我が国に留学から帰還したことの報告をしたいとこちらに向かっているというのだ。
手紙が届いた2週間後、アレクサンデルは目の前の状況に頭を抱えていた。まるで図ったように手紙が届いてから1週間でエルン王子はこの国へと入国した。それから7歳とは思えない程の手際の良さでいつの間にかしばらくの間滞在する許可をもぎ取っていた。
それも留学していた間に学んだからくりの技術を伝えたいというもので、国にとっては非常に有難い申し出だ。
サラバード王国は海を挟んだ国であり、我が国からは遠く離れた国の為に国交はほとんどない。カラクリと呼ばれる不思議な人形を用いた技術は、人々の生活を豊かに変えていっているという。
そんな素晴らしい技術を教えてくれるというエルン王子を無下にするわけがない。ちゃっかりとサラバード王国からも伝える許可を取ってきている辺り、元々そのつもりで留学し戻って来たのだというのが良く分かる。
その目的も。
「まぁ、そんなに凄いカラクリ……頂いてもよろしいのですか?」
「勿論だよ。僕からクリスに渡して欲しいって、姉上から頼まれていたんだ。」
お互いに会話ができるという不思議なカラクリを渡して満足そうな笑顔を向けているエルン王子。クリスティーナの銀の髪を月だと例えるならば、アレクサンデルの金の髪は太陽、そして漆黒の髪と金の瞳を持つエルン王子は夜空に浮かぶ星だ。
無邪気な笑顔の裏にある想いに以前のアレクサンデルは気が付かなかった。
だが、エルン王子が留学から戻ると聞いて以前の事を思い返した時、アレクサンデルはエルン王子のあざとさに気が付いた。
子供だからと甘えているふりをしているが、その裏にあるのは…。
「姉上、クリスにとっても会いたがっていたんだよ。」
「私も会いたいですわ。でも、今はとてもお忙しそうで。」
「そうなんだよ。女王を継ぐのはもっと後にしておけばよかったってぼやいていたくらい。」
ジュリア殿下らしいですねと談笑しているクリスティーナにエルン王子も微笑む。
そして、今さも思いついたかのように切り出した。
「そういえば、クリス……婚約を白紙にしたって聞いたんだけど。」
「一度白紙に戻ったのは確かですわ。でも、あれからもう一度アレク様の婚約者に戻ることが出来ましたの。」
クリスティーナの言葉にがっくりと肩を落としたエルン王子。
「ええ?そんなぁ、せっかく僕のお嫁さんになって貰おうと思っていたのに。」
「あらあら、エルン殿下はお上手ですね。」
「むぅ。僕は本気なのに。でも、結婚はまだなんだよね?」
「半年後に挙式の予定ですわ。」
「そんなに早く結婚しちゃうの?やだよ。僕のお嫁さんになってよ。」
ぎゅうとしがみついてクリスティーナに縋るエルン王子にずっと我慢し続けてきたアレクサンドルがとうとう痺れを切らした。
「エルン王子……そろそろ私の婚約者から離れて頂きましょうか。」
「やだ。クリスがいい。」
普通に見れば子供が甘えているかのように見えるが、7歳で留学を終えるほどの頭を持つ子供の中身が普通の子供のままであるはずがない。
アレクサンドルは平常心を必死で保ちながら笑顔を張り付けて対応に当たった。
「あんまりしつこいとクリスに嫌われますよ?」
この一言が止めになりエルン王子はしぶしぶとクリスから離れる。
「じゃあ最後だから……。」
ちゅっと音がしてエルン王子がクリスティーナの頬にキスを送る。挨拶と言われればそうなのだが、クリスティーナに見えない位置で黒い笑みを見せたエルン王子にアレクサンデルはこめかみに青筋を立てつつも表情を何とか保つ。
だが、これ以上クリスティーナの傍には置いておけないとずりずりとエルン王子を引きずって連れ出していった。
「クリス!また遊ぼうね!」
引き摺られながらもエルン王子の愛らしい笑顔は微笑ましい。エルン王子をファーメル王国から連れてきている護衛に引き渡したアレクサンデルはその足ですぐにクリスティーナの元へと戻ると共に庭園の中を散策しようと誘った。
だが、散策中であるのに黙ったままのアレクサンデルにクリスティーナは思わず声を上げた。
「あの、アレク様?」
「……クリス、すまない。私はどうやら随分と余裕がないらしい。」
茂みの陰で立ち止まった二人だが、クリスティーナと向き合ったアレクサンデルの表情はなんとも切ないものだった。
そんな表情を見せられたら何も言えない。
クリスティーナの頬を何度も撫でる。エルン王子に触れられた場所をかき消したいかのような行動にクリスティーナは戸惑う。
「君を他の男に触れさせたくない。」
「アレク様……。」
「おかしいと思うだろう?私もこんな気持ちになるなんて知らなかった。」
アレクサンデルの瞳に映るのは戸惑っている婚約者の姿。
クリスティーナを引き寄せてアレクサンデルはぎゅっと抱きしめる。切なさと愛おしさが入り混じって狂いそうになる。
これが嫉妬という感情なのだとアレクサンドルは明確になった気持ちを知る。
クリスティーナが自分以外の男と微笑み合う姿を想像するだけで、気が狂いそうになる。それが例え幼い子供であっても。婚約が間に合っていなかったならと考えるだけでも恐ろしい。
「あんな子供に嫉妬するなんて笑えるだろう?」
情けない表情を浮かべたアレクサンドルにクリスティーナは首を横に振った。
「いいえ、だって私の事を思っての事でしょう?笑うなどあり得ませんわ。」
「……あの時、君にもこんな思いをさせていたのだろうか。」
「それは……。」
アレクサンドルの言葉にクリスティーナは詰まる。そして少し視線を逸らして答えた。
「だって、私はずっと殿下の事を愛しておりましたもの。殿下は人気がありますし、彼女に全く嫉妬しなかったなんて言えませんわ。でも、殿下が望むのであればと……。」
「クリス…私は本当に愚かだ。こんな気持ちを君にも味合わせていたなんて。どうか許してくれ。」
「アレク様、それは私も同じですわ。子供だからと許してしまいましたもの。許してくださいますか?」
二人の視線が混じり合い、まるで周囲の時が止まったかのように感じる。
それは無言の同意。
「クリス……愛している。」
「アレク様。私も、愛しています。」
ゆっくりとクリスティーナの瞼が閉じられて、アレクサンドルはその可憐で柔らかな唇に自らのそれを重ねた。
甘やかなひと時はいつまでも戻らない二人を心配したアレクサンドルの侍従が探しに来るまで続いた。
-END-
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レン 様
感想ありがとうございます!
将来国家を支える若者を手玉に取った上、時期国王に大怪我をさせたという点では確かに軽く見えますよね。
ただ、ゲームだなんだと訳の分からない言葉を叫ぶような人物が通常通りの裁きになるとは思えなかったりします。
よくニュースで見かける周囲は納得がいかない案件ですね。
そういった部分を加味して貴族的な最後を迎えて貰ったわけです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
叶 望