ファンタジーな世界に転生したと思ったら実は乙女ゲームの世界だった件~色無き魂を持つ者~

叶 望

文字の大きさ
11 / 21

010 はじめての魔法

しおりを挟む

 和やかな晩餐を過ごしていた魔王様一家と私。

 しかしそれはすぐに破られてしまった。

 カシャンと音がしてルフェルスがスプーンを落とした。うとうととしだしたルフェルスはゆっくりと寝息を立てて寝てしまった。
 異変に気が付いたアレイスターは慌ててルフェルスの傍に寄ろうとしたが、その隣で食事をしていたマルーン様が突然咳き込んで血を吐いた。
 そして異変はそれだけでは終わらない。
 アレイスターさまも口から血を吐いて膝を付いてしまった。その腕にはぐったりとしたマルーン様をなんとか支えて苦しそうな表情を浮かべている。

「がはっ。な、なんじゃこれは。」

【い、痛いよ。何これ?まさか毒?】

 血を吐いてルビーが傾いで行く私はルビーと感覚を共有していたので痛みも同じように受けていた。唖然として先程の晩餐を見つめる。
 そんな中、扉を開けて入って来た者がいた。

「カル、タロフ……。」

「魔王様、今夜の晩餐は如何でしたか?」

「お、まえが……。」

「えぇ。平和なんて寝ぼけている事を言い続ける貴方に飽き飽きしましてね。安心してください。ルフェルス様を次期魔王としてしっかりと私が教育して差し上げますから。」

「き、さま……平和を。」

「今までずっと耐えてきました。ですが、もう我慢の限界です。この件は厨房に昨日入ったばかりの人族が行った事になっていますのできっと、ルフェルス様は人族を憎んで滅ぼしてくださることでしょう。そして我々の失った大地を取り戻すのです。」

「ぐっ…ばかな……。」

「くく、そろそろ時間ですね?ではゆっくりとお休み下さい陛下。」

 そしてルフェルスに近づくカルタロフ。
 私はルビーと同調して痛みを受けてはいたが動け無い事は無い。
 沸き上がってきたものは怒り。
 その怒りが私の魂のそこにある魔力を引き出した。

 ぶわりと魔力の風が部屋の中に沸き上がる。

「な、なんだ?」

 ルフェルスに手をかけようとしていたカルタロフは突然の事態に驚き周囲を見渡す。
 だが、そこには毒によって弱った魔王とその妻、そして子供たちしか居ないはずだ。

【許さない。お前は私の大切な友人とその家族を傷つけた!】

 びしりと歪な音が自分の中で響いた。

 だが、今はそれにかまけている暇は無い。

「なんだ、この声は」

 魔力の風は魔王一家を包んで結界を形成する。先程までさっぱり分からなかった魔力の扱いが今は自然とできていた。
 そしてすぐに治療を開始する。
 魔力の粒子を編んで魔法陣を形成する。『解毒』『治癒』二つの魔法陣を同時に4人に対して起動させる。

「な、魔法が……まさか毒を?」

 治療が始まったと気付いたカルタロフはその場に留まるのは危険だと判断してすぐに逃げ出した。
 悔しいけど追いかける事はできない。
 皆の治療が先だからだ。
 複数の魔法陣に魔力を供給して治療を続けると無事に解毒が終わり、治療の効果が現れてきたように血の気が戻ってきた。

「……これは。」

 いち早く目を覚ましたアレイスター様が驚いたように私を見た。

「魔法を発動できたのか……。」

「んぅ……?」

 次々と目を覚ましていく彼らを見てほっと一息ついた。
 治療が終わって魔法陣が消えていく。そして現状を把握してアレイスター様はすぐに追っ手をかけたが、カルタロフの姿はどこにもなかった。

「助かったのじゃ。エスティアは命の恩人じゃ。」

「本当ですね。魔法も無事に使えるようになって良かった。」

【ありがとう二人とも。】

「ところで、エスティアはなんか何時もよりも光っておらぬか?」

「本当ですね?なんだか光が漏れているような…。」

【ふぇ?なんだろう。】

「どうやら魔力を使えるようになったから肉体の方に引き寄せられているのかもしれないね。」

「え?それじゃ父上エスティアはもう行ってしまうのかや?」

「そうなるだろうね。」

「そ、そんな!」

「ルビーそんな風に言っては駄目よ。エスティアちゃんは体に戻らないといけないの。」

 マルーン様がルビーを優しく慰めて微笑む。

「いつか会いに来てくれるようにお約束しておいたらどうかしら?私たちがこの地から離れる事は出来ないけど、エスティアなら問題なく来られるわ。」

「それはいいですね。エスティアと約束しておきましょうルビー。」

「うむ。分かったのじゃ。エスティア妾達と約束を交わしてくれるかの?」

【もちろん。いつかきっと皆に会いにくるよ。約束だね!】

 ウサギのぬいぐるみの中に作りためた魔石をごろごろと落とす。

「すごい魔石の数だね。これ全部エスティアの魔力が篭っている。」

 それをルフェルスが拾い上げて中を見つめている。
 魔石なのになぜか無色透明の石。

 それは私自身の魂を表しているかのようだ。

【それプレゼントに置いていくね。私はきっと持って帰る事は出来ないから。】

「うん。これがあればエスティアの魔力を覚えておけるね。良かったねルビー。」

「うむ。そうじゃ!これさえあれば伝達魔法は何時でも使えるからエスティアが困ったら何時でも連絡をするといいのじゃ。」

【これからも連絡していいの?】

「当たり前じゃ!妾達は友達じゃろ?」

【うん。ありがとうルビー。またね!】

 ふわりと光が私の意識を呑み込んでいく。
 遠くでまた会おうという二人の声が聞こえた気がした。
 白い光に飲まれた私は再び真っ暗な闇の中にいた。
 引き寄せられる流れにそのまま身を委ねる。

 ゆらゆらと川の流れのように流されていく。

 そして気が付くと懐かしい天井が見えた。

「…つ…ぁ……。」

 起きようと体を起こすが全く体が反応しない。
 手を動かすのさえ億劫だ。
 声も掠れてなんだか私の声じゃないみたいだ。

「お嬢様!目を覚まされたのですか?」

 目をぱちぱちと瞬かせて覗きこんできた女性を見る。
 えっとサラさんだよね?なんだか前に見た時よりもと考えたところでサラさんは飛ぶように扉から出て行った。

「奥様、旦那様!大変です。エスティア様が目を覚まされました!」

 大声で叫ぶサラさんの動揺は凄かった。
 何事なんだろうと思いつつも、体が動かないので何も出来ない。
 せっかくよちよち歩きが出来るようになった所だったのにと考えた所ではっと気付く。以前と違って部屋の調度品が増えている。
 赤ん坊だった頃の部屋とはまるで違ってまるで大人の階段を登りはじめた位の年頃の娘の部屋に見えた。

「ティア!目が覚めたのか。」

「あなた……。」

 焦ったような父さまと母さま。母さまは涙を目に浮かべて私を見ている。
 そして父さま何時の間に私をティアと呼ぶようになったのでしょうか?
 全く覚えがありません。なによりも一回りほど歳を取ったように見える二人を見て私は嫌な予感が心を占める。

「良かった。もう目が覚めないかと心配したのよ。」

「ママ…パパ、わたし……。」

「エスティア、貴方は11歳になったわ。もう10年も眠っていたのよ。」

「じゅう……い…ち?。」

 嫌な予感は当たるものだ。10年も眠って居たなんて…。
 目を白黒させている私にサラさんが鏡を見せてくれた。
 長い金の髪に色白の肌。青い瞳の少女が鏡に映っていた。

「こ、れ。わたし?」

 首を縦に振ってサラさんは涙を堪えながら鏡を持っている。
 鏡の中の私は、私が口を動かすと同じように答えた。
 そしてそれ程の年月が経ってしまった事を私にひしひしと伝えてくる。

「ご、めん、ね?」

 長い間悲しませてごめんなさいという気持ちを込めて告げると、父さまも母さまもサラさんもとうとう泣き出してしまった。
 体が動かないのがもどかしい。
 これからまたあの練習を再び行わなければならないと考えると恐ろしくてたまらない。
 きちんと生活出来るまでどれほどの年月が必要になるのだろう。

 私は先の見えない現実に目の前が真っ暗になった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...