12 / 21
011 魔力判定
しおりを挟む目覚めた日から1年。
恐ろしいリハビリの毎日を過ごし介助があればなんとか立ったり手を動かしたりよろよろと歩くことができるようになってきた。若いって素晴らしいね。
当然動く為の訓練だけじゃなく、マナーレッスンに始まり言葉や文字や計算などのお勉強も始まった。最近では本も一人で読めるようになってきた。
これはアカシックレコードなしで読めるようになったという意味だけどここまで来るのは長かった。ため息をつきそうなほど忙しい毎日。
今まで10年も寝ていたのだから仕方が無いけど。
ただ本を読むスピードや文字などはあらかじめ訓練していたから覚えるのはすぐだったのが唯一の救い。体は未だに思うようには動かせない。
ちなみに魔力を使って体の補佐をすると普通の人みたいに生活できるのだけど、それは私自身の筋力トレーニングにはならないので控えている。
それに魔法を使えるのもまだ知られてはいけないと思うし。
そんな日々を過ごしていたある日、父さまから私を魔力判定の為に王都の教会に連れて行くと告げられた。本来なら5歳くらいで終わらせているものなのだけれど、私はずっと眠っていたので出来なかったそうだ。
ただ、父さまは何か懸念があるのかすごく言い辛そうな表情をしていた。馬車に揺られて王都へと向かう。はじめての馬車の旅だ。ゆっくりと私を気遣って進んでいる。
母さまは家の事を任されて今回はお留守番だ。外の景色を楽しみながら始めての旅を堪能する。
「ほらエスティア、王都が見えてきたぞ!」
父の言葉に王都の街を馬車から眺める。まるで要塞のような城塞都市。
離れているのに遠くにお城が大きく見えている。白亜の宮殿よろしく町を包むように防衛のための巨大な壁が町を覆う。
ラジェット王国それはシルフィール大陸に近く温暖な気候で農業・畜産・漁業とどれもがバランスの良く取り入れられている。
建国者であり初代国王ラジェットはかつて魔王討伐に乗り出した勇者の仲間であったと言われている。現在は14世代である。
今も国宝として勇者のパーティであった初代国王の使ったとされるユクドラシルの弓が受け継がれており、厳重に保管されている。
なお、矢は既に失われており、実は魔法の弓で矢は魔力で放つのだという一説がある。しかしそれを試したものはいないという。
王都に向かう馬車の行列に並んで王都に着いたのは街から出て2月も経った頃のこと。家はかなり辺境にあったらしい。
それに加えて私の為にかなりゆっくりと進んだものだからこんな時間がかかったのだが。王都は流石というほど人が多い。
初めて見る大勢の人と街の様子。馬車から身を乗り出しそうな勢いの私を父さまが苦笑して椅子に座らせる。
今日は宿に止まって明日の朝に教会で調べて貰うそうだ。その日は馬車の旅に疲れたのか宿で食事とお風呂を済ませるとゆっくりとベッドに横になった。夜中に目が覚める事もなく朝になる。余程馬車での旅は疲れていたらしい。
ガタゴトと舗装されていない道なき道だから道中は大変だった。その事を思い出しながらも今日も教会まで馬車での移動だ。
教会は王都にあるだけあってかなり年季が入った建物に見えた。質素なのに重厚感があり歴史を感じさせる建物だ。
礼拝堂を通り抜けて検査のための施設に通される。
ここでは5歳になる子供たちが魔力の検査をしに訪れる場所なのだが、私は12歳。目立つので個室での検査をしてくれるようになっている。
シスターが機材を部屋の中に持ち込んでくる。よく分からない機材だが、アカシックレコードによると魔力の属性と魔力量を調べるためのものらしい。ちなみに魔力の属性は大抵が瞳の色と同じになる傾向が強い。
本来なら青い瞳を持つ私は水属性なのだが、それは魂に色がついて居ないことで無色透明つまり属性事態が無い事になっている。
どのように判定されるのだろう?首を傾げて見ていると早速計測するのか丸い玉のような石に手を置くように言われる。
言われた通りにしていると、色に変化が無い事でシスターも首を傾げる。
そして魔力量のメーターの所を見ると、針が振り切っている…。これってどういうことだろうね。
単純に魔力は多いけど属性はないよと判断されるのだろうか。首を傾げているとシスターが慌てて部屋から飛び出して行った。
大事の予感が私の中で膨れ上がる。案の定、父さまが別室に連れて行かれて何かしらの説明を受けてきた。
憔悴したような父さまの目を見てなぜだかジワリと涙が目に溜まる。
「あぁ、ティア泣かないでおくれ。これから宿に戻ったらすぐ私は出かけなければならなくなった。」
「父さま、私どうなるの?」
「ティア、どうか悲しまないでくれ。魔力は多かったのだが、属性が出なかった。ティアは属性魔法が使えないと言われたよ。」
「………。」
属性魔法が使えない。つまり実質的に魔力量しか能がないので魔法は使えないと宣告されたようなものだ。
魔法陣なら使えるけど改めてそう告げられるとなんだか切ない。父は私をそっと抱きしめてくれた。
宿に戻って窓から王都の街並みを観察する。人の波が途絶えることなく続いている。どれだけの人がこの街に住んでいるのだろう。
サラさんは父に買い付けのリストを渡されて先程宿を出て行った。お土産とか色々王都にせっかく来たのでまとめて購入するらしい。
サラさんを見送って私はやる事がなくなりぼんやりとしていた。
ふと、悪戯心が沸いてきて魔力を体に纏って補助すると思い切って転移した。
――――…
城に向かって結果を報告するためともう一つの問題を片付けるため国王の執務室へと呼ばれたアルナスはソファーに座って国王ととある面談をしていた。
ガドウィン・ラジェット・メジエル。ふわりと柔らかな金の髪に真紅の赤い瞳を持ち若くして国王となった彼は弟と共に国を栄えさせてきた。
弟が隣国へと婿に入り協力関係を結びながら盛り立てて行く手腕は歴史に残る名君だと囁かれている。
「それで、娘の結果はどうだったのだ?」
「はっ!それが、魔力の属性が現れず、魔力量だけが多く示されました。」
「つまり、魔法は使えないという事か。」
「はい。」
「分かって居るだろうが、貴族として伯爵位を継ぐには魔法は必須だ。娘に魔法が使えなければ子を新たに儲けるか、養子を取るしか無い。」
「分かっております。ただ少しだけ時間を頂きたい。」
悔しげに歪むアルナスの表情。基本的に貴族の爵位を継ぐのは男と決まっている。
ただ、女しか生まれなかった場合は婿を向かえるか、養子を向かえるかが必要になってくる。
しかし娘のエスティアは長い間眠っており魔力判定を受けることができないままだった。
その上、エスティアが眠りについたショックで妻と子を成すも、すべて流れてしまったのだ。新たな子は望めそうに無い。
アルナスが取れるのはもはや養子を向かえることくらいだ。
分かっていてもすぐにはその決断はできない。
「妻の説得も必要ですし、子も授からないとは限りませんから。」
「それもそうだな。」
エスティアは魔法が使えない。
これを妻に告げるのが今から億劫なアルナスだ。
とても平静でいられるとは思えないからだ。妻がどのように受け止めるのか、もしかしたらそうかもしれないとは思っていたが、こうして結果が出てしまった以上告げないという手段は取れない。
本来なら幼い頃に魔力爆発を起こして魔力の発現を示すはずの時期にエスティアは眠りについてしまった。
その事で魔力が使え無い可能性がアルナスの頭の片隅にはあったのだ。
だが、それが事実だと認めたく無い気持ちもある。
魔法が使えたなら娘に婿を宛がうだけで十分だったのだが仕方が無い。
そして魔法が使えないエスティアの将来を考えるとどうしたものかと頭を悩ませてしまう。政略結婚は当たり前の貴族ではあるが、アルナスはリリーと恋愛をした上で結ばれた。
できれば政治的な思惑とは無縁のままエスティアが望むように自由にさせたかったのだが、それさえも難しいかもしれないとアルナスは考える。
貴族には力が必要だ。魔力量のみを目的とした結婚になってしまうかもしれない。
アルナスはエスティアの将来を考えて目を伏せた。
0
あなたにおすすめの小説
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。
しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。
そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。
それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)
しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!
王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?
全14話です+番外編4話
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる