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婚約破棄騒動と魔族襲来
しおりを挟む――――…
学院の隅にある柱の影に蹲る人物を見かけてアシュレイは足を止める。
その人物が自分の知る人であったからという事もあったのだが、主人公が入学してもうすぐ2年になろうとしているこの時まで、敢えて言わずに我慢し続けていた事があったからだ。
アーデルは結局何もしなかった。それがリアを助長させ、第二王子との接近を許した。
それだけではなく学院の風紀をも乱したままにしたのだから許せるものではない。
この学院で第二王子を諌めるべき人物は彼女の他に居なかったのだから。
役目を放棄したアーデルをアシュレイは呆れて見ていた。
なぜ当然の事をしないのか。
それによって引き起こされる事が理解出来ないはずがないのに。
「アーデル様。泣いているのですか?」
「アッシュ。貴方、どうしてここに。」
「どうしても何も、ここは通り道ですから。それで、結局何を泣いているのです?」
「それは……。」
「貴方は成すべき事を放棄しました。それはご理解されていますか?」
「だって。それをしたら私は……。」
呆れた様子でアシュレイは頭を振る。アーデルは全く分かっていない。
自分が何もしない事で何が起こっているのかも。
「貴方が何もしなかった事は問題です。勘違いして行動を起こした者たちを諌めもしなかった。何より女生徒の中、序列でいうと貴方が一番上なのです。その貴方が何もしない事で他の者たちの行動も縛ったのですよ?」
「どうすれば良かったのよ?だって私は死にたくない。」
「貴方は誰も頼らなかった。それもまた問題です。そして行動を起こさなかった事で、貴方の信頼は失われています。社交界でどのようになるのか先の事は考えなかったのですか?」
「そんな……。」
「成すべき事をなさってください。僕に言えるのはその位です。」
「でも、それをしたら私は。」
ぎゅっと手を握って耐えているアーデル様にアシュレイは構わず言葉を続ける。
「あなたは殿下が信じられないのですか?」
「もう私の事は見てくださらないわ。」
「その程度の好きだったのですか?」
「それは、違うわ。今も私は彼のことを愛しています。」
「ならば、彼を取り戻す為に戦ってください。泣いていても進みませんよ?」
前を向いたアーデルにアシュレイはそっと微笑みかけた。
――――…
煌びやかな装飾が施され広い講堂は、今や立食形式で行われるパーティー会場に様変わりしている。
これは学院で最後の卒業パーティーだ。
このパーティーが終わると生徒達は卒業を認められそれぞれの道を歩んでいく。
会場には多くの賓客が訪れており、それぞれの卒業を祝う言葉が飛び交っている。
そして、会場でも上座の方には高位貴族達が陣取っており、中でも目を引くのは第二王子と共に入場した人物だ。
そう、リア・オーストン男爵令嬢。
彼女を伴って現れた時点で会場の目は二人に釘付けだった。
本来第二王子はアーデル・ハイランド公爵令嬢を伴って現れるはずだった。
それが別の女を連れてくるなど前代未聞だ。
しかもドレスさえ第二王子が用意したものだという話だ。
用意したのはドレスだけではない。装飾品もすべてだ。
そんな事、婚約者が居る身で行うなど有り得ない。
その様子を見た者たちがこそこそと話をする。
それは次第に大きくなり、一際ざわりと会場が騒がしくなる。
それはなぜなのか。答えは簡単だ。
彼らの前で床に押さえつけられているのがアーデル・ハイランドとあって、周囲は何が始まるのかと戦々恐々としている。
まるでこれから始まるのが何かを察しているかのように一気に周囲がしんと静まり返った。
「これは、何の真似ですかルーウィン様。」
アーデルを押さえつけているのはリア・オーストン男爵令嬢のハーレムメンバー達だ。
ゲームと違うのは攻略対象が第二王子だけで、他の者はリアのクラスのハーレムメンバーだという事だろうか。
「アーデル。リアから話は聞いたぞ!公爵令嬢で私の婚約者であるにも関わらずいじめを主導し彼女を傷つけたと。」
「そのような事実はございません。」
その言葉にぎゅっと第二王子の服を掴んで怯えるリア・オーストン男爵令嬢。
「ひどいです。だって私をいじめていたのは貴方じゃないですか。」
「いいえ、なぜ私が貴方をいじめなければならないのですか。」
「だって、私がルーウィン様に近づいたからって。そう言ってひどい言葉を投げつけて物を破いたり捨てたりさせたじゃないですか。」
潤んだ瞳をルーウィンに向けて、甘えた声でしがみつくリアをルーウィンはそっと抱き寄せた。
「私は何も指示していませんわ。敢えて言うなら何も言わなかったからこそとも言えるのかもしれませんが。」
「だが、それによってリアが傷ついたのは事実だ。それに先日リアを階段で突き落としたのもアーデル、貴方だと聞いている。」
「有り得ませんわ。誰がそんな事を言うのですか?」
「リアは貴方が突き落としたと言っている。」
「あの、本人の証言は証拠にはなりませんわよ?」
その言葉に唖然としたアーデルはルーウィンを驚きの表情で見つめる。
「ひどい!私を突き落としておいて。それにその時ルーウィン様に頂いた指輪も取り上げられました。」
「それで、お怪我はなかったのですか?」
「幸い怪我はなく無事だったが一歩間違えれば大怪我だったのだぞ。」
「ですから、私ではないと……。」
言っているのにと告げる言葉は紡ぐ事ができなかった。
勝手に奪われたポーチの中から指輪が出たという言葉に遮られたからだ。
「有り得ませんわ。だって、私は盗っていませんもの。」
「だが証拠が出たぞ?アーデル貴方との婚約はこの場で……。」
第二王子の言葉は最後まで告げられる事はなかった。
その場へ乱入してきた者たちが居たからだ。
乱入したのはもちろんアシュレイだ。
その側には本来の攻略対象たちが勢揃いしていた。勿論エドワード殿下も当然のごとくそこにいる。
それを見て驚くリア嬢とアーデル。
乱入してきた私たちがアーデルにとって良いか悪いかはまだ分かっていない。
悪役令嬢アーデルの戦いはまだまだ続く事になる。
「さて、茶番はそれくらいにしましょうか。ルーウィン殿下。」
「茶番だと!何だお前達は?」
「僕はアシュレイ・ブレインフォード。こちらはエドワード殿下、隣にいるのは騎士団長の息子のルイス・ガードナー、その向かいがカイル・メイスン。彼は宮廷魔法使いの弟子ですね。それからシオン・ブレインフォードこと、帝国の第三王子シリウス・グラスウォード・パークス殿下です。」
「それで、なぜこの場に?」
「いえ、どうにもおかしな茶番劇が始まっているようでしたので止めに来ました。」
「茶番劇なんてひどい!だって本当にいじめられたのよ。その女に。」
「その言い分は正しくもあり間違いでもありますね。」
「なんでよ!」
苛立ったリアが声を上げる。
「なぜなら、アーデル様が何もしていないのは事実ですから。敢えて言うなら彼女も言っていた通り、何もしなかった事でアーデル様を擁護する者たちを制御できなかったせいです。」
「だから、何が言いたいのよ。それにほら、指輪も盗られたし突き落とされたのも事実なのよ?」
「くすっ、突き落とされたですか?」
「な、何がおかしいのよ!」
「リアが証言しているのだぞ?なぜそのように笑う。」
「では証を出していただけますか?」
「指輪ならあの女のバックから出てきたじゃない。」
「あぁ、それですか。では確認しましょうか?」
「え?」
「どういうことだ。」
ぱちりと指を鳴らすと光の映像が現れた。
先ほどのポーチを探る男の手が移る。ポーチの中には当然指輪など入っていない。
そして、手から指輪をバッグに落とし、さも今見つけたかのように叫ぶ男の姿が映った。
「な!俺は知らない。知らないぞ。」
慌てた男をルイスが押さえつける。明らかな力の差に男は怯えだした。
「さて、これで指輪の件は晴れましたか?アーデル様が犯人ではないのが明白ですね。」
「な!貴様の魔法で出しただけではないか。それこそ証拠にならない。」
「では、僕以外の証拠を出しましょうか?例えば彼女が突き落とされたとされる日の映像を。」
不敵な笑みを見せるアシュレイと名乗った男に、ルーウィンは何かとてつもない間違いを起こしているのではないかと不安な気持ちがじわじわと沸き上がってきた。
その言葉に青くなるリア・オーストン男爵令嬢。
当然だ。突き落とされたなど嘘なのだから。
そして暴かれていく自作自演の事実にルーウィンは唖然とする他なかった。
リアが縋ろうとする手を思わず払ってしまう。
だが、驚くのはそれだけではなかった。
「さて、この学院には様々なものが設置されています。そこで2年前からずっと感知されている魔力がありましてね。」
「な、何があるって言うのよ。」
すでに開き直っているリア・オーストン男爵令嬢は憮然とした態度をとっている。
「魅了の魔法と呼べばいいのでしょうか?貴方の魔力がずっと垂れ流しになっているので非常に迷惑していたのですよ。」
「え?なにそれ。」
「それにかかった男達が貴方の周りを囲んでいる状態なのですが。非常に迷惑なので引っ込めていただけますか?無理ならかかっている魅了の魔法をこちらで解かせていただくだけなのですが。」
きょとんとしているリアを見てアシュレイはやっぱり無意識なのだと確信する。
そして、魔力操作が出来ていない彼女に制御など不可能だろう。
「魅了の魔法など聞いたことがないぞ。」
「確かにそのような魔法があるとは聞いたことがありませんが、種族としてのそういった事が出来る存在がいるのはご存知でしょう。」
「リアが魔族だというのか?」
「いいえ、ただ人を改造してそのような変化を齎した魔族の男が居たのを確認していますから。もしかすると作られた魔人なのかもしれませんね。」
ざわりと会場が騒がしくなる。
当然だ。人だと思っていたリア・オーストン男爵令嬢が魔族だと言われた様なものだからだ。
「な、わたしは人間よ!そんなの言いがかりだわ。」
「ですが、平民で突然魔力が……なんて事は有り得ないのですよ。」
「え?」
「魔力が暴走するのは大抵子供の時です。15歳で魔力が暴走するなど有り得ない。」
「そんなの分からないじゃないの。それに私が人間だって言うのは母も兄もきっと証言してくれるわ。」
「兄というのはリックの事ですね?」
「な!知っているの?兄はどこよ。」
詰め寄ってきたリア・オーストン男爵令嬢を押しのけて答えるアシュレイ。
だが、告げられた言葉は残酷なものだった。
「リックなら、オーストン男爵をちょうど捕らえに行っているところですよ。メザリント様と共謀して魔族に関与した疑いで。」
「なんですって!メザリント様と共謀って何の事よ。お母様は?どうなったの。」
「残念ですが、どうやら男爵と共に命を絶たれたそうです。たった今、連絡が来ました。」
「え?」
通信用の魔道具に手を当てて答えるアシュレイに呆然とするリア。
だが、そんな事はお構い無しにアシュレイは続ける。
「あぁ、証拠を押さえたようだ。これで最後のピースは揃ったな。第二王子殿下、メザリント様が拘束されたそうですよ。」
「なんだと?母上が。」
「えぇ。王宮に魔族を招き入れて、今まで散々やってきましたから。とうとうお縄についたらしいです。」
「あの、アッシュ?どういう事なのこれは。」
「アーデル様良かったですね。嫌疑も晴れて身の潔白も証明されました。後は我々の仕事ですから。」
がっくりと項垂れたリア・オーストンは、ハッと気がついたように顔を上げる。
「そうよ、きっとリーフィア・レインフォードの仕業なんだわ。彼女は学院に居なかったし。全部彼女がイレギュラーなんだわ。」
「あの、イレギュラー扱いはどうでもいいですが、なにがリーフィアの仕業なんて言うんです?」
呆れたアシュレイは一応リアに確認を取る。
「ゲームがむちゃくちゃな事よ。だって私は主人公なのよ?幸せになるのが決まっていたのに何でこんな目に合うのよ。きっと、リーフィアが全部仕組んだに違いないわ。」
「えっと、例えば?」
「攻略対象が揃って違う設定になっているし、色々とおかしいもの。きっと私をいじめていたのも彼女に違いないわ。」
「はぁ。まだ言いますか。生憎と貴方をいじめている時間がある程に私は暇ではありませんよ。」
「え?」
魔術による変装を解くと周囲から驚きの声が上がる。
リーフィアは魔力が平民ほどしかないと言われていたのに、アシュレイの姿では英雄と呼ばれるほどに魔力を扱っていたのだ。
「私は貴方と遊んでいる暇なんてありませんの。だって、私には陛下に与えられた仕事を全うするのに精一杯。それに商会も運営しているので貴方などに構っている暇はないのです。」
ぎょっと目を剥く周囲を余所にリーフィア・レインフォードは指示を飛ばす。
そう。愚かな茶番を繰り広げた者たちをそのままにしておくなど有り得ないのだから。
「取り押さえろ。」
ぞっとするような冷え切った声で指示をする。
その声に反応して周囲から騎士たちが飛び出してくる。
そしてリーフィアは魅了魔法にかかった男達を一人ずつ解いていった。
もちろん、悪事に加担したものはその後も拘束される。当然の事だ。
「さてと……後は何でしたっけ。」
くるりと振り向いてアーデルを見る。
ポカンとしたアーデルを見てくすりと笑うと、そっと手をとって立ち上がらせる。
「アーデル様。きちんと大切な方を取り戻してきてくださいね。」
「ありがとう、アッシュじゃないリーフィア様。」
「くすっ、フィアでいいですよ。アーデル様。いずれ家族になるかもしれないんですし。」
「あ、ありがとうフィア。私のこともアディって呼んでくれる?」
「喜んで。アディ。行ってらっしゃい。」
アーデルを送り出した私はぶつぶつと呟き続けるリア・オーストンを放置して外を見る。
魔族の襲撃に備えているのだ。
エドワードとカイル・騎士を手伝っているルイスも男を引き渡してこちらに戻ってきた。
シリウスは主人公に哀れな視線を向けていたが、すぐに切り替えたようだ。
パリンと音がしてガラスの窓が破られる。
進入してきたのはガーゴイルのような魔物たち。
そしてそれを操っているかつて出会ったシュナイザーと呼ばれた魔族だ。
シュナイザーは主人公を見ると明らかに残念だという表情で大げさな仕草で表現する。
「あぁ、残念な事だ。リリスの命を賭けた作品は役立たずなまま終わったようだ。」
「リリスってこの間のサキュバスの事か?」
シリウスの質問にシュナイザーがいかにもと勿体をつけて話しだす。
「そう、あれはリリスの魔石を取り出してその女に移植したのだが、どうやらリリスの魔力を全く扱いきれていないようだ。漏れ出している魔力からして効果ももうすぐ無くなるのではないか?全く魔族一人の命を賭けてこれとは、失敗作にも程がある。」
「ちなみに魔力が無くなると、どうなる?」
「当然死ぬでしょう。なぜなら無理やり魔力を与えられたその女は制御せずにこれまで垂れ流していたのでしょう?体と魔力が全く馴染んでいない様子を見れば一目瞭然。後は今までの失敗作どもと同じように砂になって消えていくでしょうね。」
「そ、そんな!私は主人公なのよ。どうして死ななければならないのよ。」
「単純ですよ。魔力を制御できるように訓練していたのならまだしも、垂れ流していただけで無差別に振りまいたのだからそのツケが回ってきているのです。」
「い、いやよ。死にたくない。」
「哀れな。失敗作なら失敗作らしく最後は美しく散りなさい。」
シュナイザーの腕がリア・オーストンに突き刺さる。
人であれば血が出るはずなのに血が全くでないまま、砂となって消えていく。
ざらりと砕けた彼女を見て周囲は大混乱に陥った。
「おっと、いきなりひどいですね。」
そんなシュナイザーに手を止める事はせずに切りつけるルイス。
そしてそれをカバーするように魔法を使って応戦する。
的が小さいので魔法も大規模なものは使わない。
意外にも研究者のわりにすばやい動きを見せるシュナイザー。
だが、それでも多人数相手ではいずれ詰む。
ガーゴイルたちは既に集まっていた騎士によって討伐され、集中して攻撃できる態勢になっている。
「ぐ……このままでは。」
形勢が悪くなった時点で逃げ出そうとしているのだが、その隙がないほど攻め立てられているシュナイザー。
とうとう追い詰められた彼はカイルの剣に貫かれて絶命した。
討ち取ったと分かった時点で歓声が響く。
だが、まだ王宮には大物が潜んでいる。
私たちはすぐに王宮へと向かう事になった。
――――…
王宮では側妃であるメザリントの部屋に騎士が詰め掛けて騒然となっていた。
陛下の書状を持って現れた騎士たちにさえ、まともに応対しない側妃。
痺れを切らした騎士たちは強引にメザリントを引きずっていく。
叫び騒ぎ立てる側妃を助ける者など居はしない。
周囲のものも同様に取り立てられて連れて来られたのは謁見の間。
普段なら高い位置から見下ろす立場の彼女は、いまや罪人として騎士に押さえつけられていた。
「一体、私が何をしたと言うの!」
未だに罪を認めない側妃にセインティア王国の国王レガード・セインティア・ハルネリアスは頭を抱えた。
醜聞となるだけでなく国家の一大事として広まるであろうこの後の事もあるが、何より証拠を列挙して言い逃れが出来ない状況であるにも拘らずこの始末。
自身の側妃である為多少は温情をと考えていた国王の気持ちは一気に冷めてしまった。
「メザリント・セインティア・ヴァズレー。王妃殺害及び第三王子暗殺未遂、そして第一王子殺害未遂と王都を混乱させた罪は大きい。そして、学院にも手を伸ばし魔族と共謀して国を混乱させたのはもはや言い逃れは出来ない。証拠もあるのだ。見過ごす事のできない罪過の数々をここに記してある。もちろん証としての映像もある。」
「な、映像ですって?何なのそれは。」
「部屋のあちらこちらに監視用の魔道具を設置してある。ここ3年ほどの情報は全て記録されている。証拠として申し分ないほどだ。」
再生された映像を見て目を剥く側妃。
そして、すべてが明らかにされた後の為、これ以上の言い逃れは出来ないまでに追い込まれていた。
丁度その時、謁見の間への立ち入りを願い出るものがいた。
側妃の息子である第二王子ルーウィン・セインティア・ヴァズレーとアーデル・ハイランドを筆頭に学院での状況報告を兼ねて第三王子エドワード・セインティア・アークスと婚約者であるリーフィア・レインフォード。
そして護衛のルイス・ガードナー、魔法関連の報告に宮廷魔法使いの弟子であるカイル・メイスンと見届け人として帝国の第三王子シリウス・グラスウォード・パークスが揃って謁見を求めたのだ。
当然無関係ではない為に無碍には出来ず謁見を許可した国王。
罪人として抑えられているメザリントとその周囲の騎士たちよりも数歩後ろに整列して学院で起こったことを報告する。
そして報告の最中も第二王子に助命を嘆願し続けていたメザリント。
その姿になんとも言えない表情を浮かべているルーウィンは返事を返す事も出来ないまま沈黙するしかない。
罪の大きさを思えば助命など嘆願できようはずもなく報告を終える。
がっくりと項垂れたメザリントにかける言葉などない。
「はぁ。この女もここまでですか。」
声を上げた自身の近衛であった男にメザリントは何をと言い掛けたのだが、その言葉を告げることは出来なかった。
タルウィン・マナフレッドと言う名の近衛の男はその姿を変貌させたからだ。
金の髪は白銀に変化し、白磁のような肌は褐色に変化する。
変わらないのは真っ赤な瞳だけ。
だが、その姿は魔族のものだ。
突然の変化にとっさな反応する事は誰にも出来なかった。
自分を抑えていた騎士を払いのけて立ち上がり、こちらを向いているメザリントの額を小突くようにすると、ピキリと何かに罅が入るような音がする。
そして甲高い音が聞こえたと思うとメザリントは顔を真っ青にして崩れ落ちた。
そして、むくりと起き上がると、体を震わせて涙を流した。
ごめんなさいと壊れたラジカセのように繰り返す彼女の姿は先ほどとは全くの別人のようだった。
怯える少女のような姿は今までの事を悔いているかのように見える。
そして、驚いて手を離した騎士の剣を奪い取り自分自身を貫いた。
ごぽりと口から赤い血が滴り落ちる。
胸は真っ赤な薔薇が咲いたように血に染まりどさりとその場に倒れた。
唐突過ぎて訳が分からないまま誰も動けない。
「ごめんなさい。ジェイク様、陛下。私は取り返しの付かない事を……。」
呟いた言葉はか細くて頼りない。だが、静まり返った謁見の間には良く響いた。
彼女の呟いた名はリーフィアの父のもの。
なぜメザリントがその名を呟くのかこの場にいる誰も理解する事はできない。
ただ一人を除いて。
そして、血が止め処なく流れ出てメザリントの周囲を赤く染めていく。
だが、誰一人として動く事はできなかった。
魔族の男がこの場にいるのだ。うかつに動く事など出来はしない。
「全く愚かな女だとは思いませんか?好きな男を手に入れる為に私の力を借りたと言うのに手に入れる事すら出来ずに死ぬなんてね。我々本来の目的を全く遂げる事が出来なかった上にこれでは私も皆に合わせる顔がないのですが。」
「目的とは……いや…お前は、一体何者なのだ。」
魔力を開放したタルウィンの威圧で誰も動けない中、かろうじて動く口で国王としての役割を果たす。
レガード国王の問いにタルウィンは笑って答える。
「何者も何も、タルウィン・マナフレッドと名乗っていたはずですが?まぁいいでしょう。私は魔族を統べる者。多くの人間は私を魔王と呼んでいる。」
「な!魔王だと?」
「そう。そして、私の目的は人間を混乱に陥れ、破滅へと導く事。そして、我ら魔族の国をより豊かにすることだ。」
「なんと。」
「まぁ、今回は目的半ばで失敗しましたが。なかなか面白い手法だったでしょう?人は簡単に欲望に走る。そして目的の為には手段を選ばない。自らの願いの為に国をも差し出したこの女も、それに加担した者達も。滑稽で本当に……面白い。」
くくっと声を上げてタルウィンは笑う。そして無機質な赤い瞳で周囲を見渡すと、くるりと振り向いてこちらを凝視した。
威圧が強まり息をするのもやっとの状態に思わず全員が膝をつく。
まるで上から押さえつけられたような重量のある魔力に誰も抗えない。
一人を除いては。
「ふむ。シュナイザーの言っていた者はお前か。確かに私に近い魔力量を持っているようだ。」
かろうじて立っていたリーフィアの前に瞬間移動のようにタルウィンが移動する。
その速さに反応できずに驚いて思わず仰け反ったリーフィアの腰をタルウィンは軽々と引き寄せた。
「なっ!」
何をすると言う間もなく顎を掴まれ冷たい唇を重ねられる。
蛇のように絡みつく舌に不快感が全身を支配し、冷たい冷水を浴びたように体が冷たくなっていくのを感じる。
抵抗するのも空しく、何かが口の中に入ってきた。
硬い氷のようなものが口を通して移される。
「ん!?」
吐き出そうと思っても抵抗は空しくそのままごくりと飲み込んでしまった。
飲み込んだのを認めるとすっと唇を離し、開放される。
「かはっ、げほっ……な、何を。」
吐き出そうとするも既に体内に入り込んでしまって取り出すことは叶わない。
そして、タルウィンはリーフィアの額に指を添えて魔力を流そうとしたその時、甲高い破壊音とガラスの割れる音がして素早く飛び込んでくる者がいた。
「な、スカーレ?」
久々の再会に驚く間もなくいつぞやの魔族であるスカーレットがタルウィンを蹴り飛ばした。
「この馬鹿親父!私の友達に何するんだい。」
「と、友達だと?」
驚くタルウィンに詰め寄ってがくがくと襟首を掴んで振り回すかつての友。
何やら言い争いをしているようだが、いつの間にかタルウィンの威圧は消え失せており、エドワードがリーフィアをそっと抱きしめた。
「あ、エド。私……。」
抱きしめられたと感じてやっと仄かな暖かさを取り戻す。
ほっとするとぽろぽろと涙が溢れてくる。
「大丈夫。僕はここにいる。絶対離したりしない。」
優しく諭すように言うエドに体を預ける。
なんだか体が鉛のように重くなって動かない。
瞼が強制的に閉じられる感じでくらりとする眩暈と共に意識を失った。
「フィア?」
ぐったりとして動かないリーフィアに気付いたエドワードは、焦ったようにリーフィアの体を揺さぶって名前を呼ぶ。
だが、エドワードの行動は空しく、リーフィアの体はどんどんと冷たくなっていく。
まるで氷のように冷たい体を必死に温めようと摩ってみるが効果が出ない。
異変に気付いたスカーレットがエドワードの前に立つ。
魔族相手と睨みつけるエドワードにスカーレットは気にするでもなく、リーフィアを観察して言葉を紡いだ。
「魔族はさ、魔力が釣り合わないと子供が出来ないんだよね。」
「なに?」
いきなり話しはじめたスカーレットに怪訝な表情を向けるエドワード。
「だからさ、フィアを妻に迎えようとして魔石を飲み込ませたんだと思う。」
「なっ妻にだと!」
「魔石をお互いの魔力で染め合う行為を人族で言うところの結婚式みたいなものなんだけど、一方的に染めて自分の言う事を聞く人形にする事もあるんだよね。」
「それで、フィアはどうなる?」
「まだ魔石は染まっていないから本人の魔力で染め直せば意識を取り戻すと思う。それが無理なら婚約者の君が染めるしかないんじゃないかな。」
「………フィアの魔力か。」
少し考えて以前リーフィアから取り上げた魔力の飴を思い出したエドワードは、何とかなるかもしれないと希望を見出す。
「ちゃんと助けてやってよね。こういうのは王子様の役目だろ?私は大馬鹿者の親父に説教しないと。」
「分かった。」
頷いて、リーフィアを抱きかかえて自身の部屋へと連れて行く。
心配そうに見ている仲間達に大丈夫だと一言告げて陛下の許可を得てその場から辞去した。
――――…
部屋に戻ったエドワードはベッドにそっとリーフィアを横たえる。
冷たく氷のように冷え切った体を温めるために添い寝のようにして、以前に取り上げた飴を口に含んで反応のないリーフィアにそっと溶け出した魔力を流し込む。
それを何度か繰り返すと、少しずつ体が温まってきた。
震える瞼にそっと口付けを落として、再び魔力を流し込む。
ゆっくりと魔力が浸透して冷え切った体がいつもの温かさを取り戻していく。
何度も繰り返していくうちに、反応のなかった体に変化が現れる。
ぴくりと動く指先と少しずつ回復していくリーフィアがやっと意識を取り戻す。
「ふぇ?ここは……。」
抜けた声を上げたリーフィアをエドワードは思い切り抱きしめる。
そして、頭が覚醒し始めたリーフィアは、ここがベッドの上で、エドワードに添い寝して貰っていると言う状況を把握して顔を真っ赤に染めた。
「えっと、私……。」
どうなっているのと問う言葉はそのまま飲み込むこととなった。
「んっ。」
いつかの甘い口付け。とろりと絡む蜜の味がリーフィアの口内に広がる。
柔らかい唇が重なり、口付けられるままにリーフィアはたどたどしく応えた。
「お帰り、フィア。」
優しく微笑むエドワードにリーフィアは恥ずかしそうにただいまと返した。
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2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
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※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
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※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
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