34 / 36
ある日のヒロイン観察記録
しおりを挟む暖かな光が窓から教室を照らしている。
お昼時なので全員が食堂に移動しているのだ。
当然の事ながら学生たちはすでにこの場には残っていない。
そんな中、複数の女の子に連れられてくる一人の学生。
英雄と呼ばれ男爵位を得たアシュレイ・ブレインフォードだった。
「こちらですわ!アシュレイ様。」
「あ、うん。そんなに急がなくても。」
「ですが、見そびれてしまいますわよ。見たいとおっしゃったのはアシュレイ様ではありませんか。」
「そ、そうだね。ありがとう……。」
お昼の時間であるのにこんな場所に連れてきてもらった理由は、とある女生徒の異常行動を聞きつけての事。
まぁ、見なくても大体は予想が出来ているのだが、念のために確認をとお願いした次第だった。
ある物を設置しているので証拠は残るのだし、わざわざ見る必要はないけれどいちいち確認するのも面倒という理由もあるし、野次馬根性が働いたのもある。
「ほら、ご覧になって。彼女この時間になるといつもこうですの。」
窓から下を覗いてみるときょろきょろと周囲を確認している例の彼女リアだった。
手に持っているのはどう見ても水桶で、学院に設置されている井戸の傍にある物だ。
何度も言うが何をするのかは想像できてしまっている。
だが、想像するのと目で見るのは別物だ。
何となくアシュレイこと、リーフィアは奇妙な期待が沸き上がって来るのを感じた。
「見てくださいまし、自分で水を被っていますわ!」
目の前では桶から水を被り、濡れ鼠のようになったヒロインの姿があった。
天気もいいのでそこまで冷たくもないだろう。
―――うわぁ、本当にやっているよ。ある意味凄いね!
「一体何をしたいのかしら。」
「きっと殿方の目を引きたいのでしょう。あれだけ侍らせておきながら一体何のつもりかしら。」
アシュレイの周囲にいる女生徒たちから口々に出てくる言葉にリーフィアも苦笑してしまう。
「ほら、次はいつもの方々です。」
放り投げた水桶の音を聞きつけたのか、リアの傍にいつもべったりとしている男たちがぞろぞろと顔を出す。
その中にセインティア王国の第二王子ルーウィン・セインティア・ヴァズレーの姿もあった。もちろん、彼の側近達も同様に駆け付けていた。
「きっと水をかけられたとか何とか言っているに違いないですわ。」
「でも今日は殿下もいらっしゃるのね。珍しいわ。」
彼らの目がこちらに向いて睨んでいる。どうやら我々が彼女に水をかけたのだと受け取ったのだろう。位置的に離れているし、あり得ないのだが。
―――入学式での優秀な王子様どこいったし。
「殿下も殿下ですわ。あんな井戸の傍にあるような水桶をどうして私達がいちいち水を汲んでこんな所から投げるとお考えになるのかしら。」
「まったくですわ。どう考えても使用人にやらせる事で私たちがわざわざやることではありませんもの。」
「だいたい、どうやったらあんな位置に投げつけられるとお考えになったのかしら。私達にそんな怪力が備わっているとでも思っておいでなのかしら。」
「いやですわ。そんな貴族女性いるはずないではありませんか。」
―――ごめん、多分できます。
リーフィアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
どたどたと教室に入ってくる面々、面倒な事になったと溜息をつきたくなる。
「お前たち、なぜこんな事をした!」
殿下に連れられていったリアはタオルで濡れた髪を拭いて貰っている。
「なぜとおっしゃられましても、何もしておりませんわ。」
気丈にも一人の女生徒が答えた。彼女たちの目は冷え切っており、憤っている相手が王族であるのも忘れ反撃しそうだった。これは流石にまずい。
「殿下、彼女たちは何もしておりませんでしたよ。」
アシュレイが女性たちの前に立ちにこやかに答えた。
「では誰がリアにこんな真似をしたというのだ。あの場にいたのはお前達くらいだ。」
「では私が彼女を害したとでもおっしゃるのですか?一緒にいましたし、何もしていないと彼女たちも言っているではありませんか。」
アシュレイの言葉にリアはそろそろとこちらを見上げて目を瞬いた。銀の長い髪を結わえ青い瞳の貴公子がその場にいたからだ。
「で、殿下……ごめんなさい。私の…勘違いだったみたいです。」
「だが……。」
「私は、大丈夫ですから。」
リアはルーウィンの袖を掴んで上目遣いにうるんだ瞳を向けている。まるでか弱い小動物のように庇護欲をそそる姿だ。そっとその腕に柔らかな胸を押し付けるのも忘れていない。弱々しく笑えばもはやこれ以上の言葉は紡げない。
「……リアがそういうのであれば。お前たち、次はないから覚悟しておけ。」
第二王子はそう言うとこちらを睨み付けてからリアを連れ立っていった。リアは名残惜しそうにこちらを見ている。その目は悲しそうに伏せられているが、演技だと知っているので何も感じない。
―――まぁ、何か感じるものがあってもいやだけど。
だが、次の瞬間再び目の合ったリアは気持ちの悪い気配を放っていた。周囲の男たちが一気に色気だった。
―――うわぁ、もやもやと気持ち悪っ!なんだあれ。もしかして魅了ってやつかな。
リーフィアは思わず仰け反った。あれは見てはいけないモノだと本能的に感じる。
―――関わりたくないのも分かるなぁ……。うん、遠目に見るだけにして直接関わるのはやめよう。
しかし、次の日リーフィアの決断は脆くも崩れ去ることになった。
「アシュレイ様とおっしゃるのですよね。英雄の。」
やたらと目を輝かせてぞろぞろと男を侍らす女が目の前にいた。
「あ、そうだね。そんな風に呼ばれているらしいけど、ただの成り上がり男爵だよ。」
引き気味に答えていたが、ぐいぐい来るのでうっとおしい。あと、もやもやとしたもの引っ込めてくれ。
「あの、ブレインフォード商会って王都でも有名ですよね。」
「えぇ、おかげさまで。」
「とっても素敵なスイーツを出しているんですよね。いいなぁ。」
「…………よろしければ、是非いらしてくださいね。」
「本当ですか!嬉しいです。ね、いいでしょう皆。」
―――え、マジで来るの?面倒だなぁ。
結局来ちゃったよ!学院が休みの日に店頭に顔を出すと例の顔ぶれが並んでいた。
―――並ぶって言うより堂々と客を押しのけて来やがったし。
思わず口が悪くなるのも仕方がないと思う。お客様第一のお店でこのような横暴が許されるか。だが、相手が相手なので町の人たちはそっと見なかったことにしているようで苦情は顔に出ているものの声に出す者は居なかった。
「い、いらっしゃいませ。」
「うわぁ、ソーダってこの世界にもあったんだぁ。」
「はは、リアは可笑しなことを言う。この世界って他には無いだろう。」
「あ、うれしくて思わず変な事口走ってしまいました。」
「あの!アシュレイ様、私このアイスが乗っているやつが欲しいです。」
上目遣いにこちらを見上げて黄色の瞳を輝かせている。
「あ、はい。銅貨3枚です。」
そう答えるとリアは絶望したような表情を浮かべた。まるで、え?金取るの?とでも言わんばかりだ。
営業スマイルでにっこりと微笑むとすぐに方向転換したらしく王子様にねだっていた。勿論金を出していたのは彼の従者だったが。
満足そうに堪能しているリアを見て王子や周囲の男たちの顔が緩んでいる。その顔を思わず殴りたくなったが、リーフィアは我慢した。
―――ここはお店、ここはお店。目の前のお客様は神様(悪魔)です。
謎の呪文を心の中で唱えつつ平静を装う。
「あれ、何だろう不思議な感じ。怠かったのが吹き飛んだみたい。」
リアの言葉に同じものを頼んでいた男たちは首を傾げた。だが、そんな些細な事は気にならないのかすぐに緩んだ顔になっていた。
「これってやっぱり回復アイテムだわ。きっとアシュレイは私の知らない攻略キャラよ。だって回復って言ったら後に出てくる魔族との対決に必要なはずだもの。」
ボソッと口に出した言葉は誰にも気づかれることはなく、リアはにっこりと微笑んだ。
「疲れたー!もうヤダあの子。気持ち悪すぎるよ。」
リーフィアにしては珍しくぐったりとソファーの背の方へだらりと圧し掛かったまま動かない。帰って早々にこれだった。
「そんなに酷かったのかい?」
エドの前であるのにリーフィアが貴族らしさをかなぐり捨ててだらけているなど初めて見せる姿だ。優雅に紅茶を飲んでいるエドワードだが、この部屋はリーフィアことアシュレイの部屋である。
―――どうやって入ったのだろう。
しかも部屋の当人より見るからに寛いでいる。リーフィアはにっこりとエドワードに微笑まれて一瞬ジト目になりかけたが、疲れ切っていた為に考えることを放棄した。
「酷いっていうか、気持ち悪いっていうか。何とも言い表しようのない嫌悪感が酷いのよ。まるで世界は私の為に回っているを地でいっている人みたいで怖い。」
あれからもことごとく付き纏われて流石のリーフィアも疲れ果ててしまった。
もはやストーカーさながらで、リアのあだ名がヒロインちゃんからストーカー女にランクアップ?しそうな勢いだ。
「なーんで付き纏ってくるようになったかなぁ。」
***
「もう!なんで攻略できないのよ。」
リアの叫びが小さな部屋の中で響いた。勿論、その声は外へと駄々洩れになっているのだが気が付かない。
「他の攻略キャラも全然上手くいかないし!一体全体どうなっているの?」
びりびりと教科書の中身を破りながらリアは苛々したまま収まらずこれでもかと言わんばかりにごみの山を築いている。
「そもそも、悪役令嬢なのにアーデルが何もやってくれないから中々イベントが進まないし!リーフィアなんて教室にも来ないしあり得ないじゃない。訳が分からないわ。」
怒りのままに小さな護身用のナイフを取り出すと教科書の表紙にザクザクと切り傷を付けていく。
「何で私が自分でこんな事をやらなくちゃならないのよ。誰も彼も遠巻きにしているだけで直接いじめとかして来ないし。」
乙女ゲームでされていたはずの数々の事はさっぱり起こらず、リアは自作自演をしなければならなくなっていた。
そもそも、水をかけられ教科書を破られたりなどといういじめの初歩的な事でさえ貴族であれば自ら手を下すような事はしないなど思いもしない。
貴族であればそのような手を使う必要はない。
自ら行う虐めであれば社交の場でドレスにワインをかけるくらいがせいぜいだろうか。
使用人にドレスを切り裂かせるなら分かるが、教科書のように犯人が特定されやすい学院の中でなど実行するものではないのだ。
出来ることと言えば無視することくらいで、事実リアはすでに生徒の大半を敵に回している。
貴族たちはそこまで馬鹿ではないし、それぞれ家を背負ってこの場に立っている事をリアは理解していなかった。
いっそ、自らの家も崖っぷちに追い詰められての犯行であれば分からなくもないのだが。
アーデルでさえ、いじめられている内容がリアの自作自演であるなど思ってもいないだろう。彼女もまた前世の記憶に縛られる一人だ。
「あぁ、ルーウィン様は簡単だったのに他のみんなは何で……。おまけにシリウス様も居ないし。」
ぐちゃぐちゃに切り刻まれた無残な共感所の残骸を鞄に詰め直すとリアはそれを適当に放り投げた。
ボスンとベッドに転がると俯きになり顔だけ上にひょいと上げた。
その姿は若干芋虫のように見えなくもないが、この場には攻略対象も誰も見ていないので気にならないのだろう。
「やっぱりあのアーデルって悪役令嬢はきっと転生者なんだわ。だから私に何もして来ないのかも。でも、それだと困るのよ私の幸せの為に。」
次の日、誰も見ていない早朝に自分の机の上に昨日準備していた教科書の残骸をばら撒いた。
その様子は全て設置されている魔道具に記録されているのだが、そんな存在を知らないリアは気が付かない。
それはアシュレイが学院長の手伝いだと称して設置していた物だ。
その存在を知るのは国王陛下とアシュレイにクラウス様、そしてエドワード殿下や王の影くらいだろう。
そして、誰かが通りかかるのを待って涙を見せれば簡単だ。
後は勝手に噂として尾ひれを付けて広まってくれるだろう。
リアは自分の周りに自作自演だと見抜いていてそれに乗ってくれる男たちが居るのを知っているのだ。
「結局アシュレイは攻略できなかったけど、まぁいいわ。そろそろ仕上げをしなくっちゃ。階段から落とされるをクリアすれば後は婚約破棄一直線なんだから。」
にんまりと笑うリアの姿を遠目に見ていたリーフィアことアシュレイはやれやれと首を振った。
放課後今度は何をするのかと思っていたら案の定、面白い事を始めていた。
階段を5段ほど飛んで降りた後、じんじん痺れたらしく硬直している。
そして硬直から立ち直った後で思いっきり叫んでいた。明らかに階段から落とされた振りをしているのだが、落ちた音と叫び声の順番がおかしい。
駆け付けてきた第二王子とゆかいな仲間たちが甲斐甲斐しく彼女を運んでいった。
―――もはや滑稽すぎてやらせかって程だよ。
その後しばらくして学院中にアーデル様が嫉妬にかられリア・オーストン嬢を階段から突き落としたという噂が広まっていった。
―――ここまできても彼女は何もしないのか。アーデル様、自分で自分の首を絞めているって分かっているのかな。
あまりにも茶番過ぎてリーフィアは呆れる他にないのだが、当事者たちもきっとあの気持ち悪い魔力に当てられている気の毒な犠牲者たちだと思い直す。
だけど、彼ら自身にそういった気持ちが全くなければあのような事にはなっていないはずであり、やっぱり全員有罪だよねと遠い目をしてその場を立ち去って行った。
2
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる