異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第六十五話 前言撤回

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第六十五話 前言撤回


急激な運動は身体に良くないと、徐々に慣らしていくつもりだった。

「はい、キビキビ動く!体操の動きだってちゃんと意味があるんだから、ダラダラやってたら何の意味も無いよ!」
「はい!」

無理は禁物?多少どころか、精いっぱい無理しないと、脂肪は燃焼してくれない!
と言う事で・・・ビシバシです!

「五分休んだら、走り込みね」
「えぇ・・・」

嫌そうな顔をしたので、お・し・お・き。

「いやぁぁぁぁ!ごめんなさいぃぃぃ!」

爪を出し、威嚇しながら後ろから追いかける。
二足だから可愛いもんでしょ。

「次は体幹ね」

大きゴム製のボールをホームセンターで購入。
今はダイエットグッズも売ってるのねぇ。
ボールの上に座り、足が床に付かない状態でバランスを取る練習。
これで体幹を鍛えるのだが、頑張ってバランスを取らないと・・・。

「ぎゃぁ!」

すっころぶ。

「お前さん、凄いな」

一緒にやってるエストは、ゆらゆらと揺れながらも耐えている。
私はまぁ、猫ですから?
少しお腹はぽてっとしているし手足は短くとも、猫ですから!

「むふふ」

片足立ちでも余裕。
私の頭の上で、クロもポーズを決めます!

「キュ~!」

楽しそうで何より。
おっと、そろそろお昼ご飯の時間だ。

「エスト、後お願いしても良い?」
「おう」
「よろしく~」

さて、何にしようかなぁ。





「うぅ・・・もう嫌だ・・・」

ヒナがいなくなった後の道場。
キャロルは何度目かも分からない床の上で、半泣き状態になっていた。

「こんなの、何の意味も無いじゃない・・・大体、猫なんかに・・・馬鹿みたい」

エストはやれやれと思いながらも、手を貸す事はしない。
辛い訓練について行けず、脱落する新人騎士を何百人と見てきたからだ。

「猫なんか、ねぇ」
「だいたい、あれ猫なの?魔獣じゃないの?喋ってるし、人みたいな生活して・・・」
「本人は獣人だって言ってたな」
「はぁ?獣人って言えば、美人が多くて昔は奴隷狩りの対象だったって聞いたけど?」

それはエストも不思議に思う所ではある。仕事柄獣人に会った事もあるエストは、ヒナと同じ姿をした獣人を見た事がない。皆、キャロルの言うような獣人だ。

「さぁな」
「さぁなって・・・」
「俺も最近ここへ来たばかりでな」
「・・・本当、何なのよここ。二足歩行の猫が畑仕事してるし、その一匹はフェンリルを従えちゃうし!ドライアドはいるは、老人が日向ぼっこしてるは・・・もう、わけわかんない」

冒険者として色々な土地に行ったキャロルだが、ここが何処なのか検討も付かない。
気が付いたらこの島に来ていた。
逃げようにも、どこへ向かったら良いのかも分からない。
ため息を吐きかけた瞬間、道場の扉が開いた。

「お昼ご飯出来たよ!」

それだけ言うと、ヒナは去って行った。
二人の腹が同時に鳴る。

「・・・ご飯は美味しいのよねぇ」

ぐったりとしていたキャロルは立ち上がると、食堂へと向かった。

「ふむ・・・騎士団でも餌付けが出来ていたら、もう少し違ったかもな」

騎士団の食堂で食事を作るヒナを想像し、クックッと笑いを飲み込みながら食堂へと向かった。





「ふふふふふふ」
「いやぁぁぁぁ!」

キャロルが来てから、一週間が経った。
相変わらず彼女を追い掛け回す日々が続いている。

「二足歩行の猫にも勝てないなんて・・・」

ポソリとキャロルが呟いた。
体格の差はあるが、足の長さは私の方が短いんだけどなぁ。

「じゃあ、こっちでやってみる?」

人型になってみた。
リシュナにもらった着替えビー玉(勝手に命名)を使って、洋服も人用のものにサッと着替えられる。

「は・・・はぁぁぁ!?」
「なっ・・・」

エストまで驚いてる・・・ああ、この姿を見せるのは初めてか。

「獣人」
「最初からそう言っている」
「そっちが本当の」
「いや、猫の方が本物です」

準備運動をしてっと。おお、柔軟性はそのままみたいで安心。
だが、体格は大分変る。
エストと同じくらいの背が、今はキャロルよりも低い。
何故ここだけ前世を引きずったのか・・・。

「ふふ、ふふふふふ」

キャロルが不適な笑いを漏らす。

「何よ!見かけだけだったの!?正体はこんなに小さいじゃない!」
「だから、こっちが正体じゃないって」
「勝負よ!」

聞けよ。
急遽、キャロルと私の勝負が始まった・・・らしい。
先ずは走る。

「ふん!」

鼻息の荒いキャロル。
しょうがないので、付き合う事にした。

「あのドライアドの樹まで。よーい・・・始め!」

エストの号令で、五百メートル走開始。

「三秒!向こうの世界だったら、世界新だね」
「ヒナ、凄い!」
「さすが、主!」

キャロルはまだ三分の一くらいか。
やっとたどり着いた頃には、完全に息が上がっていた。
まぁ、一週間だしね。

「はぁ、はぁ・・・今度は、体術よ!」

まだやるのか。
道場へと場所を移し、試合開始。

「ヒナの勝ち!」

瞬殺でした。
この世界の冒険者、大丈夫か?

「うう・・・」
「大丈夫?」

座り込むキャロルに手を差し伸べたが、その手を払われた。
少し時間を置いた方が良さそうだ。
縁側に座って畑を眺めていると、エストがやってきた。

「ちょっとやり過ぎた?」
「自分の実力を知るのも必要だろう」

お茶の中の氷が、カランと音を立てた。

「その姿・・・」
「始祖の先祖返りだって」
「トーナ王国には行かない方が良さそうだな。あそこには始祖を信仰する者もいるらしいからな」

エストがいた国は森を挟んだお隣さんになる。
ある程度の情報はあるでしょうねぇ。

「ああ・・・まぁ・・・国に行った事はないけど、前に話したアヌリっているでしょう?」
「ここに住んでた冒険者の一人か」
「そう。彼がトーナ出身だったんだよねぇ」
「よく無事だったな。あの姿を見たら、連れ去りそうだが」
「あはは・・・」

踏んでと言われたとは、言えない。

「もしキャロルが帰りたいって言ったら」
「言わないわよ!」

庭にボロボロのキャロルが立っていた。

「絶対に、振り向かせるんだから!」

キャロルは言うだけ言うと、走って行ってしまった。

「え~っと・・・今のは?」
「まぁ、自分の目的を思い出したんじゃないか?」

スポコンの感動シーンみたいになっているけど・・・。

「それって、一度は忘れてたって事だよね?」
「んん?いや、それは・・・」
「ここに、来た、目的を、忘れていた、と」

うんうん、まぁ、そう言う事もあるよね。

「なんて、言うと思ったかぁ!」
「ヒ、ヒナ?」
「エスト、彼女に剣術の訓練を。私は私で、色々と、ね」

楽しくなりそう。





「「「乾杯!」」」

縁側で三人、夕涼みを兼ねての晩酌。

「あ~、美味しい!」

あれから三か月が経った。
キャロルは、ここに来た頃と比べると・・・別人だ。
痩せすぎず、太り過ぎず。
冒険者らしく筋肉はついているが、マッチョではない。
何があったか・・・詳細は控えておく。だが、あくまで健康的に!それだけは言っておきたい。

「剣術の方は?」
「まぁ、良いとこまで行くんじゃないか?」
「元騎士団隊長さんのお墨付きだね」
「ほんっとに、師匠には感謝してます!」

キャロルはエストを師匠と呼ぶようにまでなっていた。
毎日叩きのめされても向かって行くキャロルに、エストも楽しそうだった。

「もちろん、ヒナにも!」
「まぁ、当然でしょ」
「「あはははは!」」

私とキャロルには、友情が芽生えていた。
この世界でできた、初めての女友達だ。

「これからどうするんだ?」
「暫くはソロの冒険者として頑張ります」

キャロルは三日後、下の世界へと戻る。

「あ~でも、戻ってやっていけるかどうか・・・」
「まだ何か不安?」
「不安って言うか、ここの食べ物が美味しいんだもん!」
「そっちかい」
「ヒナの料理に比べたら、安宿のスープなんて水よ、水!」
「そりゃどうも」

どうやら胃袋を掴んでしまったようだ。
胃袋で結ばれた友情・・・生臭そうだな。

「ヒナ、あれは?」
「あれって・・・ああ、アレね!」

すっかり忘れていた。

「キャロル。もし、毎日この島に戻って来られるとしたら、どう?夜はここに戻って、昼間は依頼へ」

エストと話した下宿の構想を説明してみた。

「そんな事が出来たら、あっという間にSランクになれそう!」
「大げさな」
「全然、大げさじゃないよ!美味しい食事と、安全な夜!いつ魔物に襲われるかと思いながら野営する必要もない!宿と違って、自分だけの部屋!そんなの、一月に金貨十枚・・・いいえ、二十枚払っても住みたい!」

相場が分からん。
助けて、エストさん!

「王都で、高ランクの冒険者が止まる宿だと、一日銀貨一枚だな」

一か月が三十日だから銀貨三十枚として、確か銀貨百枚で金貨一枚だったはず。

「多すぎ!金貨一枚くらいじゃない?金貨二十枚なんて払えるの?」
「え?無理だけど?」

じゃあ何故その数字を出した!

「それくらいの価値があるって事!金貨一枚なら、絶対に住みたい!」
「言っただろ?」
「そうだねぇ・・・良いね!」

とは言っても、もう夜も遅い。
工事は明日にして、この事は下では一切他言無用って事で、話が決まった。
どんな風にするか・・・今から楽しみだ。
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