異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第七十四話 逃げろ

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第七十四話 逃げろ


「やはり、探しに行って」
「落ち着け。ヒナはこの島から出てはおらん」

いつまで経っても帰ってこないヒナを心配してエストが立ち上がろうとするが、ジェフに止められてしまう。

「祭りが始まれば、帰って来るだろう」
「しかし・・・」
「あれを害する事が出来る者など、そうそうおりはせぬ」

古龍の女王に止められてしまえば、動けない。

「存外、水が涸れた原因を解決して戻ってくるやもしれぬな」

女王がくっくっと喉を鳴らして笑った。
納得がいかないものの、今席を離れれば目立ってしまう。
その上ウロウロと歩き回っては、祭事を邪魔する可能性がある。
自分だけならまだしも、そうなればヒナや女王にも迷惑がかかってしまう。
エストは渋々、浮きかけた腰を下ろした。

砂漠の海に日が沈み、空には零れ落ちそうな星が広がり、祭りが始まる。

シャン!シャン!と鈴の音が響くと、小さな子供が二人、舞台に現れた。
子供たちが舞い、一際大きな鈴の音が鳴ると、ベールを深く被った女性が現れた。
その女性の舞いは、その場にいる者全てを魅了し、誰もが恍惚としたため息を漏らす。
それは、ソワソワとヒナを目だけで探していたエストの視線をも、釘付けにするほど。
女性の舞に合わせ、鈴が鳴る。そして、シャン!と言う音と共に、女性が舞台に跪いた。

まるで、時が止まったようだったと後に誰もが口にした。
二人の子供が女性のベールをスルリと取り、奥へと消えて行った。
首を垂れたままの女性は、真っ白な長い髪に、猫の耳と尾。
その姿はまるで、始祖そのもの。

シャン!と音が響くと、女性がゆっくりと立ち上がり、舞が始まる。
その指先はしなやかで、時に誘う様に、時に力強く。
右足首のアンクレットの鈴が、儚げに鳴る。

「ヒナ・・・・・」

隣に座るジェフにさえ聞こえない程の、ため息に混ぜて名前を呼ぶ。
その声は、熱を含んだため息にかき消された。
舞は段々と激しく、艶やかになっていく。
焚かれた灯が汗を照らし、その肢体がまるで濡れている様に見える。
女性が高く飛び上がり、宙を舞う。
音も無く着地をすると、後から鈴の音が響き、舞の終わりを告げた。

「す・・・素晴らしい!」
「あの舞手は誰だ!?」

大きな歓声と拍手が沸き起こる。
いつまでも鳴りやまないと思われたそれは、いつしか地鳴りへと形を変えて行く。

「な、何だ!?」
「地震!?」

歓声が悲鳴へと変わった瞬間、ドン!という爆発音と共に、泉の割れた地面から水柱が立ち上がった。

「泉が・・・」
「奇跡だ!」
「始祖の奇跡だ!」

ほぼ全ての人が水柱の方へと視線を向ける。
湧き出た水は乾いた砂に染みてもなお溢れ、星を映す水面へと変わって行った。

「舞手がいない!?」

舞台の上にいたはずの舞手が、いつの間にか姿を消していた。

「探せ!」
「まさか島の外へ!?」

小島は大騒ぎとなり、その騒ぎを聞きつけた民達を集める事となった。
はてさて・・・どうなる事やら。





お、終わった・・・。

なんとか頭に叩き込んだ舞を、無事最後まで舞う事が出来た。
途中で見知った顔をいくつか見つけたが、なるべく見ないように頑張った。
ってか、マジ頑張った!
後は、舞台を降りるだけ。そう思った瞬間、ドン!と音が聞こえて来た。
音が聞こえた方を見ると、水柱が高く吹き上がっていた。

「え、えええ・・・雨乞いじゃないんかぁい」

雨乞いの儀式も兼ねてるって聞いてたから、最後に飛んだ時、めっちゃドキドキしていた。
晴れてるんですけど・・・と。
雨降らなかったら首ちょんぱ、とか無いよね?

「開口一番それかい!とりあえず、さっさとこっちに来な!」

私に舞を教えてくれたお婆さんに手を引かれ、舞台を降りた。
最初に連れてこられた部屋まで戻って来ると、やれやれと一息ついた。

「綺麗だった」
「素敵だった」

最初に出た子供達。彼女達は双子で、息もぴったり。

「ありがとう」

二人の頭を撫でてあげると、嬉しそうにほほ笑んだ。
ほっこり。

「外は大騒ぎだ。あんたは暫くここにいな」
「は~い」

お婆さんや双子たちが部屋から出ると、独りになった。
着替えようかなぁと思っていると、突然部屋の入り口でもあるカーテンが開いた。
そして、入って来たのは・・・アヌリだった。
客席にいたんだよねぇ。

「久しぶわぁ!?」

アヌリが突然、号泣!?しかも、無言で!

「ちょ、何!?どうしたの!?」

近付くと、私の右手を握り、崩れ落ちた。
怖い!

「ヒナ様!私はもう、死んでも良い!」
「駄目です!」

何を突然言い出すのか!
これ、どうしたら・・・周りに人はいませんね?
確認してから、元の姿に戻った。
アニマルセラピー的な?

「ほ~ら、泣き止んで」

頭を撫で、両手でアヌリの顔を軽く挟み、フニフニ。

「うっ・・・グス・・・」

お、ちょっと泣き止みそう?

「アヌリ、そちらにいた・・・か・・・」

突然カーテンが開いたと思ったら、男の人が・・・固まった。
ここの国の人は、ノックとかしないの!?
男の人は「はっ!」と目を開くと、そっとカーテンを閉めた。

「こ~く~お~う~さ~ま~!」

もの凄い勢いで遠ざかって行く声。

「何だったんだ?」
「うう、ヒナひゃま・・・踏んでくださいぃ」
「いや、それはちょっと・・・」

もう、どうしたら良いの!?
ん?カーテンが動いたような・・・って、何か覗いてる!?
そっと閉められた。何だったんだ?
外からぼそぼそと話声が聞こえて来る。少しして、話がまとまったのか、中年男性が一人入って来た。

「あ~、コホン!」

少し待つが、チラチラとこちらを見るだけで、何も話さない。
すると、正気を取り戻したアヌリが立ち上がった。

「国王、ヒナ様をチラ見するのはやめてください」

国王!?

「いや、その・・・」

目が合った瞬間、頬を染めたぁ!
あ!私、元の姿じゃん!喋っている所は、見られていないよね?
わ、私は、ただの大きな猫ですよ~。

「にゃ・・・ニャァン?」
「はぅっ!」

悶えられた。
そんなに駄目ですか・・・。

「ヒナ様、ちょっとコイツと話をつけてきますので、少々お待ちください」

アヌリはそう言うと、国王?を押して部屋から出て行った。
やれやれ。

「ヒナ」

小さな声で呼ばれて振り返ると、部屋の奥からエストが手招きしていた。

「エスふぉ」

最後の言葉は、エストの手で口を塞がれてしまった。

「静かに。外は大騒ぎだ」

私が頷くと、手を離してくれた。

「水ね。雨乞いって聞いてたのに、水が湧いたから私もびっくりした」
「そっちもだが・・・」
「?」
「ヒナ様!」

今度は何!?

「お逃げください!」
「はい!?」

突然アヌリが部屋に入って来たと思ったら、逃げろと叫んだ。

「アヌリ!貴様だけズルいぞ!」
「神官長!我等にも一目!」

何だ、何だ!?
結構な人数が部屋に押し入ろうとしているのを、アヌリが止めているようだ。

「早く!」
「は、はい!」

部屋の奥へと進み、舞台の手前まで来た。
外を見ると、大勢が右往左往の大騒ぎ。
迷っている暇は無かった。大勢の足音が、手前の部屋まで迫って来た。

「ああ、もう!」

エストと二人で飛び出した。

「な!?」
「猫?」
「始祖様!?」

ひぃ!

「エスト!?」

横にいたはずのエストが遅れ始めた。
大勢の間を走るのは、エストの大きな身体ではどうしても遅くなる。

「俺に構うな!先に行け!」
「却下!」

エストをひょいと抱き上げる。

「は?」
「舌を噛まないようにね!」

そのまま走って、橋までやって来た。
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