異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第八十六話 年越しは、大人組で

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第八十六話 年越しは、大人組で


「ふぅ・・・さすがに外は寒いねぇ」

温泉施設の横、新しく作った平屋の小さな家。
リシュナが来た時に泊まれるようにと作ったけど・・・。

「ヒナ、早く入れ」
「もう直ぐ焼けそうだよ!」
「はいはい」

最近と言うか、最初から?大人組の酒飲み場となっていた。
広めに作ったテラスに絨毯を敷き、コタツを出してある。

「ヒナ様、こちらへ」

アヌリが自身の膝をポンポンと叩いたので、無言でキャロルの隣に腰を下ろした。

「無言のヒナ様も、良い・・・」
「アヌリ、アホな事言ってると焦げるぞ」

今日は年越しと言う事で、ちょっと贅沢な肴にしてみた。
七輪を二つ出し、スルメはもちろんだがカキや椎茸、アサリに焼きおにぎり等々・・・夜中に食べるにはちょっと不安な量が広げられている。
きょ、今日だけ!今日だけだし!

「ほれ、ヒナ」

ジローにビールの入ったコップを渡された。

「あ~・・・今年もお疲れさまでした。皆が大きな怪我も無く、無事に帰って来てくれて嬉しいです。え~・・・来年も!来年も、良い年になりますように!乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」

うぅ、こういうの慣れないなぁ。

「ヒナ、焼けたぞ」
「ありがとう、エスト。そう言えば、皆今はどこにいるの?」

ここに帰って来るが、行先は皆違う。
クレスは自分のお店があるけど、他は冒険者だもんな。

「俺は今、クレッセリア王国だな」
「私はアレストロの自分のお店よ」
「私は、トーナの少し手前かしら。服の中にまで砂だらけ」
「へぇ~」

見事にバラバラだ。

「私は、アルガバイスです」
「ある?」

聞いた事が無い名前が出てきた。

「アルガバイス?お前が?」
「単純ムッツリエルフに言われたくない」
「あぁ?」
「ちょい、アルなんとかって国って?」
「学問の都市、アルガバイス。この世界のありとあらゆる本や魔導書が置いてあると聞いた事があるな」

魔導書!ファンタジー!

「私が聞いたのは、賢者がいるとか、魔女の村があるとかかなぁ」
「賢者!アヌリはその国に、勉強しに?」
「いいえ。冒険者としての依頼です」
「そっか。見てみたいなぁ」

本を読むのは好きだ。
自分に無い知識。考えも付かない物語。色鮮やかな世界の風景や、遺跡や廃墟。流石に漫画はないだろうけど・・・。
もう何年も行ってないなぁ、図書館。
こっちの世界ではいくつかの国に行ってみたけど、じっくり観光的な事はできていない。

「では、是非!その・・・私と!」
「あぁ、そっか。アヌリと一緒に行くって事も出来るんだ」

一々島を動かしたりしなくても、ついて行く事は出来るか。

「ヒナ、あそこは本ばっかだぞ?」
「良いじゃない、本。恋物語とか」
「黙れ、変態エルフ」
「私は苦手かなぁ。ずっと字を見てると、眠くなっちゃって」

お、スルメが焼けた。
アサリもそろそろかな。
パカリ、とアサリが綺麗に開いた。薬味ネギを少し乗せ、ゆずの入ったポン酢をちょびっと垂らす!もみじおろしがあれば最強!

「んん~~!おいひぃ」
「あ、私も食べる!」
「はいはい」

皆の分もありますよぉ。
それぞれアサリを口にして、ほぅっと白いため息を吐いた。
そしてすかさず冷えたビール!

「賢者って、本当にいるの?」
「いるわよぉ。かなりのご高齢だったはず」
「エルフだったよな?」
「不老不死の薬を飲んだ人間じゃなかったか?」
「よぼよぼの爺さんって聞いたな」
「ええ?魔女が精霊と契約して長寿と知識を得たって聞いたけど」

よくわからん。

「まぁ、謎な存在って事はわかったかな」
「謎のままの方が良いって事もある」
「謎って言えば、この前依頼で」

冒険者組の話に花が咲いたので、追加の料理を取りに中へとやってきた。

「熱燗も良いけど、酔うしなぁ。最後はお茶漬けか・・・かき揚げ丼も捨てがたい!」
「ヒナ、何か手伝う事は?」

台所で悩んでいたら、エストが来た。

「エスト!アイスとシャーベット、どっちが良い?」
「ふふ、お茶漬けとかき揚げで悩んでいたんじゃないのか?」
「そっちも悩み中」

そう言えば、ちょっと奮発して入ったレストランで出てきた、カキのグラタン美味しかったなぁ・・・。
洋食作るのはちょっと苦手だけど、頑張ってみるか?

「ヒナは本当に食べる事が好きだな」
「大好き!既に明日の晩御飯何にしようとか考えてる!」
「早すぎだろ。それに、明日の夜はすき焼きって言ってなかったか?」
「おお、そうでした」

もう直ぐ日付と年が変わる。
ヒノモトでは年越しの鐘が鳴るらしいが、ここまで聞こえるのかな?

「来年もよろしくね、エスト」
「末永く、だろう?」

とは言っても、エストがこの島を出たいと言うかもしれないし。それに・・・エストは人間だ。
この世界の人間の平均寿命は、元の世界とあまり変わらないらしい。
そして私は、獣人だ。始祖の血云々を省いても、寿命は軽く二百年を超える。
いやいや、そんな事を今考えてもしょうがない。

「そうだね。末永く、よろしく。来年は植えたい野菜もあるし」
「また変なやつじゃないだろうな?」
「変って・・・ああ、あのトマト味のミカンか」

ミカンの皮の中の、薄皮の中の粒々。あの一粒一粒が、小さいトマトの様な・・・まぁ、一で言うと「見た目がミカンのトマト」か「トマト味のミカン」だ。

「あれなら、トマトで良いだろう」
「まぁねぇ。私もあそこまでトマトだとは思ってなかったからなぁ」

一口食べると、トマトの味オンリー。
じゃあ、トマトで良いじゃんと言う結論になる・・・なんとも微妙な植物だった。
唯一の救いは、ミカンなのに木に生らず、トマトっぽい植物に生る事かな。
あれが木だったら、毎年の収穫で悩むところだった。
トマトっぽい植物にミカンが生り、食べるとトマト・・・ゲームの運営は何がしたかったのか謎である。

「他にも、イチゴに見えるレモンとか、カボチャに見えるドリアンとか」
「ドリアン?」
「一度嗅いだら三日は鼻がおかしくなるらしい、果物?」
「絶滅させた方が良いんじゃないか?」
「美味しいらしいよ?私は食べないけど」

ゲーム内のネタ種だ。育てた事はないけど。
コンプリートする勢いで集めていたから、微妙なハズレもある。
実際に育ててみないと分からないよねぇ。

「新鮮な海の幸が実る木があれば良いのに・・・」
「生臭そうな木だな」
「確かに」

想像してしまい、二人で笑い合った。

「お~い、一つ目の鐘が鳴ったぞ!」

ジローの声が聞こえて来た。

「おっと、はいはい!今行く!」

十個目の鐘の音で、年明けらしい。
外に戻ると、二つ目の鐘の音が聞こえてきた。年越しにテレビの中から聞こえて来た音と同じだ!
三つ、四つと音が聞こえてくると、違和感を感じた。

「ん?」
「気付いたか」
「段々早くなるのよね」

段々、音と音の間が短くなっていく。ゴーーーーーンだったのが、七つ目からはゴーーンと、短くなった。

「これ、通常なの?」
「最初の頃は違ったらしいが、ある年に時間を測り間違えて、大慌てで鳴らしたのがウケたらしい」
「ぶはっ・・・何その理由!」

お坊さん達の慌てる姿を想像すると、ちょっと面白い。

八つ、九つ、と短い音が響いた。

「「「「「「明けまして、おめでとう!」」」」」」

皆でグラスを合わせ、乾杯!
今年も良い年でありますように。
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