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第八十七話 新年早々
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第八十七話 新年早々
「エスト・・・もっと・・・あっ」
「ヒナ・・・そこ・・・」
朝から不穏な空気を感じて、ジローは思わず食堂へと走り込んだ。
「おい、何を・・・」
そこには、白い山が乗った白い布を二人で持ち、縁側から外へ出ようとしているエストとヒナがいた。
「下、降りたよ」
「ヒナ、もう少し引っ張ってくれ」
白い山からは湯気が勢いよく上がっている。
庭には、去年も見た臼と呼ばれる木製の大きな器と、どう見ても鈍器にしか見えない杵が見えた。
「なんだ・・・餅か」
「あ、おはよう、ジロー」
「おはよう。今年もやるのか」
「そりゃあ、お正月だからね!」
エストとヒナが白い山を臼の中へと入れると、手袋をはめたヒナが白い山をこね始めた。
ほっと一息と行きたいが、そうも言っていられない。
最近、エストにばかり良い所を持って行かれている気がする。
俺とクレスは島にいない事が多いから、しょうがない・・・なんて、誰が言うか!
「ヒナ、俺もやる」
「じゃあ、エストとお願いね。私は朝ご飯の用意をしてくるから」
そう言って、ヒナは食堂へと戻ってしまった。
くっ・・・いや、まだだ。
「おい、エスト!勝負だ!」
男には、引けない時がある!
「何の?」
「も、もちろん、餅つきのだ!」
「餅つきで勝負?」
「そうだ!」
余裕ぶっていられるのも、今の内だ!
*
「また、わけわからん事を・・・」
外から聞こえて来た声に、若干呆れながらキッチンへと入る。
視線を向けると、ジローが物凄い勢いで杵を振っていた。
やれやれ。
「ヒナ~、おはよぉ」
「おはよう、キャロル・・・大丈夫?」
食堂へと入って来たキャロルの顔色があまり良くない。
「いや、逆になんで皆元気なのぉ?」
どうやら、年越しの晩酌で飲み過ぎたようだ。
「はい、お茶」
「うう、ありがとぉ」
温かいお茶を出してあげると、そのままカウンターの椅子に座るキャロル。
『ぬぉぉぉ!』
外からジローの声が聞こえて来ると、キャロルが眉をひそめた。
「あのオッサン、ほんっと元気ねぇ」
「あはは。でも、そろそろ止めた方が良いかなぁ」
キッチンから出て縁側のガラス戸を開けると、冷たい空気が入って来た。
「ジロー、そのへんで」
「ぬぁぁぁ!」
聞いちゃいねぇ。
「はぁ・・・やれやれ」
縁側に置いてあったジローのスリッパを片方投げると、持ち主の後頭部にぺしっとクリーンヒットした。
「痛っ!?」
「私はお餅を食べたいのであって、飲みたいわけじゃないから」
「「あ・・・」」
臼の中のモチ米が、つき過ぎでドリンクになるところだった。
「エストまで・・・何をそんなにむきになったんだか」
「すまん・・・つい、な」
「お雑煮作るから、それ持ってきて。それと・・・朝ご飯の後に、またお願いね」
ジローに向かって、にっこりと笑いかける。
「え?」
「え?じゃないでしょうが。こんなてろってろになったお餅で、どうやってのし餅を作れと?」
お餅の保存方法として作られるのし餅。スーパー等でよく見かける、切り餅状にするのだが・・・目の前にある臼の中には、溶けかけたスライムみたいな物体が入っている。
「保存なら、アイテムバッグで」
「じゃあ、それはジローとエスト専用のお餅としてアイテムバッグに入れておくから、皆の分をお願いね」
「「・・・・・はい」」
中へ戻る途中で「腰が」とか「腕が」等と聞こえたが、知らん!
「まったく・・・二人合わせて三百歳超えてんだから、もう少し年を考えなさいよねぇ」
「おはよう、クレス」
「おはよう、ヒナちゃん。ふぁ・・・私も他人の事言えないけど。昨日のお酒が抜けなくなってきたわぁ」
新年早々、年寄りの寄り合いか。
「二百やそこらかのひよっこが、何を言っておる」
ノナさん達が来た。
いつもは自分達で作って食べているが、新年や行事の時はこっちに来てもらっている。
やっぱり皆で食べた方が美味しいからね!
新年の挨拶を交わして朝食の準備に戻ると、エストが戻って来た。
猫達とノアもお手伝いをしてくれて、あっという間に準備が出来た。
「新年、明けましておめでとうございます。今年も皆が健康で、楽しく過ごせますように。いただきます!」
「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」
「「「「いただきましゅ」」」」
「いたぁきましゅ」
「キュ」
今年はどんな年になるかなぁ。
*
年が明けてから数日は、大変賑やかでした(棒読み)。
先ずはリシュナが突然やって来た。
自国の式典から逃げて来たらしいが、数時間でジェフさんが迎えに訪れ、クロと三人で帰って行った。
その後、同じく逃げて来たっぽいベルが来たが、以前乗り込んで来たお付きの人が迎えに来た。臣下の説得にはまだ時間が掛かるらしく、久しぶりの島での料理を泣きながら食べ、渋々帰って行った。
そうこうしている内に、冒険者組はそれぞれの依頼へ戻り、クレスも自分のお店に出勤。
日常が戻って来た。
「さて・・・挨拶に行く前に来ちゃった人達にはお土産を渡したから良しとして」
あと行ってないのは、ネネルと・・・アレストロ王国かぁ。
「ヒナ様」
庭でウロウロしながらどちらに先に行こうかと迷っていたら、セバスがやって来た。
「下でヤマタノオロチが復活しました」
「・・・はい?」
突然の事に頭が追いついていないでいると、転移石が起動したのが見えた。
現れたのは、傷と血だらけのジローだ。
アイテムバッグからポーションを取り出し、荒い息をしながら地面でうずくまるジローに思い切りジローにかけた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
もう一本取り出してジローの顔の前に出すが、彼はフルフルと顔を横に振った。
「飲んで」
「俺は、いい。この子に」
この子?
ジローが身体を起こして地面に座ると、小さな女の子が彼の腕の中に抱かれていた。
「酷い怪我!」
右腕と両足の膝から下が無い。
血だらけで、息も弱い。
持っていたポーションを少女にかけると、欠損していた腕と両足は元に戻った。
だが、まだ息が弱い。
ポーション二本を取り出し、一本をジローの口に突っ込んだ。
もう一本を少女の口に近付けて傾けるが、飲む様子はない。
ポーションは、かけるよりも飲んだ方が効き目が良い。
「緊急事態だから、許してね」
獣人の姿になり、ポーションを口に含んだ。
そのまま少女の口へ。
意識が無い状態ではちょっと不安だったが、少女はむせながらも飲み込んでくれた。
直ぐに青白かった顔が、頬に赤みがさした。
弱弱しかった息も寝息に変わり、一安心。
「ん・・・」
ジローがポーションの小瓶を銜えたまま目を閉じ、顔を突き出してきた。
このシリアスな場面で・・・ちょっとイラッとしたので、ギュッと鼻を摘んで上を向かせてやった。
「んん!げほっ!」
無事に中身を飲んだジローが小瓶を口から落とした。
「それで?」
鼻は摘んだままである。
「ず、ずまん、づい」
「まったく・・・」
しょうがないので、手を離してあげた。
「ふぅ・・・ヤマタノオロチだ」
ジロー曰く、数百年前に封印されたヤマタノオロチ。その封印を、少女が誤って解いてしまったらしい。
ジローは冒険者としての依頼で封印の調査に行っていたらしく、偶々その現場に居合わせた。
封印が解かれた衝撃で少女は先程の怪我を負い、ジローも同じように負傷。
兎に角その場から逃げる為に、転移石で島に戻って来た。
「くっ」
立ち上がろうとしたジローが、再び地面に崩れ落ちる。
「セバス」
「はい」
「ジローとその子をお願い」
「畏まりました」
モチ笛を取り出し、島の端まで一気に走る。
「キュウ!」
地面を蹴ると、モチの背中に飛び乗った。
「エスト・・・もっと・・・あっ」
「ヒナ・・・そこ・・・」
朝から不穏な空気を感じて、ジローは思わず食堂へと走り込んだ。
「おい、何を・・・」
そこには、白い山が乗った白い布を二人で持ち、縁側から外へ出ようとしているエストとヒナがいた。
「下、降りたよ」
「ヒナ、もう少し引っ張ってくれ」
白い山からは湯気が勢いよく上がっている。
庭には、去年も見た臼と呼ばれる木製の大きな器と、どう見ても鈍器にしか見えない杵が見えた。
「なんだ・・・餅か」
「あ、おはよう、ジロー」
「おはよう。今年もやるのか」
「そりゃあ、お正月だからね!」
エストとヒナが白い山を臼の中へと入れると、手袋をはめたヒナが白い山をこね始めた。
ほっと一息と行きたいが、そうも言っていられない。
最近、エストにばかり良い所を持って行かれている気がする。
俺とクレスは島にいない事が多いから、しょうがない・・・なんて、誰が言うか!
「ヒナ、俺もやる」
「じゃあ、エストとお願いね。私は朝ご飯の用意をしてくるから」
そう言って、ヒナは食堂へと戻ってしまった。
くっ・・・いや、まだだ。
「おい、エスト!勝負だ!」
男には、引けない時がある!
「何の?」
「も、もちろん、餅つきのだ!」
「餅つきで勝負?」
「そうだ!」
余裕ぶっていられるのも、今の内だ!
*
「また、わけわからん事を・・・」
外から聞こえて来た声に、若干呆れながらキッチンへと入る。
視線を向けると、ジローが物凄い勢いで杵を振っていた。
やれやれ。
「ヒナ~、おはよぉ」
「おはよう、キャロル・・・大丈夫?」
食堂へと入って来たキャロルの顔色があまり良くない。
「いや、逆になんで皆元気なのぉ?」
どうやら、年越しの晩酌で飲み過ぎたようだ。
「はい、お茶」
「うう、ありがとぉ」
温かいお茶を出してあげると、そのままカウンターの椅子に座るキャロル。
『ぬぉぉぉ!』
外からジローの声が聞こえて来ると、キャロルが眉をひそめた。
「あのオッサン、ほんっと元気ねぇ」
「あはは。でも、そろそろ止めた方が良いかなぁ」
キッチンから出て縁側のガラス戸を開けると、冷たい空気が入って来た。
「ジロー、そのへんで」
「ぬぁぁぁ!」
聞いちゃいねぇ。
「はぁ・・・やれやれ」
縁側に置いてあったジローのスリッパを片方投げると、持ち主の後頭部にぺしっとクリーンヒットした。
「痛っ!?」
「私はお餅を食べたいのであって、飲みたいわけじゃないから」
「「あ・・・」」
臼の中のモチ米が、つき過ぎでドリンクになるところだった。
「エストまで・・・何をそんなにむきになったんだか」
「すまん・・・つい、な」
「お雑煮作るから、それ持ってきて。それと・・・朝ご飯の後に、またお願いね」
ジローに向かって、にっこりと笑いかける。
「え?」
「え?じゃないでしょうが。こんなてろってろになったお餅で、どうやってのし餅を作れと?」
お餅の保存方法として作られるのし餅。スーパー等でよく見かける、切り餅状にするのだが・・・目の前にある臼の中には、溶けかけたスライムみたいな物体が入っている。
「保存なら、アイテムバッグで」
「じゃあ、それはジローとエスト専用のお餅としてアイテムバッグに入れておくから、皆の分をお願いね」
「「・・・・・はい」」
中へ戻る途中で「腰が」とか「腕が」等と聞こえたが、知らん!
「まったく・・・二人合わせて三百歳超えてんだから、もう少し年を考えなさいよねぇ」
「おはよう、クレス」
「おはよう、ヒナちゃん。ふぁ・・・私も他人の事言えないけど。昨日のお酒が抜けなくなってきたわぁ」
新年早々、年寄りの寄り合いか。
「二百やそこらかのひよっこが、何を言っておる」
ノナさん達が来た。
いつもは自分達で作って食べているが、新年や行事の時はこっちに来てもらっている。
やっぱり皆で食べた方が美味しいからね!
新年の挨拶を交わして朝食の準備に戻ると、エストが戻って来た。
猫達とノアもお手伝いをしてくれて、あっという間に準備が出来た。
「新年、明けましておめでとうございます。今年も皆が健康で、楽しく過ごせますように。いただきます!」
「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」
「「「「いただきましゅ」」」」
「いたぁきましゅ」
「キュ」
今年はどんな年になるかなぁ。
*
年が明けてから数日は、大変賑やかでした(棒読み)。
先ずはリシュナが突然やって来た。
自国の式典から逃げて来たらしいが、数時間でジェフさんが迎えに訪れ、クロと三人で帰って行った。
その後、同じく逃げて来たっぽいベルが来たが、以前乗り込んで来たお付きの人が迎えに来た。臣下の説得にはまだ時間が掛かるらしく、久しぶりの島での料理を泣きながら食べ、渋々帰って行った。
そうこうしている内に、冒険者組はそれぞれの依頼へ戻り、クレスも自分のお店に出勤。
日常が戻って来た。
「さて・・・挨拶に行く前に来ちゃった人達にはお土産を渡したから良しとして」
あと行ってないのは、ネネルと・・・アレストロ王国かぁ。
「ヒナ様」
庭でウロウロしながらどちらに先に行こうかと迷っていたら、セバスがやって来た。
「下でヤマタノオロチが復活しました」
「・・・はい?」
突然の事に頭が追いついていないでいると、転移石が起動したのが見えた。
現れたのは、傷と血だらけのジローだ。
アイテムバッグからポーションを取り出し、荒い息をしながら地面でうずくまるジローに思い切りジローにかけた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
もう一本取り出してジローの顔の前に出すが、彼はフルフルと顔を横に振った。
「飲んで」
「俺は、いい。この子に」
この子?
ジローが身体を起こして地面に座ると、小さな女の子が彼の腕の中に抱かれていた。
「酷い怪我!」
右腕と両足の膝から下が無い。
血だらけで、息も弱い。
持っていたポーションを少女にかけると、欠損していた腕と両足は元に戻った。
だが、まだ息が弱い。
ポーション二本を取り出し、一本をジローの口に突っ込んだ。
もう一本を少女の口に近付けて傾けるが、飲む様子はない。
ポーションは、かけるよりも飲んだ方が効き目が良い。
「緊急事態だから、許してね」
獣人の姿になり、ポーションを口に含んだ。
そのまま少女の口へ。
意識が無い状態ではちょっと不安だったが、少女はむせながらも飲み込んでくれた。
直ぐに青白かった顔が、頬に赤みがさした。
弱弱しかった息も寝息に変わり、一安心。
「ん・・・」
ジローがポーションの小瓶を銜えたまま目を閉じ、顔を突き出してきた。
このシリアスな場面で・・・ちょっとイラッとしたので、ギュッと鼻を摘んで上を向かせてやった。
「んん!げほっ!」
無事に中身を飲んだジローが小瓶を口から落とした。
「それで?」
鼻は摘んだままである。
「ず、ずまん、づい」
「まったく・・・」
しょうがないので、手を離してあげた。
「ふぅ・・・ヤマタノオロチだ」
ジロー曰く、数百年前に封印されたヤマタノオロチ。その封印を、少女が誤って解いてしまったらしい。
ジローは冒険者としての依頼で封印の調査に行っていたらしく、偶々その現場に居合わせた。
封印が解かれた衝撃で少女は先程の怪我を負い、ジローも同じように負傷。
兎に角その場から逃げる為に、転移石で島に戻って来た。
「くっ」
立ち上がろうとしたジローが、再び地面に崩れ落ちる。
「セバス」
「はい」
「ジローとその子をお願い」
「畏まりました」
モチ笛を取り出し、島の端まで一気に走る。
「キュウ!」
地面を蹴ると、モチの背中に飛び乗った。
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