異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第八十九話 狛猫

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第八十九話 狛猫


「今のは・・・・」
「おい、ヤマタノオロチだ!」

ヒナが去った後、呆然とヤマタノオロチを見上げるヒノモトの魔導士達。
そして、ばつが悪そうに頭を掻くジロー。
そんな彼の傍に、真っ白なローブを深く被った男が近付く。

「おい、ジロー。先程ここにいたのは・・・白い猫、だったよな?」
「あ、あ~・・・そう、だったかな」
「ヒナ、と呼んでいたな」
「そ、空耳じゃないかぁ?」
「お前・・・誤魔化す時の癖が出ている」

ジローは、誤魔化す時に自分の右耳を触りながら左斜め上を見る癖がある。

「そんなもん、出てない」
「癖とは、自分では気づかないものだ。この目で見たのだ。何か知っているならさっさと吐け」
「可愛くなくなったよなぁ。小さい頃は、俺達の後をついて離れなかったのに」
「それはどうも。どこかのアホ二人が反面教師としてその背を見せてくれたおかげですね」
「ほんっと、可愛くない」

ジローはまた頭を掻きながら、なんとかここから逃げる方法を考えていた。

「(そうだ、俺も使えば)まぁ、ヤマタノオロチは封印できるんだろう?」
「それは問題ありません。ここまで弱っていれば、封印石で」
「そうか、そうか!なら、安心だ。じゃあ、そう言う事で!」
「お、おい!?」

ジローが転移石を起動させ、島へと戻って来た。

「ふぅ・・・やれやれだ」
「あ、ジローおかえり」
「おう、ただいま」

島に着くと、転移石本体の近くでヒナとセバスが話していた。
あの怪物はアイツに任せておけば良い。ゆっくり昼飯を食べ・・・。

「ジロー、後ろの人はどちら様?」

ヒナが俺の後ろを見て、そう聞いて来た。
まさかと思いながらも振り返ると、ポカンと口を開けた間抜け面がそこに立っていた。
俺の服を掴んだまま・・・。

「おま!?」
「ここは・・・?」

慌ててそいつの腕を掴み転移石を起動すると、ヤマタノオロチの前に戻って来た。

「ど、どうした?」
「今、ここではない場所に・・・」
「お前、働き過ぎなんじゃないのか?城の魔術師長なんて、えらく出世したもんだ!はは、あははは」
「ふむ・・・」

苦し紛れのジローの言葉に、男は深く被っていたフードを上げた。
白髪交じりの髪はきっちりと後ろに撫で付けられ、端正な顔立ちに眼鏡が良く似合う中年男性。
知的、と言う言葉がとてもよく似合う。
自身の右耳を触りながら、左斜め上を見るジロー。
誤魔化しているのは一目瞭然だが、今ここでそれを問い詰めるのは得策ではないと男は判断した。

「まぁ、先ずはヤマタノオロチだな」
「そうそう!」
「とは言え、お前にも後で話を聞くからな」
「は?」
「は?ではないだろう。冒険者の依頼で調査に来たんだろうが」
「あ」
「・・・そのいい加減さは相変わらずだな」
「ちょっと頭から外れてただけだろうが」
「はいはい」

ブツブツ言いながらも、二人はヤマタノオロチに向かうのだった。





「消えたね」
「消えましたね」

ジローが帰って来たと思ったら、また消えた。
後ろにいたのは誰だったのか・・・。

「まぁ、いいか。お腹へったし」

食堂に向かい、お昼ご飯を用意しようとして、寝ている女の子を見つけた。
いや、忘れていたとかではないよ?うん。

「傷は癒えましたが、まだ目を覚ましておりませんな」
「う~ん・・・このままってのも、親御さんが心配するだろうし」

ジローに通信を入れてみた。

「女の子、どうしたら良い?」
『丁度今、その子の親と話した所だ』

女の子は、ヤマタノオロチが封印されていた島に住む子だった。
朝、フラフラとしながら森に入って行く姿を村の人が見かけたらしい。
普通なら止めそうだが、小さな島の小さな村だ。魔物もいないらしく、子供達はよく森の中で遊んでいたのだそうだ。

『文献によると、ヤマタノオロチは人を惑わす力もあったらしい。操られたのかもな』

あんな小さな子を・・・全首固結びにしてやればよかった。

『俺が村に連れていくよ』
「わかった」

通信を切り、女の子を毛布で包んでそっと抱き上げた。
すやすやと眠っている。

「大丈夫だとは思うけど、念の為ね」

毛布の中にそっとポーションの瓶を入れておく。
そのまま転移石本体まで行くと、既にジローが待っていた。
さっきの人は一緒じゃないみたいだ。

「よろしくね」

女の子をそっとジローに渡した。

「任せろ。その・・・ありがとな」
「?」
「俺の故郷を守ってくれて」
「身体は大丈夫?」
「おう、もう元気、元気・・・っと」

ジローが大きく動こうとしたせいで、女の子が身じろぎをした。

「行ってくる」
「行ってらっしゃい。あ、私の事はくれぐれも」
「分かってるよ」

ジローは再度「任せとけ」と言うと、転移石を使って消えた。

「本当に大丈夫かなぁ?」

若干不安だが、私が行くのは避けた方が良いだろうしね。

「お昼ご飯作って、待ちますかねぇ」





「ん・・・」
「お、目が覚めたか?」
「おじちゃん、だぁれ?」
「おじ・・・お兄さんは、冒険者だ」

冒険者・・・そう言えば、今日は冒険者が島に来て調査するから、森には近寄らないようにって言われていた。
だが、自分がいるのはどうやらその森の中のようだ。
自分は何故か森の中にいて、この冒険者だといった男性に抱きかかえられている・・・。

「人さらい・・・」
「冒険者だって言っただろうが。あ、そうだ。身体は大丈夫か?どこか痛いところは」
「・・・・・変態」

身体?痛い所?何を言っているんだろう?
ふと、自分の手の中に何かあるのに気が付いた。
モソモソと毛布から手を出してみると、小さな小瓶だった。

「誰が変態だっ・・・って、それ(ヒナが入れておいたのか)。そいつは、ポーションだ」
「ぽー?」
「ポーションな。傷や病気を治してくれる、すっごいお薬だな」
「傷や病気・・・」
「嬢ちゃんを助けてくれげふっ、ごほん!あ~・・・どっかの優しい・・・白い猫が、くれたんじゃないかなぁ。まぁ、嬢ちゃんが大丈夫なら、大事な時の為に取っておくと良い」

傷や病気を治すお薬。そんな凄い物があるんだ・・・。

「お、村に着いたな」
「サク!」

自分の名を呼ばれた方を見ると、お母さんがこちらに向かって走って来るのが見えた。

「おかあさん!」

おかあさんにぎゅっと抱きしめられると、おじさんの手が私から離れていった。

「良かった・・・痛い所は無い!?大丈夫!?」
「うん、大丈夫」

本当は、おかあさんの力が強くてちょっとだけ苦しい。でも、そんな事を言ったら、自分から放れてしまうかもしれない。だから、ないしょ。

「サク?サク!」

おとうさんが家から出てきて、私を探すようにキョロキョロと見渡している。
おとうさんは、目が見えない。
私がもっと小さかった時に、おしごと中に事故で見えなくなった。
とっても優しくて、大好きなおとうさん。

「行ってあげて」
「うん!」

おかあさんが地面に下ろしてくれたので、おとうさんの所へと行く。
足音で私だと気付いたお父さんが、地面に膝を付けて両手を広げた。
私がその中に飛び込むと、ギュッと抱きしめてくれる。

「サク・・・良かった・・・本当に良かった・・・」

おとうさんの目から、ポロポロと涙があふれた。
傷や病気を治すお薬・・・。

「おとうさん、あのね、お口開けて?」
「口?何故・・・むぐっ!?」

おじさんが、凄いお薬だって言ってた。
おとうさんがゴクリと飲んだ。
すると、おとうさんがパッと光ってちょっとびっくりした。

「おとうさん?」

おとうさんが、自分の手をじっと見ている。

「見える・・・サク!」

おとうさんが、私の顔を見て、名前を呼んだ。

「どうしたの!?」

おかあさんが来てくれた。

「ああ・・・見える・・・チサ・・・見えるよ!」
「え・・・本当に?本当に・・・」
「ああ!」

ギュッと、二人に抱きしめられた。さっきよりもちょっと苦しかったけど、とっても嬉しいから、ないしょ。
腕の隙間から、森の方が見えた。
おじちゃんだ。頑張って手を小さく振ると、おじちゃんも手を振って森の中に行ってしまった。
目を閉じると、うっすらと白い猫が見えた気がした。
優しく頭を撫でてくれて、抱きしめてくれた。
おじさんが、お薬は「どっかの優しい白い猫がくれた」と言っていた。
きっとあの猫だ。

「あのね・・・」


*


東の果ての、ヒノモトという小さな国の小さな島に、厄災をもたらすとされるヤマタノオロチが封印されている。
ヤマタノオロチを祀るその祠は、村人によってとても大切に守られていた。

「あの、この島の方ですか?」
「おお、そうですじゃ」
「ヤマタノオロチが封印されている祠の事でちょっとお聞きしたい事が」
「何ですかな?」
「狛犬、いや、狛猫?それが変わっているなぁと思って」
「ふぉっふぉっ。白猫様ですじゃ」

ヤマタノオロチを祀る祠。そこには、猫の形をした石造が置かれていた。

「白猫様、ですか。その・・・何故真ん中に?本島の狛犬は両側にあったんですが」

狛犬は、祀られている神の使いだと言われている。
本来なら祠を守る様に両側に置かれているのだが、その狛猫は、祠と対面して設置されていた。まるで、祠を監視するように。

「ふぉっふぉっふぉっ。儂のひいばあちゃんの、そのまたばあさんの話じゃが・・・」

伝承は紡がれる。
荒ぶるヤマタノオロチ。ヒノモトを救いしは、純白の毛を持つ猫。

「白猫様の像を撫でると、目の病気にかかりにくくなるとか」
「へぇ~!」

その猫は、神の使いかはたまた・・・。

「ふぇっくしょい!」
「風邪か?」
「いや、なんかムズっとした」

ただの猫かもしれない。
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