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トレビ、今、何て言ったんだ?
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「ここが、人形職人の師匠の工房です。私は、あちらの小さな小屋を工房として使っています」
「仕入れか何かで、町にいたのですか?」
「……その、敬語は必要ありません」
「そうですね。でも、まぁ、初対面ですし……」
「それなら……。先ほどの質問ですが、正解です。荷馬車に乗られたとき、瞳の話をしましたね」
「えぇ、綺麗な瞳でした」
「私は、まだ、一人前とはいえないので、瞳については、別のガラス細工の作り手と共作しています。そろそろ、そちらも、独り立ちするようにとは言われているのですが、ガラス細工は本当に繊細で……」
荷馬車の中にあった人形の瞳を一つ取り出して見せてくれる。丸い眼球に模様が入っていて、とても綺麗だ。もう一つ取り出してきた。同じ色なのに、瞳の模様が違うので、不思議だった。
「人の目も同じで、同じ人はいませんから。同一人物であっても、オッドアイのような瞳の色が違う人もいるくらいですし」
「確かに。はっきりとわかるようなオッドアイの方もいれば、ほとんど、色味がわからないほどの方もいると聞きます」
「そうですね。たぶん、私に見えているあなたのアメジストのような紫の瞳も人によっては、色味の見え方が違います。あなたは、右目の方が、若干濃い紫のように見えます。些細な違いなので、ほとんどの人が気づくことはないと思いますが、お暇な時間があって、私の戯言に耳を傾けてもいいと思いましたら、鏡で見てみてください」
初めて目の色が少し違うと言われたことに驚きながら、「わかりました」と返事をした。今すぐにでも確かめたかったが、今は、鏡を持ち合わせていない。残念に思いながら、師匠の元へ向かって歩き始めた。
「まずは、師匠の元へ向かいましょう」
「そうですね。お願いします」
そう言って、荷馬車から降り、歩き始めたところ、「姫さんじゃん!」と後ろから声が聞こえた。振り返れば、そこには、ウィルを始め、ナタリーたちも一緒にいた。どうやら、ウィルたちもここの職人の話を聞いてきたらしい。
「今日は、珍しいですね。いつも出入りしている商人以外の方が、工房を訪れるなんて。えっと……何か御用でしょうか?」
トレビが私に断りをいれてから、ウィルたちの元へと向かった。ウィルは、私たちの指さし、何やら話をしている。トレビも一緒に私たちを見て、頷いていた。私も、ウィルたちに近づいていく。
「ごめんなさい。私の連れなの。人形職人の方を探すのに、手分けしていたのよ」
「なるほど。そういうことでしたら、一緒に師匠の元へ向かいましょう」
「えっと……あなたは?」
「私は、人形職人のトレビと申します。坂の途中で、公爵様とは出会いました」
「公爵様ね?」
ナタリーが案内をしようとするトレビに質問をしたところ、「公爵様」と言われたことににやにやと笑うウィルを睨み、私たちはトレビの後をついていった。
「親方。お客様です」
「そうか。少し手が離せないから、悪いが……」
「えっと、公爵様ですから、早めに切り上げてください」
「……」
「では、こちらへ……汚い場所で申し訳ないですけど……」
トレビが客間に案内しようと部屋を出ようとしたとき、椅子が倒れる音がした。
「トレビ、今、何て言ったんだ?」
「えっ? 早めに……」
「その前だ! 聞いたこともない爵位を聞いた気がするが?」
「えぇ、私も知識でしか知りませんでしたが……、公爵様がおみえですので……」
奥で作業をしていたトレビの親方や弟子だろう。慌てて私たちのもとへ現れた。トレビ同様、先ほどのようなことが、やはり起こるのは、仕方がないのだろう。
「……お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。弟子たちは、まだ若く、これから先のあるものばかりですので、首をお斬りになるのなら、私だけでお願いします」
「クスっ、あなたの弟子にも同じことを言われたわ。トレビさんにも言ったけど、私は、誰かの首が欲しくてここに来たわけではないので、勘違いしないでください」
クスクスと笑ってしまうと、親方や弟子たちもお互いの顔を見合わせて困惑している。本当にさっきのトレビを見ているようだった。
「アンナリーゼ様、意地悪ですよ。普通、貴族というものは、もっと横柄な人が多いという印象なのでしょう」
「なるほど。それもそうね。トレビさんもその親方さんや弟子のみなさんも、私は首を所望していませんので、心配なさらないで。もしかしたら、それに近い相談かもしれないけど……話がしたいの。お時間をくださるかしら?」
「……わかりました。それでは、私が」
「できれば、トレビさんも一緒がいいかな。ダメですか?」
「私もですか?」
「えぇ、お願いしたいの。強制ではないから、断ってくれてもいいけど、できれば、私の相談事を一緒に聞いてもらえたら、嬉しいかしら」
親方はトレビと視線を合わせて、頷き合っている。たぶん、断ることはしない方がいいという意思確認だったのだろう。
「他の弟子は……」
「トレビさんだけで。あと、できれば、トレビさんの作った人形も見たいのだけど……見せていただけるかしら?」
「もちろんです。取ってきますので……」
「案内は、もちろん私が。飲み物は……」
「飲み物は、いろいろと揉め事になる可能性があるので、遠慮させてもらいます」
「わかりました。みなは、作業に戻ってくれ。それでは、公爵様、こちらへ……汚い場所で申し訳ありませんが」
「いえいえ、おかまいなく」
私たちは親方が案内してくれる部屋に入る。ただし、人数が多いので、私、ナタリー、セバス、ヒーナだけが部屋に入り、ウィルと護衛たちは廊下で待機となった。席に落ち着いたころ、トレビが客間へと人形を持って入ってきた。
「仕入れか何かで、町にいたのですか?」
「……その、敬語は必要ありません」
「そうですね。でも、まぁ、初対面ですし……」
「それなら……。先ほどの質問ですが、正解です。荷馬車に乗られたとき、瞳の話をしましたね」
「えぇ、綺麗な瞳でした」
「私は、まだ、一人前とはいえないので、瞳については、別のガラス細工の作り手と共作しています。そろそろ、そちらも、独り立ちするようにとは言われているのですが、ガラス細工は本当に繊細で……」
荷馬車の中にあった人形の瞳を一つ取り出して見せてくれる。丸い眼球に模様が入っていて、とても綺麗だ。もう一つ取り出してきた。同じ色なのに、瞳の模様が違うので、不思議だった。
「人の目も同じで、同じ人はいませんから。同一人物であっても、オッドアイのような瞳の色が違う人もいるくらいですし」
「確かに。はっきりとわかるようなオッドアイの方もいれば、ほとんど、色味がわからないほどの方もいると聞きます」
「そうですね。たぶん、私に見えているあなたのアメジストのような紫の瞳も人によっては、色味の見え方が違います。あなたは、右目の方が、若干濃い紫のように見えます。些細な違いなので、ほとんどの人が気づくことはないと思いますが、お暇な時間があって、私の戯言に耳を傾けてもいいと思いましたら、鏡で見てみてください」
初めて目の色が少し違うと言われたことに驚きながら、「わかりました」と返事をした。今すぐにでも確かめたかったが、今は、鏡を持ち合わせていない。残念に思いながら、師匠の元へ向かって歩き始めた。
「まずは、師匠の元へ向かいましょう」
「そうですね。お願いします」
そう言って、荷馬車から降り、歩き始めたところ、「姫さんじゃん!」と後ろから声が聞こえた。振り返れば、そこには、ウィルを始め、ナタリーたちも一緒にいた。どうやら、ウィルたちもここの職人の話を聞いてきたらしい。
「今日は、珍しいですね。いつも出入りしている商人以外の方が、工房を訪れるなんて。えっと……何か御用でしょうか?」
トレビが私に断りをいれてから、ウィルたちの元へと向かった。ウィルは、私たちの指さし、何やら話をしている。トレビも一緒に私たちを見て、頷いていた。私も、ウィルたちに近づいていく。
「ごめんなさい。私の連れなの。人形職人の方を探すのに、手分けしていたのよ」
「なるほど。そういうことでしたら、一緒に師匠の元へ向かいましょう」
「えっと……あなたは?」
「私は、人形職人のトレビと申します。坂の途中で、公爵様とは出会いました」
「公爵様ね?」
ナタリーが案内をしようとするトレビに質問をしたところ、「公爵様」と言われたことににやにやと笑うウィルを睨み、私たちはトレビの後をついていった。
「親方。お客様です」
「そうか。少し手が離せないから、悪いが……」
「えっと、公爵様ですから、早めに切り上げてください」
「……」
「では、こちらへ……汚い場所で申し訳ないですけど……」
トレビが客間に案内しようと部屋を出ようとしたとき、椅子が倒れる音がした。
「トレビ、今、何て言ったんだ?」
「えっ? 早めに……」
「その前だ! 聞いたこともない爵位を聞いた気がするが?」
「えぇ、私も知識でしか知りませんでしたが……、公爵様がおみえですので……」
奥で作業をしていたトレビの親方や弟子だろう。慌てて私たちのもとへ現れた。トレビ同様、先ほどのようなことが、やはり起こるのは、仕方がないのだろう。
「……お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。弟子たちは、まだ若く、これから先のあるものばかりですので、首をお斬りになるのなら、私だけでお願いします」
「クスっ、あなたの弟子にも同じことを言われたわ。トレビさんにも言ったけど、私は、誰かの首が欲しくてここに来たわけではないので、勘違いしないでください」
クスクスと笑ってしまうと、親方や弟子たちもお互いの顔を見合わせて困惑している。本当にさっきのトレビを見ているようだった。
「アンナリーゼ様、意地悪ですよ。普通、貴族というものは、もっと横柄な人が多いという印象なのでしょう」
「なるほど。それもそうね。トレビさんもその親方さんや弟子のみなさんも、私は首を所望していませんので、心配なさらないで。もしかしたら、それに近い相談かもしれないけど……話がしたいの。お時間をくださるかしら?」
「……わかりました。それでは、私が」
「できれば、トレビさんも一緒がいいかな。ダメですか?」
「私もですか?」
「えぇ、お願いしたいの。強制ではないから、断ってくれてもいいけど、できれば、私の相談事を一緒に聞いてもらえたら、嬉しいかしら」
親方はトレビと視線を合わせて、頷き合っている。たぶん、断ることはしない方がいいという意思確認だったのだろう。
「他の弟子は……」
「トレビさんだけで。あと、できれば、トレビさんの作った人形も見たいのだけど……見せていただけるかしら?」
「もちろんです。取ってきますので……」
「案内は、もちろん私が。飲み物は……」
「飲み物は、いろいろと揉め事になる可能性があるので、遠慮させてもらいます」
「わかりました。みなは、作業に戻ってくれ。それでは、公爵様、こちらへ……汚い場所で申し訳ありませんが」
「いえいえ、おかまいなく」
私たちは親方が案内してくれる部屋に入る。ただし、人数が多いので、私、ナタリー、セバス、ヒーナだけが部屋に入り、ウィルと護衛たちは廊下で待機となった。席に落ち着いたころ、トレビが客間へと人形を持って入ってきた。
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