139 / 142
……手にとってもいいですか?
しおりを挟む
トレビが部屋に入ってきた瞬間、風にふわりと、人形の金色の髪が揺れた。キラキラと光る髪に、ナタリーは思わず声を上げてしまう。
「なんて美しいのでしょう……」
口を手で隠すようにしながら、目はトレビの人形に釘付けのナタリーを見て、トレビが少し笑った。人形を褒められたことが、やはり嬉しいようで、すぐに表情を戻したが、頬の筋肉はゆるゆるのようだ。
「トレビさん、人形をお借りしてもいいですか?」
「えぇ、もちろんです。今朝、出来上がったばかりのものです」
渡された人形は、まだ服を着ていない。なので、パーツごとに見えるようになっているので、私はトレビから人形を借り、そのひとつひとつを見ていった。丁寧な造りになっており、どこを触っても滑らかで、艶やかだった。
「私が持っている人形も精緻な造りだったと思いますが、素晴らしいですね。この人形は、もう、お嫁に行く先は決まっているのですか?」
「いえ、私の作ったものは、まだ、世には出せませんから、しばらくは、あの作業場に置いておくことになります」
私は人形に触れながら、トレビの話を聞いていく。滑らかにしているのは、やはり技術のいるようで、ここまでになるには、相当な時間がかかるようだ。材料の話も聞いていく。もし、アンバー領で人形を作るとしたら、どんな材料があればできるのか、また、どれくらいの流通があれば、手に入れられそうなのかと質問をしていくと、嬉々として話してくれた。
「あの……公爵様」
「なんでしょうか?」
「作る工程や材料なんて聞いて、どうなさるおつもりで?」
「領地でも、人形をつくれないかと考えていまして……材料だけでなく、いろいろと設備が必要なこともわかりました」
「でも、職人がいなければ、人形は作れません」
「確かにそうですね。繊細な作業が必要なようですもの。それをすぐに作れるようなものは、いないでしょう。それこそ、何年も時間をかけていかなければ、難しい。この人形の瞳も綺麗なガラス細工ですものね」
「トレビは、まだ、瞳の部分は作れないので、町の工房で作ってもらっています」
「それは、先ほど、伺いました」
「ね? トレビさん」と話を振ると頷いている。何か考えていたのか、少し反応が遅く、ナタリーが人形を褒めたことを喜んでいたのかもしれない。
「それで、領地で人形を作りたいと申し出だが、どうするおつもりなのですか?職人を私どもに預けるのでしょうか?」
「いえ、たまたま、インゼロ帝国へ来て、見つけたのです。人形制作の職人になりたい人を連れてきてはいませんし、私たちが帰ったら、再び、インゼロ帝国とは国交が断絶することになっていますから、例え、職人見習になれる人を連れてきていたとしても、その人は、帰る手段はありません」
「……それなら、職人をここから連れて行きたいと聞こえますが?」
「端的にいえば、そうなります。これは、強制ではありませんし、アンバー領へ行ってみたいと願う職人さんがいれば、私は後押しは惜しみません。ただ、その職人がいるのかどうか……」
ちらりとトレビの方を見てみたが、何かを考えているのか、トレビは何も言わなかった。親方も先ほどはにこやかにしていたが、表情が少し硬い。命令ではないとはいえ、公爵のお願いなんて、命令に近いので、困っているのだろう。
「本当に、強制でも命令でもありません。もし、私の領地の繁栄に手を貸してもらえるなら、私は、私たちは、その職人への手厚い後押しをお約束します」
「失礼な話ですが、それは、職人にとって、都合がよすぎやしませんか? 例えば、作った人形の安値で買われたり、職人が使いつぶされたり……」
「言いたいことは、わかります。私も、これまでに、たくさんの方に声をかけさせていただきました。そのなかで、もちろん、話がうますぎると断られた方もいます。今回も、そうなる可能性は十分だとおもっていますが……」
「……トレビ?」
親方に声をかけられて、ハッとしたようにトレビは肩を震わせた。私が見つめているのに気が付いたのか、ジッと見て来る。値踏みされているような、試されているような気持ちだが、私は、この手の視線は慣れているので、トレビに微笑んだ。
「ナタリー、ドレスをお出しして」
「かしこまりました」
ナタリーが馬車の中で作っていたドレスを机の上に並べる。1着だけかと思っていたが、2着に増えていて、少し驚いたが、それ以上に、親方とトレビが驚いている。
「……手にとってもいいですか?」
「もちろんよ。ナタリーが買った人形に着せるために作ったものよ。ちょうど、トレビさんの人形もあるから、着せてみてはいかが?」
「……よろしいので?」
「えぇ、どうぞ」
私は、ドレスを人形に着せるように促すと、トレビが震える手でドレスを着せていく。採寸は、ばっちりのようで、「ほう……」と二人が感心している。
……丸め込むタイミングね。
私は、二人の反応がいいことに、もう少し、お願いしてみることにした。でも、心配しなくても、さっきからトレビがアンバー領での人形造りに興味を持ち始めていることは確実であった。
「なんて美しいのでしょう……」
口を手で隠すようにしながら、目はトレビの人形に釘付けのナタリーを見て、トレビが少し笑った。人形を褒められたことが、やはり嬉しいようで、すぐに表情を戻したが、頬の筋肉はゆるゆるのようだ。
「トレビさん、人形をお借りしてもいいですか?」
「えぇ、もちろんです。今朝、出来上がったばかりのものです」
渡された人形は、まだ服を着ていない。なので、パーツごとに見えるようになっているので、私はトレビから人形を借り、そのひとつひとつを見ていった。丁寧な造りになっており、どこを触っても滑らかで、艶やかだった。
「私が持っている人形も精緻な造りだったと思いますが、素晴らしいですね。この人形は、もう、お嫁に行く先は決まっているのですか?」
「いえ、私の作ったものは、まだ、世には出せませんから、しばらくは、あの作業場に置いておくことになります」
私は人形に触れながら、トレビの話を聞いていく。滑らかにしているのは、やはり技術のいるようで、ここまでになるには、相当な時間がかかるようだ。材料の話も聞いていく。もし、アンバー領で人形を作るとしたら、どんな材料があればできるのか、また、どれくらいの流通があれば、手に入れられそうなのかと質問をしていくと、嬉々として話してくれた。
「あの……公爵様」
「なんでしょうか?」
「作る工程や材料なんて聞いて、どうなさるおつもりで?」
「領地でも、人形をつくれないかと考えていまして……材料だけでなく、いろいろと設備が必要なこともわかりました」
「でも、職人がいなければ、人形は作れません」
「確かにそうですね。繊細な作業が必要なようですもの。それをすぐに作れるようなものは、いないでしょう。それこそ、何年も時間をかけていかなければ、難しい。この人形の瞳も綺麗なガラス細工ですものね」
「トレビは、まだ、瞳の部分は作れないので、町の工房で作ってもらっています」
「それは、先ほど、伺いました」
「ね? トレビさん」と話を振ると頷いている。何か考えていたのか、少し反応が遅く、ナタリーが人形を褒めたことを喜んでいたのかもしれない。
「それで、領地で人形を作りたいと申し出だが、どうするおつもりなのですか?職人を私どもに預けるのでしょうか?」
「いえ、たまたま、インゼロ帝国へ来て、見つけたのです。人形制作の職人になりたい人を連れてきてはいませんし、私たちが帰ったら、再び、インゼロ帝国とは国交が断絶することになっていますから、例え、職人見習になれる人を連れてきていたとしても、その人は、帰る手段はありません」
「……それなら、職人をここから連れて行きたいと聞こえますが?」
「端的にいえば、そうなります。これは、強制ではありませんし、アンバー領へ行ってみたいと願う職人さんがいれば、私は後押しは惜しみません。ただ、その職人がいるのかどうか……」
ちらりとトレビの方を見てみたが、何かを考えているのか、トレビは何も言わなかった。親方も先ほどはにこやかにしていたが、表情が少し硬い。命令ではないとはいえ、公爵のお願いなんて、命令に近いので、困っているのだろう。
「本当に、強制でも命令でもありません。もし、私の領地の繁栄に手を貸してもらえるなら、私は、私たちは、その職人への手厚い後押しをお約束します」
「失礼な話ですが、それは、職人にとって、都合がよすぎやしませんか? 例えば、作った人形の安値で買われたり、職人が使いつぶされたり……」
「言いたいことは、わかります。私も、これまでに、たくさんの方に声をかけさせていただきました。そのなかで、もちろん、話がうますぎると断られた方もいます。今回も、そうなる可能性は十分だとおもっていますが……」
「……トレビ?」
親方に声をかけられて、ハッとしたようにトレビは肩を震わせた。私が見つめているのに気が付いたのか、ジッと見て来る。値踏みされているような、試されているような気持ちだが、私は、この手の視線は慣れているので、トレビに微笑んだ。
「ナタリー、ドレスをお出しして」
「かしこまりました」
ナタリーが馬車の中で作っていたドレスを机の上に並べる。1着だけかと思っていたが、2着に増えていて、少し驚いたが、それ以上に、親方とトレビが驚いている。
「……手にとってもいいですか?」
「もちろんよ。ナタリーが買った人形に着せるために作ったものよ。ちょうど、トレビさんの人形もあるから、着せてみてはいかが?」
「……よろしいので?」
「えぇ、どうぞ」
私は、ドレスを人形に着せるように促すと、トレビが震える手でドレスを着せていく。採寸は、ばっちりのようで、「ほう……」と二人が感心している。
……丸め込むタイミングね。
私は、二人の反応がいいことに、もう少し、お願いしてみることにした。でも、心配しなくても、さっきからトレビがアンバー領での人形造りに興味を持ち始めていることは確実であった。
0
あなたにおすすめの小説
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
Mimi
恋愛
若様がお戻りになる……
イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。
王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。
リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。
次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。
婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。
再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……
* 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました
そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる