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後継者問題もあるのね
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「……それは、その」
「トレビ、はっきりお断りせんか」
「でも、公爵様ですよ?」
「お断りしても、罰はお与えにならぬと言われたのだから、何も問題はない」
私の目の前で、トレビと親方が話し始める。この地に留まってほしい親方と、私の誘いに揺れ動くトレビ。私は、トレビの背中を押したつもりでいたが、長年の付き合いがある親方との信頼関係の方が、断然、優先されることもわかっていた。
「今すぐ、返事が欲しいわけではありません。私たちは、この町を出た少し開けた場所で、10日ほど滞在する予定です。10日目の朝、私の話に興味があり、アンバー領へ来てくれるというのなら、トレビさん」
「はい」
「旅支度と共に、一緒に私の領地へ向かいましょう。領地で、他の職人と共に切磋琢磨してもらえることを私は切に願いますが、こればかりは、トレビさん自身の人生がかかっていますから、ご自身で決めてください。そですね……あとは、この地を離れると、この町どころか、インゼロ帝国へ戻ることすら敵いません。今生の別れとなってしまいますので、そのあたりもよくお考えいただければと思います。急な話でしたから、混乱されたと思いますが、ぜひ、私たちと共に、領地へ来ていただけることをお待ちしておりますわ」
私は立ち上がると、ナタリーとセバスも同じように立ち上がった。トレビが、ナタリーから人形用のドレスを預かっていることに気づいて「あっ」と声を上げたが、私はナタリーに視線を向けると、頷いている。
「トレビさん。その人形のドレスは、そちらの人形へそのまま着せてあげてください。とっても良く似合っているので」
「でも、こんな高価なものをいただくわけには」
「トレビさんとその人形への贈り物ですわ。私、本当に、人形を気に入っていますの。だから、その人形は、トレビさんの手元に残るものだとお聞きしましたから、ぜひ、そのドレスを着せていただければと思いますわ」
「……それでは、ありがたく、いただきます」
「はい。私も、そのお人形にドレスを着てもらえて、とても嬉しいです」
ナタリーは、嬉しそうに人形を見ながら微笑んだ。トレビも、人形と着せたドレスの雰囲気がとても似合っているので、ドレスを返すことを少しだけ躊躇ったのを私は見ていた。多分、親方もそれは感じていて、口には出さなかったようだ。
「それでは、お暇しますね。今日は、急な訪問でしたのに、対応してくださり、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、お構いもしませんで……」
親方の目は、厄介者を追い出せるとホッとしたようだったが、トレビの方は、申し訳ないというふうに、肩を落としていた。私は、それ以上は何も言わず、トレビの方を軽くトンっと叩いて、部屋を出る。見送ってくれたトレビと親方に挨拶をしたあと、私たちは、元来た道を歩いて下ることになった。
「……下りだから、大丈夫だよ」
私が黙っていたことで、気を使ったのか、セバスがボソボソッと話始めた。私は、思わず、セバスの方を見ると、ナタリーが「何かしたのですか?」と問いかけてきた。
「セバスの体力がなさ過ぎて、あの工房まで、たどり着けなかったの」
「えっ? でも、私たちより先に到着していましたよね?」
「えぇ、運よくトレビさんに拾ってもらったのよ」
面目なさげにしているセバスに、「少し体力をつけた方が、老後のためだぞ?」と私たちを見守っていたウィルがからかい始めた。重い空気が少し軽くなったところで、部屋の中での話をウィルにもすることにした。
「ふーん、それで、その職人は、アンバーまで、来てくれそう?」
「わからないわ。本人は、揺れ動いている感じだけど」
「親方が、トレビさんを手放すつもりはないって感じだったね」
「そうそう」
「なるほどねぇ……。俺は廊下にいたじゃん?」
「えぇ、そのあいだに何かあったのの?」
廊下にいたウィルにも、廊下での話を聞いてみることにした。私たちくらいか、もう少し年下の女性が部屋を見ていたという話だった。そのあと、廊下を通った弟子に声をかけて、話していたらしい。
「トレビっていうの? その職人」
「えぇ、そうよ。それが、何か?」
「まぁな。町にはさ、若くして、一人前として独り立ちした職人が、三人いるんだって」
「そうなの?」
「あぁ。そのうちの一人が、姫さんが見つけたトレビで、二人目が俺らが見つけた職人、あと一人は……わかんないけど、とにかく三人いる。あの親方には、跡継ぎがいなくて、その三人の中から、娘と結婚させて、跡継ぎとすることにしているらしい。中でも、トレビっていうのが、最有力だって話だったから……そういうところも絡んでいるのかもな」
「なるほどね。後継者問題もあるのね。他の後継者候補には会ってないからわからないけど、トレビさんは、人もよさそうで、親しみやすい人だったわよね?」
「そうですね。試作品を見る限り、腕も相当よかったと思いますわ!」
人形を見せてもらっていたので、私もセバスもナタリーの話に同意を込めて頷く。親方が、トレビを手元に置きたいという強い思いがわかったが、トレビ本人は、この地に留まるつもりでいるのか、私は、その答えを待つばかりであった。
「トレビ、はっきりお断りせんか」
「でも、公爵様ですよ?」
「お断りしても、罰はお与えにならぬと言われたのだから、何も問題はない」
私の目の前で、トレビと親方が話し始める。この地に留まってほしい親方と、私の誘いに揺れ動くトレビ。私は、トレビの背中を押したつもりでいたが、長年の付き合いがある親方との信頼関係の方が、断然、優先されることもわかっていた。
「今すぐ、返事が欲しいわけではありません。私たちは、この町を出た少し開けた場所で、10日ほど滞在する予定です。10日目の朝、私の話に興味があり、アンバー領へ来てくれるというのなら、トレビさん」
「はい」
「旅支度と共に、一緒に私の領地へ向かいましょう。領地で、他の職人と共に切磋琢磨してもらえることを私は切に願いますが、こればかりは、トレビさん自身の人生がかかっていますから、ご自身で決めてください。そですね……あとは、この地を離れると、この町どころか、インゼロ帝国へ戻ることすら敵いません。今生の別れとなってしまいますので、そのあたりもよくお考えいただければと思います。急な話でしたから、混乱されたと思いますが、ぜひ、私たちと共に、領地へ来ていただけることをお待ちしておりますわ」
私は立ち上がると、ナタリーとセバスも同じように立ち上がった。トレビが、ナタリーから人形用のドレスを預かっていることに気づいて「あっ」と声を上げたが、私はナタリーに視線を向けると、頷いている。
「トレビさん。その人形のドレスは、そちらの人形へそのまま着せてあげてください。とっても良く似合っているので」
「でも、こんな高価なものをいただくわけには」
「トレビさんとその人形への贈り物ですわ。私、本当に、人形を気に入っていますの。だから、その人形は、トレビさんの手元に残るものだとお聞きしましたから、ぜひ、そのドレスを着せていただければと思いますわ」
「……それでは、ありがたく、いただきます」
「はい。私も、そのお人形にドレスを着てもらえて、とても嬉しいです」
ナタリーは、嬉しそうに人形を見ながら微笑んだ。トレビも、人形と着せたドレスの雰囲気がとても似合っているので、ドレスを返すことを少しだけ躊躇ったのを私は見ていた。多分、親方もそれは感じていて、口には出さなかったようだ。
「それでは、お暇しますね。今日は、急な訪問でしたのに、対応してくださり、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、お構いもしませんで……」
親方の目は、厄介者を追い出せるとホッとしたようだったが、トレビの方は、申し訳ないというふうに、肩を落としていた。私は、それ以上は何も言わず、トレビの方を軽くトンっと叩いて、部屋を出る。見送ってくれたトレビと親方に挨拶をしたあと、私たちは、元来た道を歩いて下ることになった。
「……下りだから、大丈夫だよ」
私が黙っていたことで、気を使ったのか、セバスがボソボソッと話始めた。私は、思わず、セバスの方を見ると、ナタリーが「何かしたのですか?」と問いかけてきた。
「セバスの体力がなさ過ぎて、あの工房まで、たどり着けなかったの」
「えっ? でも、私たちより先に到着していましたよね?」
「えぇ、運よくトレビさんに拾ってもらったのよ」
面目なさげにしているセバスに、「少し体力をつけた方が、老後のためだぞ?」と私たちを見守っていたウィルがからかい始めた。重い空気が少し軽くなったところで、部屋の中での話をウィルにもすることにした。
「ふーん、それで、その職人は、アンバーまで、来てくれそう?」
「わからないわ。本人は、揺れ動いている感じだけど」
「親方が、トレビさんを手放すつもりはないって感じだったね」
「そうそう」
「なるほどねぇ……。俺は廊下にいたじゃん?」
「えぇ、そのあいだに何かあったのの?」
廊下にいたウィルにも、廊下での話を聞いてみることにした。私たちくらいか、もう少し年下の女性が部屋を見ていたという話だった。そのあと、廊下を通った弟子に声をかけて、話していたらしい。
「トレビっていうの? その職人」
「えぇ、そうよ。それが、何か?」
「まぁな。町にはさ、若くして、一人前として独り立ちした職人が、三人いるんだって」
「そうなの?」
「あぁ。そのうちの一人が、姫さんが見つけたトレビで、二人目が俺らが見つけた職人、あと一人は……わかんないけど、とにかく三人いる。あの親方には、跡継ぎがいなくて、その三人の中から、娘と結婚させて、跡継ぎとすることにしているらしい。中でも、トレビっていうのが、最有力だって話だったから……そういうところも絡んでいるのかもな」
「なるほどね。後継者問題もあるのね。他の後継者候補には会ってないからわからないけど、トレビさんは、人もよさそうで、親しみやすい人だったわよね?」
「そうですね。試作品を見る限り、腕も相当よかったと思いますわ!」
人形を見せてもらっていたので、私もセバスもナタリーの話に同意を込めて頷く。親方が、トレビを手元に置きたいという強い思いがわかったが、トレビ本人は、この地に留まるつもりでいるのか、私は、その答えを待つばかりであった。
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