【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

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ーー卒業式の前日。

 案の定、王子バルトラからエスコートを断る手紙が届いていた。半年前から用意されてなければいけない筈のアーリアのドレスも届いておらず、その事についてアーリアは「ああ、ゲームの通りになったのね」と、特に何も思わなかった。

「アーリアちゃんに似合うドレスを用意したぜ!」

「私とお揃いなの!」

 魔王デルタロスと天ノ川の言葉に、アーリアは驚いていた。いつの間に用意したのだろうと。アーリアの採寸すらしてもいないのに、共に居たのに気づけなかったからだ。そういえば、王妃様のお茶会時のドレスも、いつの間にか用意されていた。全て魔法で片付けられていたけれど、本当に何でも出来てしまう気がして困惑していた。

「そ、そんな……う、受け取っても宜しいのでしょうか?」

「アーリアちゃん。ドレスは、滞在中に私達に付き合って頂いたお礼なの。気にしないで!」

「それでしたら、ありがとうございます!」

「あ! それと明日はジルベルトは俺の部下として卒業パーティに参加するんだ。もちろんアーリアちゃんのパートナー枠としてなっ!」

 ウインクする魔王デルタロスにアーリアは感極まって涙腺が崩壊した。誰にもエスコートして貰えないと、恥をかく覚悟で入場する
予定だったのだ。自分の後ろに佇むジルベルトに視線をむけると、頬を染めて、アーリアを愛おしく見つめていた。見つめ合っていると、天ノ川が咳払いで注意を促した。

「……こほんっ! 明日の参加は魔族の留学生の保護者枠なのよ」

 という天ノ川の言葉に、アーリアは首をかしげた。そんな留学生に心当たりが無いからだった。

「潜入もかねて、ねっ!」

 魔王デルタロスからのウインクに、アーリアは目を白黒させた。そういえば、事ある毎にアリバイだと天ノ川が言っていたのを思い出した。卒業パーティーへの参加も、アーリアのためのアリバイ工作だと言われてしまい、アーリアは心の底から、魔王夫妻に感謝したのだった。





 翌日、アーリアは朝から侍女達に磨かれ、天ノ川が用意した白から緑へとグラデーションされたオフショルダーの身体のラインが際立つマーメイドラインのドレスを身に纏っていた。緑はジルベルトの髪の色であり、ジルベルトの銀色の瞳の色のアクセントの飾りがつけられていた。

 アーリアが王子妃の仕事を止めてから、アーリアはテンバーン領でゆっくりと静養でき、偏頭痛も無くなり顔色も髪質も年相応の令嬢らしく回復した。

 鏡に写るアーリアは、ドレスも髪型も『乙女ゲーム』とは全く違う悪役令嬢じぶんの姿に驚いた。ゲームのような厚化粧にキツイ目つきの印象はなく、現在のアーリアは眉間のシワもなく、好奇心旺盛な猫目の清楚な雰囲気だった。

 侍女達に心の底からのヨイショを貰い、アーリアは家族と魔王夫妻の待つ談話室へと向かった。


「アーリアちゃん、とっても素敵よぉ!」

「綺麗よリア」「おねーたま、かわいい」

「ありがとうございます」

 天ノ川と母と幼い弟言葉に、アーリアは自信を持って卒業パーティへと挑める気持ちがついた。父親のテンバーン公爵も、優しい眼差しで妻と息子の言葉に頷いている。

 天ノ川とのお揃いの色違いのドレス。色は天ノ川の方が白から赤いグラデーションの華やかな印象だが、並んで歩くとまるで姉妹のように見えるドレスだった。

「最後にこれを着けて……」

「こちらは?」

 天ノ川の手ずから頭へと付けられたドライフラワーの髪飾りも、天ノ川とお揃いの金色と銀色のスズランの花の飾りだった。

「この花はね、魔王城にしか咲いてないの」

「そんな貴重な物を、ありがとうございます!」

「うふふ。アーリアちゃんは、この花を、魔王城で摘んだ事になったから」

「えっ!?」

 天ノ川はアーリアの手を取った。握られた手から、記憶が流れ込んだ。行った事が無いのに、ジルベルトと一緒に滞在し、天ノ川達と花を摘んだ記憶がアーリアの中に存在した。

「……お花を摘んだ記憶が……」

「お互いに行き来があったの! ね?」

「……は、はい」

 摩訶不思議現象が自分自身に起こってしまい、アーリアは混乱した。しかし、予め天ノ川が管理神であるからこそ、出来た事なのだと、頭では理解できたのだった。


「さて、準備も整ったし、見守神の元へ行きましょう!」

「はい!」


「公爵よ、例の件は卒業式後直ぐに実行だ。良いな?」

「承知いたしました」

 アーリアと天ノ川が話し合う横で、小声で話し合うのは魔王デルタロスとテンバーン公爵。この後、卒業パーティーで起こるアクシデントは魔王と天ノ川にとっての予定調和だと伝えてあった。

 娘の幸せを望むテンバーン公爵達は、嬉しそうにエスコートされるアーリアの笑顔に目を細めていた。

 






 卒業パーティーともなれば、卒業生の親も当然参加する行事である。アーリアも父親とエスコート役のジルベルトと共に会場へと入った。ちなみに魔王夫妻は他国からの要人枠で、この国の両陛下と共に会場に入る予定だ。

 アーリアとジルベルトに向けられる視線は感嘆の籠った者から驚愕の視線と様々だったが、どちらの視線もアーリアに好意的とは言い難いものだ。

 それでもアーリアは、長年の教育で身に付けたパーティー用の薄い微笑みを浮かべ、前を向き背筋を伸ばして歩く。一応は、であるアーリアは、上級貴族が集まる場所の最前列に並んで、パーティーの開始を待った。

 のピタリンド国の両陛下もすでに入場されており、その横の貴賓席には魔王夫妻も参加していた。





 ホール中央に設置された壇上から響く学園長の卒業の挨拶が終わり、卒業生への卒業の証が配られる。

 卒業生はホールの中心に集まり、卒業生の親族達は壁に沿って並べられた椅子に座っている。

 卒業の証は、爵位の無い者から爵位の低い者、次に爵位が高い者と順番に名前が呼ばれ、最後はバルトラ王子の名前が呼ばれた。

 卒業の証の授与の次は卒業パーティーへと移行するが、王子バルトラは卒業の証を受け取ってからすぐに壇上から降りる気配はない。
 不思議に思う生徒や親族達に、王子バルトラは意を決した表情で、声を張り上げた。

「……皆、聞いて欲しい事がある!」

 壇上の下に立ち並ぶように移動してきた集団(ヒロインと愉快なイケメン達)に卒業生達は示し会わせた様に後ろへと下がる。一人、中央に残されたアーリアは周囲に誰も居なくなった事に、不安を感じていた。

「アーリア・ミスト・テンバーン! 貴様の悪行をこれ以上許してはおけない! よって、私、バルトラ・コルン・ピタリンドはアーリア・ミスト・テンバーンとの婚約を破棄する! ここにいる者達、全員が証人とする! 続けてーーー」

 王子バルトラは、ヒロインであるミュト・ヴァーヴ男爵令嬢に近づき、恋人同士のように腰を抱いた。

「ー彼女……心優しき俺の愛するミュト・ヴァーヴ男爵令嬢を新たな婚約者とここに宣言する!」

 会場がざわめく。勝ち誇った表情の王子バルトラは、両手を叩いて注目を集め、さらに声高々に宣った。

「ーさらに!! いまここで、悪女アーリア・ミスト・テンバーンの断罪を決行する!」

 待ってましたとばかりに、ヒロインミュトと王子バルトラを囲むアーリアの幼馴染みの騎士子息のレナード・ポーカス伯爵令息と従兄弟のマティウス・エレキエ侯爵子息は、朗々とアーリアが学園でミュトに行ったという悪行の数々を並べ立てていった。

 真実はどうであれ、好奇な視線を浴びて、アーリアは心細さに眩暈がした。しかし、そっと肩を支えられた感覚に、アーリアは視線を向けて驚いた。

 いつの間にかジルベルトが、アーリアに寄り添っていたからだ。ヒロインであるミュトは、そんなアーリアとジルベルトに鋭い視線を向けた。

「ジルベルト君! どうしてそこに!? も、もしかして、アーリアさんに脅されているんですか!? そうなんですね!」

 勝ち誇った表情で手を差し出すミュトに、ジルベルトは首をふった。

「お嬢様は私にそんな事はなさいませんよ」

「なっ……う、うそよ! だって、私、学園で酷いことたくさんされて……」

 両手で顔を覆って泣くミュトに、同情的な視線が多い中、中央にゆっくりと歩いて近づく集団がいた。ちょうどヒロイン達の後ろからである。

「それはおかしな話だなぁ」

 突然自分達の後ろから聞こえた声に、王子バルトラ、ミュト、レナード、マティウスは驚いて振り返った。



 





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