忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ

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03 悲しくて泣いたの

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悲しくて泣いたの

2人を信じていたから

そう言えば
今にして思えば
あれもこれも
最初からずっと2人は――


――金曜日からの微熱のせいで
私はベッドで眠っていた。
薄く窓を開けていたから
コルニクス侯爵家の馬車の音が聞こえた。
彼が来た…
何故?
熱があるから今日はお茶会は出来ないと伝えたはず…

アーテル・コルニクス侯爵令息、18才。
黒髪に黒い瞳が神秘的な美丈夫。
騎士学校を優秀な成績で卒業したばかりだけれど騎士になる予定はない。
コルニクス侯爵家の嫡男である彼は侯爵家を継ぐための勉強をしているという。

私はエクア・アウィス、13才。
アウィス伯爵家の長女。
茶色の髪に赤茶の瞳。
王立女学園の2年生。
お父様と年の離れたお兄様達は領地にいらっしゃって私はお母様と王都住まい。
お母様はお父様の2番目の妻でそのお母様が王都を離れたくないみたい。


婚約したのは2年前。
11才の私は16才の彼と婚約した。
『少しずつ仲良くなっていきましょう』と言ってくれた彼。
誠実そうな佇まいを好ましく思った。
私自身は特に年齢差を感じていなかったのだけれど…
『ふふ、エクアはアーテル様には子供過ぎるわね。
エクアは年齢より子供っぽ過ぎるしアーテル様は年齢より大人びていらっしゃる…
エクアは釣り合いが取れるまではアーテル様を『お兄様』と呼ぶといいわ。
その方が自然だもの。
…ね?アーテル様、それでよくて?』
そんな風にお母様が仰ればそうするのが正しいのだろうと私は婚約者を『お兄様』と呼ぶことになった。
本当のお兄様が領地にいらっしゃるので変な感じがしたけど…

『‥何だ、エクアは婚約者を『お兄様』と呼んでいるのか?失礼ではないか』

そう仰るお父様にお母様が

『エクアはまだ子供ですもの。年上の男性を見ると領地にいらっしゃるお兄様が恋しくなってしまうのでしょう。気が済むようにさせてあげてくださいまし。侯爵令息もその方が自然だとお感じの様ですし…ね?』

――あれ?
まるで私が望んだみたいに…
お母様に言われたからなのに…
どうしてかしら?

どうしてかお母様に聞いてみたのだけれど。

お母様は私から顔を背けた。
声に出していなくとも『フン!』と聞こえた気がする。

私の質問、私の心、私の存在を完全に無視するお母様。
その余りの完全さ、圧のある空気に私は二の句が継げなくなる。
大人が――いや、強い者が弱い者を抑えつける威圧。

私はお母様がもう二度と口をきいてくれないのではと不安に思って。
しょんぼり過ごし数時間後。
『エクア、来てご覧なさい、あなたが楽しみにしていた庭の花が咲き始めているわよ』
お母様は優しく声を掛けてくださって。
私はほっとして花を喜んで。

だけどもう二度と同じ質問はしない。

そんな風にお母様は『学習』させる。
お父様やお兄様達は遠くにいて愛情を求められる存在はお母様だけだから
私は必死にお母様の愛情を求める。

その愛情を人質にして。


――そう、その日は微熱があったから
私は既にベッドで寝ていて。
だから
眠くなるお茶やお菓子を食べなかった。
だからいつもは寝ている時間に目が覚めていた。
来るはずのなかった婚約者はいつも通り来た様で。
ではお見舞いに来てくれたのかしら?
それ以外に理由が見当たらないのでそう見当をつけて。
婚約者がお見舞いに来たとメイドが告げに来るのを待っていたけれど
いつまで待っても誰も来ない。
馬車が出て行った気配もない。

一体彼は何をしているのかしら?

ガウンを着こんで部屋を出て。
彼がいるべき場所を捜したけれど。
家の中は妙にシンとして。
メイドの姿すら見かけない。
私は不意に怖くなって。
世界にたった一人取り残されてしまった様に感じて。

お母様の部屋へ急いだ。

――と、お母様の部屋のドアにメイド達が固まって中を覗き込んでいる。
みな夢中で私が近付くのにも気付かない。
酷く汚らしい表情…

私の足が止まる。
ドアの隙間から聞こえてくる男女の声…
聞いたことのない誰かの声の様だし知っている声の様な気もする。

頭の中は真っ白なのに
足はドアに向かって進み始める。
メイド達の後ろからドアの中を覗き見て――


悲しくて泣いたの

二人を信じ切っていたから

そう言えば

彼はいつでも私など眼中になかった

それなのに私は

彼は冷たいのではなく疲れているのだと
彼だって完璧じゃない
本当は優しいところもあるはず
彼を信じなければ
だって婚約者なのだからと

自分を誤魔化して

そう言えば

彼女が私を見る目は氷の様だった

それなのに私は

彼女は冷たいのではなく何か心配事があるのだと
彼女だって完璧じゃない
信じて感謝しなければ
笑顔でやり過ごすのよ
だって娘なのだからと

自分を叱って


そういう事だったのね
2人は愛し合っていたのね

婚約者の家に足繁く通う理想的な婚約者…
その実私を隠れ蓑にして
お母様との逢瀬を楽しんでいた

2人して私を騙してた


エクアはたくさんたくさんたくさん泣いて――
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