忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ

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05 アーテルの心中

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コルニクス侯爵家へ戻る馬車の中。

心身ともにグッタリしたアーテルが宙を見つめている。

(エクア…
終わってしまった…
君との輝かしい未来が…)

この2年、この異常な事態に自分は恋に落ちてしまったのだろうと思い込んで来た。

婚約者を裏切ってその母親と体を重ねるなどというおぞましい事を繰り返さずにいられなかったのはアドウェナの色――

物心ついた頃から憧れ続けて来た金髪と赤い瞳にやられてしまったのだろうと。

友人達が言う『恋に狂って自分ではどうにもならない状態』とはこの事なのだろうと解釈して――

変だ変だと思いながら
(何故なら普段アドウェナを思い出す事など一切無かったから――
寧ろ思い出すのは悲し気に目を伏せる美しい婚約者の方だったから)

それでもこれは恋なんだろうと
美しい金髪と赤い瞳のアドウェナは運命の人だから彼女の前で自分は変になってしまうのだろうと

金髪と赤い瞳――

その色を初めて見たのは幼児の頃の夢の中だった。

それはいつも同じ夢で。
夢だからとりとめがない。

大勢の人の中でその人は輝いている
赤いドレスをフワフワと揺らして
輝く太陽の様な緩いウェーブの金髪が眩しくて
神秘的な赤い瞳は奇跡の様な美しさ

私は夢の中で1歩も動けず
声をかけることも出来ずただ見つめるだけ…

全てが幻影の様な夢の中で1つだけ確かなのは
私が夢の中の彼女に恋に落ちた事――

エクアとの婚約の為にアウィス伯爵家を訪問する前の晩。
小さな頃から何度も見て来たその夢を久しぶりに見た。


翌日。

まだ半分その夢に囚われながらエクアと初めましての挨拶を交わす。
エクアは見たこともないほどに美しい美少女で。
あの夢の美女にどこか似ている気がしたりして。

――と、突然部屋に誰かが入って来た。
親達を交えての話し合いの後2人だけで話すようにと取ってくれた時間なのにと心の中で舌打ちをしたが――

『遅れてごめんなさい!
ちょっと具合が悪くて寝ていたのだけれど良くなったから挨拶したくて…
私はアドウェナっていうの。
よろしくねぇ?
まぁ…何て逞しい体…
…イイ…素敵だわ…
アーテル様ってお呼びしてもよくってぇ?』

驚きで暫く声も出なかった。
夢で見た様な金髪に赤い瞳――
顔は全然似ていなかったが(夢の中の女性は絶世の美女だがアドウェナは平凡な顔をしている)
それでもその類まれなる色に見惚れてしまった――

『そんなに見つめられたら恥ずかしいわぁ…
どうなさったの?
アーテル様ぁ…』

思いのほか若々しい話し方のアドウェナに金髪と赤い瞳に憧れている事を正直に話す。

『実は昨夜も伯爵夫人の様な金髪と赤い瞳の女性の夢を見てしまって…
どれだけ憧れているんだって話ですよね‥』
と苦笑すれば。

エクアが
『それなら良かったです。
私も4~5年後には‥』
と言い掛けて…

だけどアドウェナが
『エクア!』
と大声を上げてエクアの話を遮り。
不安そうに押し黙ったエクアと少しの間席を外した。
席に戻って来たエクアはその後は口を閉ざし何も話さなくなってしまった――

「恋なんかじゃなかった‥」

全てはアドウェナの仕業…

私は媚薬を盛られていたのだ。
思考を奪う動悸も暴力的なまでの欲求も媚薬の効果だったのだ。
多分3回目のお茶会の時から――
そうだ間違いない。

1回目と2回目のお茶会の時アドウェナにベッドに誘われたが断った。

『夢の中で私達何度も会っているのよ!
私も夢の中であなたを見たわ!
私達は運命の恋人なのよ!』

そう言われても親と変わらない年齢の女性だ。
本気で言っているとはとても思えない。
第一私の婚約者はエクアなのだ。
エクアを差し置いて私をベッドに誘うなんて考えられない。
きっとこれは罠…
エクアに相応しい男かどうか見極めようとしているのに違いない…

だが3回目――
私の意識は朦朧として気付いた時にはアドウェナとベッドの中に居た。

帰りの馬車の中で大変な間違いを犯してしまったと猛反省し
二度とこんな裏切りは犯さないと誓った――

それなのに次のお茶会で気付けばまたアドウェナとベッドの中に居て――

恋に落ちてしまったのだと思うしかなかった。
でもいつか醒める恋だとも確信していた。

まだ若く未熟な自分は夢の中の初恋である金髪と赤い瞳の魅力に抗えないが。
やがて醒めてエクアと結婚する。
アドウェナはエクアの母であり伯爵夫人なのだからそれを邪魔することはしない…出来ないだろう。
そんな狡い計算も自分の中にあったかもしれない――

「エクア…
あの時君は何を言い掛けたんだい?」

それがずっと引っ掛かっている。

だけど今日こそは聞こうと思っていてもいつの間にかアドウェナに絡め取られ――

エクア――
多分もう聞く機会は無いだろう――
それが凄く残念で――

無念だ…
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