大迷惑です!勝手に巻き戻さないで!?

ハートリオ

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04 王都花火を竜の背で

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「はい、何か?」
「今日は王都花火の日だからね。
遠乗りに出ようと思う」
「!
それは素敵ですね!」
「一緒に来てくれるね?」
「え?私ですか?
私じゃなくて誰か誘いたい令嬢は‥ウッ」
「…ダメかな?」

(そ…その無表情で見られるとッ!)

ブルーベルは普段から無表情。
だが時折『読めない無表情』を見せる。
イブはそれに弱い。

「で、ですが私はメイドの仕事があ‥」
「私の専属メイドなのだから私の世話が仕事だろ?
遠乗りに付いて来て私の世話をして欲しい」

そう言ってふわりと笑うブルーベル。

(‥くぅッ)

滅多に拝めない無表情男の笑顔…
イブはその笑顔にも弱い!




ヒュ~~~…
ドォーーン…

「ぅわ~~、凄い!
綺麗、すごぉ~~い」

年に1度の王都花火。
王都のはずれにある見晴らしのいい丘の上から見るのが常で。
去年も丘の上から見物した。
その時野生の竜が夜空に咲く花の周りを飛ぶ姿を見てイブが呟いた。
『竜も花火見物が嬉しいみたい。
竜の背で花火を見たらまた違った美しさがあるのかな…』

言った本人ですら忘れていた呟きをブルーベルは覚えていて。
今年は花火を竜の背から見物するという特別な遠乗りにイブを連れ出したのだ。

ブルーベルは葡萄酒色の竜、ルボルとウィーニーを飼っていて。
イブにもよく懐いている。
イブは男性でも怖がる竜を怖がらず。
その背にも1人で乗れる。
乗りこなせる。
だけどナゼかブルーベルとタンデムで。
『はしゃいで落ちたら危ないからね』
そう言って微笑むブルーベルに
『なるほど!
落ちたら死んじゃいますもんね!
お任せ下さい!
ベル様が落ちない様にしっかりと気を付けますね!』
と答えるイブ。

イブは『すごい』『綺麗』を連発し続けて。
時折チラリとブルーベルを見れば

(いい表情をしている…
巻き戻り前は――)

巻き戻り前のブルーベルは――
勉強に剣の稽古、乗竜…
兎に角自分を向上させるのに必死で
こんな風に何かを楽しむ事はしなかった。
年に1度の王都花火だけは出掛けたけど少しだけ見て。
直ぐに皆から離れて一人黙々と剣の素振りなんかしていて。
ただひたすら精進する姿が可哀想だった。
自分と同じ何か理由があっての外国からの移民。
受け入れ先の伯爵家に認められる為、
更には恩返しする為に。
楽しみに背を向け邁進していたのだろう…
巻き戻り後のブルーベルは――
見た目も別人なら行動も別人で。
成績は散々…
なのに全く勉強せず。
剣など手にした事も無い。

(だけど大切な所は…
優しくて素敵な所は変わらない…
私的にはそれで充分、
完璧だと思う…
それに今回はいつも穏やかだった…
だから…
これでいいのでは?)

イブはそんな風に思った後すぐに否定する。

(ダメだよ!
だってそれでは令嬢達に見向きされない!
プテロプース伯爵家は多分養子縁組を解消する…
そうなったらベル様はどう生きていける!?
勉強も剣もダメじゃ就職口だって見つからないだろうし――)
「‥ブ、イブ?」
「ハッ!?」
「どうした?
急に黙って…
やっぱり体調悪い?」
「あ!いえ!
そうじゃなくて…」

イブは逡巡し
意を決して口を開く。

「もうすぐベル様の誕生日ですね…
ベル様は成人されるのです」
「ああ。
その事でイブに話が‥
うん?」

ブルーベルは前方から竜に乗って近付いてくる従者ボースに気付く。
花火の音で声は聞こえないが――
身振り手振りで伯爵邸に戻るように伝えている様だ。

「何だろう…
まだ花火は途中なのに…」
「でも様子が変です。
急いで戻られた方が‥」
「‥ッ‥
じゃあ話は後で」
「‥はい‥
(あと1ヶ月しかないのだから悠長な事言ってられないのだけれど…
ボースは殺す勢いで私の事睨んでいるし…
緊急事態なのは間違いなさそう)」
「約束だよ」
「?‥は‥」

珍しい念押し。
低い声に胸が跳ねる。

降下する中
花火が滲む

不意に下りて来る確信

(私は、ベル様を)

瞑目する

(バカな…
あり得ない
…あり得ない!)

地上。

先に飛び降りたブルーベルが差し出した手から目を逸らして。

「大丈夫です!
竜の散歩は仕事の一つですから!
乗り降りは慣れて‥」

明るく言いながら飛び降りたのに
何で今日に限って?

ふらつくイブをブルーベルが抱き留める。

「大丈夫?」
「‥ッ‥
あ、はは、はい」

何で今日に限って私はふらついて
何でいつもは運動音痴なベル様が

しっかりと抱き止めてくれた逞しさにクラリとする。
ドキドキ騒ぐ胸
酷く惨めに感じる…

私はメイド
何の取り柄も無い
どこにでもいる普通の
何より
7才も年上――

だから私はメイドとして
全てはベル様の為に
ベル様の幸せの為に
ベル様を応援するのだ

だから鎮まれ私!

――無意味だから…


自分の内で燃え出した何かに心がついて行けないイブ。
花火を見る振りをしてブルーベルから顔を背ける。

上気する頬を見られてはいけないと。
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