4 / 17
カトリーヌ編
3
しおりを挟む
フランシスの偉そうな声と共に、見物人たちを掻き分けてこちらに歩いてくる少女が一人。
学園の制服である紺のスカートをふわりと揺らし、こちらを見て微笑んだ。
愛くるしい大きな瞳は誰をも惹きつける魅力がある。ふわふわとした桃色の髪も彼女の可愛らしさを引き立てている。
彼女を見た途端、フランシスの表情がぱっと明るくなり、安堵したように息を吐いた。
「彼女に暴言吐かれただろう」
フランシスが諭すように、アメリアの肩に手を置いた後、憎々しい表情で私を指差す。
その人差し指、折って差し上げようか。
「まぁ、暴言を吐かれたか、と聞かれたら吐かれましたねぇ」
アメリアはキョトンとした表情で呑気に答えた。笑顔は絶やさない。
周りの生徒たちは彼女の言葉を聞いてざわざわし始める。そのどれもが私に対する悪口のようだった。
「あんなに人の良いアメリア様に暴言を吐くだなんてなんて悪女なの」
「婚約破棄されて当然だ」
「早く退学すればいいんだ、鉄仮面女め」
普段、公爵家である私には言えないような言葉が飛んできた。今なら、何を言ってもいいという雰囲気がそこにはあった。
それらの中には、平民の出であったアメリアを馬鹿にしていた生徒たちも混じっていた。こいつらもいまさら何を言っているのか。アメリアを差別していたのは私ではなく、お前たちのほうでしょう。
それにどうやらアメリアのことを友人だと思っていたのは私だけだったようだ。私は彼女のことが好きだったし、嫌がらせなんてしたこともなかった。彼女が私に向けた笑顔は全部嘘だったのだろうか。
「そういうことだ。だから君には大人しく婚約破棄を飲んでもらう」
「はぁ……」
まるで私が婚約破棄を受け入れていないような物言いに少し腹が立つ。先程、私は婚約破棄を了承したはずですが……?
きっと彼は私が婚約破棄を受け入れるなんて発想は皆無だったのだろう。どこまでも自意識過剰な人だ。
「そしてアメリア。僕は新たに君に婚約を申し込みたい。僕と婚約してくれるかい?」
私に向けていた醜い顔とは対照的に、フランシスは爽やかな笑顔をアメリアに向ける。手にはいつのまにか取り巻きから受け取ったダイヤモンドの指輪が光っていた。
アメリアは驚いたようにポカンと指輪を見つめた。
周りの生徒たちは黄色い声を上げる。まったく貴族として恥ずかしい。
なんなんの、この茶番は。ほんとうにくだらない。婚約を申し込む前に髪についた虫をなんとかしたらどうなの。
しかも、まだ完全に婚約解除されていないのに別の女性に求婚するなんて。
私は気分が悪くなり、その場から立ち去ろうとした。誰も、もう私のことは興味を失ったようで引き留める者もいなかった。
しかし、背後から聞こえてきたアメリアの返事は私が予想だにしなかったことだった。
「婚約はお断りします」
朗らかな声でアメリアはきっぱりとそう言ったのだ。
急いで振り返ると、それはアメリアがフランシスの手から指輪を掴み取り、笑顔で地面に叩きつける瞬間であった。
学園の制服である紺のスカートをふわりと揺らし、こちらを見て微笑んだ。
愛くるしい大きな瞳は誰をも惹きつける魅力がある。ふわふわとした桃色の髪も彼女の可愛らしさを引き立てている。
彼女を見た途端、フランシスの表情がぱっと明るくなり、安堵したように息を吐いた。
「彼女に暴言吐かれただろう」
フランシスが諭すように、アメリアの肩に手を置いた後、憎々しい表情で私を指差す。
その人差し指、折って差し上げようか。
「まぁ、暴言を吐かれたか、と聞かれたら吐かれましたねぇ」
アメリアはキョトンとした表情で呑気に答えた。笑顔は絶やさない。
周りの生徒たちは彼女の言葉を聞いてざわざわし始める。そのどれもが私に対する悪口のようだった。
「あんなに人の良いアメリア様に暴言を吐くだなんてなんて悪女なの」
「婚約破棄されて当然だ」
「早く退学すればいいんだ、鉄仮面女め」
普段、公爵家である私には言えないような言葉が飛んできた。今なら、何を言ってもいいという雰囲気がそこにはあった。
それらの中には、平民の出であったアメリアを馬鹿にしていた生徒たちも混じっていた。こいつらもいまさら何を言っているのか。アメリアを差別していたのは私ではなく、お前たちのほうでしょう。
それにどうやらアメリアのことを友人だと思っていたのは私だけだったようだ。私は彼女のことが好きだったし、嫌がらせなんてしたこともなかった。彼女が私に向けた笑顔は全部嘘だったのだろうか。
「そういうことだ。だから君には大人しく婚約破棄を飲んでもらう」
「はぁ……」
まるで私が婚約破棄を受け入れていないような物言いに少し腹が立つ。先程、私は婚約破棄を了承したはずですが……?
きっと彼は私が婚約破棄を受け入れるなんて発想は皆無だったのだろう。どこまでも自意識過剰な人だ。
「そしてアメリア。僕は新たに君に婚約を申し込みたい。僕と婚約してくれるかい?」
私に向けていた醜い顔とは対照的に、フランシスは爽やかな笑顔をアメリアに向ける。手にはいつのまにか取り巻きから受け取ったダイヤモンドの指輪が光っていた。
アメリアは驚いたようにポカンと指輪を見つめた。
周りの生徒たちは黄色い声を上げる。まったく貴族として恥ずかしい。
なんなんの、この茶番は。ほんとうにくだらない。婚約を申し込む前に髪についた虫をなんとかしたらどうなの。
しかも、まだ完全に婚約解除されていないのに別の女性に求婚するなんて。
私は気分が悪くなり、その場から立ち去ろうとした。誰も、もう私のことは興味を失ったようで引き留める者もいなかった。
しかし、背後から聞こえてきたアメリアの返事は私が予想だにしなかったことだった。
「婚約はお断りします」
朗らかな声でアメリアはきっぱりとそう言ったのだ。
急いで振り返ると、それはアメリアがフランシスの手から指輪を掴み取り、笑顔で地面に叩きつける瞬間であった。
254
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?
ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」
華やかな夜会の真っ最中。
王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。
「……あ、そうなんですね」
私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。
「で? 次のご予定は?」
「……は?」
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
恋愛
約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を貼り付けて登場したアレックス殿下。
彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。
「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」
婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?
1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて?
うーん……おバカさんなのかしら?
婚約破棄の正当な理由はあるのですか?
1話完結です。
定番の婚約破棄から始まるザマァを書いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる