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アメリア編
2 (残酷描写少しあり)
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私と母さんの幸せな日々は、ある時突然終わりを迎える。私が7歳になった頃だった。
ルカと買い物へ行く途中だった。走っていたルカは勢いよく転び、運が悪いことに転んだ先に鋭利な石があったのだ。それが腕を引っ掻き、ぱっくりと割れた皮膚からは、血が流れていた。
「ルカ! 大丈夫か!」
「痛い……」
辛そうに呻くルカを見て、私はパニックになり、すぐに人を呼ぶという考えに至らなかった。
とにかく傷の具合を見ようと思い、私は自分の右手を彼の腕にかざした。
その瞬間、眩い黄金の光が私たちを包んだ。光は天井まで広がり、金の雨となって町中に降り注いだ。何事かと思って辺りを回していると、倒れていたルカがむくりと身を起こした。
「傷が、治ってる……」
ルカの腕の割れ目はきれいになくなっていた。まるで怪我なんてしていなかったように。
(ベイリーがやったの?)
ルカの口は開いていないのに、私にはルカの声が聞こえた。
私も何が何だかわからなくて、とにかく母さんに会いたくなった。
急いで家に帰り、母さんにその話をすると、母さんは顔を真っ青にして、地面に崩れ落ちた。
(どうしてこの子なの……)
頭の中に直接届くような声が響く。母さんは何も言っていなかった。だけど母さんの心が読める。私に一体何が起こったんだ。
それから数日後、カソックに身を包んだたくさんの聖職者たちが私の家にやってきた。そこにはキース男爵もいた。
「あなたは1000年に一度生まれる聖女なのです。神から授かった治癒の能力で、多くの人々を救うのがあなたの使命なのです」
優しそうに微笑む聖職者たちは心の中ではこう言っていた。
(なんて小汚い娘なんだ。これじゃ男の子みたいじゃないか。こんなのが聖女だなんて……)
私がその聖職者を睨むと、そいつは不思議そうに眉を顰めた。
キース男爵は、にこやかに私に近づいてくる。咄嗟に母さんは私を庇った。
「メアリー。そこを退きなさい。まさか君に娘がいたなんてね。もちろん私の子供だろう?」
母さんはキース男爵を睨むが、すぐに押し退けられてしまう。
「君は、今日からキース男爵家の三女だ。表向きは養子を取ったことにするがね。そして、そのベイリーとかいう男が女かもわかない名前も捨てなさい」
「嫌に決まってんだろ。クソジジイ」
私が、キース男爵の脛を蹴り上げると、周囲の聖職者たちは騒めいた。
(このクソガキが。こっちが下手にでてやったら)
脛を押さえながら、キースは醜く顔を顰めた。
「あなたに拒否権があると思いますか?」
キースが支持すると、周りの聖職者たちが母さんの腕を羽交締めにする。そして、銀に光るナイフが首元にあてられる。
「母さんを離せっ!」
「君が、私たちの言う通りにするなら、メアリーは生かしてやろう。修道院でなに不自由ない暮らしをさせると約束する」
「ベイリー! 私のことは気にしないで!」
母さんが激しく暴れたので、ナイフの先端が少し刺さり、首に一筋の血が流れた。
「やめろ! 言う通りにするから!」
私は懇願した。母さんは私の世界のすべてだった。母さんが生きてさえいれば、私はなんとかなる。
地面にへたり込んだ私の頭上からは下卑た笑いが響いていた。
15歳の頃、私は正式に聖女として国民に発表された。
それから、私は聖女アメリア・キースとして聖職者たちの操り人形になった。話し方や礼儀作法を習い、重たいドレスを着た。聖職者たちが、決定した神託を読み上げ、傷を治し……。
心を無にした。すべて母さんのためだ。
そして私は16歳の頃、聖フランソワール学園に途中入学することになる。
ルカと買い物へ行く途中だった。走っていたルカは勢いよく転び、運が悪いことに転んだ先に鋭利な石があったのだ。それが腕を引っ掻き、ぱっくりと割れた皮膚からは、血が流れていた。
「ルカ! 大丈夫か!」
「痛い……」
辛そうに呻くルカを見て、私はパニックになり、すぐに人を呼ぶという考えに至らなかった。
とにかく傷の具合を見ようと思い、私は自分の右手を彼の腕にかざした。
その瞬間、眩い黄金の光が私たちを包んだ。光は天井まで広がり、金の雨となって町中に降り注いだ。何事かと思って辺りを回していると、倒れていたルカがむくりと身を起こした。
「傷が、治ってる……」
ルカの腕の割れ目はきれいになくなっていた。まるで怪我なんてしていなかったように。
(ベイリーがやったの?)
ルカの口は開いていないのに、私にはルカの声が聞こえた。
私も何が何だかわからなくて、とにかく母さんに会いたくなった。
急いで家に帰り、母さんにその話をすると、母さんは顔を真っ青にして、地面に崩れ落ちた。
(どうしてこの子なの……)
頭の中に直接届くような声が響く。母さんは何も言っていなかった。だけど母さんの心が読める。私に一体何が起こったんだ。
それから数日後、カソックに身を包んだたくさんの聖職者たちが私の家にやってきた。そこにはキース男爵もいた。
「あなたは1000年に一度生まれる聖女なのです。神から授かった治癒の能力で、多くの人々を救うのがあなたの使命なのです」
優しそうに微笑む聖職者たちは心の中ではこう言っていた。
(なんて小汚い娘なんだ。これじゃ男の子みたいじゃないか。こんなのが聖女だなんて……)
私がその聖職者を睨むと、そいつは不思議そうに眉を顰めた。
キース男爵は、にこやかに私に近づいてくる。咄嗟に母さんは私を庇った。
「メアリー。そこを退きなさい。まさか君に娘がいたなんてね。もちろん私の子供だろう?」
母さんはキース男爵を睨むが、すぐに押し退けられてしまう。
「君は、今日からキース男爵家の三女だ。表向きは養子を取ったことにするがね。そして、そのベイリーとかいう男が女かもわかない名前も捨てなさい」
「嫌に決まってんだろ。クソジジイ」
私が、キース男爵の脛を蹴り上げると、周囲の聖職者たちは騒めいた。
(このクソガキが。こっちが下手にでてやったら)
脛を押さえながら、キースは醜く顔を顰めた。
「あなたに拒否権があると思いますか?」
キースが支持すると、周りの聖職者たちが母さんの腕を羽交締めにする。そして、銀に光るナイフが首元にあてられる。
「母さんを離せっ!」
「君が、私たちの言う通りにするなら、メアリーは生かしてやろう。修道院でなに不自由ない暮らしをさせると約束する」
「ベイリー! 私のことは気にしないで!」
母さんが激しく暴れたので、ナイフの先端が少し刺さり、首に一筋の血が流れた。
「やめろ! 言う通りにするから!」
私は懇願した。母さんは私の世界のすべてだった。母さんが生きてさえいれば、私はなんとかなる。
地面にへたり込んだ私の頭上からは下卑た笑いが響いていた。
15歳の頃、私は正式に聖女として国民に発表された。
それから、私は聖女アメリア・キースとして聖職者たちの操り人形になった。話し方や礼儀作法を習い、重たいドレスを着た。聖職者たちが、決定した神託を読み上げ、傷を治し……。
心を無にした。すべて母さんのためだ。
そして私は16歳の頃、聖フランソワール学園に途中入学することになる。
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