ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ

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 洗濯はお昼前に終わったので、メサイアに二人分のお弁当を作ってもらった。
 外出用の私の服装はハシバミ色の上下で、私にはドレスにしか見えないデザインだったけど、布地の丈夫さや製法は、明らかに外着用のものらしい。言われてみれば、遮光カーテンみたいな分厚い箇所がいくつもある。
 
 支度が済むと、マティルダの御者で馬車を出してもらった。
 魔女の森に向かう間、ぼんやりと風景を眺めていた。
 今までは見るともなく、でもたぶん何千何万回も目にしてきた、ハイグラの美麗な背景グラフィック。それとそっくりの風景が、現れては通り過ぎていく。
 青くとがった山脈。青い布みたいに、細くてきれいな川。穏やかな緑色の湿原、草原。オレンジやベージュの、ひなびたレンガ造りの家々……
 
 途中でお弁当のサンドイッチを食べて、さらに進むとようやくお目当ての森に到着した。
 森の入り口で、思わず声が出そうになった。
 だって。
 
「グラフィック、そのままだ……」
 
 ハイグラには、攻略中の王子とアリスとの、現段階での恋愛感情の進捗がどのくらいなのかを教えてくれるキャラが何人かいる。
 その一人が、「占いの魔女」と呼ばれるエドンサルテ。ここは、彼女が住む森だ。彼女は、プレイヤーの分身であるアリスの行動を解析して、王子たちとの相性も占ってくれる。
 
「ぐら? 今、なんと?」
 
 馬車をかたわらの木につなぎながら、マティルダが首をかしげた。
 
「あ、なんでもないなんでもないっ。さ、行こう」
 
 ユーフィニアがここを訪れるのは初めてのはずなのに、勝手知ったるというようにどんどん森の中へ進んでいく私に、マティルダが驚いているけど、足を止められない。
 
 二三分歩いたところで、目の前に、曲がりくねった木を起用に組み合わせたログハウスが現れた。
 もちろん、ゲームそのままの見た目だ。
 ところどころ小さな赤いきのこが生えた、分厚い木の扉をノックする。
 
「開いとるよ。人かな、獣かな」
 
 ああっ、ゲームと同じセリフ!
 私は「人です!」と言いながらドアを開けた。マティルダも続いてくる。
 
「初めましてっ、私は、先週、ヘルハウンズの王子と結婚した――」
 
「ああ、いい、いい、名乗らんで。お前さんはユーフィニア、小国連合に悪名高き常識知らずだろう」
 
 お、おおう。さすがはエドンサルテ。アリスも、こうやって初対面なのにプロフィールを当てられるんだよね。
 
「それで、なにが訊きたいんだい?」
 
「はい。実は、男女間の相性を占って欲しいんです」
 
「ほう。お前さんとリルベオラス王子のかな?」
 
「いえ、違います。リルと、私以外の四人の女性です。名前は、ミルノルド、リビエラ、クライネ、ヒルダ!」
 
 マティルダが「ユーフィニア様!?」と声を上げる。
 新婚の自分の主人が、夫と別の女性との相性を訊こうとしているんだから、当たり前なんだけど。
 ごめん、マティルダ。最悪でもメイドのみんなが失業しないようには頑張るからね。
 
 エドンサルテが、いつの間にか取り出していたスイカみたいな大きさの水晶玉をなでながら、片眉をぴくりと上げた。こちらもさすがに驚いたみたい。
 
「ははあ? 小国連合の妹姫どもかい? なんでまた? ……お前さん、新婚にして離婚でもしようとしてるのか?」
 
 作中最高の占い師に、隠しても仕方がない。
 はい、とうなずいた。
 
「ユーフィニア様! 離婚とは!?」とマティルダが、さっきより大きな声で言う(これも当たり前だ)。
 
「ふうん。浮気でもされた、わけではないようだね。リルベオラス王子の手引きで、国ぐるみでなにやら悪さを企んでいる……というわけでもないようだが」
 
「いいえ。リルはそんなことはしません。でも私にも、事情があるんです。どうか、四人の中で一番リルと相性のいい子を教えてください」
 
 政略、っていうほど大げさなつもりはないけど。各国の妹姫とリルが夫婦になれば、必然的に、リルの立場が小国連合の中でも今より守られるようにもなるはず。
 リルは率先して戦いに出続けるだろうけど、少しでも危険な戦場から遠ざかってくれたら。
 何気に、そのくらいは計算していた。
 
「事情ねえ。いいだろう、面白そうだ。見てやろう」
 
「お願いします! えっと、占う相手のこと詳しく言いますね! リルの年齢は二十二歳、身長は百八十二センチ、誕生月は六月、血液型はロビン型で好きな食べ物はなんでも食べるけど特に肉類とトマト、腰の後ろに長さ四センチ幅七ミリくらいの古傷あり、髪は椿油をクルグ塩湖の泥で伸ばしたものでパックしていて、訓練の日に汗かいてシャツを脱ぐと脇腹の割れた腹筋で城下の子供たちにアミダくじで遊ばれることがあり……」
 
 ゲームだと、エドンサルテは誰のプロフィールでも簡単には知っているんだけど、ここで王子側の詳しい情報を入れれば入れるほど、占いの精度が高まるという仕様だった。公式サイトを穴の空くほど見て、データを集めたのを覚えている。
 ちなみに、ちらりと見えたマティルダは、若干引いていた。ついでに言うと、エドンサルテも。
 
「……もう充分じゃい。どれどれ……」
 
 水晶玉の中で、七色の光が渦巻き始める。これもゲームで見た光景だった。
 そして。
 
「……むう。最高じゃな」
 
「最高? リルと、最高の相性の姫がいるんですか?」
 
 やった。思わず身を乗り出す。
 
「おる。というか、全員じゃな」
 
「……はい?」
 
「四人が四人とも、全員リルベオラスとの相性が最高じゃ。誰と結婚しても、非の打ちどころのない幸せな生活を、本人たちも周りの家族も送れるじゃろう。ただ、ヒルダという娘だけは、幼すぎてまだ時間がかかりそうじゃな」
 
 そういえば、確かに、ヒルダは四人の中で唯一の未成年だ。再婚候補からは外したほうがいいかも。
 
「へえ……でも、四人とも、結構性格が違いますけど」
 
「うむ、これはひとえに、リルベオラスの人柄がなせる業じゃな。誰のことも尊び、それゆえに誰からも愛されるというたちだからよ」
 
 さ、……さっすがリル! あの四人の誰とでも幸せにし合えてしまうなんて!
 私は思わず、両手の指を組んで祈りのポーズで感激を表してしまった。
 
「ありがとうございますっ、さすがは魔女エドンサルテですね! 最高の占いをありがとう!」
 
「……わし、名乗ったかの? 久しく人に我が名を教えておらんはずじゃが」
 
 あっ。う、迂闊だった。
 
「ま、まあそれはいいとして! 本当にありがとうございました! これはお礼です!」
 
 私はエドンサルテに、小さな布袋に入った石を渡した。
 袋を開いたエドンサルテの両眉がびくんと上がる。
 
「ほう!? これは、魔石かえ!?」
 
 ゲームだと基本的に無償で占ってくれるんだけど、プレゼントをあげる場合は、この魔石っていうアイテムが一番エドンサルテに喜ばれる。
 
「魔石ですって!? ユーフィニア様、そんな貴重なものを?」
 
「まあまあマティルダ、私よりも魔女様のほうが、有効活用できるだろうし」
 
「ふえっふえっ、確かにお前さんには無用の長物だろうが、ずいぶん気前がいいのお。前評判とはずいぶん違うようじゃな……ん?」
 
「え?」
 
 にやにやしていたエドンサルテが、急に真顔になった。
 鋭いまなざしに、胸がどきりとする。
 
「お前さん……? 何者じゃ? なにか、不思議な……いや、まあいいじゃろ。いいものをもらったことだし、詮索はやめておこう」
 
 ほう、と胸をなでおろした。そうか、気をつけないと、こういうキャラには私の異世界転生が見抜かれることもあるのかも。
 別にばれてもいいんだけど、まだしばらくはユーフィニアの姿と立場を借りていたい。
 
「しかしじゃな、魔石なんぞをもらった例じゃ。ほんの余興に、お前さんとリルベオラスの相性を占ってやろうか」
 
「えっ!? わ、私とリルの!?」
 
 まだ返事をしていないのに、エドンサルテが水晶玉をなで始めた。
 七色の光が回る。
 この私とリルの、相性。気になる。知りたい。私はリルのことがずっと大好きだけど、……その気持ちは絶対に一方的なものでしかないはずだったのに。相性だなんて。
 
 断れずに、私は、喉を鳴らして水晶玉を見つめた。
 ……あれ、でも、なんだか。
 さっきより……色の渦巻きと明滅が激しいような?

 いや、絶対に激しい。妹姫たちの時と全然違う。
 これって……いいの、悪いの……?
 
「むう! 出たぞ! お前さんとリルベオラスの相性は、なんと――」
 
「ひっやあああああ!」 いいですいいです、また今度! 言わないで! 言ったら兎の糞送りつけるから!」
 
 それは、ゲーム中のエドンサルテが大嫌いなプレゼントだ。間違えて贈ってしまうと、バッドエンドルートに入ることすらある。
 
 そうして無理矢理魔女の占いを遮って、私はマティルダを引っ張って小屋の外に出た。
 
「さ、さあ、帰ろうマティルダ!」
 
「……肝心の、ユーフィニア様とリルベオラス様の相性を聞かずにですか?」
 
「聞かずにですね!」
 
 私は速足で馬車に向かい、勢いそのままに飛び乗った。
 馬車を木につないでいた縄を解いたマティルダも、御者席に乗り込んで、早々に魔女の森を後にする。
 
 途中、休憩の時に、マティルダが訊いてきた。
 
「ユーフィニア様、どういうおつもりなのです? 離婚というのは、本気なのですか?」
 
「……うん。ごめんね、みんなには迷惑かからないようにするから」
 
「……あなた様は以前から意味不明の言動を繰り返す方でしたが、いよいよそれも極まったというところですね」
 
 うう。かなり問題児らしいユーフィニア(元祖)より、今の私のほうがおかしいって言われるなんて。
 でも。
 
「許して、マティルダ。私、リルには、絶対に幸せになって欲しいの。そのためには、ふさわしい結婚相手がいるでしょ? それには、……私じゃだめだから」
 
 しばらく険しい顔をしていたマティルダが、あきらめたように微笑んだ。
 
「……確かに、リルベオラス様にとって、ほかの王女と結ばれたほうがよいだろうというのは、同意できます。しかし……本当にいいのですね?」
 
「うん。後悔はしないよ。……たぶんだけど、ね」
 
 私も笑顔を浮かべる。
 
 実は、さっき。
 リルが四人の姫の誰とでも幸せになれるって聞いた時、凄く嬉しかったのは嘘じゃないんだけど。
 同時に、胸の奥が、ちくんと痛んだのも本当だった。
 
「……ユーフィニア様。そのような、妹が姉を見るような目でわたくしを見るのはおやめください。妙な気分になります」
 
「えっ!? そ、そんな顔してた!?」
 
「ええ。度し難い甘えん坊のようなお顔を」
 
「度し難いの!?」
 
 ともあれ。
 これで、リルとの離婚、そしてリルの再婚作戦、本格的に開始だ。
 
 ミルノルド、リビエラ、クライネ。
 誰と結婚してもらおう!
 あと、……
 そういえば、どうやって離婚と結婚をしてもらおう……?
 

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