ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ

文字の大きさ
20 / 28

5

しおりを挟む
 そうして、大急ぎでかなり濃い目に抽出したエルダースのお茶をクライネに飲ませると、いくらか症状は落ち着いたようだった。
 リルもお城にメールスワロウを飛ばして、お城でお抱えのお医者さんに、適当な解毒薬を調合したものを送ってもらってくれた。

 それでも惚れ薬はすぐに無効になるわけではないようだったけれど、ひとまずクライネはだいぶ持ち直した。

 お医者さんは馬車で駆けつけてくれて、「初動がよかったようです。あとは放っておいても今日中には治るでしょう」と言っていたけど、私の過失だったのは変わらない。
 クライネは三十分もすると、もう普通に歩くことができ、微熱がある時と変わらない程度に回復した。

「はー、なんかもう元通りです。リルベオラス様見てもなんともないですっ。ある意味あたしの友情の見せどころだったのになー」

「改めて、クライネ、本当にごめんなさい。もう、絶対にこんなことないようにするから」

「もう、何度謝るんですか」

 クライネが苦笑する。
 改めて見ると、少年のように快活でも、しっかり大人びた表情はやはり王族のそれだ。

「クライネは、私を見習うところなんてないよ。クライネのほうが、ずっと立派で素敵なお姫様だよ」

 クライネは、くすぐったがりながら、ギネが回してくれた馬車に乗り、自分の国へ戻っていった。

 もちろん私はギネにも事情を説明して、平謝りした。
 すると、

「ミスというのは、処置の仕方次第でミスではなくなります。今回はその好例でしょう」

 と、怒るどころかむしろいたわってくれた。私はもう一度、深々と頭を下げた。

 夕暮れの前、邸の中には、メイド三人もいるけど、仕事中で姿は見えない。
 リビングは、私とリルの二人だけだった。

「ギネはああ言っていたが、今回の君には、反省することが多々あるな」

「うん。……怒って、叱って。戒めにするから」

「その必要はないだろう。もう充分、自分で自分を責めたようだから」

 でも、とうつむいていた顔を上げる。リルは厳しい表情をしていた。

「ただ、これだけは訊いておきたい。どうして惚れ薬なんてものを――魔女が置いていったのは分かるとして、君は捨てずにおいたんだ? なにかで使うつもりがあったのか?」

「それ、は……」

 あなたに、私以外の人と結婚してもらうためです。
 それが言えなくて、十数秒、私は黙ってしまった。口を開いても、震える唇をまた閉じるだけで、声にならない。

 だめだ、このままでは、だんまりを決め込んでいるようにしか見えない。
 なにか言わないと、と思った時、リルが椅子から立ち上がった。

 背筋が冷えた。
 リルが帰ってしまう。愛想をつかされてしまう。
 でも、……離婚のためには、そのほうがいいの?

 けれど、リルは、リビングのドアではなく、私の隣に来た。

「脅すような言い方をして、悪かった。言える時でいいさ。無理強いしないと言っただろう」

 そっと、肩に手が置かれる。
 私が羽織った絹のうすものを通して、リルの体温が伝わってきた。

「で、……も……私、……それじゃ、あんまり不誠実で」

 リルにも、クライネにも。

「不誠実? そんなに自分を責めている人間がか? そうは思えないな。だからこそおれは待てるんだ。それと、今日はここに泊まらせてくれ。気まずいかもしれないが、……今夜は、君の近くにいたい。おっと、部屋はいつも通り別でな」

 耐えきれなくなり、私も椅子から立ち上がった。
 すぐ横にいるリルを抱きしめる。
 もう甘えないと誓ったことも忘れて、つい、その胸に私の顔をうずめた。
 リルの服を濡らしてしまって申し訳ない、と少しだけ思った。

 リルが私の震える背中に腕を回して、ささやく。

「いい子だ。君はいいやつだって、もう分かっているよ。だから一人で苦しまないでくれ」

 リルがそう言ってくれるのは、本当に嬉しかった。
 本当なら、私もここで、良妻として頑張りたかった。
 でも、こうしてごく身近にいる人だけが認めてくれても、だめなのだ。

 ここまでだ。自分で自分を許していいのは、ここまで。

 私は、そっとリルの胸を押して体を離した。

「ありがとう、リル。もう大丈夫だから」

「……そうか?」

 リルは王子なのだから。やがて王になって、国を背負う立場なのだから。
 その隣に立つのは、ふさわしい人間でなくては。
 もう何度自分に言い聞かせただろう。
 それでも、怖いくらい甘やかに私を溶かしそうになる温もりに、頭の芯が心地よくしびれてしまうのは、止められなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫
恋愛
 若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。  婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?  そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。  主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。 ※他のサイトにも投稿しています。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...