盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

可愛いもの

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「お前は意外と、向上心があるんだな」


 ちっちゃい声で頷いたかと思うと、イーサンは突然そんなことを言い出した。

 褒められたと受け取って良いのか、今までどんな風に妹を思っていたんだと怒るべきか。

 イーサンを怒るような勇気も活力もーーついでにそこまで気持ちも動いていないーー無いので、ここは素直に礼を言っておこうか。


「ありがとうございます」
「そうすると私はその想定の、"車椅子の心得がない者"に相当するな」
「……その様、ですね……」


 職人さんによる「車椅子説明会」に参加したのは両親とセシル、それと使用人代表として私付きのアンと執事長だけだった。

 なにしろイーサンが参加するとは誰も思わなかったので、当日その場にいないのを当然として誰も気にしていなかったのだから。


 何を当たり前のことを言い出すのかと、困惑してつい肯定してしまった。


「常日頃からあらゆる場合を想定して行動する事は、とても大切なことだと思う」
「はい。その通りかと」

「外交において相互理解は何よりも大切だ。理解とは、日頃の知識や経験によって培われていく」
「なるほど」

「あらゆる想定とは知識や経験の中から生まれ、それらの内容如何によって、想定を超えて日常や臨機の解答が含まれるようになる」
「そうでしたか」


 ……つまり、イーサンは私に何が言いたいんだろう?
 それともーーこれって、もしかして。



「ローナは、良い子だな」



 ………………。


 …………褒めるの下手くそか!!!
 思春期の女の子相手にしてるお父さんじゃないんだから!!


 "良い子"の一言を捻り出すまでの過程が多すぎる。
 吃驚し過ぎて、今何を言われたのか理解できなかった。思考が宇宙に飛んでた。

 せっかく初めて褒めてもらったのだから、喜んで礼を言えば良いものを、未だ唖然として返答の言葉が出てこない。

 そんな私の様子を察知したのか、隣にいたアンが代わりに口を開いた。
 さすがは専属侍女だ、有能さが他とは一線を画すというのねーー。



「お言葉ですが、イーサン様。ローナお嬢様は"良い子"というだけでは御座いません。"とても可愛い"、良い子なので御座います」



 違うのよ!!
 そうじゃないのよ、アン!!

 今そういう惚気みたいな話はいいのよ!
 イーサンだって急にそんなこと言われたら、突然孫自慢を始めたお年寄りに遭遇してしまった人みたいに、何も言えなくなるでしょ!


 案の定、イーサンは何も言わなくなってしまった。


 嫌いなキャラじゃなかったし、勘当される可能性を少しでも下げたいし、なによりーー私の"兄"だし。

 せっかく兄妹なんだから仲良くしたいなと思っていたのに、これでは前の関係に逆戻りしてしまう。


 「なんだこいつ、意味わかんないこと言ってんな」みたいな反応返されたらどうしよう。

 想像だけで、ちょっと泣きそう。


 いい加減、この沈黙の続く間に耐えきれない。私から「アンが差し出がましいことを致しました」とか言って、何とかこの場を誤魔化そうか。



「確かに、"とても可愛い"良い子だ……うん。可愛い」
「はわわ」



 突然ミステリアスキャラからデレを貰うと、人は真顔で「はわわ」と発しますーー。


 えっ、今……イーサンなんて言った?
 かわ……かわ、いい?何が?


「そうでしょうとも。貴方様の妹御は、見た目も中身も大変お可愛らしいのですよ」


 アンは一旦、減らず口を閉じようか?

 まさか、そんな。
 あの・・イーサンが、妹に可愛いだなんて、そんな。


 顔が茹で蛸にだって負けないほど赤くなり、湯気が出てるんじゃないかと心配になるくらい熱い。

 少しでもそれを隠そうとして両手で頬を覆ったのだが、さらにその上からもっと大きな硬い手が被さった。


 この状況でこんなにも大きな手の持ち主を、間違えようがなくて。


「赤い。恥ずかしいのか」
「え、え……あの、えっと」
「可愛いと言われると、照れるのか」
「あえ、あ…………っはい……?」


 これって、なんの羞恥プレイ?

 私の手に重なるイーサンの手から伸びる、腕の先にある肘が私の膝の上に触れていることから、イーサンはわざわざしゃがんでいるのだろう事がわかる。

 ってことはもしかしなくとも、顔を覗かれているというわけで。


「うう……見ないでください」
「……可愛い」


 もういいよ、わかったよ!
 覚えたての単語みたいに何度も復唱しないでくれ。

 けれどイーサンの猛攻は止まらず、今度は重なっていた私の手を取った。

 触診しているのかという手つきで兄のものよりも一回り以上小さい私の手に触れていたかと思うと、イーサンはフッと小さく笑った。


 羞恥心が一周回って怒りに近い感情になっていた私としては、勝手に人の手に触っといて何がおかしいんだ!金取るぞ!と言いたいところだったが。



「温かくて、小さくて、柔らかい。私の妹は、指先まで可愛いのか」



 ヒュッと吸い込んだ息で、私の喉が詰まる音がした。


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