盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

兄妹水入らず?

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 私が富士山だったら、世紀の大噴火を起こしているところだった。
 イケメン怖い。


「……よし。私もローナに倣い、有事に備えて練習しておこうか。ガードナー、私にも教えてほしい」
「えっ、はい!畏まりました」


 マイペースなことに、イーサンは私を噴火させてから何事もなかったかのように立ち上がってそんな事を言い出した。

 ガードナーとファミリーネームで呼ばれたアンは、嬉しそうに何かを承知しているし。


 溶岩になって溶け出すか、火山灰になって散り散りになるかの私を置いてけぼりにして、二人はいそいそと何か話し込んでいる。

 私が呆然とその様子を伺っていると、ガコンッという音を立てて急激に振動が訪れた。
 慌てて肘掛けに掴まり、反動で前に倒れ込みそうだった体を押さえ込む。


「イーサン様!一声かけてからでないと、お嬢様が驚かれます!」
「! そうか……すまない、ローナ。もう一度動かす。心しておいてくれ」


 今日だけで心臓が何度飛び出しそうになったか。
 もはや口から左心房くらいは出てるんじゃないだろうか。


 そしてさっきイーサンが言っていた「有事に備えて練習」って、車椅子の事だったのか。

 どんな心境の変化があったのかは……とぼけたいところだけれど、あれだけ「可愛い」を連呼されたら嫌でもわかる。


 どうやらこの兄は、私を妹として気に入ってくれたらしい。

 ーー少なくとも、妹を可愛いと思い、車椅子を押そうとしてくれるくらいには。


「うっ」
「あっ、すまない」
「イーサン様!もっと優しく!!」


 ……何でも器用にこなすのに車椅子の操縦が下手くそなのは、父からの遺伝だろうか。

 でもそんな事大して気にならないくらいに、私の心は弾んでいる。


 嬉しい。もっと、仲良くなれるかな。
 なりたいな。
 この世でたった一人の、兄なのだから。


「ありがとうございます、オニイサマ」
「……ずっと気になっていたんだが」


 車椅子を有事の練習とはいえ、押す気になってくれたことに感謝を告げる。

 アンからまずはゆっくり動かしてみましょうと言われて牛歩のように車椅子を押していたイーサンだったが、ピタリと歩みを止めた。


「"お兄様"が言い辛いなら、別に無理をして呼ばなくていい。イーサンでも……お前、とかでも構わない」
「えっと……」


 いや、10歳も年上の兄に対して呼び捨てや「お前」はちょっと……。


 抵抗どころか嫌だとさえ思う。
 せっかく仲良くなれそうなところで「お前」呼びはありえないし、令嬢として不躾が過ぎる。

 だが片言で呼びずらそうにしていたのを気づかれたのなら、お言葉に甘えて私の言いやすいように変えてしまおうか。



「それでは、"兄さん"と呼んでもよろしいでしょうか」
「……兄さん?ローナは私を兄と、呼んでくれるのか」



 「お兄様」の呼称に比べてだいぶ譲歩してもらう事になると身構えていたが、イーサンから返ってきた返事は予想外のものだった。

 私の兄なのだから、それに属した呼称になるのは当たり前だというのに。

 お兄ちゃん、兄ちゃん、兄貴、兄上……どれもしっくりこなくて、私的に一番呼びやすいと思ったのを選んだのに、何が予想外だったのだろうか。


「もちろんです。兄さんは私の兄でしょう」


 「兄さん」めっちゃ言いやすい。イーサンに音が似てるし。
 あと、一気に心の距離が近づいた感がある。嬉しい。


 そうして初めての「兄さん」呼びにテンションが上がっていた私の目の前に、背後にいたイーサンが回り込んできた。


 どうしたんだろうと首を傾げた私に、突然の浮遊感が訪れる。
 車椅子から体が離れ、体重を預けていた座椅子と背凭れの代わりに腕が回って固定されたのだ。


 さらに首に手を回せと言われたので、目を丸めてされるがままの私はその通りにする。


 な、何事?
 何で私は急に抱っこされてるのでしょうか?

 車椅子向いてないなって思ったのかな。
 正直、下手だったし……。

 有事の際は車椅子押すよりも抱っこして運んだほうが早いって気づいたのかな。

 でもそれだと、私が成長した時に大変だって事にも、ついでに気づいてくれるといいんだけど。


 混乱する中で適当に動いていた頭が提示する考えは当てにならず、私を持ち上げて何も言わずにいるイーサンが話すのを待つ。


 しかしイーサンはしばらく私の顔をじっと見つめていたかと思うと、何も言わないまま背中に回していた腕に力を入れて私を己に引き寄せた。


 ーーつまりは、抱っこされたまま抱きしめられたのだ。


 仲の良い兄妹になりたいとは思ったけど、急にここまで物理的に距離を詰められると緊張で何をいえば良いかわからない。

 くっついたところから伝わってくる熱や、私の頬をくすぐる同じ色の髪の先がやけに生々しくて、じわりと頬に朱が滲む。


「嫌じゃないのか」
「嫌だなんて、思いません」


 ようやくイーサンが言葉を発したことに反応して体がピクリと震えたが、私は間を開けずに答えた。

 吃驚はしたけど、嫌だなんて思わない。
 仲の良い兄妹っぽくて、ちょっと楽しいので。


「だがーー嫌われていても仕方がない事をしてきたと、思っていたと自覚している」


 私の頭をさらりと撫ぜて、イーサンは独白のようにポツリとそう呟いた。

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