23 / 84
ローナ 10歳編
改めて、始め直そうか
しおりを挟むイーサンが「嫌われていても仕方がない」と言った理由に、心当たりがないわけじゃない。
例えば今回のことだってそうだ。
家族団欒の時間といえば朝昼晩の食事の時間だが、仕事の都合で父と兄、母と私に分かれることが多いため、今日イーサンに会ったのは本当に久しぶりだった。
そう。"久しぶり"だった。
兄は妹が失明したとしても、一度たりとも見舞いに来なかった。
ただの一度も、だ。
でもそれを私は、ゲームの通り嫌われているのだと考えて諦めていた。
イーサンの性格を考えれば当然だろう、と。
でも、嫌いじゃなかった。
嫌いには、なれなかった。
それは前世を思い出して、キャラクターとしてヒロインに見せる優しい顔のイーサンを知っているからとかではなく、思い出す前から私は"そう"だった。
廊下で見かけるたび、遠ざかる背中に手を伸ばした。
父が共に食事をとれると喜んでいる時、それでは兄はどうですかと尋ねたかった。
読んでいた本を兄が本棚に返すのを見計らって、その後こっそり同じものを読んでいた。
ローナはイーサンが、ずっとずっと大好きだった。
かっこよくて完璧で、尊敬できる大人な兄。
それがローナにとってのイーサンなのだから。
言葉とは裏腹に私をさらに強く抱きしめながら、イーサンはそれでも、私の思いとは真逆の予想を口にする。
「だからローナが、私を兄と呼んでくれるのが不思議でたまらない」
いつの間にか兄の肩につけていた額をそのままに、私は勢いよく首を横に振った。
どうして兄が自分を避けるのかわからなかった。だから泣いてしまった夜もあった。
嫌われている理由を突き詰めると、自分がとても酷い人間のように思えて苦しくなったからだ。
前世を思い出してからは"諦め"を覚えたため、泣き暮らすことはなくなったが。
でもそれくらい、ローナはイーサンを思ってる。
兄さんに誤解されたくない。
「嫌いなどではありません。私は兄さんが好きです。大好きです。嫌われているのかもしれないと、落ち込んでいた程に」
「!」
言葉は波に乗るよりも簡単に、私の口からポロポロと溢れ出た。
愛の告白にも似た思いの吐露は、しかし恥ずかしいと思うよりも、私が兄を嫌っていると誤解されたくないという思いの方が強くて。
私は縋り付くように首に回していた腕に力を込める。
「兄さんは私のことが嫌いですか」
「ありえない」
即答された言葉。
ローナがずっとずっと欲しかった、兄の答え。
"私"と交わった"ただのローナ"が、一粒の涙を頬に滑らせた。
すぐさまその涙は兄に気づかれ細長い指にすくわれて、目尻を指の腹で擽られる。
私はそれにふふ、と笑って、今度は私から兄にぎゅっと抱きついた。
「兄さん、私は兄さんと仲良くなりたいです。もっとお話ししてお互いを知りたいです、たまにこうして家族のハグをしてほしいです。私は兄さんが、大好きだから」
「約束する。これからは、もっとローナとの時間を取ろう」
ーーやり直そう、兄妹を。
今まで、始まっていたかどうかもあやしいけれど。
私は兄さんが大好きだし、兄さんは私を気に入ってくれた。
それでいい。
それは関係のスタート地点において、この上なく相応しい要素なのだから。
「まずは……私が車椅子を上手く押せるようになる為の練習時間を定期的に取ろう」
「それではその後は、私の練習に付き合ってくださいませ」
「練習?」
「はい。見えずとも完璧にダンスを踊れるようにしておきたいのです」
「確かにそれは、大切なことだ」
トントン拍子に進む会話と今までの会うことさえ稀だった関係との差異に、自然と笑みが溢れる。
兄さんはそんな私を見て何を思ったのかーー私の前髪をかき分けて、ちゅ、と小さなキスを落とした。
「やっぱりローナは、とても可愛い良い子だ」
……だから急にぶっこむのやめてくれませんかね!!?
心臓に悪いどころの話ではないというに。
今ので私の心臓は完全に口から飛び出ました。
太鼓を鳴らすよりも煩い私の心音が聞こえやしないか心配しながら、赤くなった顔を隠すのに、私はもう一度兄さんに勢いよく抱きついたのだった。
24
あなたにおすすめの小説
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる